N. Tromans - Richard Dadd, The Artist and the Asylum

Nicholas Tromans
RICHARD DADD : The Artist and the Asylum

 
Tate Publishing, 2011
208p, 28.5x22cm, hardcover

 
 
ニコラス・トロマンス著 『リチャード・ダッド 芸術家と精神病院』
昨年上梓された、最新のリチャード・ダッド研究書です。 
 
 
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この前、手持ちのダッドの画集図録を紹介した折、資料集めのネット検索で本書が出版されていることを知ったので、アマゾンに注文しておいたところ、年を越して届きました。
ざっと目を通しただけですが、良い本だと思います。ゆっくりと確実にダッドのような画家への評価が確立されてゆくのを見るのは喜ばしいことです。
   
 
Contents:

Preface
 
1 Fairytopia
2 Orientalist and Assasin
3 Inside
4 Contradiction
5 Pleasure Men : Dadd at Broadmoor
6. The Asylum Speaks Back
 
Appendices
Notes
Bibliography
Credits
Index

 
 
この Appendices には、代表作「お伽の樵の入神の一撃 The Fairy Feller's Master-Stroke」についてダッド自らが解説した「詩」の全文(ベスレム病院アーカイヴ)が収録されています(Elimination of a Picture & its Subject - Called the Feller's Master Stroke)。
※この詩はネット上でも閲覧できます。
Wikisource : Elimination of a picture and its subject - called the feller's master stroke
さらにクレルモン、ベスレム、ブロードムアの三つの精神病院におけるダッドの症例ノート(casenotes)も全文掲載されています。
  
図版も見事で、Fairy Feller の部分拡大図も数点収録されており、前述の画集やネット画像では確認できなかった細部を鮮明に見ることができました。
 
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画面中央の老人の帽子の上のマブ女王の馬車。
 
 
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Flight out of Egypt (1849-50)、油彩、部分。
 
 
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同上。
 
 
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Aesculapius Discovered by Shepherds on a Mountain (1851)、水彩。
 
 
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Dymphna Martyr (1851)、ペン・水彩。
 
 
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Sketch to Illustrate the Passions : Treachery
 
 
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Contradiction : Oberon and Titania (1854-8)、油彩。
 
 
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Columbine (1854)、水彩。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 


 
 

 

 
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P. Allderidge - The Late Richard Dadd

Patricia Allderidge
THE LATE RICHARD DADD 1817-1886

The Tate Gallery, 1974
172p, 30.5x21.5cm, hardcover

 
パトリシア・オルダリッジ著『故リチャード・ダッド』
1974年テート・ギャラリーにおけるリチャード・ダッド回顧展カタログ
 
1974年6月19日―8月18日 Tate Gallery
1974年9月21日―10月20日 Ferens Art Gallery, Hull
1974年10月26日―11月24日 Municipal Art gallery, Wolvenhampton
1974年11月30日―1975年1月5日 City Art Gallery, Bristol
 
 
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Contents :
 
Foreward (Sir Norman Reid)
Introduction
Life
Appendix
Work
Catalogue
Attributed Works
Related Works
Family Tree & Maps
Chronology
Notes and References
Bibliography
List of Lenders
Acknowledgements
Index

 
 
「故リチャード・ダッド。なんてことだ! 世の誉となるべく約束された若き天才をそんなふうに呼ばなければならないとは。肉体的には墓の下に葬られたわけではないにしても、彼は死者と看做されなければばならないのだから」
(「アート・ユニオン」誌、1843年。)
 
父親を刺殺し、精神病院の人となった26歳の画家リチャード・ダッドは、社会的には存在を抹殺された死者であった。彼は世に認められる望みのないことを知りながら、それ以降も絵を描き続けた。1974年の回顧展は、ダッドの死後初めての展覧会であり、それまではテート・ギャラリー所蔵の「お伽の樵の入神の一撃 The Fairy Feller's Master-Stroke」一作のみによって知られていたダッドの全貌を世に知らしめた画期的な出来事であった。ベスレム病院 Bethlem Hospital の記録保管所に勤務するパトリシア・オルダリッジによって編纂された本カタログはダッド研究の基本文献であり、日本版画集『夢人館 8 リチャード・ダッド』(岩崎美術社 1993年)も本書および本書の著者オルダリッジに多くを負っているようだ。
 
