松平千秋 『ホメロスとヘロドトス ― ギリシア文学論考』

松平千秋 
『ホメロスとヘロドトス
― ギリシア文学論考』


筑摩書房 
1985年9月25日 第1刷発行
287p 目次3p 地図(折込)1葉
四六判 丸背クロス装上製本 機械函
定価3,600円



本書「あとがき」より:

「本書に収めた大小十五篇の論文は、最後の「『イーリアス』第二歌の研究」を除き、すべて既発表のものである。」
「執筆年次、発表機関の性格、それに予想される読者層などが、各篇についてそれぞれ違うために、本書全体としてはいろいろな面で不統一を免れなかった。」
「各篇ともその執筆以後に現われた文献に照らして、訂正、修正あるいは追加等をすべき点がいくつかあるのは当然であるけれども、(中略)私の基本的な立場は今も変っていない積りであるので、どの論文も発表当時の形のままで再録することにした。」



松平千秋 ホメロスとヘロドトス 01


帯文:

「古代ギリシア文学の精華 ホメロスからヘシオドス、ヘロドトス、アリストパネスなどの諸作品をめぐる明解・精緻な言語学・文献学的研究とエッセイを集成。」


帯背:

「古代文学の世界」


目次 (初出):


語り物としてのホメロス 
叙事詩『キュプリア』考 
ヘーシオドスの文体 
     *
アトッサの夢 
ヘロドトスにおけるクセルクセス像 
若き日のアリストパネース 
『イソップ伝』について 
古代ギリシア・ローマにおける女性の言語について


神話の運命
ギリシア悲劇の周辺
レオニダスとその妻
トロイア戦争雑感
プラトンの詩
『オデュッセイア』を訳しながら


『イーリアス』第二歌の研究

あとがき



松平千秋 ホメロスとヘロドトス 02



◆本書より◆


「神話の運命」より:

「衆知のごとく、パンドラ伝説の最初の文献はヘシオドスである。」
「パンドラ伝説は『仕事と日』にも『神統記』にも現われるが、その内容はコンテキストと共に少々異なっている。『神統記』ではイアペトスの子プロメテウスがゼウスを欺いたので、怒ったゼウスが火を隠して人間に与えまいとする。それを巧みにプロメテウスが盗むので、ゼウスはヘパイストスに命じて「美しき禍」なる女性を作らせ、これを人間界に降らせる。エピメテウスが、彼女を受け容れたために、ここに人類の不幸が始まるという物語である。『仕事と日』では、はじめ楽園に住んで何の苦悩も知らなかった人類が、いかにして痛苦にみちた生活に陥ったかを説く中に同じ説話が語られる。」
「違うのは、『神統記』では無名であったこの最初の女性にパンドラの名が与えられ、その命名の因縁まで加えられていることであり、更に決定的な相違点は『神統記』には、全くふれられていない、「甕」の物語がここには続いていることである。」
「『神統記』と『仕事と日』との相違の最も本質的な点は、パンドラという名前の有無もさることながら、前者では女性そのものが人類の不幸であることを意味するのに対して、『仕事と日』では、パンドラはむしろ甕の蓋を開いて、禍を世界にまきちらす手段として働かされ、人類の不幸の直接の原因とはされていない(中略)。
 そこで『仕事と日』のヴァージョンの方は、実は二つの独立の説話が融合されたものではないかという考え方が起ってくる。一つは『神統記』にある通りの、女性それ自体が人類の禍であるという思想に基く説話と、甕の中に封ぜられた悪が、誰かが好奇心によって蓋をとったために、世に拡がって、楽園が一変して苦の世界に堕したという、一種末世観的な色彩を帯びた説話とがそれである。」
「甕を開く説話が本来独立のものであったことの例証は、いくつか挙げられる。例えば『イリアス』の二四巻には、善と悪とをそれぞれ詰め込んだ二つの甕がゼウスの館にあったことが記されており、文献の時代はよほど降るけれども、甕の蓋をあけるのが女ではなくて男であったり、また甕の内容が悪ではなくて善であって、蓋をとったためにこれを失ったという風に説く物語も伝えられている。これを要するに、これらの物語の基本的な発想としては、甕の内容が善であるにせよ、悪であるにせよ、蓋をとったために、その内容を喪失したり、あるいは統御することができなくなる、ということである。
 従って甕を開く人物は、この説話に関する限りはむしろ副次的なもので、どのような人物でも大して差支えないということになろう。彼女自身人間の禍となるべく創造されたパンドラは、更にこの甕を開く役を与えられることによって、人類の苦悩のことごとくに責任を負わされたことになる。ギリシアのアンティフェミニズムの底の深さが知られるではないか。」
「パンドラの名の由来は、『仕事と日』によれば、「すべての神々がそれぞれ彼女に贈物をした」故にかく名附けられたという。あるいは「彼女がすべての神々から(人間へ)の贈物」であるから、ともその文意はとれるかも知れない。しかしギリシア語の造語法からいって、この解釈は少々無理であるように思われる。少なくともそれはこの合成語の素直な語原解釈ではなさそうである。むしろ語意は受動的よりも他動的で、「すべてを与える者」と解さるべきであろう。そこでパンドラの本体は、結局豊穣の女神の一形式であって、別にアネシドラの名で伝わる地下女神と同類であろうという推定が生まれる。
 アネシドラは明らかに「デメテルの賜、すなわち穀物を生育せしめる者」という意味であろうから、それからパンドラの名の由来も類推されるわけである。この説を裏づけるものに、オックスフォードのアシュモル博物館所蔵のいわゆる「パンドラの壺」がある。赤絵の美しい作りの壺で、その片面にパンドラ(その名が記されているので、誤解の余地はない)が地下から昇ってくるのを、男が受けとめようとしている図が描かれている。この解釈が正しいとすると、パンドラは天上からもたらされたのではなくて、地下から出現したものであり、またその甕の内容は悪でなくて善でなくてはなるまい。」













































































































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『ヘロドトス 歴史 (下)』 松平千秋 訳 (岩波文庫)

