『ウィリアム・ブレイク展』 (国立西洋美術館 1990年)

『ウィリアム・ブレイク展 
(第2版)』


編集: 国立西洋美術館
デザイン: 浅井潔
制作: アイメックス
発行: 日本経済新聞社 
1990年
全324p 
27.2×21.7cm フランス装


1990年9月22日―11月25日
国立西洋美術館



本書「あいさつ」より:

「ウィリアム・ブレイク(1757―1827)は、英国ロマン主義運動の先駆的詩人として、今日、文学史上に揺るぎない地位を誇っています。わが国でも、大正3年(1914年)に白樺派の柳宗悦によって紹介されて以来、熱烈な支持者を持ち、特に「虎」や「病める薔薇」などで知られる詩集『無垢と経験の歌』は広く愛されてきました。
 しかし、ブレイクが生涯にわたって彫版師を職業とし、水彩や色刷版画に独自の境地を築いたことはあまり知られていません。(中略)彼は、生前は狂人扱いされてほとんど理解されませんでしたが、20世紀に入り、合理主義の行きづまった混沌の時代の中で、ようやくその真価が認められるに至りました。
 この展覧会は、ブレイクの造形芸術の全貌を、わが国に紹介する最初の試みです。」



ブレイク展 01


内容:

あいさつ/Foreword (国立西洋美術館、日本経済新聞社)
〔Foreword〕 (Gert Schiff)

若きブレイクとその悖徳 (ゲルト・シフ/前川誠郎 訳)
ウィリアム・ブレイク(1757―1827) (マーティン・バトリン/谷田博幸 訳)
ブレイクと職業としての版画制作 (ロバート・N・エシック/雪山行二 訳)
ウィリアム・ブレイクの視覚的表現手段の発展 (マーティン・バトリン/喜多崎親 訳)
「わたし自身の心がわたしの教会である」――ブレイクとペインとフランス革命 (デイヴィッド・バインドマン/潮江宏三 訳)

