ヘルベルト・ヴェント 『世界動物発見史』 小原秀雄・羽田節子・大羽更明 訳

「原生動物には精神生活、つまり魂があるのだ。動物心理学者コンラート・ローレンツの「すべての生き物に魂があるか、どんな生き物にも無いかどちらかである」という言葉は、ゾウリムシにも当てはまるのである。」
(ヘルベルト・ヴェント 『世界動物発見史』 より)


ヘルベルト・ヴェント 
『世界動物発見史』
 
小原秀雄・羽田節子・大羽更明 訳

平凡社
1988年8月25日 初版第1刷発行
1991年12月10日 初版第4刷発行
701p 口絵(カラー4p/モノクロ31p)
B6判 丸背紙装上製本 カバー
定価4,200円(本体4,078円)
カバー・表紙装幀: 戸田ツトム



本書「訳者あとがき」より:

「本書はヘルベルト・ヴェント著「Auf. Noahs Spuren」(G・グローデ出版、一九五六年)の全訳である。(中略)図と写真は原著のものを全部収めた。」


『物語・世界動物史』改題。
本文二段組。本文中図版(モノクロ)多数。


ヴェント 世界動物発見史 01


カバー文:

「ヘルベルト・ヴェントの
この大著の
主役はあらゆる時代の
人間といっていい。彼らは
真理探究家や懐疑論者であり、
冒険家や大胆なリアリストであり、
また天才的な科学者や
ロマンチックなディレッタント
である。だからこの本は、
動物界について書かれた
多くの専門的な著書とは違って、
いわば博物誌的な興味で
書かれている。」



目次:

はじめに

第一章 怪物の部屋
 混乱の時代
 「神々の馬車」の野生人
 古代の戦車
 ユニコーンとサイ
 不思議な獣
 大汗の動物園
 海の悪魔と真夜中の驚異

第二章 自然の宝庫
 心の薬、目の保養
 幻の野牛
 『昆虫のもてなし』
 ゴクラクチョウと政治と熱帯の死
 海竜とこびと魚
 ロック鳥
 すべてはゴンドワナに始まった

第三章 新世界
 モンテスマの動物園
 ウルティマ・エスペランサの秘密
 飛びまわる宝石
 いんちき猿人の噂
 人魚をどうするか
 タキシード姿の鳥たち
 だが、下の方は恐ろしい

第四章 生きている化石の大陸
 観察不十分
 カモノハシのパラドックス
 オーストラリアの動物の謎
 バーネット・サケには肺がある
 最後の恐竜
 恐鳥の謎
 よみがえった鳥

第五章 黄金の牧場、閉ざされた王国
 総督とバク
 三種類のオラン
 雪男
 地主李の白熊
 塀越しに垣間見た
 ウマとロバを間違える
 コモド島のドラゴン

第六章 雨林に轟く太鼓の音
 コンゴの伝統
 デュシャーユ氏の奇談
 古代アフリカは解読される
 ジャングルから伝説の動物が
 かわいらしい動物をつかまえた
 黒人の髪飾りになった二枚の謎の羽根
 四つ足の魚の物語

謝辞

解説 (小原秀雄)
訳者あとがき

参考文献
索引(人名・動物名・図版・写真)



ヴェント 世界動物発見史 02



◆本書より◆


「幻の野牛」より:

「メキシコの征服者エルナンド・コルテスがアステカ族の酋長モンテスマの動物園で発見し、後の開拓者たちが北アメリカの草原で見つけたアメリカバイソンは、急激に滅びていった。一九世紀の初頭には何百万という群れが、アパラチア山脈とロッキー山脈の間を力強くさまよい歩いていた。だが、インディアンの狩猟民がバイソンを生活の糧にしていたので、白人たちは彼らインディアンを殺すために、バイソンを大量に殺した。それでも、南北戦争当時にはまだ六〇〇〇万頭がいると見られていた。」
「一八六九年に、アメリカ太平洋鉄道が開通した。一八七一年には五〇〇〇人にのぼるハンターがカンザス・シティからバイソンの大量殺戮のため平原へ向かった。一八七四年の夏には、リッカリー川沿岸だけでも、二〇〇〇人のバッファロー狩りの狩人たちがキャンプした。彼らの一人当りの捕獲数は一日六〇頭で、一シーズンに一二〇〇頭を記録した。狩人の一団は、一年間に二万八〇〇〇頭を殺すことができた。毛皮が使われたわけではなく、肉が食用に供されたわけでもなかった。草原には一面にバッファローの死体が散らばっていた。一八七五年には、以前三〇〇万頭と見積もられていた、鉄道の南側のバイソンは四散し、一〇万頭あまりに減っていた。この残りのバイソンも、一八七七年と一八七八年の冬に徹底的に撃ちまくられた。生き残りの小さな一群がテキサス州へ逃れたが、一八八九年その地で彼らは虐殺者たちの手に落ちたのである。
 だが、鉄道の北側にはまだバイソンが残っていた。アメリカ人の開拓者たちの間では、バイソンを一頭殺すことはインディアン一人を減らすことだといわれ、彼らに攻撃の矢が向けられた。撲滅運動は一八八一年から一八八三年まで続けられた。スー族との戦争の間だけでも一万頭のバッファローが殺された。六年後には合衆国にいた数百万頭のバイソンのうち、捕えられずに生きのびたのはわずか八九頭だけだった。」



