植田祐次 訳編 『フランス幻想民話集』 (現代教養文庫)

「そのとき、昼間は死んでいる地獄に堕(お)ちた人々が、マリウッチャが歩いたのとは反対側の道からやってくるのが見えた。
 「なんということだろう、あの人たち全部が呪われているなんて」と彼女は思った。それから彼女はその不幸なすべての人々に混じって、地獄へ入っていった。」

(「十字架の護符」 より)


植田祐次 訳編 
『フランス幻想民話集』
 
現代教養文庫 1047/D 597

社会思想社 
1981年4月30日 初版第1刷発行
1982年8月30日 初版第3刷発行
222p
文庫判 並装 カバー
定価360円
カバー絵: ベルナール・ルエダン



本書「あとがき」より:

「なお、訳出に当って使用したテクストは、(中略)Les littératures populaires de toutes les nations, paris, G.-P. Maisonneuve & Larose, 1881-92, 30 vol. であるが、この叢書はこの三十巻のほかに増補版とも言うべき四十七巻が一八八一年から一九〇二年にかけて刊行されている。」


フランス幻想民話集


カバーそで文:

「「けものが話し、石が歩いていたころのこと、不仕合せな者に思いやりのある一人の美しい仙女がいた――」(「仙女の恋」より)
 なんと奔放で、詩情にあふれた書き出しであろうか! 読者は否応なく、無限にひろがるファンタジーの世界に誘い込まれてしまう。
 本書は、フランスの各地で、人々によって語りつがれた民話の中から、幻想的なはなしを拾い、まとめたもの。あなたを、恐ろしくも美しい夢の国へご招待いたします。」



目次:

恋人たち
 心臓を食われた恋人
 ナイチンゲールを恋した娘
 マリア
 許婚(いいなづけ)
 愛の残骸
 仙女の恋
 司祭とその恋人
 煉獄からの復讐
 生首
 フィアンセの亡霊

悪魔
 コケットな娘と悪魔
 娘たちにつきまとう悪魔
 フージュレの医者
 十字架の護符
 妖術師見習

領主
 フルート
 青ひげ
 四季精進日の夜
 妖怪狼(ルー=ガルー)になった領主
 不信心な領主
 神罰
 レオナルド伯爵の財宝

求道者
 行者と羊飼いの娘
 死なねばならぬ
 袋に入れ!

死者
 真夜中の葬列
 シャントルーの鐘つき
 黄金の足
 大食いの娘
 生首に変ったパン

亡霊
 死者のミサ
 けちんぼうな女
 亡霊のミサ
 水晶の城

あとがき




◆本書より◆


「ナイチンゲールを恋した娘」より:

「ある女にベッラドナという名の娘がいた。この娘の可愛らしさときたら、類(たぐい)まれだった。
 この娘が生まれたとき、仙女たちがあらゆる種類の贈物をしてくれたが、その中でもとりわけ、娘が望みのものに変身できる魔力の贈物があった。
 ある日、ベッラドナは母親にいった。
 「ママン、わたし結婚したいの」
 (中略)
 「毎朝、柘榴(ざくろ)の木の上で歌っているあのナイチンゲールと結婚したいの」
 「ナイチンゲールと結婚したいですって。いったいおまえは気でもふれたのかい、それともわたしをからかっているのかい」
 「本気よ。好きな鳥と結婚しなければならないの」
 母親は気の毒にもすっかり途方に暮れてしまった。
 「ねえ、いいかい、おまえ。おまえを幸せにしてくれる、やさしい、美しい、お金持の人を選びなさい。おまえが一緒に暮らしていける方と結婚しなさい」
 「わたしの考えを変えようなどとしないで。わたしはナイチンゲールがいいの」
 「ああ、おまえは木々の間を駆け回りたいのかい。その鳥のあとをどこへでも付いていくには、おまえは大きすぎますよ」
 「わたしはナイチンゲールにだって姿を変えることができるわ」
 母親はうまく娘を説得できないと悟ると、娘が何かに姿を変えて家を出ることを恐れ、娘を部屋に閉じ込めて鍵を二度回して錠をかけた。
 ある日、母親が近在の祭に遊びにくるよう親戚の女に招かれたので、ベッラドナは屋敷の礼拝堂付司祭の手もとに預けられた。
 母親が出かけると、娘はいった。
 「司祭さま、やさしい司祭さま。門の前にあるあのきれいな柘榴の実を一つ摘ませてくれませんか」
 「いいや、お嬢さま。あなたのお母さまが、あなたを勝手に外へ出すことをかたくお禁じになられたのです」
 「では、わたしに食べさせるために、せめて司祭さまが摘んでくださいな」
 「それなら、結構」
 司祭はベッラドナのいる部屋の戸を開けた。
 娘はすぐに心の中で言った。「蠅(はえ)になれ」
 すると、たちまち娘は舞い上がり、家から出ていった。
 いったん外に出ると、自分がしとやかな女であることを思い出して、またいった。
 「ベッラドナになれ」
 すると、彼女はふたたびもと通りになった。
 それから娘は、愛するナイチンゲールを探して野原を駆けていった。
 戻ってみて、ベッラドナの姿が見えなかったときの司祭の驚きようはたいへんなものだった。
 「何に姿を変えたのだろう」と司祭はつぶやいた。
 司祭はいたるところ探し回ったが、空しかった。
 (中略)
 司祭は家出娘を探しに出かけた。一日中歩き回っても娘を見つけられなかったが、ようやく川辺で休んでいる娘の姿を見つけた。
 「ベッラドナ、ベッラドナ、こわがらなくてもよいのだ。お母さまはあなたを許してくださった」
 娘は司祭を見ると、鰻(うなぎ)に姿を変え、川の中に飛び込んでしまった。
 司祭は川辺に近づいて探したが、川の中をのぞき込むと、ぐるぐる泳ぎ回る一匹の鰻が見えるだけだった。ベッラドナの影すらなかった。
 夜が近づいてきたので、屋敷に戻り、母親にいった。
 「川のほとりでお嬢さまに会って話しかけさえしたのですが、わたしを見るなり不意に姿を消し、どこへ行ったのか分からなくなりました。鰻が一匹だけ水の中で遊び回っていましたが」
 「それでは、その鰻が娘だったのです。もしあなたがつかまえていてくれたら、娘はもとの姿に戻っていたでしょうに」
 司祭はまた出かけていった。
 広い平野があり、それがベッラドナだということが分かった。
 司祭が急いで駆けていくと、平野は人跡未踏の森林に変った。哀れな司祭はその中で道に迷った。
 司祭はやむをえず屋敷に戻って、一部始終を話した。
 「もしあなたが森の木の枝をつかんでいてくれたら、ベッラドナはあなたに付いて来ざるをえなくなり、わたしたちは娘を手もとに置くことができたでしょうに」
 司祭は三度(みたび)、出かけていった。
 ある村の入口に礼拝堂が眼に入った。そのすぐそばで一人の主任司祭が聖務日課書を読んでいた。
 「つい今しがた、ここを若い娘が通るのを見かけませんでしたか」
 「今はミサを行っているところでな」
 「そんなことをたずねているのではありません。娘さんが通るのを見かけましたか」
 「中にお入りなさい。まだ間に合う」
 「おまえもおまえのミサも、悪魔にさらわれてしまえ」
 司祭はベッラドナの母親の方へ戻っていった。
 「あなたは何を見たのです」
 「礼拝堂と、そのすぐそばで聖務日課書を読んでいる司祭を見ました」
 「それでは、その司祭が娘だったのです。もしあなたが娘をつかまえていてくれたら、娘はあなたに付いて来ざるをえなかったでしょうに」
 「あの司祭のもったいぶった態度ときたら……」
 「お黙りなさい。あなたはなんの役にも立たない。わたしが自分で出かけます」
 そういって、女は出ていった。
 三日以上も歩いたあげくに、ベッラドナの母親は、娘が一本の木の下に坐って愛するナイチンゲールに話しかけているのを見つけた。
 恋する美しい娘は発見されたと知ると、ばらの木に姿を変えた。
 だが、今度ばかりは娘にも運がなかった。母親は花が満開に咲き乱れているそのばらの木をつかまえると、屋敷へと戻っていった。
 戻る道すがら、ナイチンゲールが悲しげに歌うのだった。

   《わたしに妻を返しておくれ。
   ふたりは永遠に結ばれている。
 婚礼では、花嫁に付添う娘は雲雀(ひばり)、
 かわらひわ と百合の花が二人の立会人だった。
   わたしに妻を返しておくれ。
   ふたりはたがいに恋しあっていた。
 このひとの心とわたしの心はただひとつ、
 このひとが死ねば、わたしも死ぬ》

