山宮允 訳 『イエイツ詩抄』 (岩波文庫)

「長き斑(まだら)の草葉の中をあゆみて、
この世のかぎり摘まなむ、
月の銀の林檎を、
陽(ひ)の金の林檎を。」

(イエイツ 「さすらひのインガスが歌」 より)


山宮允 訳 『イエイツ詩抄』 
岩波文庫 赤 32-251-1

岩波書店 1946年11月10日第1刷発行
/1988年10月6日第2刷発行
166p 文庫判 並装 定価350円



山宮允(さんぐう・まこと)によるW・B・イエイツ訳詩集。

本書「あとがき」より:

「イエイツの抒情小詩五十二篇の邦訳に小註とイエイツに関する文章二篇を添へて本書を編んだ。」


イエイツ詩抄


目次:

『やちまた』 より
 牧人懐古
 牧人哀歌
 被衣(かつぎ)と小舟と靴と
 神の歌
 木の葉の秋
 蜉蝣(かげろふ)
 スルース・ウードの岩の山
 みづうみの島に
 古謡再誦
 漁夫(れふし)のおもひ
『薔薇(うばら)の巻』 より
 此世の薔薇(うばら)
 平和の薔薇(うばら)
 妖精の歌
 イニスフリイの湖島
 戀の悲哀(あはれ)
 君年老いて
 白き鳥
 雙樹
 夢
『蘆間の風』 より
 群れ飛ぶ妖精(シイ)
 久遠の美音(よきね)
 こころ
 心の薔薇(うばら)
 魚
 黄昏(たそがれ)に
 さすらひのインガスが歌
 老母の歌
 女ごころ
 戀人のなげき
 柄杓鴫にかこつ
 忘られし美を憶ふ
 詩人より戀人に
 戀人に詩をささぐ
 心に寄せて、恐るる勿れといふ
 風の音
 舊友
 もしわれに
 ドウニの胡弓ひき
『七つの森』 より
 我聞きぬ
 長くな戀ひそ
『緑の兜そのほか』 より
 酒の歌
 時と偕に智慧はきたる
 ある詩人に寄せて
『責任』 より
 上衣
『クール湖上の白鳥』 より
 クール湖上の白鳥
 人は年と偕に進む
 學者達
 少女に
『塔(あららぎ)』 より
 輪廻(りんね)
 昔と今
『廻梯(まはりはしご)そのほか』 より
 死
 十九世紀及びそののち
小註

附録
 イエイツ評傳
 詩人イエイツに見ゆるの記
小註

あとがき




◆本書より◆


「イニスフリイの湖島」:

「いざ立ち行かむ、行かむイニスフリイに、
粘土(つち)と簀垣(すがき)の小(ち)さき庵(いほり)をそこに結ばむ。
そこに九畝(こゝのうね)豌豆(まめ)をうゑ、一凾の蜜蜂(はち)を飼ひ
たゞひとり棲(すま)はむ蜜蜂(はち)うなる林間(このま)に。

かくて我そこにそこばくの靖和(やすらぎ)を得む、すなはち靖和は静に雫し、
雫して落つ朝霧の罩(こ)むるほとりゆ蟋蟀の歌ふあたりへ、
そこは夜半(さよなか)微光(うすあかり)匂ひおぼめき、晝は赤光(しやくくわう)耀きわたり、
さてまた夕(ゆうべ)は紅雀(べにすずめ)あまた翔(と)びかふ。

いざ立ち行かむ、夜も日も別(わ)かずをやみなく
我は聞く湖の水ひたひたと岸打つ低き音、
道の央(まなか)に立つ時も、また灰色の舗石(しきいし)の上に立つ時も
我は聞くそをば心の奥ふかく。」



「我聞きぬ」:

「我聞きぬ老人達(としよりたち)の云ふことを、
『ものみな變(かは)り、
追ひ追ひに我等は死にゆく。』
彼等には鍵爪(つめ)なす手あり、かつその膝は
水際(みぎは)なる
荊(いばら)の如く縒(よ)れてありき。
我聞きぬ老人達の云ふことを、
『美しきものはみな水の如くに
流れ去る。』」


















































