「『昆虫のもてなし』」より:

「レーゼル・フォン・ローゼンホフが顕微鏡の下に躍動する「おもしろい」微生物に魅せられたのはちょうどこの頃だった。彼はたちまち最初の大発見をした。全生物のうち最も単純な原生動物(プロトゾア)、つまりこの名のもととなった神プロテウスのように絶えず形を変えるアメーバーを見つけたのだった。何という奇妙な生き物であろう。それは凝集して球になるかと思えばまた広がり、その粘体から足を出して歩きまわり、その足で食物を探し求める。それはまた、まわりから包み込むようにして藻をのみ込み、青虫のようにはい、溶岩のごとくに転げまわり、分裂し、結合する。直径がやっと〇・五ミリの小さな点ほどの原形質の塊であると同時に、レーゼルがその名づけ親に選んだ変身巧みな太古の神の象徴なのだ。」

「たとえはっきりした意識をもたないとしても、原生動物には精神生活、つまり魂があるのだ。動物心理学者コンラート・ローレンツの「すべての生き物に魂があるか、どんな生き物にも無いかどちらかである」という言葉は、ゾウリムシにも当てはまるのである。」
「植物学者のラオル・フランセのいうように、ゾウリムシですら「幸福に対するほのかな憧れをもっている」のである。」



「海竜とこびと魚」より:

「いったいぜんたいホライモリは何ものなのだろう。(中略)ドラゴンの子供でもなく、水生の恐竜でもない。一見イモリのようでもあるが、本物のイモリでもない。ホライモリは体長二五センチほどで目がなく、人間の指のように毛がなくて白い色をしている。また萎縮したちっぽけな肢があり、頭の両側に大きな赤い外鰓がある。そして、イストリア、ダルマチア、カルニオラ、ヘルツェゴビナ地方の地下水の中にしか見られない。(中略)こういう生物をどう考えればよいのだろう。どの分類棚に並べ、どんなラベルをつければよいのだろう。その発見史にさかのぼって考えてみよう。
 『カルニオラ公国の誇り』の著者J・W・ヴァルヴァソルは、一六八九年のある日スロベニアの農夫から、ヴルフニカの近くのベラ谷の地下にドラゴンがすんでいて、大雨の後ときどきドラゴンの子が、地下の棲み家から地表の小川に流されてくるという話を聞いた。そこで、ヴァルヴァソルは、興味しんしんで次のどしゃぶりを待っていたところ、はたして数匹の「ドラゴンの子」が、水溜まりの中でのたうっているのが見つかった。」
「ヨハン・アントン・スコポリは(中略)何年間もかけてウナギ形をした「こびと魚」を研究した。そしてついに一七七二年にライプチヒで発表したラテン語の論文で、これは外鰓がありオタマジャクシ形をしてはいるが、伝説の生き物の幼生ではなくて、一人前に成長したイモリであって、ちゃんと生殖能力もあるといいきったのだった。」
「パリ大学の老教授ジャン・バティスト・ラマルク(中略)は、すでにホライモリを長時間光にさらしておくと奇妙な変化が起こることに気づいていた。皮膚の下に眼があらわれはじめ、外鰓の色があせ、体中に斑点ができ、体色はしだいに濃くなる。あるものは濃い赤褐色に、あるものは青灰色になり、アメリカのネクトゥルスに大変よく似てくるのだ。ラマルクがいうには、鰓をもったイモリはその環境の産物なのである。この動物はもともと、ほかのイモリとそれほど異なってはいなかったのだが、あらゆる生物を生存条件に適応させる自然の力によって、泉にすむアホロートルには鰓が発達し、イリノイの川にすむネクトゥルスはウナギ形になり、ミシシッピーの沼地のオオサイレンはいらなくなった後肢を失ない、カルストの洞穴にすむホライモリは盲目になったというわけだ。」
「それは一八六五年の九月二十八日パリの植物園でのことだった。三月に卵から孵った四匹のアホロートルの子が鰓を失ない、色が変り、陸地にはい上って、「有鰓の両生類」から肺で呼吸するサンショウウオに、それも既知の種類のサンショウウオに変身したのである。(中略)いったいどうしてこんなことが起こりうるのだろう。このときフランスやドイツの動物学者たちの頭に浮かんだのはラマルクだった。「有鰓のイモリ」を陸生のサンショウウオに変えるには環境の変化が必要だったのだろうか。彼らはアホロートルの鰓を切り取って、むりに肺で呼吸させてみたり、アホロートルを浅い水の中で飼ってたえず空気にさらしてみたりした。そしてとうとう、フライブルクの昆虫学者マリー・フォン・ショーヴァンはアホロートルを人工的に陸生動物に変えることに成功した。
 このアホロートルの現象は、今日「幼形成熟(ネオテニー)」と呼ばれているものである。アメリカサンショウウオは、中央ヨーロッパのマダラサンショウウオと同じ科に属し、したがって正真正銘「有肺の両生類」なのだが、おそらく地殻の大変動の結果、メキシコの深い泉や湖にとじ込められ、完全なサンショウウオに成長せずに終わるようになったのである。彼らは幼生段階にとどまったまま、性的に成熟するようになったが、事情が許せば、肺呼吸するサンショウウオに成熟しうるのである。したがって、彼らは(中略)成長が阻害された種類にすぎないのだ。その祖先はふつうのイモリなのである。
 同じことがホライモリについてもいえるだろうか。(中略)実験はすべて失敗に終った。鰓を取り除いて生き残るホライモリはいなかった。だが、生殖の問題は解決した。(中略)生殖に関しては老ラマルクが正しくも予言したように、「こびと魚」は環境に自らを適応させているのである。」
「アメリカの化石研究の第一人者であったコープは、ラマルクの自然環境説を支持する新ラマルク派の学者だった。ダーウィンとは反対に、種の進化の原動力は、生存競争よりも、環境の影響に求むべきだというのが彼の信念だった。コープによれば、器官の用不用、食物、気候、機械的影響、それぞれの生活条件があらゆる種類の動物の典型的な特徴を創り出すのである。例えば、ホライモリやサイレンが、幼生的な形をとどめ、外鰓や、萎縮した肢をもっているとしても、それは原始性を証明することにはならず、「環境の影響」、つまり深い水中での生活への徹底的な適応を物語っているにすぎない。
 コープは母国の「有鰓両生類」サイレンを徹底的に研究して、その発生が、従来考えられていたのとは正反対であることを突きとめた。ごく幼い段階ではサイレンは、サンショウウオの幼生とほとんど違うところがない。頭骨も、上膊骨も、腰帯も、四肢も同じである。ある時期には彼らは、水から陸へ上る直前のサンショウウオの幼生と同じように、鰓呼吸から肺呼吸に「切り換え」さえするのである。だがここで突然陸生動物への発生が止まる。その後のサイレンは成長するにつれてますます「原始的」になる、つまり魚類に似てくるのだ。ここに至ってコープはこう書いている。「サイレンがサンショウウオに似た陸生動物の子孫であり、ごく最近になってもっぱら水中生活に適応するようになったことは疑いない」と。
 この発見は、問題の本質を突くものであった。これはホライモリにも当てはまる。ホライモリは、肺呼吸をするサンショウウオの子孫で、地下水にすむようになったものである。地下水では陸にあがる機会がないのでアホロートル同様幼形成熟を遂げたが、ここで暗闇の生活に完全に適応した結果、アホロートルとは違って、もはやそこから脱出できなくなったのだ。ホライモリは、常にいかなる状況でも、生涯性的成熟を遂げた幼生のままである。発育が阻害された結果、「絶対的幼形成熟」が生じたのである。それは古い原始的な生物ではなく、進化した新しい生物なのである。」



