小池滋 『ロンドン 世界の都市の物語』 (文春文庫)

小池滋 
『ロンドン 
世界の都市の物語』
 
文春文庫 こ 21 1

文藝春秋
1999年2月10日 第1刷
333p 
索引xii 参考文献vi ロンドン年表vii
文庫判 並装 カバー
定価514円+税
カバー: 安野光雅


「単行本 文藝春秋 一九九二年六月刊」



本書は「世界の都市の物語」シリーズの一冊として刊行されました。本書はその文庫化。本文中図版(モノクロ)多数。


小池滋 ロンドン 01


カバー裏文:

「伝統と繁栄を誇る大英帝国の首都ロンドン。その歴史ゆえに時と場所が交錯し、訪れる人々を混乱させる、このミステリアスな都市をディケンズ、亡命中のマルクス、フォールスタッフ、演奏旅行中のモーツァルト、切り裂き屋ジャックらこの街ゆかりの人物たちが案内してくれる、歴史と観光スポットを織りまぜたロンドン総合ガイド。」


目次:

序章 あの人と一緒にロンドン漫歩
 居間に座って時間旅行
 ローマ人の占領時代
 中世のロンドン

1 フォールスタッフと夜の散歩
 いざボアーズ・ヘッド亭へ
 辛口白ワインの効能
 ご馳走は一番乗り、いくさはどん尻
 爺さんの言うことにゃ
 曰く、勇気の神髄は分別
 ウィルの旦那とのお付き合い
 イーストチープの夢枕

2 ピープスとイーヴリンの火事見物
 シティ・オヴ・ロンドンが焼野原
 旦那さま火事です
 何と長い時間が経ったように思えたことか
 昼間同様の明るさ
 日記に見る性格

3 ジョナサン・ワイルド この世の最後の道行き
 ロンドンに名高い二つの監獄
 恐怖の司法制度
 「ロンドン犯科帳」
 ここは地獄の三丁目
 ニューゲイト紳士録
 タイバーンへの道
 悪人は死して名を残す
 
4 引越しにもあきなかったジョンソン博士
 博士の華麗なるロンドン遍歴
 シャツが清潔な日にぼくは人を訪ねた
 三文文士と大文豪
 引越し魔の跡を追う
 「オールド・チェシャー・チーズ」亭
 道楽者ボズウェルとグルメな博士
 ソーホーが出来るまで
 ダウニング街いまむかし

5 モーツァルト一家が歩いたロンドン
 八歳の神童
 クィーンズ・パレスの御前演奏
 縞馬とシンフォニー
 モーツァルトの崇拝者たち

6 ディケンズ少年の「ホーム」カミング
 ウォレン靴墨工場のある土地
 痩せても枯れてもホワイトカラー
 監獄の内と外
 チャールズくんのどたん場の知恵
 ウォータールー橋の南側
 作家ディケンズの誕生

7 カール・マルクスの放浪
 資本主義帝国へ亡命
 律義者の子沢山?
 降る日照る日も図書館通い
 大いなる遺産

8 英国式鉄道殺人事件
 走る密室
 犯行現場にて
 帽子と金時計の行方
 大西洋抜きつ抜かれつ
 処刑台への道
 ミューラー事件の波紋
 列車通勤の時代
 時代は三等へ

9 イースト・エンドの恐怖(その一)
 二つの未解決事件
 テムズ河のパーキング・エリア
 ドックのための産業城下町
 第一の殺人事件
 引き続く兇行
 真犯人は誰か?
 死体を“処刑”

10 イースト・エンドの恐怖(その二)
 「ジャック・ザ・リッパー」のあばれた街
 猟奇的な殺人
 元祖「怪人二十一面相」
 ジャック最後の犯行
 二〇世紀都市型犯罪

11 長谷川如是閑のロンドン 一九一〇年
 ジャーナリスト長谷川如是閑
 高級下宿の「ペイイング・ゲスト」
 レディとそろばん
 明治男の見たフェミニズム運動
 「女性に投票権を!」
 女の細腕で飲み干す大杯

ロンドン年表
参考文献
索引



小池滋 ロンドン 02



◆本書より◆


「ディケンズ少年の「ホーム」カミング」より:

「既に述べたように、当時の法によると、個人間の借金でも返済しないと、訴えられれば投獄されることになっていたのである。これはひどく残酷非道のように思えるかもしれないが、実はそれほどでもない。というのも、借金が払えない人の入れられる監獄は、(中略)人殺しや泥棒が入れられる監獄とは別種の、債務者監獄という場所であった。ここは普通の監獄とはかなり規則が違っていて、より寛大だった。なにしろ、ここは家族ぐるみで入ってもよい監獄で、もちろん当人は外へ出ることは許されないが、家族は門の開いている昼間は自由に出入りできる。」
「何のことはない宿泊費無料の公営住宅のようなもので、ここにいる限り外の債鬼に責めたてられることはなく安全なのだから、一生入っていたくなるくらいなものだ。(中略)ジョン・ディケンズも監獄の門を入る時には息子チャールズに向って、「わしにとって太陽は永久に沈んでしまったのだ」なんぞと芝居がかったセリフを吐いたものの、むしろ塀の中の生活の方が気楽と思っていたのではあるまいか。」

「両親がチャールズに労働を強いたのは、決して意地悪からではなかった。むしろ、悪意からであった方が、少年にとっては楽であったろう。父母を公然と責めることができたろうから。ところが、両親は善意から、チャールズのためによかれと思って、彼に仕事を課したのだ。つまり、息子の繊細な気持を想像すらできないという、善意の無知がその原因であった。これがチャールズにとっては故意の悪意よりも我慢できなかった。
 ボブの場合も同じで、もともとは彼の善意から生じた迷惑だった。いやみや底意地悪いいじめから、家まで送ってやるとしつこく言い張ったのなら、ボブを憎み返す正当な理由を見つけ出すことができたはずだ。ところが友人の心中を察することができないという、善意の無知から生じた行為だから、相手を憎んで、それで忘れるという単純な意趣返しで自分の気持を鎮めることができない。
 チャールズの憎悪はうっ積屈折した形でしか復讐(ふくしゅう)の方法を見出すことができなかった。善意の無知ほど世の中で恐ろしい迷惑はない、ということを思い知らされたのだ。自分で気付かぬうちに他人を迫害している人間ほど、始末に負えぬ悪人はいない、とつくづく思ったのだ。なぜなら、そうした加害者に対しては、正当単純な形での復讐が許されないというのが世の常識だから。
 チャールズに残された唯一の意趣返しは、想像力によって架空(フィクション)の世界の中で行なうことだった。」



「イースト・エンドの恐怖(その一)」より:

「ロンドンのイースト・エンド――と、こう書いただけで、いつまでも変らない一つのイメージが人びとの頭の中に定着してしまいそうだ。貧困、無法、暴力、などなどが、霧の中に渦巻いて、恐ろしい地獄絵図を展開させる。水夫たちが飲んだくれて、殴り合い、殺し合いが日常茶飯事の安酒場。中国人が経営する地下のアヘン窟、その裏の落し戸から夜な夜な何者かの死体がテムズの底知れぬ水面に葬られる。狭い路地には売春婦が立ち並んで客を待つ。」
「だが、現実はこうした悲惨さを売りものにしたロマンチシズムのヴェールを、どんどんはぎ取ってしまった。二〇世紀になってから再開発と社会福祉の波が、真先にこの地区に押し寄せた。そこへ第二次世界大戦中の空爆が重なり合って、多くの地表面を瓦礫(がれき)の山に変え、その整理が終ったところには、現代的な――しかしながら散文的な都市風景が姿を現わした。
 ことに最近急激に押しよせたドックランド再開発は、東京におけるウォーターフロント計画と同じように、テムズ河下流沿岸地域の様相を、よかれ悪しかれ、目ざましく変えてしまった。これを非難するか支持するかは人によってさまざまであろうが、ともかく今では切り裂き屋ジャックの幽霊が一〇〇年後に甦(よみがえ)ったとしても、戸惑うしかあるまい。
 というわけで、今日のイースト・エンドを通る人は、周囲を見まわして他のロンドンとほとんど変るところがない――いや、他のロンドンよりもずっと新しく、整然とした街頭が見られることで驚き、かつ失望させられたような気持になるようである。」










































































































