カタログ
 作品解説 (ゲルト・シフ/マーティン・バトリン)
 1 アルビオンの岩の間のアリマタヤのヨセフ
 2 セバート王
 3 ヘンリー3世
 4 アングル人ではなく天使に
 5 戦う天使たち: サタンとアブディエルの争い
 6 サムエルの霊を呼び出すエンドルの口寄せの女
 7 ペスト
 8 破られた町の壁、戦いの翌朝
 9 大火
 10 オベロン、ティタニア、パックと踊る妖精たち
 11 ハルとヘヴァのもとを立ち去る盲目のティリエル
 12 『無垢の歌』
 13 『経験の歌』 H本
 14 『セルの書』より2点のプレート
 15 『天国と地獄の結婚』 D本
 16 ヨブ
 17 アルビオンは立ち上った(歓びの日あるいはアルビオンの踊り)
 18 アルビオンは立ち上った(歓びの日あるいはアルビオンの踊り)
 19 「我々の終わりは来ている」あるいは「最後の審判の一場面」
 20 『アルビオンの娘たちの幻想』 口絵の別刷り
 21 『アメリカ ひとつの預言』 A本
 22 『ヨーロッパ ひとつの預言』 B本
 23 『ヨーロッパ ひとつの預言』 A本
 24 『ロスの歌』 C本
 25 『ユアリズンの第一の書』より4点の別刷り
 26―33 大色刷版画
  26 エヴァに対して勝ち誇るサタン
  27 レメクと二人の妻
  28 モアブの地へ戻るようにルツとオルパに頼むナオミ
  29 ネブカトネザル
  30 ニュートン
  31 エニサーモンの喜びの夜(通称ヘカテ)
  32 憐れみ
  33 復活の後に使徒たちの前に現れるキリスト
 34 エドワード・ヤングの『夜想』
 35―39 エドワード・ヤングの『夜想』のための水彩下絵
 40 悪意
 41 少年水夫トム
 42―59 トーマス・バッツのために制作された聖書の連作
  42アダムとエヴァに皮の衣を着せる神の風貌をした天使
  43 ヤコブの夢
  44 燃える柴の前のモーゼ
  45 瀆神者
  46 大水から救い出されたダヴィデ「主はケルビムに乗っていた」
  47 聖ヨハネを止める聖母
  48 大工の仕事場のキリスト: 救世主の謙遜
  49 賢い乙女と愚かな乙女の寓話
  50 ユダの裏切り
  51 キリストの衣を得るために骰子を振る兵士たち
  52 キリストの磔刑: 「汝の母を見よ」
  53 キリストの埋葬
  54 天使たちに守られる墓の中のキリスト
  55 キリストの墓の扉石を脇へ転がす天使
  56 大きな赤い龍と太陽を着た女
  57 バビロンの婬婦
  58 御使いがサタンを底知れぬ世界に投げ込み、閉じ込める
  59 生命の川
 60 ロバート・ブレアの『詩: 墓』
 61 死者の復活(ブレア作『墓』の扉の別案)
 62 生命の道をぬけて魂を追いかける死
 63 人間の堕落
 64 天使が雲から落ちるが如く
 65 反逆天使たちを呼び覚ますサタン
 66 アダムとエヴァの抱擁を見つめるサタン
 67―72 ミルトンの『キリスト降誕の朝に』のための連作: 「トーマス・セット」
  67 平和の降臨
  68 羊飼たちへのお告げ
  69 古き龍
  70 アポロンと異教の神々の失墜
  71 飛び去るモロク神
  72 平和の夜
 73―76 ミルトンの『快活なる人』と『沈思の人』のための水彩画連作
  73 マース(歓喜)
  74 若き詩人の夢
  75 メランコリー(憂欝)
  76 老齢のミルトン
 77 チョーサーのカンタベリーへの巡礼
 78―80 幻視の肖像
  78 蚤の幽霊の頭部
  79 ソクラテス
  80 マホメット
 81 『ブレイク=ヴァーリー・大スケッチブック』
 82 『イェルサレム: 巨人アルビオンの流出』
 83 四つのゾアに本来の仕事を行なわせるアルビオン(『イェルサレム』第95プレート)
 84 ヴァラ、ハイル、スコウフェルド(『イェルサレム』第51プレート)
 85 『ウェルギリウスの田園詩』のための挿絵
 86 ラオコーン
 87―89 『ヨブ記』のための水彩画連作: 「バッツ・セット」より3点の水彩画
  87 神の玉座の前のサタン
  88 エリパズの幻視
  89 サタンの堕落
 90 『ヨブ記』のための22点のエングレーヴィング
 91 信仰の盾を持ち、彼の道連れたちに別れを告げるクリスチャン
 92 ダンテの『神曲』のための7点のエングレーヴィング
 93―104 ダンテの『神曲』のための水彩画連作
  93 森にわけ入るダンテとウェルギリウス
  94 ミノス
  95 愛欲者の圏: フランチェスカ・ダ・リミニ(「恋人たちのつむじ風」)
  96 ステュクスの沼と闘う憤怒の罪人たち
  97 聖物売買の教皇
  98 分離と不和の種まく者たち: モスカ・デ・ランベルティとベルトラン・ド・ボルン
  99 ダンテとウェルギリウスを地獄の最後の園におろすアンタイオス
  100 ウェルギリウスに見守られ、睡眠をとるダンテとスタティウス
  101 戦車の上からダンテに語りかけるベアトリーチェ
  102 聖ペテロ、聖ヤコブとダンテ、ベアトリーチェ
  103 聖ペテロ、聖ヤコブ、聖ヨハネとダンテ、ベアトリーチェ
  104 栄光の天の女王
 Catalogue(英文リスト)
 Works Cited(文献略号一覧)

年譜 (ベス・A. マンデルボーム/福満葉子 訳)
Literature(参考文献) (Martin Butlin)
Exhibitions(展覧会歴) (Martin Butlin)




◆本書より◆


「若きブレイクとその悖徳」(ゲルト・シフ)より:

「しかし不正に対するブレイクの深い憎悪の中で彼の感じ易い神経を痛ませたのは、何も虐待される子供や動物だけではなかった。ウィリアム・ブレイクは専制政治の基盤を激しく揺るがし、その余波が英国にも及んで既存の病患を露わにしたのみならず、なおも新しい悩みの洪水をつくり出した、血なま臭い戦争と変動の時代に生きた人であった。植民地の破廉恥な搾取やまた奴隷たちの汗と血から、保守党の重商主義的支配階層は巨万の富を手にした。工業化の過程の中で彼らは零細な人びとの職を奪ったので、その人たちはいたるところで暴威を揮う企業の劣悪な労働条件に唯々諾々として甘んじる他はなかった。それは1日に12時間以上は就労させないよう名目だけは法律で保護された、大勢の栄養不良児たちによる未成年者労働の時代であった。ブレイクはパン騒動と、そしてしばしば起こった飢饉を目撃した。彼はまた北米植民地の反乱が宗主国に不穏の連鎖反応を惹きおこしたさまをみた。バスティーユの擾乱に10年近くも先立って若いブレイクはロンドンのニューゲイト監獄の囚人解放運動に参加したとも言われている。同時代の他の英国の詩人の誰よりも彼は、社会変革に敏感で、それを教会と国家の権威に対する反抗であると考えたのである。彼は人民の全階層の奴隷化をみたに留らず、彼にとってそれと同じく許し難いと思われたのは、固定した道徳観念(モリーズ)にによる個人、特に婦人、の束縛であった。奴隷制度を神の意志であるとして擁護した英国国教会はまた、法律と慣習によって是認されないあらゆる愛の形式を無慈悲にも糾弾し、感情の否定を美徳とした。」
「ブレイクには産業革命が国家に与えた痛手を、より一層広い基盤の上に立つ未来の社会福祉への先行投資として理解する用意もなければ、またこの世のもっとも人間的な欲望の否定を、天国への貯金と見做して美化するつもりも毛頭なかった。彼は災厄の大小を問わず、また知らず識らずのうちに個人を磨り潰す軽微な社会的重圧と、戦火や飢饉に際して一撃の下に幾千もの人びとを抹殺する巨大な災禍との間にも区別をしなかった。彼が詩に作った寒さに震える少年煙突掃除夫、またステッドマン船長の5年間のスリナム探検記の挿絵として、半死の状態にまで鞭打たれ不具にあされた黒人奴隷などは、何れも世界の悪をどのようにして是正するかという恐るべき問題へとブレイクの目を向けさせた。そしてこの問題はその世紀の後半において極端な形で、つまり無実の災厄を是正しようとする問いとして、ドストエフスキーへ課せられたのと全く同じ意義をブレイクへもたらしたのである。
 不幸と不正への対決はブレイクを神に対する反逆へと導いた。しかしブレイクは、その絶対的宗教心の故に神を必要としたと同じだけまた神を愛したが故に、そのジレンマを最初にグノーシス派により、次いで全く別の形でカバリストたちによって始められた古代の秘教へと遡ることによって、漸く解決を求めようとした。この種の思想の核心は、我々の住む世界が常にそのようなものとして存在したとは限らないと考えることにある。即ちこの世は存在しうる世界のすべての中の最良のものとは遠くかけ離れている。創世以前の原初の世界において人間は、一つの大きな天体のうちに含まれて、神との完全な合一の中に生きていた。そしてある恐ろしい宇宙的な突発事がこの一切の合一から諸力を飛散させ、それらは各自が悪へと変って、遂にこの世を我々の知る姿に造った一人の悪魔的な創造主に化身したのだとする。この創造こそはそれ自体正真正銘の堕落(原罪)であり、悪しき神の忌まわしき所業であった。従って我々の礼拝する創造主は真の至高存在の不気味なカリカチュアにすぎず、それはこの世における我々の存在が神との合一の中にあった、人間の太古の存在の禍(まが)しい戯画であるのと全く同じである。」



「ウィリアム・ブレイク(1757―1827)」(マーティン・バトリン)より:

「生涯を通じて不変不動というわけではなかったことを承知の上で、ブレイクの哲学を要約してみるならば、かれはこの地球という物質的世界における人間の苦境を、原初的な統一性が解体し、種々の要素へと分裂した結果と見ている。つまり、人類の堕落以後それまで全一なる人間を作り上げていた種々の局面が互いに反目し合うようになったため、救済が成就されるには、そうした要素が今一度互いに和解し合う必要があるというのである。しかしながら、その聖書上の人類の堕落というものも、単に一連の分裂に到る堕落の一つにすぎなかった。天地創造も人間の物質的側面を過大視しすぎている点で、やはり同様であった。」
「とは言っても、過ちに形を与え、定義する行為というものがそもそも過ちを明確に理解し、克服するための一段階であるという点において、天地創造もまた贖罪に到る一段階に他ならなかった。(中略)しかし、過ちを克服する最も重要な主体は、知的理性ではなく想像力であって、それによって芸術家は詩的・預言的天質を発揮することができるのである。事実、理性は堕落した人間の四つの基本相の一つとして、想像力や感情、感覚と並べられているけれども、ブレイクは特に理性の能力に疑念を抱き、それを愚昧な宗教的・政治的権力の行使による想像力の抑圧と見做していた。」