 しかし、ベッラドナの母親は耳を貸そうとしなかった。母親は、友だちの仙女からもらったある水で急いで娘の魔法を解こうとあせりながら、相変らず屋敷へ向かって歩いていった。
 けれども、ばらの木は死にかかっていた。花びらが一枚、そして一枚、また一枚と途中で落ちた。それにつづいてほかの花びらも落ちた。母親が家に着いたとき、ばらの木はもうすっかり枯れ果てていた。
 ナイチンゲールは妻のあとを追って離れなかった。三日のあいだ、毎朝その鳥は悲しげに柘榴(ざくろ)の木の上で鳴いていた。
 四日目になって、ナイチンゲールは歌わなくなった。彼もまた苦しみのあまり死んでしまったのだった。」







































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リチャード・キャヴェンディッシュ 『アーサー王伝説』 高市順一郎 訳

リチャード・キャヴェンディッシュ 
『アーサー王伝説』 
高市順一郎 訳
 

晶文社 
1983年9月20日 発行
328p 19.5×15.5cm 
丸背紙装上製本 カバー
定価1,800円
ブックデザイン: 平野甲賀
カヴァー説明: バン・ジョーンズ「アーサーの死」



Richard Cavendish: King Arthur & the Grail, 1978
各章扉に図版(モノクロ)4点。


キャヴェンディッシュ アーサー王伝説


帯文:

「冒険と
激情と。
名誉と
死と。

あらゆる
騎士物語の
源流にして
その最高峰をなす
アーサー王伝説の
魅力のすべて。」



帯背:

「アーサー王と
円卓の騎士」



カバーそで文:

「アーサー王は紀元6世紀にイギリスに実在したとされる伝説的英雄である。王の宮廷には、絶世の美女、魔法使い、豪勇の騎士たちが集い、幾多の物語が生まれた。これが「アーサー王と円卓の騎士」の物語として、今日までヨーロッパじゅうで語り継がれてきた。冒険と名誉、恋愛と陶酔にみちた、この物語の魅力と価値をあきらかにする。

 リチャード・キャヴェンディッシュ イギリスの作家。1930年生まれ。オックスフォード大学で歴史を学ぶ。はじめ小説を書いていたが、やがて神話やオッカルトを題材にしたノンフィクションの分野に転じた。『魔術の歴史』『天国と地獄のヴィジョン』(いずれも未邦訳)などの著書がある。」



目次:

はしがき

Ⅰ ブリテン王アーサー
 実在のアーサー
 ケルト伝説のアーサー
 コーンウォルの猪

Ⅱ アーサー王と円卓の騎士
 石にささった剣
 円卓とその騎士たち
 ランスロット、ガウェイン、トリストラム
 マーリンとモーガン・ル・フェイ

Ⅲ 聖杯の探求
 漁夫王の城
 アリマテアのヨセフ
 パーシヴァルと聖杯
 ギャラハッドの勝利
 グラストンベリー伝説

Ⅳ アーサーの死
 ランスロットとギネヴィア王妃
 モルドレッドの裏切り
 終幕 アーサーの死

付録Ⅰ 「ブリテンの話」
付録Ⅱ ウェストン女史とA・E・ウェイト
原注
参考文献
訳者解説――中世の森と城のロマンス




◆本書より◆


「ブリテン王アーサー」より:

「アーサー物語によく見かけられる例では、英雄はよく人間界をはなれ、神々や妖精、未知の正体不明の生き物の棲む異世(ことよ)や、ふしぎな危険きわまる国へ冒険を求めていく。この異世で、英雄は偉大な武勲を立てたり、測りしれない価値をもつ何ものかを手に入れるのだ。例えばドラゴンや怪物を退治したり、捕われた人を解放し甦えらせたりして、人間界へ連れもどす。また、人知をこえた知恵を得たり、美しい花嫁や類しれない宝物を手に入れたりする。聖杯伝説では、生の奥義を見出し、不死をかちとるということさえある。」
「物語によっては英雄は異世にいつまでも滞まり、人間界に帰らないものもいるが、すぐれた第一級の英雄であれば必ず人間界にもどって来なければならない。(中略)英雄はこの世にない、人すべてが欲しがる何ものか、生を蘇えらせ高める何ものかを、もたらすものなのだ。
 こうした類型は、遡ると窮極的に先史時代の部族つきのシャーマンや神官=魔術師の祭祀にまでつながる。シャーマンは自ら恍惚状態に入り、そうして神々や霊魂の世界を訪れ、数々の恐ろしい危険や障碍に出会う。が、この冒険は異世から死者の魂を救い、生きてまた人間の躰に復してやるための遠征である。シャーマンはまたこうして自然を治め、生死を支配する不思議な力の知識を得、部族の利益のために用いた。
 シャーマンの恍惚・体験は、現代心理学による英雄伝説の解釈にも役立つ。英雄が足を踏み入れる異世とは、無意識の心に他ならないからだ。英雄が勝利をかちとり真理を発見するのは、情熱や行動の源泉であるこの人間性の最も暗い部分、また最も危険な領域からである。発見するのは、つまり自分自身のことに他ならず、英雄は「入手困難な宝」を携え日常世界に帰ってくる。宝とは完徳のことである。」