「人魚をどうするか」より:

「イタリアの作家クルツィオ・マラパルテの『皮膚』という小説の中に、滑稽だがぞっとする一場面が出てくる。そこでは水族館のセイレネス(カイギュウ、人魚)が主役になっている。(中略)一九四四年にアメリカ海軍の水夫たちがこのセイレネスを水槽からとりだして、煮たうえでサラダ菜をつまに添え、高級士官連中の食卓にのせた。その姿は陽気な恐怖を引き起こした。アメリカ人たちは、「晩餐に、ゆでた女の子にマヨネーズをつけて食べる」のはいやだったので、この人間のような動物をけっきょくおかかえの牧師の監督の下に荘重に埋葬することにした。」
「マラパルテは、こう書いている。「料理した、つまり煮た娘を見るのは初めてだった。私は恐怖にのどを絞めつけられて黙ってしまった。皮膚はあちこちに傷ができたり、ゆでられてはがれたりしていた。肩や腰が特にひどかった。はがれた皮膚の下には、金色や銀色の柔かそうな肉がのぞいていた。熟れた果物の皮が破れて実がはじけるようにその皮膚からスープの熱気が吹き出している有様は、古い磁器が光を放つのに似ていた。唇は突き出し、額は出ていて狭く、眼は丸くて緑色だった。短い腕の先は広くて指がなく、鰭のような手になっていた。この娘は銀の皿に横になり、眼を開けたまま眠り込み、夢を見ながら笑っているようだった。その夢は海の夢、海は彼女の失われた故郷、夢の国、セイレネスの幸せの地…………」」



「だが、下の方は恐しい」より:

「一九三〇年六月六日、数回の試験潜水を終えてから、ビービとバートンは鋼鉄製のカプセル内に乗り込み、楽な姿勢に身をおいて水中におろすよう命じた。
 数分後にはバティスフェア号はバミューダ海の水面下二四〇メートルの深度にあった。二人はその深海のすばらしい生物たちを初めて自分の目でながめた。二度めの潜水のときには、海上との唯一の連絡装置の電話線が切れてしまった。後にバートンはその時のもようをこう書いている。「われわれは本物のプランクトンになった。海上を漂いつづける幽霊船のように永遠に水中にぶらさがっているさまが脳裏をかすめた。青緑色の窓の外は冷たく敵意にみちていた。われわれはいっしょうけんめいサーチライトで合図した。私の脳の一部は落ちつき払って活動し、泳ぎすぎてゆくクラゲを二四匹数えることができた。それから急速にわれわれは海面に浮かびあがった」。」
「六月一九日には、この潜水球は四三〇メートルの深さにおろされた。二人の科学者はハンカチで口と鼻を抑えてうずくまり、冷たいガラス窓に額を押しあてた。ビービはこう書いている。「とたんに、大きな感動の波が私を襲い、しばらくはあらゆる状態がほとんど超人的、宇宙的であるように感じられた」。この深さで水圧は二九五〇トン以上であった。ビービは「スペクトルの中を長いクモの巣のようなケーブルがこの孤独な潜水球につながり、その球の中にきっちり閉じこめられた正気の人間が二人、まるで軌道を外れた惑星のように孤立して、水中にぶらさがったまま、深海の暗闇の中を凝視している」さまを思い浮かべた。彼は「近くをうろついているがはっきりわからない大きな胴体――大きな、まさに生きている動物の影」を見たが、あまりに興奮してしまっていて、彼は外観をメモしただけだった。そのメモにはこう書かれている。「発光魚が窓の外にいる」」