「これらの預言書でブレイクは、自己の神話体系と呼ばれるべきものを構築している。」
「原初の人間から分裂した四つの基本的人格は、想像力を体現し、贖罪の最終的な源泉であるロス、そして理性を体現し、新約聖書の慈しみ深きキリストとは対照的に執念深い旧約聖書のエホヴァを表すユアリズン、感覚を体現するサーマス、感情を体現するルーヴァの四人である。前二者がブレイクの神話体系の中で最も重要な役割を果たしているが、これらの人格は四つのゾアと呼ばれ、黙示録の四つの生き物を表すギリシア語に由来する(中略)。かれらの殆どが地上へ顕現した状態で描き出されるが、それぞれ天上での相を有し、しばしばその相の別によって異なる名前がつけられている。例えば、アーソーナは、霊的状態にあるロスに相当する。
 さらに、この四つの基本的人格は各々女性的分身である「流出」をもつ。かの女たちは分裂の進んだ段階を表すのみならず、男性的分身を自分の支配下におこうとして堕落に拍車をかける。中でも最も重要な存在がロスの流出、エニサーモンである。かの女は「憐れみ」を表すが、これはブレイクにとって不純で、しかも時に破壊的な感情に他ならなかった。しかも、ロスとエニサーモンとの間にエネルギーの霊オークが生まれたとき、分裂はさらに別の段階へと進むことになる。オークは救済を成就する重要な力であったが、理性と権力の体現者ユアリズンばかりでなく、エニサーモンの息子に寄せる愛情に対する嫉妬からロス自身をも警戒させることになる。このように愛情でさえも不純な感情となり得るのである。」
「ブレイクの神話では、場所も体系化されており、人間救済の諸段階に対応している。アルロは人間の最も堕落した段階、つまり物質的段階をいい、地獄に相当する。ジェネレーションも物質的な要素が最上位にくるが、少なくともエネルギーに鼓舞されて進歩が望める段階をいう。ベウラは一種の煉獄であり、そこで人間は未だ四つのゾアの一つ、この場合は感覚を体現するサーマスによって支配されており、エデンの園や天国へと昇ることもできれば、アルロへ逆戻りすることもあり得る。」



ブレイク展 06


『アメリカ ひとつの預言』より。


ブレイク展 07


『ユアリズンの第一の書』より「ロスから分離するエニサーモン」「エニサーモンの前でうずくまるロス」。


ブレイク展 02


「ネブカドネザル」。


ブレイク展 05


「ヤコブの夢」。


ブレイク展 03


「天使たちに守られる墓の中のキリスト」。


ブレイク展 04


「キリストの墓の扉石を脇へ転がす天使」。





◆ウィリアムブレイクジャケ集(プログレ篇)◆


brake cover(7)


アトミック・ルースター「デス・ウォークス・ビハインド・ユー」。


brake cover(5)


ストローヴス「グレイヴ・ニュー・ワールド」。


brake cover(4)


ギルガメッシュ「ギルガメッシュ 2nd.」。


brake cover(6)


アイン・ソフ「過去への扉(スペシャル・ライヴ Vol.2)」。





























































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寿岳文章 訳 『改訳 ブレイク抒情詩抄』 (岩波文庫)

「生きとし生ける者はみな神聖である
――ウィリャム・ブレイク」

(寿岳文章 訳 『改訳 ブレイク抒情詩抄』 より)


寿岳文章 訳 
『改訳 
ブレイク抒情詩抄』
 
岩波文庫 赤/32-217-1 

岩波書店
1931年6月5日 第1刷発行
1940年8月10日 第11刷改版発行
1990年10月5日 第14刷発行
116p 別丁口絵(モノクロ)ii 
文庫判 並装 カバー
定価310円(本体301円)
カバー: 中野達彦