「異世についてのケルト伝承は、中世のアーサー王物語に強大な影響を与えた。異世は、美しく神秘的な、魔法のかかった国である。その国は人間界の慣いに従わない。一つの場所でありながら多くの場所でもあり、遠くにありながらまたすぐ近くにもある。西方の海上の一つの島であることもあるし、一群の島であることもある。地下か湖底のこともあれば、丘の上か埋葬塚の中のこともある。ふつう目につかずとも、次の角を曲がったすぐのところにあるかもしれない。その訳は、異世は多くヴェールに隔てられ、死すべき者の目に見えないからだ。
 異世では死もなければ時間もない。食べ物や飲み物は、魔術の大釜か色々の器で自然に運ばれてくる。異世の住人たちは何もしないで、酒盛りをしたり愛し合ったりしながら楽しく時を過す。耳には甘美な音楽がきこえ、鼻にはすばらしい匂いがにおっている。花が一年中咲き、木々にはいつもたわわな果物が実っている。」
「ケルト神話のこうした牧歌的な離れ島は、多くの点でギリシア時代の「幸運の島」、あるいは「祝福されたものの島」――つまり、海をわたった西の死者たちの国――の映像によく似ている。ケルトの民話では、しかし多くの場合、異世が死者たちの国なのかどうかはっきしていない。時には神々の棲み家であることもあり、不老不死の、美しい幸せな妖精たちの棲み家であることも非常に多いのだ。」



「アーサー王と円卓の騎士」より:

「「散文トリスタン」は、円卓の騎士にもう一人楽しい滅茶苦茶の新顔、ディナダン卿を登場させている。」
「ディナダンが滅茶苦茶男なのは、競争と戦いを通じて完徳を得るという騎士道の理想を持たないからである。他の人物たちは戸惑いといらだちの交った面白げな目ざしで彼を眺め、これほどおかしな道化の皮肉屋はいないと考える。」

「森は異世の一つで、人間がまだ手なずけていない世界である。」
「森のもつ磁石的な魅力、および恐怖に共通する一つの要素は、古色蒼然の感じである。森は人が来る前からそこにあった。それは人間より年老いた、より賢く、はるかに強力な生きものや秘密を隠している。古代ドルイドたちは森林の聖域で神を祀(まつ)ったし、聖木や聖なる洞穴をあがめる崇拝が古いヨーロッパの伝統に縫いこまれていた。現代の心理学用語でいえば、森の不気味さは心の中の暗い深淵、すなわち無意識というこみ入ったアメーバー増殖、理性に支配されない原始的、本能的な「年のいった」「野生の」感覚を表わす。森に侵入する英雄とは、つまり自分の中のもう一つの領界に入ることの比喩である。英雄は完全な真実の自己を発見、成就するためにこれをやり遂げなければならない。しかし、彼が入りこむ領域は幸先よい報いを約束すると同時に、極めて高度な危険をも秘めている。森は理性が麻痺する所である。マロリーでは「森」ということばは「狂気」を意味し、ランスロットやイヴァイン、そして他の英雄たちは狂ったとき森へ行き、そこで野獣のように暮らした。」



「アーサーの死」より:

「「ここにかつての王にして未来の王アーサーは眠る」。アーサーはもう一度帰ってくるという信仰は、マロリー時代の後も長い間伝わっていた。ウェイルズの民間伝承では、アーサー輩下の騎士たちはスノードン山のある洞窟に眠っているが、王自身はブルーフ・イ・スネサイ峠のある石塚の下にいるという。サマセットのカドベリー城では、アーサーとその部下たちは丘の下の洞穴に眠っていて、時々夜中に、彼らが近くの教会のそばの泉にやってくるらしい馬の蹄の音がきこえる。イングランド北部では、アーサー王はノーサンバーランドのセウィングシールズ城の地下深くに、ギネヴィアと廷臣、猟犬たちにかしずかれ眠っていると伝えられる。そして傍のテーブルの上にホルンが置いてあり、これが吹き鳴らされる時、偉大なる英雄は目を醒ますという。」