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仁賀克雄 『ロンドンの恐怖 ― 切り裂きジャックとその時代』 (ハヤカワ文庫)

「シャーロック・ホームズ(一八八七年)、切り裂きジャック(一八八八年)、ドラキュラ伯爵(一八九七年)は、イギリスの十九世紀末が生み出した、サブ・カルチャーの三大スーパースターではあるまいか。」
(仁賀克雄 『ロンドンの恐怖』 「あとがき」 より)


仁賀克雄 
『ロンドンの恐怖
― 切り裂きジャックとその時代』

ハヤカワ文庫 NF146

早川書房 
1988年7月31日 発行
1994年4月30日 2刷
374p 
文庫判 並装 カバー 
定価600円(本体583円)
カバー: 建石修志



著者による「あとがき」より:

「一九七九年から「私の愛する切り裂きジャック」のタイトルで、ハヤカワ・ミステリマガジンに、断続的に二十二回連載した。(中略)連載完了後、最初から章の構成を立て直し、新たに書き下したのが本書である。
 私としては、切り裂きジャック事件を通じて見た、ヴィクトリア朝末期の大英帝国の首都ロンドンの一面を書きたかった。」



初版は1985年刊、本書はその文庫化。本文中図版(モノクロ)多数。


仁賀克雄 ロンドンの恐怖 01


カバー裏文:

「1988年、繁栄を謳歌するロンドンで五人の売春婦がつぎつぎと惨殺された。喉を切り裂き局部をえぐる残虐な手口に市民は震え慄き、警察は威信をかけて捜査を重ねたが、犯人は捕まらなかった。犯罪史上屈指の猟奇殺人者として、また矛盾にみちたヴィクトリア朝の象徴的存在として伝説の中に生き続ける〈切り裂きジャック〉とは何者だったのか。時代背景と事件経過を鮮やかに再現し、希代の怪物の正体に迫る。」


目次:

プロローグ 犯行以前
1章 第一の殺人
2章 第二の殺人
3章 スコットランド・ヤード
4章 第三の殺人
5章 第四の殺人
6章 ジャックの挑戦状
7章 ウォーレン総監辞任
8章 第五の殺人
9章 その後の類似事件
10章 切り裂きジャックの正体
11章 さまざまな容疑者
12章 ジャックの子孫たち
13章 切り裂きジャック伝説
エピローグ 百年後の犯行現場

主要参考図書
犠牲者一覧
有力容疑者一覧

終章のないミステリー (島田荘司)

あとがき (1985年)
文庫版あとがき (1988年)



仁賀克雄 ロンドンの恐怖 04


イースト・エンド地図。



◆本書より◆

「大英帝国の史上空前の繁栄の基盤には、悪辣な搾取に苦しむ植民地が存在したように、ヴィクトリア朝の絢爛たる栄華と豪奢の背後には、恐るべき悪徳と貧困とが横たわっていたのである。とくに産業革命が進み、人口集中の著しいロンドンでは、天国と地獄が共存していた。
 切り裂きジャックは、その地獄の腐敗した土壌に育まれた悪の華の一つにすぎない。この時代のアンダーワールドや犯罪実話の記録を繙(ひもと)けば、この種の犯罪は特殊なものでないことがわかる。」

「切り裂きジャック事件の前年、女王の即位五十周年祝典には、全ヨーロッパの王室や政府、大英帝国の植民地からの代表が参列し、国民こぞってこの偉大な女王の長寿を祝った。その余韻がいまだ醒めやらぬうちに、このいまわしい事件は起ったのである。
ヴィクトリア朝の最盛期に、この事件が起きているのは決して偶然ではない。
 対外戦争はたびたび起っても、国内においては、かつてのスペインやフランスとの戦いのように、イギリスが存亡の危機にさらされる事態はなく、植民地の拡張か分割による外地での戦争ばかりだった。ところが国内では富の流入と産業革命による貧富の格差、平和と安寧が長く続いたために道徳的堕落や腐敗などが、犯罪をひき起す温床となった。
 貴紳が地位と金銭に飽かして悪徳を行えば、庶民は貧困と絶望から悪事を働いた。それに加担しないまでも、一般大衆は猟奇的事件や犯罪に、うさばらしと異常な関心を寄せていた。世紀末の文化的爛熟や時代の閉塞状況がその背後にあった。
ヴィクトリア時代の人々がこうしたことを気ばらしに愛好していた例が、公開処刑や、(中略)残酷見世物の繁盛ぶりである。公開処刑は一八六六年に廃止されるまで、ニューゲイト監獄をはじめ各監獄の門前で行われていた。」
「「人殺し(マーダー)! 恐ろしい人殺し(ホリブル・マーダー)だよ!」
 当時のゴシップ紙、絵入り新聞は、その販売部数を伸ばすために、好んで猟奇事件を扱い、街頭で売子にこう連呼させて、人々の興味を誘った。(中略)切り裂きジャック事件がセンセーショナルに扱われ、大パニックを起した背景には、当時のマスコミ、新聞の力によるところが大きい。」