 
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ベスレム病院。正面および背面。
 
 
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ベスレム病院内部。かつてはベドラム Bedlam と呼ばれ、狂人たちは見世物にされていた。ダッドの時代には精神病者の処遇は改善に向っていたようだ。
 
 
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「お伽の樵の入神の一撃 The Fairy Feller's Master-Stroke」、1855-64年。油彩、カンヴァス。54×39.4cm。裏に「The Fairy Feller's/Master-Stroke-/Painted for/G.H. Haydon, Esqre/by Rd Dadd/quasi -1855-64」の記入がある。本書解説によると、「最近発見された」詩稿において、ダッドは「ある役人 an official person」(G・H・ハイドン、ベスレム病院の看護士)のためにこの作品を描くことになったいきさつや、主題と登場人物について詩の形で説明している。
 
 
Fairy Fellers Master-Stroke

Wikipedia The Fairy Feller's Master-Stroke 画像
 
1 妖精の樵(the fairy woodman)。レザーの服を着て、はしばみの実(hazel nut)を割るべく斧を振り上げている。ほかの妖精たち("Fays, gnomes, and elves and suchlike")は、妖精(と思慮深い孤独な隠遁者)にしか分らない問題を解決するために集ったのだが、樵が一撃で実を割ることができるかどうか見守っている。
2 白い鬚の老人は大魔術師(arch magician)であり至高の力を表す三重の王冠を被った大司教(patriarch)。左手に小妖精たちの頭を叩くための棍棒(large little club)を握っている。
3 魔術師の帽子の上には、右側にスペイン風衣装のダンサーたち(dancers in Spanish costume)。
4 左側には女ケンタウロスたち(female centaurs)の引く馬車に乗ったマブ女王(Queen Mab)。御者はブヨ(a gnat as coachman)、御付きのクピドーとプシュケー(Cupid and Psyche for pages)、後方には妖精の従者("some strapping fairy footman")。
5 盗み聞きする二人の小人(eavesdropping elves)。
6 妖精の少女(fairy nymph)に言い寄る妖精のダンディ(fairy dandy)。
7 口やかましい批評家(pedagogue, a critic whose "business is to teach to do")。
8 ピンクの服を着た政治家(politician)。 
9 サテュロスの頭をした田舎者(a well shod clod-hopper with a satyr's head)。
10 妖精の宿屋の馬丁(an ostler from the fairy inn)が樵をじっと見ている。
11 その陰に小人の修道士(a dwarf monk)。
12 御者のウィル("Waggoner Will")と陽気な農夫(good-humoured ploughman)。
13 二人の遊び人(two fairy men-about-town who live by their wits)。
14 二人の侍女(two ladies' maids)。一人は鏡を持ち、もう一人は箒を持って片手にスズメガ(鷹=蛾 hawkmoth)を止らせている。
15 田舎の恋人たち。なめし皮業者のルービン(Lubin, a tanner)と乳搾り女のクロエあるいはフィリス("Chloe or Phyllis" a dairymaid)。
16 二人の小人(two dwarfs)。樵が実を一撃で割れるか賭けをしている。
17 オベロンとティタニア(Oberon and Titania)。 
18 赤いマントの老女(an old lady in a scarlet cloak)。
19 兵士(soldier)。
20 船乗り(sailor)。
21 鋳掛け屋(tinker)。
22 仕立て屋(tailor)。
23 田舎の若者(ploughboy)。
24 薬屋(apothecary)。
25 泥棒(thief)。
26 トンボのトランペット奏者(dragonfly trumpeter)。
27 草陰から中国風の帽子を被った小人(elf)が顔を覗かせている。
 
 
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帽子の上のマブ女王御一行。
図版は Nicholas Tromans - Richard Dadd, The Artist and the Asylum より。
 
 
YouTube - Queen - The Fairy Feller's Master Stroke
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
  

  

 
 
 
 
 
 
 
 
 
 
 