本書「改版に際して」より:

「舊版の附録となつてゐた「天國と地獄との結婚」及び「ラオコオン群像註記」を省き、かはりに「セルの書」を入れ、「無染の歌」と「無明の歌」を全部採録し、「小品詩集抄」に二篇、稿本詩抄に十四篇を新に加へ、抒情詩抄の名にふさはしいものとした。」
「この機會に、舊譯の全部にわたり、(中略)改譯を行つた。」



正字・正かな(「ウィリャム・ブレイク略傳」は新字・新かな)。
口絵は「妻の描ける若き日のブレイク」および「〈無染の歌〉題扉」。


ブレイク抒情詩抄 01


カバーそで文:

「瞑想的な神秘主義で英文学史上異彩を放つ詩人にして画家ブレイク。中期までの抒情詩五六篇に後期の思想を語る作品二篇を付した。」


目次:

小序 (昭和6年3月)
改版に際して (昭和14年11月)

小品詩集抄
 春に
 夏に
 秋に
 冬に
 宵の明星に
 朝に
 うた(こころよく野邊より野邊を)
 うた(わが絹ごろも)
 うた(これやこの愛と調和は)
 うた(われは愛す)
 うた(おもひでよ)
 狂ほしきうた
 うた(露けき丘ゆ今し出で)
 うた(うすずみ色に身をよそひ)
 詩神に

無染の歌
 序詩
 羊飼ひ
 谺の原ッぱ
 仔羊
 黑んぼの男の兒
 花
 煤掃除
 さまよふ子供
 見つかつた子供
 笑ひ歌ふ
 こもりうた
 神の姿
 昇天節
 夜
 春
 乳母のうた
 をさなごの喜び
 夢
 ひとの悲しみを

無明の歌
 序詩
 大地の答
 土くれと小石
 昇天節
 さまよふをとめ
 見出されしをとめ
 煤掃除
 乳母のうた
 病める薔薇
 蠅
 天使
 虎
 私のかはゆい薔薇の樹
 ああ! 向日葵よ
 百合
 愛の園生
 浮浪少年
 ロンドン
 人間抽象
 をさなごの悲しみ
 毒ある樹
 さまよふ少年
 さまよふ少女
 テルザに
 小學生
 いにしへの詩人の聲
 神の姿

セルの書

稿本詩抄
 汝が戀はかたくも秘めよ
 愛よこたはり眠りゐる
 私は見た
 子守歌
 われ恐れぬ
 ムルトスのかげに
 沈默の沈默の夜よ
 おおたげりよ君は
 君は種子を
 創造せぬ父に
 夜のよろこびよりも
 愛はよくあやまちを
 野の花の歌
 わがムルトスに
 劒は不毛の荒野で
 時を熟しないうちに
 永遠
 嘲れ、嘲れ
 朝
 こがねの網
 夢のさと
 晶玉の室
 無染のうらかた

ウィリャム・ブレイク略傳 (昭和32年7月)



ブレイク抒情詩抄 02



◆本書より◆


「無明の歌」より「昇天節」:

「富んでゆたかな國だのに、
みじめさのどん底に落ちた赤ん坊が、
つめたい強慾な手に養はれてゐるのを見る、
これがそもそも神のみむねに叶つたことか?

あのふるへわななく聲が歌か?
あれがよろこびの歌だと言ふのか?
まあこんなに大勢の子供が貧しいのか?
ああ、ここは貧困の國だ!

かれらに太陽は決して輝かない。
かれらは吹きッさらしの荒野に住む。
しかもその道はいばらでいつぱいだ
そこは永遠の冬の世界だ。

きみよ、およそ太陽が照り輝くところ、
およそ雨が地を潤すところならばどこでも、
赤ん坊にひもじい思いをさせてはならない、
その心を貧困でおびやかしてはならない。」



「病める薔薇」:

「おお薔薇よ汝は病めり。
業風すさぶ
夜に飛ぶ、
見えざる蟲、

濃きくれなゐのよろこびの
汝が臥床を見出でたり。
その暗くして秘めたる戀
汝のいのちをほろぼす。」



「蠅」:

「小さな蠅よ
お前の夏の遊びを、
何心なく私の手が
はたきつぶした。

私もまた
お前のやうな蠅ではないか?
それともお前は
私のやうな人間ではないか?