スポンサーサイト

W・B・イェイツ 『神秘の薔薇』 (井村君江+大久保直幹 訳) 新装版

「……この腐敗した世界……」
(W・B・イェイツ 「薔薇のために」 より)


W・B・イェイツ 『神秘の薔薇』 
井村君江+大久保直幹 訳


国書刊行会 1994年6月20日新装版第1刷発行
358p 四六判 丸背紙装上製本 カバー
定価2,700円(本体2,621円)
装幀: 妹尾浩也

「本書は一九八〇年三月、「世界幻想文学大系」第二四巻として刊行された。」



本書「W・B・イェイツ――人と作品」より:

「本書には、『ケルトの薄明(The Celtic Twilight)』(一八九三年)、『神秘の薔薇(The Secret Rose)』(一八九七年)、『錬金術の薔薇、掟の銘板、三博士の礼拝(Rosa Alchemica, The Tables of the Law and The Adoration of the Magi)』(一八九七年)、『月の沈黙(しじま)を友として(Per Amica Silentia Lunae)』(一九一七年)といったイェイツの幻想風の散文を翻訳したが(『ケルトの薄明』は抄訳)、現在これらの作品はマクミラン社発行の『神話(Mythologies)』(一九五九年)に収録されていて、本書の翻訳もこの版に依っている。」


神秘の薔薇1


帯文:

「ケルトの魂、神秘なるものへの憧憬
イェイツの幻想文学、集大成!」



帯背:

「神秘と象徴」


目次:

ケルトの薄明(抄) (大久保直幹 訳)
 幻想を見る人
 村の幽霊
 妖術師
 女王よ、小人の女王よ、来たれ
 魔法の森
 人さらい
 ドラムクリフとロセス
 宝石を食うもの
 幽霊や妖精の性質を歪めてしまったことに対するスコットランド人への抗議
 妖精と友達になった人々
 天真爛漫な夢
 薄明の中へ

神秘の薔薇 (井村君江+大久保直幹 訳)
 神秘の薔薇に
 流れ者のはりつけ
 薔薇のために
 王の知恵
 若さの秘密
 炎と影の呪い
 何もない所に神様がいらっしゃる
 黄昏の老人達
 誇り高きコステロとマクダーモットの娘と嘲りの声

錬金術の薔薇、掟の銘板、三博士の礼拝 (井村君江+大久保直幹 訳)
 錬金術の薔薇
 掟の銘板
 三博士の礼拝

月の沈黙を友として (大久保直幹 訳)
 序詞
 我は汝の主なり
 人間の霊魂
 世界霊魂
 エピローグ

W・B・イェイツ――人と作品 (大久保直幹)



神秘の薔薇2



◆本書より◆


「村の幽霊」より:

「家に憑く幽霊は、普通は無害で好意的である。人々は、その幽霊に出来るだけ長く家に泊ってもらうのである。この幽霊は、自分の居る家の人々に幸運をもたらすのだ。わたしは、一つの小さな部屋で母親や幾人かの兄弟姉妹と一緒に寝ているという二人の子供のことを想い出す。その部屋には幽霊も居たのであった。その子らはダブリンの街でにしんを売っていたが、家に幽霊がいても平気であった。自分達の寝る部屋に幽霊が「憑いている」間は、いつも魚が楽に売れることを彼らは知っていたからである。」


「薔薇のために」より:

「「わしはこの地から遥かに離れた国のもので、聖ヨハネ騎士団の一員だった」とこの年老いた男は言った、「(中略)ある時、待ちに待ったパレスティナの騎士が、神御自身からじかに啓示された、真実のなかの真実をたずさえて、わしたちの許にやって来た。その騎士は、『炎の薔薇』を見ており、薔薇から聞えてきた御声はこう告げたという――人間は己れの心の光から顔をそむけ、外界の秩序と定ったものの前に、屈したのであり、またその光が絶えたのち、考える力のない愚かな善人と、考えようとしない依怙地な悪人を除いては、その呪いをまぬがれる者は、一人もいないということ。すでに、と御声は語りつづけた、その消えやすい心の光は、この世に生気を与えるよう、ほの明るい光で地上を照らしていたが、その光が薄れてからは、何か得体の知れぬ病毒が、星をも丘をも草や木をも侵して、腐敗を生じさせていること、そして、真実と古代のあり方をはっきり知ってもなおこの腐敗した世界にあえて止ろうとするものは、『薔薇の内奥(ハート)』にある神の国へは、決っして入ってゆけず、したがって、そういう者たちは薔薇に住む神に身を捧げて、息絶えることによって、腐敗の元凶にたいする怒りを持っていることを証明せねばならぬのだ、ということを。」