「さてここで私としては、必ずや大多数の人々の不興を買うであろう見解をどうしても述べねばならない。そうと判っていても、それが真実を衝いていると私に思われる限りは、それを開陳することを差し控えることは私にはできないのである。」
(ヘロドトス 『歴史』 より)


『ヘロドトス 
歴史 (下)』 
松平千秋 訳
 
岩波文庫 青/33-405-3

岩波書店
1972年2月16日 第1刷発行
1991年7月5日 第23刷発行
390p 索引68p
文庫判 並装 カバー
定価720円(本体699円)
カバー: 矢崎芳則



上巻「はしがき」より:

「本書は(中略)ヘロドトス(前四八四ごろ―四三〇以後)の著作「歴史」の全訳である。」


本書「解説」より:

「本訳書は、筑摩書房の世界古典文学全集の第十巻として昭和四十二年に刊行された拙訳に基き、若干の修正加筆を行なって成ったものである。」


HISTORIAE Herodotus


ヘロドトス 歴史 下


カバーそで文:

「再度のギリシア侵入を企てギリシアにおしよせた新王クセルクセス率いる大遠征軍と、これを迎え撃つギリシア軍は激しい戦いを展開する。テルモピュライの戦い、サラミスの海戦など、のちの人々の語りぐさとなった両者攻防の激戦があますところなく語られる。」


目次:

巻七(ポリュムニアの巻)
 クセルクセスのギリシア遠征
  ダレイオス、遠征準備中に死す
  クセルクセスの遠征準備
   重臣会議――アルタバノスの諫止と夢見
   アトスにおける運河開鑿等のこと
  遠征軍の出発――発進よりサルディスを経てヘレスポントスに至る
  ヘレスポントス渡洋からドリスコスに至る――全軍の点呼――海陸両軍の部隊別記述
  クセルクセスとデマラトスの会話――トラキア、マケドニアを経てテルメに至る
  クセルクセス、ペネイオス河口を視察
  ギリシア側の抗戦準備
  クセルクセス軍、テッサリアを進撃
  テルモピュライの戦い

巻八(ウラニアの巻)
  アルテミシオンの海戦
  ペルシア陸上軍の進撃――アテナイ占領に至る
  サラミスの海戦
  クセルクセスの退却
 マルドニオスによるギリシア本土作戦
  ギリシア水軍の準備態勢――マルドニオスの対アテナイ交渉

巻九(カリオペの巻)
  マルドニオス、アッティカ侵入後ボイオティアに引き返す
  プラタイアの戦い
 ペルシア艦隊の全滅――イオニアの解放およびその後の事件
  ミュカレの戦い
  クセルクセスの邪恋
  ギリシア軍によるセストス攻略
  キュロスの訓戒

訳注
詳細目次(巻七―巻九)
解説
人名・地名索引




◆本書より◆


「巻九」より:

「さてサルディスに滞在中クセルクセスは、やはりこの地にいたマシステスの妻に恋慕した。クセルクセスはたびたび使いをやっては女に言い寄ったものの口説き落すことができず、弟のマシステスへの憚りから暴力に訴えることもしなかった。女の気持を支えていたのも同じ思いで、彼女は暴力を加えられぬことをよく承知していたのである。そこでクセルクセスはほかの手段に訴えることはやめ、自分の息子のダレイオスに、その女とマシステスの娘を嫁に迎えることにした。そうすることによって女を手に入れ易くなろうかと考えたのである。クセルクセスはその縁組をまとめて型どおりの手続きをすますと、スサへ引き上げていった。
 ところがスサへ着いてダレイオスのために先の娘を邸に迎えると、マシステスの妻に対する思慕の念は止み、こんどは一転してダレイオスの妻なるマシステスの娘に想いを寄せるようになり、遂にこの女を自分のものとしたのである。この女の名はアルタユンテといった。
 しかしやがてこのことは、次のようにして露顕することになった。クセルクセスの妻のアメストリスが、色とりどりの目も綾な、大きい見事な上衣を織ってクセルクセスに贈ったのである。喜んだクセルクセスはこれを身につけて、アルタユンテを訪れた。女の許でも大いに満悦したクセルクセスは、自分をたのしませてくれた礼をするから、なんなりと欲しいものをいえ、と女に促した。望むものはどんなものでも与えよう、といったのである。すると女は(中略)クセルクセスに「殿様は本当に私の欲しいと申し上げるものを下さいますか」といった。クセルクセスは女が自分の上衣を欲しがろうなどとは夢にも思わず、欲しいものは必ず与えると約束し、誓言までした。クセルクセスが誓言をすると、女はぬけぬけとその上衣を欲しいといったのである。クセルクセスはそれを与えずに済まそうと、あらゆる手立てを尽したが、その理由はほかでもなくアメストリスを怖れてのことで、すでに以前からこのことに深い疑惑を抱いている妻に、このようなことから不行跡の動かせぬ証拠を握られるのを気遣ったのである。そこで代りに町をやろう、黄金をいくらでも与えよう、また彼女以外の誰も指揮できぬ軍隊をもたせてやろう――軍隊を贈り物にするというのはペルシア独特の風習である――とさまざまにもちかけたが、女はどうしてもいうことをきかず、とうとうその上衣を与えた。女はその贈り物をもらって有頂天になり、いつもそれを身につけては自慢していた。
 やがてアメストリスはその上衣が女の手にあることを噂にきいた。しかし事の次第を察したアメストリスは、当の女には怨みを抱かず、その母親こそ元兇でありそのように事を運んだのも彼女であると思い、マシステスの妻の殺害を謀ったのである。彼女は夫クセルクセスが国王主催の宴会を催す時機を待ち構えていた。この宴会は年に一回、王の誕生日に催されるもので、この宴会のことをペルシア語でテュクタというが、これはギリシア語でいえば「完璧な(テレイオン)」という意味である。(中略)さてアメストリスはこの日を待ち構えていて、クセルクセスに対してマシステスの妻の身柄を自分に渡して欲しいと頼んだ。クセルクセスはしかし、弟の妻でもあり、またこの事件には何の罪もない女を妻の手に渡すのは、いかにも心外で許されぬ行為であると考えた。それというのも、彼は妻の要求の目的が何であるかを悟っていたからである。
 しかし結局アメストリスはあくまで要求して譲らず、その上ペルシアでは王主催の宴会の日には、要求した者にその望むものを与えぬことが許されぬという慣習があるために、止むなくクセルクセスは不承不承妻の要求を承諾し、女を渡すことにして次のような措置をとった。妻には好きなようにするがよいといい、一方弟を呼び寄せていうには、
 「マシステスよ、お前はダレイオスの子でわしの弟、その上まことに立派な人物でもある。さて現在お前が妻にしている女は離別せよ。現在の妻の代りにはわしの娘を与えるから、それをお前の妻にするのだ。お前の現在の妻をそのままに置くのは、どうもわしには良いと思われぬから、妻の座を去らせるがよい。」
 マシステスはこの言葉を聞いて大いに驚き、次のようにいった。
 「殿よ、なんとまた困ったことを私に申されますことか。妻は私に息子や娘を設け、その娘の一人は殿が御子息の嫁にと貰って下さったばかり、妻は私に気に入った女でありますものを、その妻を離別して御息女を娶れと仰せられますのか。王よ、私が御息女を賜わるに値する男と見込まれたことは、誠に名誉なこととは存じますが、お言い付けのことは二つともお断わりいたします。殿にはどうか決して、かような御要求を無理強いなさいませぬよう。御息女には私に劣らぬ別の婿殿が現われましょうから、私には現在の妻をそのままにしておかせて頂きたい。」
 マシステスがこのように答えると、クセルクセスは怒っていうには、
 「よしわかった、マシステスよ、ではこういうことにしてやろう。この上はもはや娘をお前にはやらぬ。またあの女とこれ以上一緒に暮させもせぬ。やろうというものを有難く受ける作法をお前に教えてやるためじゃ。」
 マシステスはこの言葉をきくと、
 「殿よ、私の命だけは残して下さったのですな。」
とだけいうと外へ出ていった。
 クセルクセスが弟と話している最中、アメストリスはクセルクセスの親衛兵を呼び寄せ、マシステスの妻に残虐を極めた暴行を加えた。両の乳房を切り取って犬に投げ与え、鼻、耳、唇も同様にし、さらに舌まで切り落して変り果てた姿になった彼女をその家へ送り届けたのである。
 マシステスはまだこのことを聞いていなかったが、なにか良からぬことが起りそうな予感がして、急いで家の中へ駈け込んだ。そして無残な姿にされた妻を見ると、すぐに子供たちと協議し、息子たちをはじめその他の家来を従えてバクトラに向ったが、これはバクトリア地区を叛かせ、王にできるだけ大きい被害を与えようとするためであった。思うに、もし彼が敵の機先を制してバクトリアおよびサカイ人の国に達していたならば、この計画は実現したであろう。彼はそれらの地方では人望があり、またバクトリアの総督でもあったからである。しかしクセルクセスはマシステスのこのような行動を聞き知ると、討伐の軍勢を彼に向け、途中でマシステス以下その息子たちおよびその軍勢をことごとく討ち果してしまった。
 クセルクセスの恋とマシステスの死についての経緯は以上のとおりである。」