私も踊つて
飲んでそして歌ふ、
何かしら盲目の手が
私の翅をはたきおとすまで。

思考が生命であり
また力であり呼吸であり、
思考をもたぬことが
死であるならば、

では私は
幸福な蠅だ、
いきしにに、
かかはりなく。」



「虎」:

「虎よ虎よ、ぬばたまの、
夜の林に燃ゆる虎よ。
いかなる不死の眼または腕の、
よくも作りしながゆゆしき均整を?

いかなるをちのわだつみまたは空に、
なんぢがまなこの焰ぞ燃えたる?
何の翼にそも神は乘りて行きし?
何者の手ぞ、その火を敢て捕へたる?

そも亦何の肩、何のわざの、
よくも捩りしなが心臓の腱を?
またその心臓うち始めたるとき
用ゐられしは何の恐しき手? 何の恐しき足?

槌や何なりし? 鎖や何なりし?
いかなる鎔爐になが腦髓はありし?
鐵砧や何なりし? いかなる畏き手のよくも
その死を致す怖畏を握りし?

あまつむら星槍を投げて
涙に空をうるほせしとき、
神その創りし汝を見て笑みしや?
仔羊を創りし彼また汝をも創りしや?

虎よ虎よぬばたまの、
夜の林に燃ゆる虎よ。
いかなる不死の眼または腕の、
よくも作りしながゆゆしき均整を?」



「人間抽象」:

「哀憐が納まりかへつてをれるのは
誰かを貧しい目にあはせてゐるからだ。
慈悲が餘命をつないでゆけるのは、
みんなが我等と同樣に幸福でないからだ。

互に恐れ憚る氣持が平和をもたらし、
かくして利己の愛がますますつのる。
そのとき殘忍がわなを編み、
心をつくして誘惑の餌をひろげる。

殘忍は恐怖を聖化しておのが座をつくり、
涙をふりしぼつて地上をうるほす。
されば謙遜は殘忍の足もとに
根を下ろすのほかはない。

やがて暗鬱な神秘の樹が
殘忍の頭上に枝をはりめぐらし、
醜惡な毛蟲や蠅が、
この神秘を食つてふとる。

つひにそれは欺瞞の果實をむすぶ、
赤く熟れてゐて食へばうまい。
そして大鴉が巣をかけた
その最もよく茂つたくらがりに。

この樹を見つけようとて海山の神々は、
自然界をくまなく探し求めたが
彼等の探索はみな悉く無效に歸した。
人間の腦髓にこの樹が一本生えてゐる」



「無染のうらかた」より:

「一つぶの砂にも一世界が
一輪の野の花にも一天界が見え
たなごころに無限を
ひとときのうちに永劫を握る
籠に囚はれてゐる駒鳥は
天國中を憤激させる
家鳩や野鳩のぎつしりつまつてゐる鳩舎は
地獄を隅々までゆさぶる
主人の門に飢ゑてゐる犬は
國家の滅亡を豫示する
路上に虐使されてゐる馬は
人間の血を神に呼び求めてゐる
かりたてられた兎の悲鳴は
一こゑごとに腦髓の筋をひきちぎる」
「あるべきやうにあるのがいい
人はよろこびと惱みのために作られた」
「歡喜と苦惱とはしつくりと織り合はされて
神々しいたましひの衣となる」
「一つ一つの眼から流れる涙の一つぶ一つぶが
永遠界でみどり兒となる」





こちらもご参照下さい:

William Blake 『Songs of Innocence』 (Color Facsimile of the First Edition)
『ダンテ 神曲』 寿岳文章 訳 (集英社版 世界文学全集 2)
寿岳文章 『和紙落葉抄』





























































































































アンソニー・ブラント 『ウィリアム・ブレイクの芸術』 岡崎康一 訳

「彼は、夢想を開示し、詩にインスピレイションを与えてくれる「霊」と自分自身がじかに接触していると信じていた。「私は、毎日毎夜、天からの使者に指導されている」と述べ、ときには、次のように、(中略)臨場感のある言葉で霊の訪問を描いている。「預言者イザヤとエゼキエルが私と食事をともにした。そこで私は彼らに訊ねた……」。」
(アンソニー・ブラント 『ウィリアム・ブレイクの芸術』 より)