ヴェント 世界動物発見史 03



































































































































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松永俊男 『博物学の欲望 ― リンネと時代精神』 (講談社現代新書)

「リンネは、自然が神によって、秩序正しく、整然と造られていると確信していた。この自然の秩序を見いだし、神を賛美するのが人間に課せられた義務であり、それを遂行するのが博物学にほかならなかった。したがってリンネによれば、博物学が最高の学問であった。博物学の任務は、神の造られたものを分類し、命名することであり、その最終目的は、「自然の体系」を完成することであった。」
(松永俊男 『博物学の欲望』 より)


松永俊男 
『博物学の欲望
― リンネと時代精神』
 
講談社現代新書 1110 

講談社
1992年8月20日 第1刷発行
196p
新書判 並装 カバー
定価600円(本体583円)
装幀: 杉浦康平+谷村彰彦
カバー・イラスト: 「プロテア」(荒俣宏『花の王国』平凡社刊より)



本文中図版(モノクロ)多数。


松永俊男 博物学の欲望 01


カバー文:

「世界のすべてを知りつくしたい――。
動・植・鉱物=万物を収集、分類、記述する
博物学が学問の王だった一八世紀。
その帝王リンネと、その下に鎖国日本を含む
全世界をめざす弟子。珍品に踊る王、富豪。
博物学の壮大な野望を描く。」



カバーそで文:

「博物学者たちの世界ネットワーク――当時の博物学者は
国や立場を越えて、国際的なネットワークを形成しており、
リンネの元にもこのネットワークを通じて世界各地から博物標本が送られてきていた。
この博物学者の国際ネットワークは、西はアメリカの博物学者、
東は中国に滞在している博物愛好家にまで広がっており、
さらにのちに述べるように、鎖国下の日本の博物学者にも延びていった。
一八世紀の博物学の欲望は、ヨーロッパを中心にして全世界を覆っていたのである。……
ロンドンの富裕な医師スローンの収集品の中心は植物標本で、量だけでいえばリンネの植物標本よりも多かった。
そのほかに動物や鉱物の標本…… 後にこのスローンの収集品を基礎にして、大英博物館が設立された。――本書より」



目次:

プロローグ――博物学の時代

1 すべての植物を分類しつくす
 夜が明けたら有名人
 植物にも性がある
 植物の婚礼
 「性の体系」のアイデア
 「性の体系」の全体像
 論理を重視したリンネ
 植物画の最高峰エイレット
 リンネはみだらである
 「性の体系」の矛盾
 すべてを分類しつくす
 国境をこえるリンネ植物学

2 植物はどのようにとらえられてきたか
 実用分類から人為分類、さらに自然分類へ
 植物学の祖テオフラストス
 近世本草学の頂点
 本草学から博物学へ
 フランス植物学の父ツルヌフォール
 自然をいかにとらえるか
 リンネの目指した自然分類
 ヴェルサイユ宮殿に出現した自然分類
 リンネ批判
 植物学の革命
 植物分類の発展

3 学名の誕生
 「種」とはなにか
 アリストテレス論理学の属と種
 種は変化しない
 二名法とはなにか
 長すぎた学術名
 リンネの工夫
 二名法の功績
 リンネソウの名の由来
 リンネが広めた記号
 国際命名規約の制定
 門・綱・目・科・属・種

4 最高の学問としての博物学
 神を理解する学問
 神に選ばれた者
 システム・オブ・ネイチャー
 リンネの動物学
 人間は神かサルか
 リンネの地質学
 博物学の世紀
 博物標本はどのように作られるか
 貝殻商だけで六〇〇軒
 富豪たちの庭園
 全世界を覆う博物学者のネットワーク
 大英博物館のもとになったコレクション
 パリ植物園の発展
 恋愛小説より人気のあった『博物誌』
 ビュフォン・リンネ論争
 フランス啓蒙思想と博物学
 リンネを賛美したルソー
 ゲーテとリンネ

5 世界を分類しつくしたい――リンネとその野望
 小さな植物学者
 貧乏医学生
 ラップランド調査旅行
 オランダ滞在中に有名になる
 驚くべき生産量
 科学アカデミー会長に
 ウプサラ大学教授の地位
 ロシアのスパイ?
 教師リンネ
 大学植物園の管理
 植物採集会
 平穏な後半生
 国王が支援者に
 リンネの著作群
 小リンネ
 植物学者中の第一人者