こちらもご参照ください:

『ヘロドトス 歴史 (上)』 松平千秋 訳 (岩波文庫)























































































































































『ヘロドトス 歴史 (中)』 松平千秋 訳 (岩波文庫)

「これよりさらに南の奥地の、野獣の多く棲息する地域にはガラマンテス人が住む。この種族はいかなる人間をも避け、誰とも交際せず、また武器類は一切持たず、自衛の手段も知らない。」
(ヘロドトス 『歴史』 より)


『ヘロドトス 
歴史 (中)』 
松平千秋 訳
 
岩波文庫 青/33-405-2

岩波書店
1972年1月17日 第1刷発行
1991年3月5日 第21刷発行
337p
文庫判 並装 カバー
定価620円(本体602円)
カバー: 矢崎芳則



上巻「はしがき」より:

「本書は(中略)ヘロドトス(前四八四ごろ―四三〇以後)の著作「歴史」の全訳である。」


HISTORIAE Herodotus


ヘロドトス 歴史 中


カバーそで文:

「イオニア反乱を制圧したペルシアはギリシア遠征の軍を発し、ここにペルシア戦争の幕は切って落された。アテナイはマラトンに軍を集結して迎え撃つ。自らの足で集めた資料を豊富に盛りこみ、何よりも正確公正を期した本書は、今日なお史書として高い価値を誇る。」


目次:

巻四(メルポメネの巻)
 ダレイオスのスキュティア遠征
  遠征の動機
  スキュティアの古史
  スキュティア北方の諸民族
  世界(地球)の形態と構造
  スキュティアの河川
  スキュティアの風俗習慣
  ダレイオスの遠征
 アリュアンデスによるリビア攻撃
  前史
  キュレネ植民の由来
  リビア記
  バルケ占領

巻五(テルプシコレの巻)
 メガバゾスによるトラキアおよびマケドニア攻略――トラキアの習俗――マケドニア人によるペルシア人謀殺
 イオニアの反乱
  ヒスティアイオスとアリスタゴラス
  スパルタの情勢――クレオメネスとドリエウス
  アリスタゴラス、スパルタの援助を要請して成らず
  スサに至る「王道」の叙述
  イオニア、アテナイと同盟を結ぶ
   ペイシストラトス一族の放逐
   クレイステネスとイサゴラス
   クレオメネスのこと
   アテナイとアイギナ
   スパルタにおけるヒッピアス――コリントス人の独裁制反対の演説
  シゲイオンの戦い
  ギリシア同盟軍の東征――サルディスの破壊
  キュプロスの離反とその鎮圧
  イオニア人の敗北、アリスタゴラスの死

巻六(エラトの巻)
  ヒスティアイオスの活動――その逃亡から死に至るまで
  エーゲ海諸島およびヘレスポントス沿岸諸市の攻略
 マルドニオスによるギリシア本土攻撃
 ダティスおよびアルタプレネスによるギリシア本土侵入
  タソスの屈服
  ギリシアの情勢――特にスパルタの政情、クレオメネスとデマラトス
  ペルシア遠征軍、諸島を経てマラトンに達す
  マラトンの戦い
  ミルティアデスのこと

