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塚本邦雄 月読小説集 『黄道遺文』

「人は悉皆失踪した
晝顏は蒼く鎖し
夕暮の川には酢が流れ
蘆も虎杖も苦い
山羊は爛爛とみひらく
いつの日の咎を訊ふ
罪は生前から定められ
罰は死後に續き
愛は永遠に枯れる」

(塚本邦雄 「山羊」 より)


塚本邦雄
月讀小説集 
『黄道遺文』



書肆季節社
1985年10月 刊
201p
21.4×13.8cm
丸背バクラム装上製本 
貼函
150部限定版



「月讀小説集」の「月読」は英語に訳すとたぶん「monthly horoscope reading」になるのではあるまいか。一月分は詩二篇・短歌一首・短篇小説一篇(計15頁)で構成されていて、それが十二か月分・全十二篇収録されています。ページ付は各篇が独立していて、各篇の詩・歌・小説は著者による手書き文字をそのまま印刷したものになっています。
本書は、元は各篇ばらばらの状態で刊行されたもの(帙・函入)を一冊本として再刊したもののようです。
男も女も魅了する牧神のような「大月神父」が登場する、パゾリーニの「テオレマ」を連想させる「山羊」以下、内容はいつもどおりです。



塚本邦雄 黄道遺文 01



「精緻透徹を極めた現代天文學の前では、占星術など古色蒼然、綠靑色の、錯誤の黴におほはれた迷信の館に見えるだらう。人間の叡智は既に神を凌駕し、佛を蹂躙して、加持祈禱・呪詛呪禁など愚者のたはごと、中世の迷夢となつてしまつた。だがそれでも、今日、私達の上には、不可知の星星とその使者が右往左往し、地上には超科學の交信が入り亂れ、秘蹟が日日勃り續ける。脆く危く、常に頽廢の淵に瀕しつつ、悦樂を求めて渇き、憎惡と嫉妬のために飢ゑる、人なる生きもののあはれ、私をも含めた彼らのために、十二箇月、黄道十二宮の星影の下で、ささやかな物語を書き遺さう。今宵も遙か彼岸から爽やかな風が吹き及び、私をしきりに醒ます。」


「十一月 蠍座 冥王星 Pluto
十二月 射手座 木星 Jupiter
一月 山羊座 土星 Saturn
二月 水甕座 天王星 Uranus
三月 魚座 海王星 Neptune
四月 牡羊座 火星 Mars
五月 牡牛座 金星 Venus
六月 雙子座 水星 Mercury
七月 蟹座 月 Moon
八月 獅子座 日 Sun
九月 處女座 水星 Cupid
十月 天秤座 金星 Venus」


「十一月 螫さば心にくれなゐの潮みつるまでぬばたまの黑人のひだり手
十二月 なんぢ半人半馬とならば火の色のたてがみは愛の證しとなさむ
一月 牧神のゆふべいたりてをかさるるものらのために胡笛ひびくも
二月 少年を率てなかぞらにあり經ればこの甕にあふれきたれり硫黄
三月 あぎとふはたましひの魚あかがねの絲に繋がれ二尾あひにくむ
四月 空は春のくもりに昏れつおそらくは愛の深みに溺るるいもうと
五月 みぎの目に南天の星やどりつつありき瑠璃玻璃この戀あやふし
六月 雄雄しき夏のゆふづつ二つしろがねの光をのこが肩よせあひて
七月 ねたみもてこのなつぞらを群靑の淵となす星にいのるはきみか
八月 明日は戀なきものをあやめよ葉月けふ花蔭にしてかわける獅子
九月 蒼きつばさのあまつをとめら大麥の黴をまひるに零らしめたり
十月 たれのいのちをはからむとして綠靑のふたつの皿を夕空におく」




塚本邦雄 黄道遺文 02



内容:

山羊 壹月
水甕 貮月
魚 三月
牡羊 四月
牡牛 五月
雙子 六月
蟹 七月
獅子 八月
處女 九月
天秤 十月
蠍 拾壹月
射手 拾貮月




塚本邦雄 黄道遺文 03



◆本書より◆


「蟹 七月」より:

「七月十四日はあくまでもフランス革命記念日で、彼らが血を以て自由を獲得した日、それをまるで歌の祭典か小歌の競演日と感違ひしたかに、朝からシャンソン、夜中まシャンソン(引用者注:「夜中まシャンソン」は原文通りです)、「甘い言葉を」だの「人の氣も知らないで」と囀つてゐるのを地元の人達が聞いたら、苦笑、失笑、つひには嘲笑しかねまいと、「識者」が慨歎してゐるのを、碓氷は何度か見、聞きして、何を小賢しい、一知半解の辯をと、心の中で、それこそ苦笑・失笑・嘲笑した記憶がある。從弟の埴科に奬められて觀に行つた、「巨匠ルネ・クレール・ライブラリー」と銘打つた映畫觀賞會の二日目に、彼はかねてからあこがれてゐた名畫「巴里祭」を始めて觀た。原題はそんな甘美なものではなく、「七月十四日(カトルズ・ジュイエ)」であつた。固有名詞化した言葉である。
 別にバスティーユの牢獄が映るわけでも、ヴェルサイユ宮殿を舞臺に物語が進行するわけでもない。ラファイエットと呼ぶ男も出て來なかつた。所はパリの不特定の下町、男はジャン、女はアンナ。ジャンの昔の情婦がポーラ、時は七月十三日の前夜に始まり、七月十四日の祝日を中心に、數日で大團圓となる。人人は街を飾り立て、著るものも一張羅、樂しく食べて大いに飲んで、踊りまくつて夜を明し、その間に花賣娘アンナと運轉手ジャンとの戀は、育ち、傷つき、燃え、亂れ、最後にはめでたしめでたしとなる。皆、祝日をだしに遊びほほけ、人生を享樂してゐる。その頃も勿論あつたはずの、軍隊のパレードも映らなかつたし、第一シャンゼリゼとは關りのない裏町の人生であつた。巴里祭とは名譯だが「あちら」では、そのやうな呼び方はないとか、外國人、特に日本人は眞義を誤解してゐると説く連中も、この映畫を賞味しておくがよからうと、碓氷はひとり肩肘を張つて、幼馴染の埴科を失笑させた。」

「歌手としては第一がジョルジュ・ブラッサンス、次がバルバラです。自作自演型では、この二人を越える人はゐません。」




塚本邦雄 黄道遺文 04



弘法も筆の誤り、「結構泥棒めてい」は「結構泥棒めいて」の誤記でしょう。




































































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塚本邦雄 小歌集 『神無月帖』

「かみがみも秋のたそがれひとわ
れにまひる水の上の音樂あはれ」

(塚本邦雄 「神無月帖」 より)


塚本邦雄 
『神無月帖』



書肆季節社 
1977年10月 刊
16p
四六判 無綴本
500部限定


「赤坂銀花ギャラリィ
塚本邦雄筆趣展記念」



十字折りされた紙二枚に歌十二首が印刷された小歌集です。毛筆署名入。



塚本邦雄 神無月帖 01



◆本書より◆


「鰭よつばさよ今日放たれてまし
ぐらにかへれ死の影濃き夢の國

七日 放生會 筑前玉島社」


「かみがみも秋のたそがれひとわ
れにまひる水の上の音樂あはれ

二十日 御舟遊管絃祭 越前敦賀金崎宮」


「ありし日のうたは初霜草もみぢ
はかなさをこそかなでそめけれ

二十三日 中也忌 千九百三十七年」




塚本邦雄 神無月帖 02



塚本邦雄 神無月帖 03



塚本邦雄 神無月帖 04



塚本邦雄 神無月帖 05







































































塚本邦雄 小歌集 『水無月帖』

「午後の芍藥(しゃくやく)
神とわかるる時
あらば遊星はみなあをき泡沫(うたかた)」

(塚本邦雄 「水無月帖」 より)


塚本邦雄
『水無月帖』



書肆季節社 
1976年6月 刊
16p
四六判 無綴本
500部限定


「塚本邦雄墨韻展記念」



十字折りされた紙二枚に歌十首が印刷された小歌集です。毛筆署名入。



塚本邦雄 水無月帖 01



◆本書より◆


「杜若・杜鵑・空木・梔子・芍藥
百合・海芋・晝顏・鐵線・柘榴
の花によする心を」

「今朝は空木(うつぎ)
うすむらさきに
人總て背きし後の天に風吹く」

「午後の芍藥(しゃくやく)
神とわかるる時
あらば遊星はみなあをき泡沫(うたかた)」




塚本邦雄 水無月帖 02



塚本邦雄 水無月帖 03



塚本邦雄 水無月帖 04



塚本邦雄 水無月帖 05




















































塚本邦雄 小歌集 『銅曜集』

「若者は一塊の花とほざかるひるときらめきつつちかづく夜」
(塚本邦雄 「銅曜集」 より)