6 地球の裏側までも――リンネと使徒たち
 命を賭けて海外へ
 北アメリカへ
 パレスチナへ
 スペインへ
 アラビアへ
 そして日本へ
 最後の使徒ツンベリー
 ツンベリーの業績
 長崎・箱根・江戸の植物
 四〇〇の新種発見
 ケンペルとシーボルトの業績
 リンネ植物学の日本への導入
 博物学とナチュラル・ヒストリー
 田中芳男の夢
 科学博物館の設立

7 リンネ博物学の遺産
 小リンネの努力
 リンネ標本の国外流出
 リンネ植物学の流行
 博物学界に君臨したバンクス
 探検航海と博物学者
 使徒ソランダー
 キュー植物園の誕生
 大英博物館の役割
 二五歳でリンネ標本の所有者に
 ロンドン・リンネ学会の設立
 リンネ標本の行くえ
 イギリス博物学の三つの柱

エピローグ――リンネからダーウィンへ
 一八世紀のリンネ、一九世紀のダーウィン
 動物命名法とダーウィン
 植物命名法とダーウィン
 現代生物学とリンネ
 日本の博物学の現状

参考文献



松永俊男 博物学の欲望 02



◆本書より◆


「プロローグ」より:

「博物学者たちは、自然のすべてを知るために、命がけで未知の世界へ出かけて行った。この博物学の情熱を支えていたのが、キリスト教信仰であった。神の創造した自然を理解することが、神自身を理解することになると信じられていた。近代科学は当初、キリスト教と一体だったのである。」
「わが国が西洋の科学を本格的に導入し始めた一九世紀末には、科学と宗教の分離がほぼ完了しており、そのため、わが国にも近代科学が容易に移植されることになった。その反面、近代科学が本来、キリスト教信仰に結びついていたという事実が理解しにくくなってしまった。また、博物学が自然科学の基盤であることも理解されないまま今日にいたっている。
 本書では、リンネを中心として一八世紀という博物学の時代を描こうと思う。また、その後の博物学についても触れておきたい。
 第1章では、リンネの名が知れわたるきっかけとなった「性の体系」という植物分類法について説明し、第2章で、「性の体系」が植物分類学の歴史の中でどういう位置にあるのかを見る。第3章では、リンネの最大の功績とされる学名の確立について述べる。第4章で一八世紀の博物学の全体を概観し、第5章でリンネの生涯を述べる。第6章ではリンネに触発されて世界各地に出かけた弟子たち、とくに日本に来たツンベリーの活躍を述べ、その後の日本の博物学について概観する。また、「博物学」という言葉の由来についても述べる。第7章では、イギリスの博物学がリンネ博物学を基礎に発展した状況について述べる。エピローグではダーウィンを中心に一九世紀の博物学について述べ、わが国の博物学の現状を見ることにする。」


















































Antione-Joseph Dezallier d'Argenville 『Shells』 (Taschen)

Antione-Joseph Dezallier d'Argenville 
『Shells』

Conchology or the Natural Historry of Sea, Freshwater, Terrestrial and Fossil Shells 1780

Taschen, 2009
216pp, 35x26cm, hardcover
Author: Veronica Carpita, Rainer Willmann, Sophia Willmann
English translation: Antonia Reiner-Franklin, Joan Clough
French translation: Isabelle Baraton, Michele Schreyer
German translation: Verena Listl
Project managing: Petra Lamers-Shutze
Editing: Amtonia Reiner-Franklin
Printed in China



タッシェンから出たデザリエ・ダルジャンヴィルの「貝殻図鑑」です。
著者没後の1780年に刊行された第3版から図版全80点、口絵その他4点、解説中に参考図版18点。全てカラー印刷です。
解説および図版説明は英独仏三ヶ国語併記です。
序文では、中世写本の細密画やオランダの静物画、アルチンボルドやイタリア・ルネサンスの絵画作品などに描かれた貝殻図版を交えつつ、デザリエ・ダルジャンヴィルの生涯と活動について、貝類学におけるアートと科学について、貝殻愛好の歴史と未来について解説しています。
丸背紙装上製本(継ぎ表紙、背の部分は布)、表紙はエンボス加工が施されています。カバー(ダストジャケット)は元から無いタイプです。
本書と同じデザインでマリア・シビラ・メーリアンの「スリナム昆虫誌」が同時刊行されています。

アントワーヌ=ジョセフ・デザリエ・ダルジャンヴィルは18世紀フランスのお金持ちのディレッタント蒐集家でありますが、貝類の他にも鉱物や庭園(造園)の本を出したり、ディドロ=ダランベールの『百科全書』にも執筆しています。
「貝殻」「鉱物」「庭園」「百科全書」は、閉ざされた秩序ある空間への希求(引きこもり感覚)という点で共通しています。


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Contents:

Veronica Carpita:
A passion for shells: Art and science in the *Conchyliologie* by Dezallier d'Argenville
Eine Passion für Muscheln. Dezallier d'Aegenvilles *Conchyliologie* im Spannungsfeld von Naturwissenschaft und Kunst
La passion des coquillages. Parcours endre science et art autour de la *Conchyliologie* de Dezallier d'Argenville