訳注
詳細目次(巻四―巻六)




◆本書より◆


「巻四」より:

「一般の神々に捧げる犠牲の式の次第と、獣の種類は右のとおりであるが、アレスに対する犠牲の儀式は次のように行なわれる。
 スキュティアの諸王国内の各地区には、それぞれ次のようなアレスの聖所が設けられている。薪の束が縦横おのおの三スタディオン、高さはそれに及ばぬが、それだけの量に積み上げられている。その上に四角の台が設けてあり、三方は切り立っていて一方だけが登れるようになっている。彼らは毎年車百五十台分の薪を積み加える。悪天候のために堆積が絶えず沈下するからである。さてどの区でもこの堆積の上に、古い鉄製の短剣がのせてあるが、これがアレスの神体なのである。スキュタイ人はこの短剣に毎年家畜類や馬を犠牲に捧げるのであるが、他の神々にも供えるもののほかに、アレスにはさらに次のような犠牲をも捧げるのである。戦争で生捕りにした敵の捕虜の内から、百人に一人の割で犠牲にするのであるが、その犠牲式の次第は家畜の場合と異なっている。まず犠牲に供される人間の頭に酒をふりかけてから、その者の咽喉を切り裂いて血を器に受け、その器を蒔の山の上に持っていって、その血を短剣にかけるのである。血を上に持ってゆく一方、下方の聖所のまわりでは次のような儀式が行なわれる。屠られた男たちの右肩をことごとく腕ごと切り離して空中に抛り上げ、そのほかの犠牲の行事をすませてから立ち去ってゆく。後には腕は落下したところに、胴体は別の場所にそれぞれ横たわっている。」

「スキュタイ人は首級の皮を次のようにして剥ぎとる。耳のあたりで丸く刃物を入れ、首級をつかんでゆすぶり、頭皮と頭蓋骨を離す。それから牛の肋骨を用いて皮から肉をそぎ落し、手で揉んで柔軟にすると一種の手巾ができ上る。それを自分の乗馬の馬勒にかけて誇るのである。この手巾を一番多く所有する者が、最大の勇士と判定されるからである。またスキュタイ人の中には、剥いだ皮を羊飼の着る皮衣のように縫い合せ、自分の身につける上衣まで作るものも少なくない。さらにまた、敵の死体の右腕の皮を爪ごと剥いで、矢筒の被いを作るものも多い。人間の皮というものは実際厚くもあり艶もよく、ほとんど他のどの皮よりも白く光沢があるほどなのである。また全身の皮を剥がしてこれを板に張り延ばし、馬上に持ち廻るものも少なくない。
 スキュティアにはこのような風習が行なわれているのであるが、首級そのものは次のように扱う――ただしどの首級もというのではなく、最も憎い敵の首だけをそうするのであるが。眉から下の部分は鋸で切り落し、残りの部分を綺麗に掃除する。貧しい者であれば、ただ牛の生皮を外側に張ってそのまま使用するが、金持ちであれば牛の生皮を被せた上、さらに内側に黄金を張り、盃として用いるのである。彼らは近親の頭蓋骨をもこれと同じように扱うことがある。身内の間に争いが起り、王の面前で相手を負かした場合である。大切な来客があると、これらの頭蓋骨を見せ、この者たちは自分の近親であったが自分に争いをしかけたので、打倒したのであると手柄話にして説明するのである。」

「スキュティアには多数の占師がいるが、彼らは多数の柳の枝を用い次のようにして占う。占師は棒をまとめた大きい束をもってくると、地上に置いて束を解き、一本一本並べながら呪文を唱える。そして呪文を唱えつづけながら、再び棒を束ね、それからまた一本ずつ並べてゆく。この卜占術はスキュティア古来の伝統的なものであるが、例の「おとこおんな」のエナレエスたちは、アプロディテから授かったと自称する方法で占う。いずれにせよそれは菩提樹の樹皮を用いて占うもので、菩提樹の樹皮を三つに切り、これを指に巻きつけたりほどいたりしながら預言するのである。」

「王陵は、ボリュステネス河の遡航可能な限界点に当るゲロイ人の国土内にある。スキュティアの王が死ぬと、この土地に四角形の大きい穴を掘り、穴の用意ができると遺骸をとり上げるのであるが、遺体は全身に蠟を塗り、腹腔を裂いて臓腑を出した後、搗(つ)きつぶした かやつり草(キュペイロン)、香料、パセリの種子、アニスなどをいっぱいに詰めて再び縫い合せてある。さてこの遺骸をとりあげ、車で別の民族の国へ運んでゆく。運ばれてきた遺骸を受け取った国の者たちは、王族スキュタイ人のするのと同じことをする。すなわち耳の一部を切りとり、頭髪を丸く剃り落し、両腕に切傷をつけ、額と鼻を掻きむしり、左手を矢で貫くのである。それからまた王の遺骸を車にのせて支配下の別の民族の国へ運んでゆく。一行が先に立寄った国の者たちもこれに随行するのである。遺体を運んで属国をことごとく一巡すると、属領の中の最末端にあり王陵の所在地であるゲロイ人の国に着く。それから遺骸を墓の中の畳の床に安置すると、遺骸の両側に槍を突き立てて上に木をわたし、さらにむしろを被せる。墓中に広く空いている部分には、故王の側妾の一人を絞殺して葬り、さらに酌小姓、料理番、馬丁、侍従、取次役、馬、それに万般の品々から選び出した一部と黄金の盃も一緒に埋める。(中略)右のことをし終えてから、全員で巨大な塚を盛り上げるのであるが、なるべく大きな塚にしようとわれがちに懸命になって築くのである。
 一年が経つとまた次のような儀式を行なう。故王に仕えた残りの侍臣のうち王に最も親しく仕えたもの(中略)五十人と最も優良な馬五十頭を絞殺し、臓腑を抜いて掃除したのちもみがらを詰めて縫い合せる。一方、車輪の輪縁を半分に切ったものを(輪縁を)下向きに二本の杭で留め、残りの半分の輪縁は別の二本の杭で留めるというふうにして、このようなものを多数地面に固定させる。それから馬の胴体に太い棒を頸のあたりまで縦に通し、これを輪縁にかける。前方の輪縁は馬の肩を受け、後方の輪縁は腿のあたりで馬の腹を支える。四肢はいずれも宙にぶらさがる。綱とくつばみを馬につけ、手綱は前方に引張って小杭に縛りつける。さて絞殺された五十人の青年の死骸をそれぞれこの馬に乗せるのであるが、あらかじめ一つ一つ遺骸の背骨に沿って真直ぐな棒を頸まで通しておいてから乗せる。そしてこの棒の下方に突き出した尖端を、馬に通してある別の棒の穴にはめ込むのである。このような騎乗の人間を墓のまわりに立ててから、一同は立ち去るのである。」