仁賀克雄 ロンドンの恐怖 05


「上) ハンバリー・ストリート29番地の殺人現場。
下) 第2の犠牲者アニー・チャプマン。」

(「Annie Chapman - before and after death」)。


仁賀克雄 ロンドンの恐怖 03


切り裂きジャックの手紙。


「 地獄より
  ラスクさんへ
 ある女から切り取った腎臓の半切れを送るぜ。あんたのために取っておいたやつさ。残りの半片はフライにして喰ってしまったよ。かなりいける味だぜ。もう少し待ってさえくれれば、そいつを切り取った血まみれのナイフを送るぜ。
     署名 出来るものなら捕まえてごらん、ラスクさんよ」



From Hell letter (Wikipedia)



Univers Zero - Jack the Ripper




Judas Priest - The Ripper





こちらもご参照下さい:

R・D・オールティック 『ヴィクトリア朝の緋色の研究』 村田靖子 訳
































森洋子 編著 『ホガースの銅版画』 (双書 美術の泉)

「彼は、街頭で偶々、奇妙で滑稽な顔をみかけると、即座に立ち止った。「何をしているのか」と尋ねる友人に、彼が見せたのは親指の爪の上に描いた似顔絵であった。」
(森洋子 「ウィリアム・ホガース 人と芸術」 より)


森洋子 編著 
『ホガースの銅版画
― 英国の世相と諷刺』

双書 美術の泉 48

岩崎美術社 1981年6月10日発行
図版(モノクロ)88p 本文29p 
25.7×18.2cm 並装 カバー 
定価1,800円



森洋子 ホガースの銅版画1


帯文:

「産業革命の爆発するエネルギーと激動する社会、そこにしたたかに生きるイギリス人の喜怒哀楽を諷刺とユーモアとパロディをこめて表情ゆたかに生きいきと描き出す、わが国初のホガースの版画集」


帯背:

「18世紀英国の世相と諷刺」


帯裏:

「掲載作品: 「ヒューディブラス」挿絵、娼婦一代記、放蕩息子一代記、当世風結婚、勤勉と怠惰、残酷の四段階、一日の四つの時、選挙(以上連作)、南海泡沫事件、富くじ、真夜中の団欒、女死刑囚サラ・マルカム、笑う聴衆、サザックの縁日、悩める詩人、納屋で衣装をつける女旅役者、ビール街、ジン横丁、美の分析、闘鶏場、ジョン・ウィルクス殿、フィンチレーへの進軍、タイムスI、宗教的熱狂を図解すれば、他93点。」


内容:

図版
 1 南海泡沫事件 (1721)
 2 富くじ (1721)
 3 仮装舞踏会とオペラ (1923/24)
 4-15 サミュエル・バトラー著 『ヒューディブラス』 挿絵 (1725/26)
 16 ガリバーに科せられた刑罰 (1726)
 17-18 自然の女神を覗き見する童子(プットー)たち (1730/31)
 19-24 「娼婦一代記」 (1732)
 25 真夜中の団欒 (1732/33)
 26 女死刑囚サラ・マルカム (1732/33)
 27 笑う聴衆 (1733)
 28 サザックの縁日 (1733/34)
 29-36 「放蕩息子一代記」 (1735)
 37 ことの前 (1736)
 38 ことの後 (1736)
 39 居眠りする会衆 (1736)
 40 講義を聴く学生 (1736/37)
 41 悩める詩人 (1736/37)
 42 納屋で衣装をつける女旅役者 (1738)
 43-46 「一日の四つの時」 (1738)
 47 性格と戯画 (1743)
 48 絵画戦争 (1744/45)
 49-54 「当世風結婚」 (1745)
 55 上流階級の趣味 (1746)
 56 カレーの門 (1748/49)
 57-68 「勤勉と怠惰」 (1749)
 69 ビール街 (1750/51)
 70 ジン横丁 (1950/51)
 71-74 「残酷の四段階」 (1750/51)
 75 フェリックスの前で説教する戯画化されたパウロ (1751)
 76 フェリックスの前で説教するパウロ (1752)
 77 ファラオの娘たちのもとに連れられる幼児モーゼ (1752)
 78 フィンチレーへの進軍 (1750/51)
 79-80 「美の分析」 (1753)
 81-84 「選挙」 (1755)
 85 闘鶏場 (1759)
 86 ジョン・ウィルクス殿 (1763)
 87 ウィリアム・ホガースの肖像 (1748/49)
 88 喜劇のミューズを画くホガース (1758)
 89 鬘の五柱式 (1761)
 90 裁判官席 (1758)
 91 宗教的熱狂を図解すれば (1761頃)
 92 タイムズI (1762)
 93 竜頭蛇尾 (1764)

ウィリアム・ホガース 人と芸術 (森洋子)
 ホガースの少年時代と徒弟生活
 諷刺版画で世に出る
 画かれた道徳――ホガース版画の本質
 ホガース法
 ホガース版画の時事性
 臨機応変な画面変更
 性格描写の天才
 社会正義派のホガース
 外国嫌いなホガース
 ホガース版画の絵画的源泉
 『美の分析』――ホガース絵画の基本原理
 ホガース版画の文学性

あとがき
ウィリアム・ホガース略年譜
参考文献



森洋子 ホガースの銅版画2

「放蕩息子一代記」より。


森洋子 ホガースの銅版画3

「一日の四つの時」より。


森洋子 ホガースの銅版画4

「性格と戯画」。



◆本書より◆


「36 「放蕩息子一代記」第8図、精神病院にて」

「すべての望みを絶たれたトムは監獄で発狂し、ついにベドラム精神病院に収容される。最後までトムに献身的な恋人のサラはここでもやさしい看護の手を差しのべ、彼を励ます。しかし半裸体になったトムはすでにナイフで自殺を試みたのか、胸に絆創膏が貼られている。鎖に繋がれるのは要注意患者。看護人の一人はトムの世話より、サラに興味を示す。ホガースはこのシリーズの終幕で種々のタイプの狂人を見事に描出している。」
「ところで壁にむかって地球を描き、経度を計測する地理学狂人がいる。第3ステートではさらにその脇に1763年と記し、ブリタニアの寓意像を加筆した。すなわち、ホガースはこうした狂人の世界を1763年のイギリス社会のアナロジーと考えたのではなかろうか。廊下に二人の着飾った婦人の見物人がみられるが、その一人は扇ごしにこっそり裸体の狂人を覗き見ている。当時のロンドンっ子やお上りさんにとって、ベドラム精神病院の見物は日曜日の楽しみのひとつであった。」



森洋子 ホガースの銅版画5






















































































R・D・オールティック 『ロンドンの見世物』 (小池滋 監訳)

R・D・オールティック 『ロンドンの見世物 I』 
小池滋 監訳

浜名恵美・高山宏・森利夫・村田靖子・井出弘之 訳

国書刊行会 1989年12月20日初版第1刷発行
441p 訳者紹介1p
A5判 丸背紙装上製本 カバー 定価4,300円(本体4,175円)
装訂: 平野甲賀
Richard D. Altick : The Shows of London, 1978



「訳者あとがき」(第III巻所収)より:

「リチャード・ダニエル・オールテッィックは一九一五年の生まれ、アメリカのオハイオ州立大学の先生を長く勤め、現在は退職して名誉教授であるが、(中略)いまでも研究と執筆に勤勉にとり組んでいるようである。」
「専門は英文学研究で、とくに一八・一九世紀が彼の得意の領域である。(中略)彼はある特定の批評理論を奉じて、その教祖になるというような、最近のアメリカの大学の先生によくあるタイプの学者ではない。もっと伝統的な、よくも悪くも「イギリス的」な手堅い経験主義で武装して、尨大な資料文献の山にアタックし、それを噛みくだいて消化するという姿勢を、最初から最後まで崩さない。」



ロンドンの見世物01


帯文:

「英国見世物年代記
聖遺物から自動人形、世界の珍獣、パノラマまで
〈見る〉〈集める〉という行為に憑かれた
大衆の想像力を絵解きする見世物大百科!!」



帯背:

「娯楽興行
の社会史」



帯裏:

「登場する主な見世物
トラデスキャントの箱舟/巨人の骨/リーヴァー博物館/ピドコック巡業動物園/学者豚/ベドラム精神病院/彩色のプリンス/サーモン夫人の蝋人形/覗きからくり/自動人形/マーリンの魔法の洞窟/哲学的花火/ヴォクスホールの気球/ウェストミンスター寺院/ロンドン塔/ロイヤル・アカデミー展/エイドフュージコン/レスター・スクエア・パノラマ館/コロシアム/他」



カバーそで文:

「産業革命と植民地経営によって、未曾有の繁栄を誇ったイギリスはまた、世界随一の見世物王国でもあった。中世末期から19世紀にかけてロンドンで興行され、人びとを夢中にさせた見世物、娯楽施設の数々を、同時代の証言と貴重な図版で紹介。〈見る〉〈集める〉という行為に憑かれた、近代ヨーロッパ大衆の想像力を絵解きする見世物大百科。
第1巻は、教会の聖遺物、収集家の珍品キャビネットの英国見世物史の濫觴から、学者豚、蝋細工、覗きからくり、自動人形など、あの手この手の見世物興行、ロンドン塔、ウェストミンスター寺院、ベドラム精神病院などのロンドン名所案内、遊園地が催す噴水ショー、花火、気球の打ち上げ、ロイヤル・アカデミー美術展の開催、エイドフュージコン、ロンドン名物コロシアムの巨大パノラマの登場まで、17世紀初頭から18世紀の見世物業界の活況ぶりを生き生きと描く。」



目次:

序論
第1章 キャビネットから博物館へI 1600-1750年
第2章 キャビネットから博物館へII 1750-1800年
第3章 妖怪変化屋ならびに世にも不思議な見世物師たち
第4章 蝋細工と時計仕掛け
第5章 機械仕掛けの発明展
第6章 水、火、空気と天の寝台
第7章 一八世紀ロンドンの名所と行楽地
第8章 アート・オン・ディスプレイ
第9章 エイドフュージコン
第10章 レスター・スクエアのパノラマ
第11章 歓楽宮のパノラマ
文献注
一七世紀ロンドン市街図



ロンドンの見世物02

「1784年にパンテオン劇場で展示されたルナルディの気球」


ロンドンの見世物03

「マジック・ランタン」


ロンドンの見世物05

「エイドフュージコン。万魔殿の景を見せている」



R・D・オールティック 『ロンドンの見世物 II』 
小池滋 監訳

浜名恵美・高山宏・森利夫・村田靖子・井出弘之 訳

国書刊行会 1990年2月28日初版第1刷発行
491p 訳者紹介1p
A5判 丸背紙装上製本 カバー 定価4,300円(本体4,175円)
装訂: 平野甲賀
Richard D. Altick : The Shows of London, 1978



ロンドンの見世物06


帯文:

「世界を一望の下に!!
世はまさにパノラマ時代、猫も杓子もパノラマ通い。
フリーク・ショーに動物園、蝋人形館も大入満員。
ますます巨大化、多様化する見世物興行の数々。」



帯背:

「パノラマ
黄金時代」



帯裏:

「登場する主な見世物
ディオラマ/動くパノラマ/コズモラマ/ファンタズマゴリア/親指トム将軍/シチリアの妖精/生ける骸骨/ホッテントット・ヴィーナス/アステカの小人族/エジプシャン・ホール/ナポレオンの馬車/古生物の化石/中国展覧会/人魚/サルタン・ティプーの虎/珍獣ボナサス/鯨の骸骨/リージェンツ・パーク動物園/象のチュニー/模擬海戦/サリー動物公園/火山噴火ショー/マダム・タッソー蝋人形館/活人画/造形ポーズ」