『夢人館 8 リチャード・ダッド』

「全体として、ダッドの後期作品がもっている不変の印象は、驚くほど優しく、そして思いに沈んだ特質だ。(中略)しかしながら他の画家の作品と一緒に並べられた時、しばしば場違いな感じを創り出す彼の絵の多くは、いいようのない奇妙な印象がある。その卓越した夢のような特質は、初め見てもほとんどなんの衝撃もないだろう。その絵は長く観察してくれることを求めている。多分ダッドの作品のこのような特質は、結局、その作品が決して広く知れ渡らないことを確実にするだろう。それは、なによりもまず彼固有の感情を秘めた絵なのである。」
(P・オルダリッジ 「リチャード・ダッド 精神病棟の画家」 より)


『夢人館 8 
リチャード・ダッド』


岩崎美術社 
1993年5月15日 初版第1刷発行
71p 
30.5×25.5cm 
角背クロス装上製本 カバー
定価5,980円(本体5,806円)
企画・編集: 小柳玲子 
装幀・構成デザイン: 林立人
編集協力: 大西和男



作品図版60点(うちカラー56点)。その他図版(モノクロ)多数。


夢人館 リチャードダッド 01


帯文:

「26歳、ロマン派の画家として、その才能を
期待されながら、父親を悪魔と思い込み刺殺。
以後、一生を刑務所で過しながら、絵筆を離さなかった
ダッドの、世界で初めての画集。

波瀾と狂気にみちた
19世紀
英国の画家が
精神病棟の中で
妖精を描いた
これは
不思議な彩りのなかで
登場人物たちが囁く
冥府からの便り…」



目次:

リチャード・ダッド 精神病棟の画家 (Patricia Allderidge/訳: 井上知行)
リチャード・ダッドへの旅 (小柳玲子)
R・ダッドのケルト的視覚――驚異のミクロコスモス (鶴岡真弓)

作品
 1 少女像 1832 水彩
 2 風景 1837 油彩、パネル
 3 栄光のスコットランド人、ジョン・フィリップの肖像 1839 チョーク
 4 顔 1837~40 鉛筆
 5 自画像 1841 エッチング (モノクロ)
 6 パック 1841 油彩、カンバス
 7 少年像 1843 鉛筆
 8 夕辺 1841 油彩、パネル
 9 こくもつ市場、ベイルート 1842 水彩
 10 エジプト人の墓 1843 水彩
 11 カリフの墓、カイロ 1843 水彩
 12 ロードス島の眺め 1845 水彩
 13 砂漠での休息 1845 水彩
 14 エジプトからの脱出 1849―50 油彩、カンバス
 15 イエス湖上を歩く 1852 水彩
 16 バラード屋 1853 水彩
 17 骨董店 1854 水彩
 18 ルクレチア 1854 水彩
 19 隠者 1853 水彩
 20 激情のスケッチ――憎悪 1853 水彩
 21 シリーズ〈激情〉のためのスケッチ――カード遊び 1853 水彩
 22 シリーズ〈激情〉のためのスケッチ――野蛮 1854 茶色の紙に水彩
 23 シリーズ〈激情〉のためのスケッチ――怠惰 1853 茶色の紙に水彩
 24 シリーズ〈激情〉のためのスケッチ――うぬぼれ 1854 茶色の紙に水彩
 25 輝きと富を示すスケッチ 1853 水彩
 26 シリーズ〈激情〉のためのスケッチ――殺し 1854 水彩
 27 シリーズ〈激情〉のためのスケッチ――悶え 1854 茶色の紙に水彩
 28 シリーズ〈激情〉のためのスケッチ――失望 1854 水彩
 29 シリーズ〈激情〉のためのスケッチ――戦闘または復讐 1854 水彩
 30 シリーズ〈激情〉のためのスケッチ――欺瞞あるいは二枚舌 1854 水彩
 31 シリーズ〈激情〉のためのスケッチ――悲哀 1854 水彩
 32 シリーズ〈激情〉のためのスケッチ――無意味な劣等感 1854 茶色の紙に水彩
 33 シリーズ〈激情〉のためのスケッチ――怒り 1854 水彩
 34 シリーズ〈激情〉のためのスケッチ――貧困 1856 水彩
 35 シリーズ〈激情〉のためのスケッチ――愛国心 1857 ペン、インクと水彩
 36 シリーズ〈激情〉のためのスケッチ――無謀 1855 水彩
 37 狩の風景 1855 水彩
 38 イアソンをつれて脱出するメディア 1855 水彩
 39 倒れた勇士 1855 水彩
 40 狂えるジェーン 1855 水彩
 41 子どもの問題 1857 水彩
 42 ヴェニスの思い出 1858 淡黄色の紙にインクと水彩
 43 対立・オベロンとティターニア 1854~58 油彩、カンバス
 44 パイロットボート 1859 水彩
 45 ストラグリン港 1861 水彩
 46 キューピッドとプシュケ 1853~60 油彩、厚紙
 47 バッカス祭の情景 1862 油彩、パネル
 48 夜と昼(時) 1864 水彩
 49 トルコ人 1863 水彩
 50 エジプトのハレムの幻想 1865 淡い青緑色の紙に水彩
 51 険しい道 1866 水彩
 52 お伽の樵の入神の一撃 1855~64 油彩、カンバス
 52 同上 (部分)
 53 幻想の歌 1864 アイボリーボードに水彩
 54 路傍の宿 1871 水彩
 55 レオニダスと樵 1873 水彩
 56 嵐の中の漁船 1877 水彩
 57 ブロードモア劇場のたれ幕のためのスケッチ 1873 水彩
 58 古代都市・リュキアのトロス 1883 水彩
 59 東方にて 1842~3 鉛筆 (モノクロ)
 59 〈スケッチ、東方にて〉より (モノクロ)
 60 家族 1838 水彩 (モノクロ)
 