「この地方には、他の地方とは比較にならぬほど巨大でしかも多数の河川がある以外は格別珍しい事物もない。しかし河川と広大な平原以外に珍しいものといえば、次のようなものがある。スキュティアへゆくと岩に印された「ヘラクレスの足跡」なるものを見せられる。人間の足跡に似ているが、その長さは二ペキュスもあるのである。」



「巻五」より:

「トラウソイ族の風俗は、ほかのトラキア人と大体同じであるが、子供が生れたときと、人の死んだ時に、こんなことをする。子供が生れると、縁者のものがその子供のまわりに坐り、およそ人間の身に受ける不幸を全部数え上げ、この子供も生れたからには、こうした数々の苦労に遭わねばならぬのだと、歎き悲しむのである。ところが死亡の場合には、死んだものは数々の憂き世の労苦を免れて、至福の境地に入ったのだというので、嬉々として笑い戯れながら土に埋めるのである。」




こちらもご参照下さい:

『ヘロドトス 歴史 (上)』 松平千秋 訳 (岩波文庫)
『ヘロドトス 歴史 (下)』 松平千秋 訳 (岩波文庫)
小海永二 訳  『アンリ・ミショー全集 Ⅲ』 (全四巻)


























































































































『ヘロドトス 歴史 (上)』 松平千秋 訳 (岩波文庫)

「エジプトに棲息する動物は家畜となっているものとそうでないものとがあるが、すべて神聖視されている。」
「これらの動物のどれかを殺すようなことがあると、故意に殺した場合には罰は死刑、故意でない場合は、祭司の課した罰を償うのである。しかしイビスまたは鷹を殺した者は、故意であると否とにかかわらず、死罪を免れない。」

(ヘロドトス 『歴史』 より)


『ヘロドトス 
歴史 (上)』 
松平千秋 訳
 
岩波文庫 青/33-405-1

岩波書店
1971年12月16日 第1刷発行
1991年7月5日 第26刷発行
468p 別丁口絵(モノクロ)1葉
文庫判 並装 カバー
定価720円(本体699円)
カバー: 矢崎芳則



本書「はしがき」より:

「本書は(中略)ヘロドトス(前四八四ごろ―四三〇以後)の著作「歴史」の全訳である。」


HISTORIAE Herodotus


ヘロドトス 歴史 上 01


カバーそで文:

「ギリシア諸都市とペルシア帝国の争いは前五世紀、ついに両者の激突をむかえる。「歴史の父」ヘロドトスが物語るのは、このペルシア戦争を頂点とする東西抗争の歴史である。豊富に織りこまれた説話や風土習俗の記述は長巻を飽かず読ませる魅力をもつ。(全3冊)」


目次:

はしがき

巻一(クレイオの巻)
 序説
 伝説時代における東西の抗争
 リュディアの盛衰
  リュディアの古史(ギュゲスよりクロイソスに至る)
  クロイソス
   クロイソスとソロン
   クロイソスとアドラストス
   クロイソスと神託
   クロイソスとギリシア――アテナイ、スパルタの情況、スパルタとの同盟
   クロイソスとキュロスの対決
 ペルシアの興隆
  メディアの歴史とキュロスの生い立ち
  ペルシア、メディアより離反し覇権を掌握――ペルシアの風習
  ペルシアの小アジア征服
   小アジアのギリシア各市
   リュディアの反乱とその鎮圧
   ハルパゴスによる小アジア征服――ポカイア人の移住
  バビロン征服
   バビロンの都市の記述
   バビロンの占領
   バビロンの国土とその風習
  マッサゲタイ遠征
   国土の記述
   キュロスの親征とその死
   マッサゲタイの習俗

巻二(エウテルペの巻)
 カンビュセスのエジプト遠征
  エジプト遠征の発案
  エジプト記
   国土の記述
   下エジプト
   ナイル河
   エジプトの風習
    宗教
    聖なる動物
    生活様式
   エジプトの歴史
    最初の五代の王
    ピラミッド時代の諸王
   エチオピア人のエジプト支配――十二人の王――迷宮の記述
   プサンメティコスの統治とその後継者
   アマシス

巻三(タレイアの巻)
   カンビュセス、エジプトを攻略
   エチオピア人およびアンモン人への遠征とその挫折
   カンビュセスの乱心
  サモスとスパルタの抗争――ポリュクラテスの物語
  マゴス僧のペルシア王位簒奪――カンビュセスの死――七人の蹶起――ダレイオスの登位
 ダレイオスによる国内の整備と安定
  全王国を徴税区(ノモス)(サトラペイアに同じ)に区分。各徴税区の叙述
  インタプレネスおよびオロイテスのこと
  デモケデスの物語
  ダレイオスのサモス攻略――シュロソンのこと
  バビロンの反乱と鎮圧――ゾピュロスのこと

訳注
詳細目次
地図「ヘロドトスの世界」
ギリシアの度量衡



ヘロドトス 歴史 上 02



◆本書より◆


「巻二」より:

「死んだ猫はブバスティスの町の埋葬所へ運び、ここでミイラにして葬る。犬は持主が各自自分の町の墓地へ埋葬するのである。鼬(いたち)も犬と同じように葬る。野鼠と鷹はブトの町へ、イビスはヘルムポリスへ運んで葬る。熊はこの国では珍しく、狼は狐よりやや大きい程度のものであるが、これらの獣は死んでいた場所にそのまま葬る。」