アンソニー・ブラント 
『ウィリアム・ブレイクの芸術』 
岡崎康一 訳


晶文社
1982年1月30日発行
156p 索引・書誌x
別丁図版(モノクロ)64p
A5判 丸背紙装上製本 カバー
定価2,300円
ブックデザイン: 平野甲賀
カヴァー: 『ユリゼンの書』より



本書「訳者あとがき」より:

「本書は Anthony Blunt: The Art of William Blake (初版一九五九年)を全訳したものである。」


ブラント ウィリアムブレイクの芸術 01


カバーそで文:

「18世紀から19世紀にかけて、独自の宗教思想、哲学思想を詩と画に結晶させたブレイク。彼は『無垢の歌』『経験の歌』の詩人であり、同時に、それらの本のページに挿絵を描き、みづから創案した彩飾印刷法を用いて飾った画家、版画家であった。
 ヨーロッパ的規模の美術史上の知識を基盤に、152点にのぼる図版を駆使して、ブレイクの諸作品を具体的に検証した本書は、今日の「ブレイク・ルネサンス」の昂まりのなかで、ますます基礎的研究たる価値を失わない。

 アンソニー・ブラント 1907年、イギリスに生まれる。『イタリアの美術1450―1600』『ニコラ・プーサン』『ピカソ〈ゲルニカ〉の誕生』などの著書で知られるように、美術史家としての視野はヨーロッパ全域に及ぶ。33年の長きにわたって英国王室美術鑑定官をつとめたイギリス有数の美術史家である。
 「ブレイク研究は抑制を忘れた熱狂によって混乱させられてきた。私の希望は、美術史の通常の方法をブレイクに適用し、彼の芸術に対する入門書を提供することであった。」



目次:

感謝のことば
序文

1 初期のブレイク
2 ブレイクと崇高なるもの
3 ブレイクの絵画における夢想と制作
4 最初の彩飾本
5 聖書とミルトンの挿絵
6 最終段階――『イエルサレム』、ヨブ記、ダンテ

原注

付録A 『ピット』と『ネルスン』の意味
付録Aの原注
付録B トマス・バッツのためにブレイクが制作した聖書画の主題

図版説明
訳者あとがき
書誌
索引



ブラント ウィリアムブレイクの芸術 02



◆本書より◆


「この問いに答えるためには、ブレイクが絵画において何を目差していたかを思い出すことが重要である。すなわち、それは、フォルムと色彩を通じて、特別な宗教的真理に関する彼なりの想像的概念を伝達することである。したがって、彼は宗教画家という大きな一群に属しているわけだが、(中略)過去の偉大な宗教芸術家たち――シャルトル大聖堂の彫刻家たち、インドやエジプトの神殿の建造者たち、一三〇〇年代(トレチェント)のイタリアの画家たち――と比較した場合のブレイクの位置の特殊な点は、前者が自分たちが生きていた社会一般に容認されていた思想を表現したのに対し、ブレイクは孤独のうちに仕事をしたことである。
 進歩的思想が理性と科学の戦車に繋がれていた時代に、ブレイクは想像力と、霊感で得た信念を支持したのである。こうした抵抗という点では、彼はロマン派の人々や、唯物主義に反抗していたすべての人々と一致していた。しかし、理性に対する彼の同時代人たちの反応は、多くの場合、汎神論や、個人的なキリスト教的神がほとんど役割を果たさないある種の信念に結びついた。ブレイクは、同時代の英国の文学者の中では、哲学の基礎をもっぱらキリスト教に置くという点で独特であった。教義に関する彼の解釈は特異で、個人的なものであっても、福音書の信条に対する彼の信念は、彼の生涯と思想全体の基盤であった。」
「世界に敢然と挑戦した彼の勇気は、彼の思想と芸術の非常に際立った特徴となっている活力と、妥協すること、すなわち思想やフォルムの刃を鈍らせることに対する拒否となって現われていて、この点が詩と絵画における彼の傑作をただちに興味を引くものにしている。(中略)ブレイクはますます内攻していった。(中略)彼は自分の思想を、ますます個人的に、ますます他人には理解しがたくなるフォルムで、ますます強烈に展開していった。バルザックの『知られざる傑作』の主人公の場合のように、他人がどのように考えているかを無視した、理想の正確な表現への探求は、(中略)絵画における異常性をもたらす結果になったのである。」