こちらもご参照下さい:

リチャード・バーバー 『アーサー王 ― その歴史と伝説』 高宮利行 訳






















































































































リチャード・バーバー 『アーサー王 ― その歴史と伝説』 高宮利行 訳

リチャード・バーバー 
『アーサー王
― その歴史と伝説』 
高宮利行 訳


東京書籍 
昭和58年10月8日 第1刷発行
322p 
カラー口絵16p モノクロ口絵16p
四六判 丸背紙装上製本 カバー
定価2,400円
装幀: 東京書籍AD



本書「解説」より:

「本書はリチャード・バーバーの英語による原著 King Arthur in Legend and History (The Boydell Press, 1973) の日本語訳である。翻訳のほかに、我が国の読者の便宜を考えて、地図や人名対照表などを加えてみた。」


口絵カラー図版30点、口絵モノクロ図版30点、本文中図版(モノクロ)2点。


バーバー アーサー王 01


カバーそで文:

「アーサー王伝説は、ヨーロッパ文学の永遠の古典であり、ヨーロッパ人の心の原郷(ふるさと)である。中世から現代に至るまで、各国の吟遊詩人、年代記作者、文学者たちの手により、建国神話、騎士道、宮廷風恋愛、キリスト教精神の象徴である聖杯など、さまざまなテーマがうたわれ、絢爛豪華な世界が形成されてきた。
本書は、歴史と伝説の間にアーサー王の実像をとらえ、彼を中心にさまざまなロマンスが生まれ、伝えられた過程を、考古学・地理学・文献学等の成果をもとに平易に語る。騎士道の精華たるアーサーと円卓の騎士たちの世界を、本格的に紹介した本邦初の翻訳書である。」



目次:

日本語版へ序文

1章 無名の指揮官
 謎の正体
 ベイドン山の戦い
 アーサーの登場
 アーサーを無視したギルダス
 困難な地名研究
 ネンニウスの創作意図
 『カンブリア年代記』と『コロンバ伝』
 ギルダスとネンニウスの立場
 ウェールズの英雄像

2章 現実から幻想へ
 曖昧な人物像
 伝説化の方向
 「三題詩」による多様化
 伝説の定着
 「魚市場入口」の謎の彫刻
 ブレトン人の役割

3章 帝王アーサー
 ジェフリ・オブ・モンマスの生涯
 『マーリンの予言』の名声
 『ブリテン列王史』の成り立ち
 アーサー王の栄光
 ジェフリの執筆方法
 英雄皇帝の創造
 『列王史』の多大な影響
 ヴァース師の『ブリュ物語』
 ラヤモンの『ブルート』
 頭韻詩『アーサーの死』
 ジェフリの功罪

4章 アーサーとアヴァロン
 アーサーの復活信仰
 アーサーの墓の発見
 二つの資料の奇妙な混乱
 「うつろな樫の木」の謎
 僧侶の捏造
 眠れる戦士たち

5章 ブリテンの話材――フランス語のロマンス
 クレティアン・ド・トロワの登場
 『エレック』、『クリジェズ』
 『ランスロ』、『イヴァン』
 『ペルスヴァル』
 『トリスタンとイゾルト』
 アイルハルト、ベルール、トマの相違点
 「流布本物語」の発展
 ランスロットの主役化
 聖杯探求の主題
 『ペルルスヴォー』、『散文のトリスタン』
 アーサー王ロマンスの伝統

6章 トリスタンとパルチヴァール――ドイツ語のロマンス
 ハルトマンの手法
 ヴォルフラムの執筆姿勢
 『パルチヴァール』
 理想の愛の姿
 魂の成長
 ゴットフリートの『トリスタン』
 「情熱」の発明
 傑出したヴォルフラムとゴットフリート
 ヨーロッパ文学としてのアーサー王伝説

7章 英語のロマンス
 逆輸入された伝説
 『ガレスのパースヴァル卿』
 英語ロマンスの独創性
 ガウェインを主人公とするロマンス群
 『ガウェイン卿と緑の騎士』
 「首斬り」と「誘惑」
 優れた自然描写
 完全の追求
 ガウェインの地位の向上
 フランス語からの翻案作品 
 ガウェイン像の変遷