「エジプトの富裕階級の者の催す宴会では、食事が終り酒宴に入ろうとする時、一人の男が木で人間の死骸にかたどったものを棺に入れて持ち廻る。この木製の死骸は、描き方といい彫り方といい、実物そっくりに作ってあり、背丈は一ペキュス乃至二ペキュスある。これを会食者の一人一人に示して、こういうのである。
 「これを見ながらせいぜい楽しく酒をお過し下さい。あなたも亡くなられたら、このような姿になられるのですからな。」
 エジプト人は宴席でこのようなことをするのである。」

「さてミイラ加工を職として開業し、専門的技術をもった職人がいるのである。職人たちは遺体が運び込まれてくると、絵具を用いて実物に似せた木製のミイラの見本を、運んできた者たちに出してみせる。その説明によれば、最も精巧な細工のものは、さる尊い姿(中略)を模したものであるといい、これよりも細工が雑で価格も安いのが二番目、そして三番目に最も値段の低廉なもの、というふうに見本が示される。ミイラ職人は右の説明をしてから、どの型でミイラを調製して欲しいかと、依頼者の希望を訊ねる。価格の折合いがつくと依頼者は引き上げ、職人は仕事場に残ってミイラ作りにかかるが、その最も精巧な細工は次のようにして行なわれる。
 先ず曲った刃物を用いて鼻孔から脳髄を摘出するのであるが、摘出には刃物を用いるだけでなく薬品も注入する。それから鋭利なエチオピア石で脇腹に添って切開して、臓腑を全部とり出し、とり出した臓腑は椰子油で洗い清め、その後さらに香料をすりつぶしたもので清めるのである。つづいてすりつぶした純粋な没薬と肉桂および乳香以外の香料を腹腔に詰め、縫い合わす。そうしてからこれを天然のソーダに漬けて七十日間置くのである。それ以上の期間は漬けておいてはならない。七十日が過ぎると、遺体を洗い、上質の麻布を裁って作った繃帯で全身をまき、その上からエジプト人が普通膠の代用にしているゴムを塗りつける、それから近親の者がミイラを受け取り、人型の木箱を造ってミイラをそれに収め、箱を封じてから葬室内の壁側に真直ぐに立てて安置するのである。
 以上が最も高価なミイラ調製の方法であるが、多額の出費を厭って、中級のものを希望する人の場合は、次のようにして作る。杉から採った油を注入器に満たすと、遺体の腹部一杯に注入する。腹部の切開もせず臓腑の摘出も行なわないのである。肛門から油を注入し逆流せぬようにとめてから、所定の日数だけソーダに漬けておき、七十日目になって先に注入した杉油を腹から流し出す。この油の効果は、腸やその他の内臓を溶解し自分と一緒に体外に排出してしまうことである。またソーダは肉を溶解してしまうので、後には皮膚と骨だけが残るのである。右の操作が済むと、職人はあとはもう何も手を加えず、そのまま遺体を引き渡すのである。
 最も財力の乏しい者の場合に用いるミイラ調製の方法とは、下剤を用いて腸内を洗滌した上で七十日間ソーダ漬けにし、それから引き渡すのである。
 名士の夫人が死亡した時は、すぐにはミイラ調製には出さない。特に美貌の女性や著名な婦人の場合も同様である。死後四日目または五日目にようやくミイラ職人の手に渡すのである。このようなことをするのは、ミイラ職人がこれらの女性を犯すのを防ぐためで、現にある職人が死亡したばかりの女性の遺体を犯している現場を、同業者の密告によっておさえられたという話がある。」

「人民に対して仁慈の心あつく、またひたすらにそのことを心がけたミュケリノスであったが、彼の身にふりかかった最初の不幸は、彼にはかけがえのない一人娘の死であった。わが身に起った不幸に身も世もあらぬ悲しみに暮れたミュケリノスは、せめて娘の葬いを他人の真似のできぬようなものにしたいと考え、中を空ろにした木製の牛を作り金箔を張り、その中に死んだ娘の遺骸をおさめたという。
 さてこの木製の牛は地中には埋められず、サイスの町にある王宮内の、美々しく飾られた一室に安置されて、私の時代にもまだ見ることができた。昼は一日中、その側でさまざまな香をたき、夜は毎晩その傍に燈明を点(とも)して終夜絶やすことがない。この牛の置かれている近くの別室には、いくつもの像が据えてあるが、サイスの祭司たちの話では、これはミュケリノスの側妾たちの像であるという。これは巨大な木像で、数はおよそ二十、裸女の姿を写した像である。しかし私はその一人一人の名を挙げることはできない。ここにはただ私が聞いたところだけを記すのみである。
 この牛と巨大な木像について、次のような話を伝えているものもある。ミュケリノスは自分の娘に恋慕して、無理矢理に犯してしまった。その後娘は悲歎の余り縊死し、ミュケリノスは娘をこの牛の中に葬ったが、娘の母親は娘を父の手に渡した侍女たちの腕を切り落した。それで今も彼女らの像が、生前と同じように腕がないのだというのである。私の見るところでは、この話は全くの譫言(たわごと)で、ことに巨像の腕についての話はでたらめである。像が腕を失ったのは、長年月の間に腐朽したためであることは、私も目(ま)のあたり確かめたところで、現にその腕は私の時代まで像の足許に落ちているのがよく見えていたのである。」





こちらもご参照下さい:

『ヘロドトス 歴史 (中)』 松平千秋 訳 (岩波文庫)
小海永二 訳  『アンリ・ミショー全集 Ⅰ』 (全四巻)























































































パウサニアス 『ギリシア案内記 (下)』 馬場恵二 訳 (岩波文庫)

「至聖所への入場も一般の者は駄目で、ただ、イシス女神みずからが抜擢して、その人の夢枕に立ち、招き給うた者たちだけが入場を許されたのである。」
(パウサニアス 『ギリシア案内記』 より)


パウサニアス 
『ギリシア案内記 
(下)』 
馬場恵二 訳
 
岩波文庫 青/33-460-2 

岩波書店
1992年2月17日 第1刷発行
441p
文庫判 並装 カバー
定価720円(本体699円)



本書「凡例」より:

「下巻には『ギリシア案内記』全十巻のうち、第二巻「コリント、アルゴリス」と第一〇巻「フォキス」を収録する。」


ΠΑΥΣΑΝΙΟΥ EΛΛAΔΟΣ ΠΕΡΙΗΓΗΣΙΣ
本文中訳者撮影写真図版(モノクロ)24点、その他図版3点。


パウサニアス ギリシア案内記 下


カバー文:

「2世紀に書かれた古代ギリシア旅行案内書。本書では、コリントを振り出しにアルゴリス地方(原書第2巻)、フォキス地方(同第10巻)を案内、コリントでは王女メデイアの古伝を語り、ミケネ遺跡では獅子門をくぐりアガメムノンの墓を訪ねる。同遺跡はその1700年後、本書に導かれたシュリーマンによって発掘されることになる。」


目次:

凡例

第二巻 コリント、アルゴリス
 コリントの名称由来と現状
 コリント地峡(イストモス)
 ポセイドンの聖所
 外港レカイオンとケンクレアイ
 コリント市へ
 コリント市内(一)
 メデイア伝説
 コリント市内(二)
 コリント歴代の王
 コリント市内(三)
 アクロコリント
 河神アソポスの伝説
 テネア
 コリントからシキュオンへ
 シキュオンの建国伝説
 シキュオン衰微の現状
 シキュオン領に入る
 シキュオンのアクロポリス
 シキュオンの下町
 アラトス半神廟とアラトス伝
 スパルタ王クレオメネス三世
 フィリポス五世とアラトスの死
 シキュオン市内(広場の辺り)
 ヘラクレスの聖所
 アスクレピエイオン
 アフロディテの聖所
 アルテミス・フェライアの聖所と体育所
 シキュオンの「聖門」の辺り
 シキュオン郊外のピュライア
 シキュオンからティタネへ
 シキュオンの港と沿岸地帯
 フリウス建国伝説
 フリウスとヘラクレイダイ一門
 フリウスの古跡
 フリウス郊外ケレアイの秘儀
 クレオナイ
 ネメア村
 アルゴス建国伝説
 アルゴス歴代の王たち
 ペルセウスのミケネ建設伝説
 ミケネ破壊と古代遺跡
 ヘライオン(ヘラ神殿)
 ミケネからアルゴス市門まで
 アルゴスの三王家
 ヘラクレイダイ一門の帰還
 アルゴス王テメノス
 アルゴスにおける王権の縮小
 アルゴス市内の名所
 広場とその近辺
 広場からキュララビス体育所へ
 アルゴス市内北西部
 アルゴス市内の他の名所
 アクロポリス「ラリサ」とその近辺
 アルゴス・テゲア街道
 デイラス門からオイノエへ
 デイラス門からリュルケイア、オルネアイへ
 アルゴス市から東へ(ティリュンスほか)
 エピダウロス建国伝説
 アスクレピオス出生譚
 アスクレピオスの聖なる杜
 エピダウロス特別種の蛇
 エピダウロスへの道中
 エピダウロス市内
 アイギナ島古代伝承
 アイギナの台頭
 アイギナ港付近の神殿・聖所
 アファイア伝説
 ゼウス・パンヘレニオスの聖所
 トロイゼン古史の伝承
 トロイゼン市内
 ヒポリュトスの聖域(市外西郊)
 トロイゼンのアクロポリスとその北東麓
 トロイゼン・ヘルミオネの山道
 トロイゼンの市外東郊から港まで
 トロイゼン領の島(一)「聖島ヒエラ」
 トロイゼン領の島(二)カラウレイア
 ハルパロス事件とデモステネスの死
 半島の町メタナ(市内と周辺)
 メタナ農業祭祀の奇習
 ヘルミオネ古史の伝承
 再度トロイゼン・ヘルミオネの山道
 スキュライオン岬の伝説
 ヘルミオネ沿岸の船旅
 ヘルミオネの半島と旧市の聖所など
 ヘルミオネ新市
 プロン山のデメテル聖所とクトニア祭
 廃市ハリケとコキュギオン山の聖所
 マセスから北辺国境へ
 再度アルゴス領(アシネの廃墟)
 アルゴス市から南のレルナへ
 レルナの聖なる杜
 レルナイア祭秘儀の年代考証
 レルナのヒュドラ(水蛇)
 底なし湖アルキュオニア
 レルナからふたたび北へ(テメニオン)
 ナウプリア(カナトスの泉)
 レルナの南(ゲネシオンとその近辺)
 テュレアの古戦場から内陸国境地帯へ

第一〇巻 フォキス
 フォキス史
 パノペウス
 ダウリス
 ダウリスからデルフォイまで
 デルフォイ託宣所の古伝
 アポロン神殿の古伝
 デルフォイ市の古伝
 ピュティア競技会の歴史
 隣保同盟
 アテナ・プロノイアの聖所
 体育所とカスタリアの泉
 アポロン聖所の景観
 奉納品解説の原則
 アポロン聖所の入口。コルキュラ市の奉納品
 テゲア市の奉納品
 スパルタの奉納品
 アルゴス市奉納の「トロイアの木馬」
 アテネのマラトン戦勝感謝の奉納
 アルゴス市奉納の「テーベ攻めの七将」ほか
 タラス市の奉納品
 シキュオン人の宝庫
 シフノス人の宝庫
 リパラ市の奉納品
 その他の宝庫
 アテネ人奉納の列柱館
 女予言者シビュラ
 パイオニア王奉納の野牛頭部銅像
 付近のその他の奉納品
 ヘラクレスとアポロンの鼎争奪合戦
 プラタイアイ合戦の勝利感謝奉納ほか
 大祭壇近辺の奉納品
 サルド(サルデニャ)島とコルシカ島
 その他の奉納品
 アポロンの神殿
 ガラタイ族のギリシア侵攻
 アポロン神殿の内陣前廊
 アポロン神殿内陣
 ネオプトレモスの聖域
 ポリュグノトス筆のレスケの絵画(一)
 ポリュグノトス筆のレスケの絵画(二)
 劇場と競技場
 コリュキオン洞窟
 ティトレア
 アスクレピオスの神殿
 イシス女神の聖所
 ティトレア産のオリーヴ油
 レドン
 リライア
 カラドラ
 ケフィソス川の流域
 ティトロニオン
 ドリュマイア
 エラテイア
 アテナ・クラナイアの聖所
 アバイ
 ヒュアンポリス
 スティリス
 アンブロソス
 アンティキュラ
 ブウリス
 キラ
 ロクリス・オゾリス人の名称由来
 アンフィサ
 ミュオニア
 オイアンテイア
 ナウパクトス
 