カバーそで文:

「世はまさにパノラマ時代。巨大なカンヴァスに写し出される世界の町々、アルプスの山々、最新の戦争光景。ディオラマ、動くパノラマ、コズモラマと次々現われる新機軸に、幽霊ショーでロンドン市民を恐懼せしめたファンタズマゴリアも上陸。東洋の珍品、古代遺宝を並べたてたブロックのエジプシャン・ホールが異国趣味、古代幻想をかきたてれば、新大陸やアフリカから連れてこられた「高貴な野蛮人」や、フリーク・ショーが一世を風靡する。動物園には世界の珍獣奇獣が集められ、マダム・タッソー蝋人形館は大入満員。大英帝国の繁栄の下、ますます巨大化・多様化する見世物興行の数々。」


目次:

第12章 ディオラマ
第13章 パノラマ百態
第14章 パノラマ劇場
第15章 動くパノラマ
第16章 光学、機械、幽霊
第17章 幕間――見世物とロンドンの市民生活
第18章 ウィリアム・ブロックとエジプシャン・ホール
第19章 進歩の時代のフリークス
第20章 高貴な野蛮人再考
第21章 古代趣味と異国趣味
第22章 動物王国における生と死
第23章 動物園と遊園地
第24章 蝋人形と肉体芸術
文献注
一八世紀ロンドン市街図



ロンドンの見世物07

「ディオラマ。「霧の廃墟」」


ロンドンの見世物08

「コズモラマ。」


ロンドンの見世物09

「ピカディリー通り22番地にあるブロックのリヴァプール博物館」


ロンドンの見世物10

「カッペルリのネコの芸当の広告ビラ、1832年。」



R・D・オールティック 『ロンドンの見世物 III』 
小池滋 監訳

浜名恵美・高山宏・森利夫・村田靖子・井出弘之 訳

国書刊行会 1990年6月30日初版第1刷発行
421p 訳者紹介1p 索引xxxii
A5判 丸背紙装上製本 カバー 定価4,300円(本体4,175円)
装訂: 平野甲賀
Richard D. Altick : The Shows of London, 1978



ロンドンの見世物11


帯文:

「万国博と見世物の饗宴
世紀の大イベント、ロンドン万国博覧会と
帝都を熱狂せしめた新奇な発明、ショーの数々
驚天動地のヴィクトリア朝見世物盛衰記」



帯背:

「水晶宮の
影の下に」



帯裏:

「登場する主な見世物
姿なき少女/大発見/アポロニコン/顎叩き/自動オーケストラ/天文学ショー/科学講演/酸水素顕微鏡/カンテロの孵卵器/テムズ・トンネル/蒸気銃/アデレイド・ギャラリー/潜水鐘/ポリテクニック/戦場模型/刺繍画/ナショナル・ギャラリー/大英博物館/幸せな家族/水晶宮/インドへの大陸横断路/ワイルドの大地球儀/モンブラン登頂/パノプティコン/サウス・ケンジントン博物館/ペパーの幽霊」



カバーそで文:

「19世紀のめざましい技術革新は見世物の世界にも変化をもたらした。自動オーケストラ、詩作機械、「姿なき少女」など、新奇な機械仕掛けの数々が人々を驚倒させ、天文学ショーやファラディの公開科学講座が、教育と見世物を結びつける。戦場や都市の精巧なミニチュア模型、ワイルドの大地球儀、「モンブラン登頂」ショーが、大英帝国の版図拡張に沸く国民の好奇心をかきたて、大英博物館など公共施設の開放が国会で審議される。そしてハイド・パークの「ガラスと鉄の殿堂」水晶宮の下、世界中の人・物・情報を集めた世紀の大イベント――1851年ロンドン万国博覧会の開催。その未曾有の盛況ぶりにヴィクトリア朝見世物産業の変遷を追う。見世物の社会史全3巻完結。」


目次:

第25章 またまた機械仕掛けの見世物
第26章 科学のふたつの顔
第27章 大衆のためのテクノロジー
第28章 手工芸品と模型
第29章 民衆に開かれた美術
第30章 幕間――見世物産業の内幕
第31章 国家的モニュメント
第32章 水晶宮の年――一八五一年
第33章 五〇年代I 新しいライフ・スタイルとパノラマの衰退
第34章 五〇年代II 旧き秩序は移ろう
エピローグ
文献注
一九世紀ロンドン市街図
英国見世物史年表
訳者あとがき (小池滋)
人名索引/事項索引



ロンドンの見世物12

「幸せな家族」(The Happy Family)
「多種類の小動物、鳥が、単一の檻の中で仲睦まじく暮らしている」


ロンドンの見世物13

「水晶宮内部」


ロンドンの見世物14

「ロイヤル・パノプティコン」


ロンドンの見世物15

背表紙。


ロンドンの見世物16

カバーを外してみた。順不同。


the learned cats






























松村昌家 編 『『パンチ』素描集 ― 19世紀のロンドン』 (岩波文庫)

松村昌家 編 
『『パンチ』素描集
― 19世紀のロンドン』
 
岩波文庫 青 33-563-1

岩波書店 
1994年1月17日 第1刷発行
1999年5月17日 第7刷発行
262p 
文庫判 並装 カバー 
定価600円+税
カバー: 中野達彦



本書「はじめに」より:

「本書を編纂するに当たっては、(中略)ヴィクトリア朝の時代的特色を代表し得るような八種のテーマを設定し、テーマごとに原則として一〇葉程度の絵を収録することにした。それぞれのテーマに関しては、代表的なカートゥーンを冒頭に掲げて解題的なイントロダクションをつけた。そして収録した図版に関してはすべて所載『パンチ』誌の巻数、ページ数ならびに発行年月日を併記し、付随するキャプション、説明文(リジェンド)、あるいは関連記事を全訳ないしは抄訳するとともに、必要に応じて参考となるような説明を補足した。」


パンチ素描集 01


カバーそで文:

「一八四一年に創刊、一九九二年まで刊行をつづけた諷刺週刊誌『パンチ』は、イギリスのユーモアの典型として広く愛読されてきた。本書には創刊から三〇年間の『パンチ』から、ロンドン万博、テムズ川の汚染等に関する諷刺画を収録、激動の時代相をつたえる。図版104枚。」


目次:

はじめに

一 飢餓の一八四〇年代
二 鉄道マニアとバブル
三 ロンドン万国博覧会と水晶宮
四 繁栄の裏側――病めるロンドン
五 テムズ川汚染――飲み水の危機
六 子どもの情景
七 女性解放への道――ブルーマー旋風
八 ファッションの季節――クリノリン・スタイル

『パンチ』三〇年の歩み
 


パンチ素描集 02



◆本書より◆


「一八五〇年代のイギリスの豊かさを象徴する現象の一つとして婦人服のファッションをあげることができる。(中略)実用性から遠ざかれば遠ざかるほど、ファッションはファッションとしての誇りが高くなる。」
「クリノリンとは、(中略)フープを数段に組み立ててこしらえた、硬いペティコートのことである。これらのフープはもともと馬の尻っぽの毛や綿糸などを編んで作られていたが、普及率が高まるにつれて、鯨のひげや鋼鉄で作られることが多くなった。
 したがって、クリノリン・スタイルは、まるで針金で編んだ底のない籠を下半身につけて、その上に超ロングスカートを重ねた形になる。身動きが拘束されるばかりでなく、往々にして火災の危険が伴っていたというのも、無理のない話である。軽くて燃えやすい生地のドレスには、特に暖炉やロウソクの火が燃え移る危険性が高かった。」
「また『パンチ』第三一巻、一八五六年八月一六日号には、狭いアーケードに入り込んだクリノリン婦人が、両側の店頭に並べられたガラス製品をなぎ倒して、莫大な損害賠償を請求されたという諷刺記事が載っているが、これもおそらく事実無根ではなかったはずである。」




こちらもご参照下さい:

R・D・オールティック 『ヴィクトリア朝の緋色の研究』 村田靖子 訳











































プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー

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