作品解説
年譜



夢人館 リチャードダッド 03

「お伽の樵の入神の一撃」(部分)。


夢人館 リチャードダッド 04

「狂えるジェーン」。


夢人館 リチャードダッド 02

「子供の問題」。


この作品は「ダッドの水彩画の中で最も不可解なもの」であると本書「作品解題」にありますが(本書の「作品解題」は、パトリシア・オルダリッジ(Patricia Allderidge)による回顧展カタログ『故・リチャード・ダッド The Late Richard Dadd』(1974年、テート・ギャラリー。これは実質的にカタログ・レゾネといってよいものです)所収の作品解題の摘要訳です)、「タイトルは文字通りチェス・ボードの上の単純な駒の配置を表している。すなわち「白の番で、二手で王手詰み」という状況を指しているが、これは非常に簡単な問題で、子どもでも解けるものである」。うしろの壁には「跪いている奴隷と「私は人間でも兄弟でもないのか Am I not a man and a brother」という奴隷反対協会のスローガンが示されている」。その右側には奴隷貿易船を讃美する絵が掛けられており、「明らかに同主題に対し反対の意味を表している」。つまり、壁の絵は「白」「黒」それぞれの主張を表わしていて、「白」である「子ども」が、「黒」(大人)が眠っている間に「黒」を負かそうとしている。子供の衣装については「そのレースの衿飾り ruffs に惹かれていた attracted という以外説明のしようがないものである」とありますが、衿飾りは奴隷制盛んなりし頃の大英帝国のシンボルです。すなわち、「白」=子ども=大英帝国、「黒」=眠る大人=植民地という図式をあてはめることができるのではないでしょうか。本書では割愛されていますが、前記カタログの作品解説でオルダリッジは「ダッドはあらゆる種類の拘禁状態に対して同情を覚えたであろうし、その家庭環境も反奴隷制運動に共感的なものであったと考えられる」と推測しています。


リチャード・ダッドについては、美術評論家の坂崎乙郎によって早くから紹介されてはいたものの、本格的な画集が日本で刊行されたのは本書が初めてです。初めてゆえに不備も散見されます。たとえば「お伽の樵の入神の一撃」を水彩で描きなおした「Songe de la Fantasie」を本書では「幻想の歌」と訳していますが、これは「de la」とあるのでフランス語、したがって「songe」は「song」(歌)の初期近代英語(アーリー・モダーン・イングリッシュ)形とかではなくフランス語の「夢」です(オルダリッジの前掲書では「A Dream of Fancy」とちゃんと英訳されているので、これは不備というよりはうっかりミスです。もっともフランス語だとしたら「fantaisie」とあるべきなので、それはダッドのうっかりミスです)。もっとも坂崎乙郎も初め「The Fairy Feller's Master-Stroke」(本書では「お伽の樵の入神の一撃」と訳されています)を「童話作家入神の腕前」と訳していましたが、それもたぶん「Feller」を「Teller」と読み違えたうっかりミスです。