「生涯の終りに書かれた次のような文章に述べられている、芸術の本質と機能に関する彼の信条(中略)はほとんど彼の知的遺言とみなすことができる。

  詩人、画家、音楽家、建築家。男女の別なくこれに該当しない人はキリスト教徒ではない。
  芸術の妨害になるなら、両親も家も土地も捨てなければならない。
  祈りは芸術の勉強である。
  賞賛は芸術の営みである。
  断食などはすべて芸術に関係がある。
  外面的儀式はキリスト教に反する。
  人間の永遠の肉体は想像力、すなわち神そのもの、聖なる肉体、イエスである。われわれはその器官なのである。
  人間のその永遠の肉体は、神の芸術作品となって顕現する。(永遠において、すべては夢想である)」





こちらもご参照下さい:

William Blake 『Songs of Innocence』 (Color Facsimile of the First Edition)









































































































The Illuminated Blake (Annotated by David V. Erdman)

The Illuminated Blake
Annotated by David V. Erdman

The Complete Illuminated Works of William Blake with an Introduction and Plate by Plate Commentary
Anchor Books, AO-96, 1974
416pp, 20.5x26.5cm, paperback edition
Book design by M. F. Gazze


詩人であり画家であったウィリアム・ブレイクの「彩飾本(Illuminated Books)」の注釈付き集成。図版は全てモノクロ。


the illuminated blake 1

表。


the illuminated blake 2

裏。


Contents:

KEY TO REFERENCES
INTRODUCTION

BLAKE'S WORKS IN ILLUMINATED PRINTING
All Religions Are One
There is No Natural Religion
The Book of Thel
Songs of Innocence and of Experience
The Marriage of Heaven and Hell
Visions of the Daughters of Albion
America a Prophecy
Europe a Prophecy
The Song of Los
The Book of Urizen
The Book of Ahania
The Book of Los
Milton a Poem
The Gates of Paradise
Jerusalem the Emanation of the Giant Albion
On Homers Poetry and On Virgil
The Ghost of Abel

APPENDIX: PROOFS AND VARIANTS
Songs of Innocence and of Experience
The Marriage of Heaven and Hell
Visions of the Daughters of Albion
America a Prophecy
Europe a Prophecy
Jerusalem

INDEX
ACKNOWLEDGMENTS



the illuminated blake 3


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the illuminated blake 15




































































William Blake 『Songs of Innocence』 (Color Facsimile of the First Edition)

「Seven summers old
Lovely Lyca told;
She had wander'd long
Hearing wild birds' song.」

(William Blake 「The Little Girl Lost」 より)


William Blake 
『Songs of Innocence』

Color Facsimile of the First Edition
with 31 Color Plates

Dover Publications, Inc., New York, 1971
vi, 55pp, 18x13.5cm, paperback

"This Dover edition ( . . . ) is an unabridged republication of the 1789 edition from the copy in the Lessing J. Rosenwald Collection in the Library of Congress. A Publisher's Note, contents, and complete printed text of the poems have been added for the Dover edition."



ウィリアム・ブレイクの最初の彩飾本(Illuminated Book)「無垢の歌」初版(1789年)ファクシミリ版です。初版の全31頁が原寸大カラー図版で複製され、出版者による序文が巻頭に、テクストを活字化したものが巻末に併載されています。


blake - songs of innocence 01


Contents:

Publisher's Note

Frontispiece
Title Page
Introduction
The Shepherd
Infant Joy
On Another's Sorrow
The School Boy
Holy Thursday
Nurse's Song
Laughing Song
The Little Black Boy
The Voice of the Ancient Bard
The Rcchoing Green
The Chimney Sweeper
The Divine Image
A Dream
The Little Girl Lost
The Little Girl Found
The Little Boy Lost
The Little Boy Found
A Cradle Song
Spring
The Blossom
The Lamb
Night

Text



blake - songs of innocence 02


blake - songs of innocence 03



こちらもご参照下さい:

寿岳文章 訳 『改訳 ブレイク抒情詩抄』 (岩波文庫)
アンソニー・ブラント 『ウィリアム・ブレイクの芸術』 岡崎康一 訳




































































プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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