Rainer Willmann:
The scientific importance of Dezallier d'Argenville's *Conchyliologie*
Die wissenchaftliche Bedeutung des Conchylien-Werkes won Dezallier d'Argenville
L'importance scientifique de la *Conchyliologie* de Dezallier d'Argenville

Rainer & Sophia Willmann:
Plates with identification of species
Tafeleteil mit der Bestimmung der Arten
Planches indiquant la détermination des espèces

Rainer Willmann:
Zoological nomenclature in Dezallier d'Argenville and Linnaeus
Die Benennung der Arten bei Dezallier d'Argenville und Carl von Linné
La désignation des espèces chez Dezallier d'Argenville et Carl von Linné

Bibliography
Bibliografie
Bibliographie




◆本書より◆


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Veronica Carpita 「A passion for shells: Art and science in the *Conchyliologie* by Dezallier d'Argenville」より:

「Shells have always been considered "artifices of nature", and therefore a tangible reflection of the wonder and perfection of Creation. George Perry, in his introduction to the *Natural History of Shells*, reflected on how theses objects, with their astoundingly complex architecture based on a logarithmic spiral, invite the viewer to contemplate divine excellence.」

(貝殻はつねに「自然の巧み」として、神による創造の驚異と完全性の実体的反映として考えられてきた。博物学者ジョージ・ペリーは自著への序文で貝殻がその対数螺旋に基づく驚くべく複雑な構造によって見る者をいかに神の卓越の観照へと導くかを考察した。)




こちらもご参照ください:

Maria Sibylla Merian 『Insects of Surinam』 (Taschen)
荒俣宏 『増補版 図鑑の博物誌』 (集英社文庫)




























































































Maria Sibylla Merian 『Insects of Surinam』 (Taschen)

Maria Sibylla Merian 
『Insects of Surinam』

Metamorphosis Insectorum Surinamensium 1705

Taschen, 2009
192pp, 35x26cm, hardcover
Author: Katharina Schmidt-Loske
English translation: Joan Clough
French translation: Jeanne Etoré-Lortholary
Editing and editorial coordination: Ute Kieseyer
Printed in China



タッシェンから出たマリア・シビラ・メーリアンの「スリナム昆虫誌」です。
初版(1705年)の図版全60点、初版タイトルページ1点、部分拡大図(全ページ15点/見開き5点)、解説中参考図版21点。全てカラー印刷です。
Katharina Schmidt-Loske によるメリアン評伝および図版解説は英独仏三ヶ国語併記です。
丸背紙装上製本(継ぎ表紙、背の部分は布)、表紙はエンボス加工が施されています。カバー(ダストジャケット)は元から無いタイプです。
本書と同じデザインでデザリエ・ダルジャンヴィルの「貝殻図鑑」が同時刊行されています。



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Contents:

Katharina Schmidt-Loske:
Maria Sibylla Merian's "extremely costly" journey to nature's treasure-house
Maria Sibylla Merians "kostbare" Reise in die Schatzkammer der Natur
Maria Sibylla Merian ou la découverte des trésors de la nature

Katharina Schmidt-Loske:
Plates with commentaries
Tafeln mit Bilderläuterungen
Planches avec commentaires

Bibliography
Bibliografie
Bibliographie



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◆本書より◆


「As an artist, Merian was particularly interested in the *Metamorphosis naturalis* (Natural Metamorphosis, 1662-1669) of Johannes Goedaert (1620-1668), an entomologist and painter who spent more than 25 years raising caterpillars and hatching butterflies from them. In the three volumes of his work, he described the natural stages in the metamorphosis of the butterfly although he did not go back to the egg as the initial stage because he believed in the spontaneous generation theory. That did not prevent Merian from viewing him as a role model. His religious views in particular interested her. Goedaert applied the idea of the Resurrection to three stages in the life of a butterfly, and just as the earthbound worm, that is, the caterpillar, entered the larval stage, only to fly into the skies as a butetrfly, man died and his soul ascended to God. For Merian, studying caterpillars and the transformations they underwent represented a form of devotion. Even in her first book on caterpillars (1679) she wrote: "Seek not in this to honour me but God alone, to praise him as the creator of even the smallest and least of worms."」

(アーティストとしてのメリアンは「自然のメタモルフォーシス」の著者ヤン・ホダートを役割モデルとしていた。ホダートは蝶の変態に、死後の人間の魂が神のもとに昇っていくという宗教的観念を重ね合わせていた。芋虫に関する最初の著作でメリアンは「この仕事を通して私ではなく万物の創造主である神が称賛されますように」と記している。)




こちらもご参照ください:

荒俣宏 編著 『Fantastic Dozen 第8巻 昆虫の劇場』
Antione-Joseph Dezallier d'Argenville 『Shells』 (Taschen)


































『アリストテレース 動物誌 (下)』 島崎三郎 訳 (岩波文庫)

「こういった生物は物に固着していて、多くは引き離されると死んでしまうからで、たとえば、タイラギは物に固着しているし、マテガイは穴から引き出されると生きていられなくなる。」
(アリストテレース 『動物誌』 より)


『アリストテレース 
動物誌 (下)』 
島崎三郎 訳
 
岩波文庫 青/33-604-11

岩波書店
1999年2月16日 第1刷発行
381p 索引72p
文庫判 並装 カバー
定価760円+税



本書「凡例」より:

「本書は、アリストテレースの『動物誌』(Peri ta zōia historiai, Historia animalium)の後半(第七巻―第十巻)の訳である。」


そういうわけで、他人とは思えない貝はマテガイ、身につまされる動物はヒツジであります。


アリストテレース 動物誌 下


カバー文:

「本書ではヒトの発生論(第7巻)、動物生態学および心理学(8、9巻)からヒトの不妊症の問題(10巻)までを扱う。アリストテレースの動物学書は、彼の学問的立場が本質的には生物学を基礎としていることから、自然科学のみならず哲学的論文の理解のためにも重要なものであり、西洋の科学文明の礎石とも言うべき書である。索引付。」


目次:

凡例

第七巻
 第一章 男女の思春期の徴候
 第二章 月経
 第三章 妊娠の徴候 下り物と流産
 第四章 妊娠 双生児および多生児
 第五章 授乳 出産期
 第六章 妊娠期間 生殖と出産の個体差 奇形の遺伝 両親との類似
 第七章 受胎 胎児の発育
 第八章 胎児
 第九章 陣痛
 第十章 分娩 新生児
 第十一章 乳 乳房の疾患
 第十二章 幼児の疾病
第八巻
 第一章 動物の心理学 生物界の段階における連続性の原理 植物と動物の定義 
 第二章 陸上動物と水生動物 イルカ 胚体の微小な変化が発生に影響する 水生動物の習性と食物 ウナギとその漁法
 第三章 鳥類の食物と習性
 第四章 卵生四足類とヘビ類の食物と習性
 第五章 胎生四足類の食物と習性
 第六章 胎生四足類の飲み水 ブタの食物と肥育法
 第七章 ウシの食物と肥育法 ウシの品種
 第八章 ウマ、ラバおよびロバの食物 家畜の飲み水
 第九章 ゾウの食物 ゾウとラクダの寿命
 第十章 ヒツジとヤギの食物
 第十一章 有節類(昆虫類)の食物
 第十二章 鳥類の移動
 第十三章 鳥類の習性と移動
 第十四章 有節類(昆虫類)の越冬
 第十五章 魚類の越冬
 第十六章 鳥類の越冬
 第十七章 胎生四足類の越冬 ヘビ類、有節類および軟殻類の脱皮
 第十八章 鳥類その他の動物に及ぼす季節や天候、乾燥や湿潤の影響 鳥類の病気
 第十九章 魚類に及ぼす上記の影響 魚類の寄生虫
 第二十章 魚類の病気 海のシラミ 毒物その他による魚の漁法 貝類に及ぼす雨や乾燥、暑さや寒さの影響
 第二十一章 ブタの病気
 第二十二章 イヌ、ラクダおよびゾウの病気
 第二十三章 ウシの病気
 第二十四章 ウマの病気
 第二十五章 ロバの病気
 第二十六章 ゾウの病気
 第二十七章 有節類(昆虫類)について ミツバチの巣の寄生虫
 第二十八章 動物の生息地の相違 動物の形態に及ぼす気候の影響
 第二十九章 動物の習性に及ぼす気候の影響 ある地方の有毒動物
 第三十章 魚類その他の海産動物の季節的健康状態
第九巻
 第一章 動物の心理学 両性の心理的相違 種々の動物の相互間の友好関係と敵対関係 ゾウの習性
 第二章 群遊魚について 魚類における敵対関係
 第三章 ヒツジやヤギの習性と知能
 第四章 ウシやウマの習性と知能
 第五章 シカの習性と知能
 第六章 種々の動物の習性 野生動物の治療薬 ハリネズミやテンの悪賢さ
 第七章 ツバメの造巣 ハトやヤマウズラの交尾、産卵および育雛
 第八章 ウズラやヤマウズラの交尾、産卵および育雛(続き)
 第九章 キツツキについて
 第十章 ツルの知能 ペリカンについて
 第十一章 ワシとハゲワシについて ミソサザイやその他の鳥類について
 第十二章 ハクチョウについて カルキスまたはキュミンディスについて その他の鳥類について
 第十三章 カケスについて コウノトリとハチクイの親子の情愛 ニクケイドリについて
 第十四章 カワセミとその巣
 第十五章 ヤツガシラやその他の鳥類について
 第十六章 ヨシキリについて
 第十七章 クイナについて ゴジュウカラについて キバシリについて
 第十八章 サギについて
 第十九章 クロウタドリについて ライオスについて
 第二十章 ツグミについて
 第二十一章 アオイトリについて
 第二十二章 オーリオールについて
 第二十三章 バルダロスとコルリュリオーンについて
 第二十四章 コクマルガラスの種類について
 第二十五章 ヒバリについて
 第二十六章 ヤマシギについて
 第二十七章 エジプトのイービスについて
 第二十八章 コノハズクについて
 第二十九章 カッコウについて
 第三十章 キュプセロスについて ヨタカについて
 第三十一章 オオガラスについて
 第三十二章 ワシについて
 第三十三章 スキュティアの大きな鳥について
 第三十四章 ヒゲワシについて
 第三十五章 ケッポスについて
 第三十六章 タカについて トラーキアのタカ狩り マイオーティス湖畔のオオカミ
 第三十七章 アンコウ、シビレエイその他の魚類の習性 コウイカやフネダコについて
 第三十八章 勤勉な有節類(昆虫類) アリについて
 第三十九章 クモとクモの巣
 第四十章 ハチの種類 ミツバチの生活
 第四十一章 スズメバチについて
 第四十二章 アントレーネーと称するハチについて
 第四十三章 マルハナバチについて
 第四十四章 ライオンやその他の動物の気性
 第四十五章 メッサピオン山のヤギュウ
 第四十六章 ゾウについて
 第四十七章 ラクダについて スキュティア王の雌ウマ
 第四十八章 イルカの愛情深い性質
 第四十九章 雄ドリのようになった雌ドリ
 第五十章 去勢の影響 反芻について
 第四十九B章 鳥類の変態 ヤツガシラについて 水浴びする鳥と砂浴びする鳥
第十巻
 第一章 ヒトの不妊症の原因は子宮や月経にある
 第二章 月経および子宮頚部の検査
 第三章 子宮の正常態と異常態
 第四章 不妊症のその他の原因――子宮の痙攣と腫瘍など
 第五章 不妊症の原因(続き)――男女両性の射精の不一致 射精量 子宮内部の解剖
 第六章 生殖における雌(女)性の役割
 第七章 奇胎について