本書の「年譜」によってダッドの生涯を概観すると、リチャード・ダッドは1817年、英国ケント州に生まれ、ロイヤルアカデミースクールで学び、シェイクスピアなどの文学作品を題材とした妖精画を発表、画家として順調なスタートを切るが、1842年、25歳の時にトーマス・フィリップス卿に同行したヨーロッパ・中東旅行(※1)の帰途、精神障害の兆候を示す。翌年帰国するも精神状態は悪化し、父親を殺害しフランスへ逃亡、乗合馬車での殺人未遂(※2)で逮捕され、クレルモン精神病院に収容される(同年には4歳下の弟ジョージ・ウィリアムも精神病院に入院、ダッド同様、生涯を拘禁状態の下に過ごすことになる)。1844年、英国に戻され、狂気と認定されベスレム病院 Bethlem Hospital 付属犯罪者精神病院へ入院、院内で絵画制作を続ける。1886年、68歳で肺結核により逝去。

※1 「名声ある弁護士サー・トマス・フィリップスはヨーロッパ、中東旅行に同行し、旅行中の絵を描く若い画家を求めていた。(中略)フィリップスとダッドは一八四二年七月にイギリスを発ち、まずスイス、北イタリア、ギリシア、そしてトルコと通過し、十月の終りにベイルートに着いた。それからレバノン、シリア、パレスチナで一ヵ月費した。(中略)フィリップスとダッドは十月にカイロに着き、(中略)エジプトからマルタへの航海中、彼は表現できない「精神衰弱」にかかった」。帰国後、「彼は直ちに仕事にとりかかり、(中略)「海辺で休息する隊商」を完成した。しかしその時もう彼はエジプトの神オシリスの支配下にあり、悪魔を殺す使命を持っていると信じていた。一八四三年八月二十八日、彼はケント州コバム村へ一緒に行くように父を説得し、子どもの頃よく訪れた貴族の館の近くにある、コバム公園 Cobham Park 内で夕方おそく散歩中に父を刺し殺した。彼は生涯、自分が殺したのは父ではなく変装した悪魔だと信じていた」
(本書、パトリシア・オルダリッジ「リチャード・ダッド 精神病棟の画家」より。)
 
※2 「自分は英国において、自分の父親であると偽称している男を殺した。その男は悪魔にとりつかれているので、自分は神の啓示によって殺害した。神はさらに自分の傍らの旅行者を殺せと命じられた。自分はその声と闘っていたが、すっかり疲れてしまったので、殺すか否かを星に委ねることにした。車窓から見えているオシリスが隣の星に近づいていくようならば殺せという命令は間違いなく神の命令と考えることにした。もしも星が離れていくなら、その見知らぬ人の命は延ばされただろう。二つの星は接近していったので、全ての迷いは終り、自分の逃れようのない使命は殺すことであったのだ」
(本書、小柳玲子「リチャード・ダッドへの旅」より、取り調べにおけるダッドの証言。1975年「オブザーバー」誌に発表されたピーター・ジョーンズのエッセーからの引用。)
このへんのことについて、1968年に邦訳が出たマルセル・ブリヨン『幻想芸術』(坂崎乙郎訳、紀伊国屋書店)には、「ダッドは汽車の中でもしその日の日没に雲がみられなかったら、彼と同じコンパートメントの乗客を殺そうと決心していた。幸運にも丁度陽の沈む頃に空が曇り相乗りの客は命拾いをしたわけだが、この男は生涯自分が生きながらえたのはひとえに神慮ある雲のお蔭だとは知る由もなかったにちがいない」との記述がみられます。



Richard Dadd (Wikipedia)
















































































プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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