8章 騎士道の華
 謎多き作者、トマス・マロリー
 『アーサーの死』の執筆意図
 フランス語原典の利用と展開
 縦横な個性の発揮
 高い精神性への到達
 鮮やかな人物造型
 騎士の尊厳と威光

9章 不朽の名声
 テューダー王朝の政治利用
 アーサーの歴史的調査
 大衆文学化傾向
 スペンサーの『妖精の女王』
 ミルトン、ドライデン、ブラックモアの試み
 一時的衰退期
 ワーグナーの楽劇
 スコットの『トリストレム卿』
 リットンとアーノルドの作品化
 テニスンの傾倒
 象徴としての登場人物
 理想と寓意
 ヴィクトリア朝絵画の主題
 スウィンバーンの『ライオネスのトリストラム』
 アーサー王伝説の戯曲
 ロビンソンの『トリストラム』
 メイスフィールドの『真夏の夜と韻文物語集』
 「ログレス王国」の地理
 罪による王国の破滅
 ホワイトのコメディ
 結語

図版一覧
原注
訳注
解説
訳者あとがき
参考文献
アーサー王文学年表
事項索引
人名索引



バーバー アーサー王 02



◆本書より◆


「日本語版への序文」より:

「アーサーの物語を決定づける要素は二つあり、(中略)もうひとつの要素はもっと古く、いわくいいがたい感情に訴えかける主題で、偉大な英雄が抑圧された人々を救いに帰ってくるという思想である。アーサーはアヴァロンという神秘的な場所で生き続けているといわれてきた。ウェールズ伝承に関連した物語に現れるアーサーと結びつけられたこの主題は、故国を追われたため、見込みがないのに再び故国を奪還したいと望む人々には、強い魅力となったにちがいない。」


「帝王アーサー」より:

「アーサーのもつ英雄的な性格と一見矛盾するような要素は、ラヤモンが導入に成功した妖精の概念である。妖精の登場は、聴衆になじみのある多くの物語のありふれた場面の中に、神秘的で大いなる隠された霊力が働いていることを思わせる。アーサーの誕生と死には、それぞれ超自然的な存在が登場している。(中略)彼らはアーサーを生涯守り続けてきたようであるし、女王アルガンテは彼の死に際して彼を運び去る。」


「アーサーとアヴァロン」より:

「一四〇〇年より後でさえ、アーサー帰還の信仰はなお回想される。しかしそれは民間伝承の世界に入ってしまった。アーサーを鳥の姿、普通はコーンウォルの べにはしがらす か わたりがらす となってさまよっていると説明する物語もある。これらの物語のほとんどは、ひとつの決まったパターンに従っている。すなわち、眠れる戦士がある日、魔法がとけて指導者として再び現れるという型である。」
「ブリテンでは、二つの重要な物語があり、最もよく知られているものは、スノードン近くのクレイグ・イ・ディナスや、他のウェールズの洞穴と関連づけられている。ロンドン橋で、はしばみの杖をもつウェールズ人が見知らぬ者に、その杖を切った木の下に、宝が隠されていると教えられた。彼らは一緒にウェールズへ戻り、木とその木の下にある洞穴を見つける。洞穴に通じる道に鐘が吊り下がっていて、そこを通る者はどんなことがあっても触れなければならない。洞穴にはアーサーも含めて戦士たちが、ウェールズ人を昔の栄光に導くため待機しているのだが、もし鐘が鳴れば、彼らは目覚めて「夜は明けたか」と問うだろう。答えは「いや、もう少しおやすみ下さい」でなくてはならない。この問答が現実に起こる。しかし正しい答だったので、そのウェールズ人は財宝の一部を入手できる。」
「いまひとつの物語はローマ軍の城壁にあるシュインシールズとヨークシャのリッチモンドで見出される。訪問者は、アーサー、グィネヴィアと廷臣たちが、靴下留め、剣と角笛が置かれた卓の傍で、眠っているのをみつける。靴下留めを切り、角笛を吹かなければならない。そうすると、アーサーは起き上がって、ブリトン人を勝利に導くであろう。しかし、その訪問者は靴下留めを切ることだけである。するとアーサーは目を覚ますが、また眠ってしまう。」




こちらもご参照下さい:

リチャード・キャヴェンディッシュ 『アーサー王伝説』 高市順一郎 訳
Richard Barber 『Bestiary』 (MS Bodley 764)

















































































プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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