訳注
参考文献
訳者あとがき

付図
 コリント、アルゴリス地方図
 フォキス地方図
 コリント――広場(アゴラ)とその周辺
 エピダウロスのアスクレピオスの聖所
 デルフォイのアポロンの聖所




◆本書より◆


「アスクレピエイオン」より:

「そこから道がアスクレピオスの聖所に通じている。囲壁をめぐらされた境内に足を踏み入れると左手に、二部屋に仕切られた建物が建っている。手前の部屋には「眠り(ヒュプノス)」の像が安置されているが、頭部を除いてほかには何も残っていない。奥のほうの部屋はアポロン・カルネイオスに捧げられていて、この一室への立ち入りは神官たちを除いて何びとにも許されていない。列柱館には海の怪獣、鯨(ケトス)の巨大な骨が置かれていて、そのつぎは「夢(オネイロス)」の像、そして獅子を寝かしつける「眠り(ヒュプノス)」の像となっている。このヒュプノス像は渾名を「大盤振舞いの神(エピドテス)」という。」


「広場とその近辺」より:

「アルゴスの広場中央の建造物からそう遠くはないところに土盛りがあって、その中にはゴルゴなるメドゥサの首が埋まっていると伝わっている。だが神話の霧を払えば、彼女について語られていることはつまりこうなのだ。彼女はフォルコスの娘であって、父親が死ぬとトリトニス湖周辺に住む者たちの女王となって、狩猟にも出れば、リビュア人を率いて合戦の指揮も執った。だが、ペロポネソス選り抜きの精鋭部隊が従軍していたペルセウスの軍勢と対峙していたとき、夜陰にまぎれて暗殺されてしまった。ペルセウスは遺体になお残る彼女の美貌に感嘆のあまり、彼女の首を切り取って、ギリシア人に見せるために持ち帰ったという次第なのだ。
 しかしカルタゴの人でエウクラテスの子のプロクレスはもうひとつ別の、つぎの話のほうが先のものより信憑性があるとしていた。リビュアの砂漠には聞いても信じられないような獣がいろいろ棲息しているが、なかでも野生人間というのが男も女もいて、プロクレスが語って言うには、そのうちのひとりの男がローマに運ばれていくのを見たことがあるという。そこで彼は憶測するわけだが、連中のなかのひとりの女がさ迷い出て、トリトニス湖あたりまでやって来ては周辺の地元住民に乱暴を働いていたが、ついにペルセウスが彼女を退治した。そのさいアテナ女神が彼の壮挙に手を貸し給うたと思われる。」



「アクロポリス「ラリサ」とその近辺」より:

「ラリサの頂上には、添え名をラリサイオスというゼウスの神殿が建っているが、屋根は落ちている。木彫の祭神像はもはや台座には立っていない。(中略)ここに安置されている奉納品のなかではとくにゼウスの木彫像が一見に値し、そのふたつの目は普通の自然な場所にあるのだが、額に第三の目がついている。」


「アファイア伝説」より:

「さて、アイギナ島においてゼウス・パンヘレニオスの山に向かう、その途中にアファイアの聖所があり、このアファイアに関する詩をピンダロスがアイギナのために作っている。だがクレタ島の人たちの主張では(中略)、ピュトン(デルフォイの大蛇)殺しの穢れからアポロンを清めたカルマノルの息子にエウブウロスなる者がいて、そのエウブウロスの娘のカルメとゼウスとのあいだにブリトマルティスという女の子が生まれた。彼女は走ったり狩りをするのを楽しむ女の子で、アルテミス最愛の友であった。ところが、彼女を恋したミノスの手を逃れて、魚の捕獲用に放置されていた網(ディクテュア)のなかに身を投げてしまったという。(中略)アイギナにおける同女神の添え名はアファイアといい、クレタでは「漁網の女神(ディクテュンナ)」という。」


「パノペウス」より:

「パノペウスの街道筋に日干し煉瓦造りの大きくはない建物があって、堂内のペンテリコン大理石の祭神像はアスクレピオスとされているが、いやプロメテウスだと主張する人たちがいて、その論拠とする証拠なるものさえ指摘する。すなわち、そこの水無し川(カラドラ)の河床の縁(へり)に石が(ふたつ)でん とあって、大きさは両方ともそれぞれを運ぶのに荷車一台で充分間に合う程度。色は粘土色だが、粘土と言っても泥土混じりのものではなく、カラドラとか砂地質のケイマロスの河床にできるような粘土。そして彼らが最大の確証として指摘するのは人間の体臭であって、これらはすべて、プロメテウスが粘土を練り上げて全人類をこしらえた、その粘土の余った残りなのだと説いている。」


「イシス女神の聖所」より:

「アスクレピオスの聖所から四〇スタディオンほど離れて、イシス女神の「聖なる囲い地(ペリボロス)と「立ち入り御法度の至聖所(アデュトン・ヒエロン)」があり、これはギリシア人がエジプトの同女神のために建立した数ある聖所のなかでも、もっとも神聖な聖所である。ティトレア住民の仕来りでは同所周辺の居住は許されず、立ち入り御法度の至聖所への入場も一般の者は駄目で、ただ、イシス女神みずからが抜擢して、その人の夢枕に立ち、招き給うた者たちだけが入場を許されたのである。これと同じことはマイアンドロス川上手(かみて)の諸都市においても地下神系の神々が行なっていて、至聖所入場を許してやってよいと神々が望んだその者たちのところに、神々は夢の幻を送り給うのである。」




こちらもご参照下さい:

パウサニアス 『ギリシア案内記 (上)』 馬場恵二 訳 (岩波文庫)
『エリュトゥラー海案内記』 村川堅太郎 訳註 (中公文庫)

































































































































プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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