訳注
解説
あとがき
索引




◆本書より◆


「第8巻 第1章」より:

「このように、自然界は無生物から動物にいたるまでわずかづつ移り変わって行くので、この連続性のゆえに、両者の境界もはっきりしないし、両者の中間のものがそのどちらに属するのか分からなくなる。すなわち、無生物の類の次には、まず植物の類が続き、植物のうちの各々は、生命を分与されていると思われる程度の差によって互いに異なるが、植物の類全体としては、他の〔生命のない〕物体に対してはほとんど生物のようであり、動物の類に対しては無生物のように見えるのである。いま述べたように、植物から動物への移り変わりは連続的である。現に、海産の生物には、動物なのか植物なのかよく分からないようなものがある。なぜなら、こういった生物は物に固着していて、多くは引き離されると死んでしまうからで、たとえば、タイラギは物に固着しているし、マテガイは穴から引き出されると生きていられなくなる。一般に、殻皮類〔貝類〕は全体として、移動性の動物に比べると、植物に似ている。また、感覚という点では、こういう生物のうちのあるものは、持っている証拠を何も示さないし、あるものは、示すにしても、あまりはっきりしない。あるものは、たとえば、「ホヤ」と称するものやイソギンチャクの類のように、身体の構成が肉質であるが、カイメンとなると、植物にそっくりである。また、動物間では、一つ一つがわずかの差異をもって、だんだんに生命と運動性を増して行く。」


「第8巻 第28章」より:

「動物は、場所によっても違いがある。すなわち、ある場所にはある動物はまったくいないし、また、ある場所にはいることはいても、数が少なくて、短命で、繁栄しない。また、ときにはすぐ近くの場所でこういった違いがある。たとえば、ミレートス地方の、隣り合わせの場所の、一方にはセミがいるが、もう一方にはいないし、ケパレーニアは川で二分され、一方の側にはセミがいるが、もう一方の側にはいないのである。」


「第9巻 第3章」より:

「ヒツジの性格は愚直で低脳といわれている。現に、ヒツジは四足類の中で最も劣悪であって、何の当てもなく荒野へ迷い込んで行く。また、しばしば冬に小屋の外へ出て行き、吹雪に襲われても、羊飼いが動かさなければ立ち去ろうとせず、羊飼いたちが雄ヒツジを連れ去れば、後についてくるが、連れ去らなければ、そのまま居残って死ぬ。」


「第9巻 第35章」:

「ケッポスは水の泡で捕えられる。というのは、泡に食いつくからで、それゆえ泡の立った海水をひっかけて捕えるのである。この鳥の他の部分の肉は良い香りがするが、尻の部分だけは海藻の臭いがする。よく肥える鳥である。」


「第9巻 第49章」:

「ちょうど、あらゆる動物の行動がその性状に応じて行なわれているように、性格も行動に応じて変わり、身体のある部分も、たとえば、鳥類で見られるように、変わる。現に、ニワトリの雌ドリも雄ドリに勝つと、雄ドリのまねをして時を作ったり、雌ドリに交尾を仕掛けたりするし、そのとさかや尾羽も高く上がるので、雌ドリであることを識別するのは容易でなくなる。場合によっては、一種の小さなけづめが出てくることもある。すでに、雄ドリでも、雌ドリが死ぬと、自ら雌ドリに代わって雛の世話をしたという例があり、あまりよく雛を導いたり育てたりするので、もはや時を作ったり、交尾を仕掛けたりしなくなったくらいである。鳥の雄の中には、生まれつき雌のような性質で、交尾を仕掛けてくる雄に身を任せるほどのものもいる。」




こちらもご参照ください:

『アリストテレース 動物誌 (上)』 島崎三郎 訳 (岩波文庫)
ホルヘ・ルイス・ボルヘス/マルガリータ・ゲレロ 『幻獣辞典』 柳瀬尚紀 訳
Michel Butor 『Herbier lunaire』











































































































































プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー

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