塚本邦雄 
『銅曜集』



編輯: 政田岑生
発行: 湯川成一
1973年9月22日
16p
A6変型判 無綴本


「本册は湯川書房主を勵ます會參會者に謹呈する爲百部刊行するものである」



十字折りされた紙二枚に歌十一首が印刷された小歌集です。毛筆署名入。



塚本邦雄 銅曜集 01



◆本書より◆


「若者は一塊の花とほざかるひるときらめきつつちかづく夜」

「夕月は見えねど詩歌さみだるるこの押韻の夜をゆきくれつ」

「はかなき仰臥の刻をたまはりて雪靑天に降りかへるさま」




塚本邦雄 銅曜集 02












































塚本邦雄 繍篇小説集 『四時風餐』

「月は移ろひ日は翳り幾星霜を經てこの世も末、四季の眺めもその境おぼろになり果てた今日、春秋こそ命の詩歌の韻律はただ亂れに亂れる。空屋の隙間から覗く寒昴を見つつ人は憂ふる。」
(塚本邦雄 「新秋風樂」 より)


塚本邦雄 
『四時風餐』



書肆 季節社 
1984年8月15日 上梓
63p+2p
17.8×13.6cm 
角背紙装上製本 貼函
装訂: 政田岑生


「本書は限定版として
三〇〇部を印行全册
に著者の檢印を以て
限定刊行の證とする」



繡篇小説集。正字・正かな。栞ひも付。
「四時(しいじ)」は春夏秋冬、四季。「風餐(ふうさん)」は「風餐雨臥」「風餐露宿」=野宿すること。本書に点綴されている風狂人たちは、「日日に落葉松の詩を朗誦しながら、こころもよそにあそびくらし」たり、ふっと思い立って「遥かなシチリア島の靑嵐を見に」行ったり、「しきりに澄む月の下」「マラッカ海峽に流れ漂」ったりします。
「繡篇小説(しゅうへんしょうせつ)」とは何か、よくわからないですが、「繍」はネット辞書によると「模様や文字を糸で縫い込む」とあるように、内容的には古今東西にわたる詩藻が縫い込まれた美文調の瞬篇小説集で、視覚的効果としては、20×20文字(見開き)の本文(全文)の句読点の位置を揃えることによって白っぽい部分が刺繍の模様のように浮かび上がる工夫がこらされています。



塚本邦雄 四時風餐 01



目次:

新秋風樂
天領の外
篁の別れ
晝漣眩暈
雪月花人
百花連禱
牙旗翩翻
幻想微笑
靑嵐照翳
戀歌縹渺
哀歌彈琴
瑠璃邂逅




塚本邦雄 四時風餐 02



塚本邦雄 四時風餐 03



◆本書より◆


「雪月花人」より:

「雪月花は正しく美の三位一體として人の心に、侵すべからざる聖空間をかたちづくつてゐた。花よ散れ月よ曇れ雪よ凍れと叫ぶ聲が聞える。大樹の下に未だ孵らぬ蝶がそのまま消えうせ、よしや吉野の花さへも、固い蕾のままに行方しれずとなる末の世の春。雪月花にあくがれたその昔の人人をさし招き、更に遠白い光を發してゐたのは浄土であつた。補陀落の彼方の紫磨黄金の光にいざなはれて、ただ一人いま船出する人の影が私には見える。(中略)すなはち私も亦補陀落より更に遠い無の國へ、ふるさとを求めて遁走しようとしてゐるのだ。良き國とはそのまま無き國の稱である悲しみ。」


「百花連禱」より:

「一生の終りにはせめて柊の花の香滿ち溢れよ。」



塚本邦雄 四時風餐 04



塚本邦雄 四時風餐 05






















































































プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
なぜならわたしはねこだから
 
◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

Koro-pok-Guru
Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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