「三博士の礼拝」より:

「突然、二番目の年配の老人が雄鶏の啼くような声を上げ、やがて部屋がその啼き声で揺れ動くような感じになった。ベッドの女はそれでもなお死んだように眠り続けていたが、枕辺に坐っていた女は十字を切りながら、真蒼になっていた。一番年下の老人が叫んだ。「悪魔が彼に乗り移ったのだ。逃げないと、我々にも乗り移るぞ。」二人の老人が立ち上がる間もなく、啼き声を上げていた老人の口から、歌うような、反響する声が聞えてきた。
「わたしは悪魔ではない。死者を牧するヘルメスなのだ。わたしは神々の使い走りをするのだ。お前達が聞いたのは、わたしの合図だったのだ。そこに寝ている女は、お産をしたのだ。その女が産んだものは一角獣の姿をしていて、冷たく、固く、純真無垢で、あらゆる生き物のうちで一番人間に似ていないのだ。それは踊りながら生れてきたらしい。そして殆ど生れた途端に部屋から出て行ってしまった。生の儚さを悟ることが一角獣の性(さが)であるからだ。(中略)お前達はよく耳を傾けて聴き、それが捧ぜねばならぬ御名を知るがよい。」他の二人の老人はいずれも口をきかず、当然戸惑いながら、喋っている老人を見ていた。声がまた聞え始めた。「古代の神々が今日の事態を覆えし、在りし日の有様をもたらそうとする時、神々を助けるのは、今日の事態によって追放された者を除いて他にはいないのだ。頭を下げるのだ、低く、ひれ伏すほどに。神々は、心の中にあらゆる淫らな悪が集まり、その肉体にはあらゆる欲望が目覚めているこの女を選んだのだ。『時』から放逐され、『永劫』の胸に抱かれたこの女を。」」



「月の沈黙を友として」より:

「過去の優れた詩人を誰でも思い浮かべるとき(中略)、その詩人の実生活の輪郭を知っていると、その作品が、その人間の運命を支配する天宮からの逃走であり、持って生れた星の網の中での闇雲(やみくも)なもがきであることが理解できる。ウィリアム・モリスは、幸福で、多忙で、非常に短気な人であったが、その時代の誰にも増して、懶惰な詩神(ミューズ)に付き随い、くすんだ色や憂いに沈んだ情緒を描き出したのであった。また、サヴェージ・ランドーは筆(ペン)を執ると、誰にもまさる穏やかな崇高さを表すのであったが、筆を置いたときには、常日頃、誰にも増して、激しい感情が荒れ狂うのであった。」

「誰にも増して尊大なヴィリエ・ド・リラダンは世を去ったばかりだった。僕は彼の『アクセル』を、聖典を読むように、ゆっくりと苦心して読んだ――僕のフランス語は甚だ心もとないものだった――そしてその舞台を観て喝采した。(中略)「確かにあのランプ、あれはソロモンの前で燃えていたのだ」とアクセルが叫ぶ刹那、あるいはまた「生きる、そんなことは下僕共が代ってやってくれる」と叫ぶ刹那を、僕ははっきりと見定めたかったのだ。」







































































W・B・イエイツ 『ケルト幻想物語集 II アイルランド各地方の妖精譚と民話 下』 (井村君江 訳/妖精文庫)

「暮らし向きは楽なのに、若い時ですら〈妖精学者(フェアリー・ドクター)〉は決して妻をめとろうとはしなかったし、女性を愛することもなかった。学者(ドクター)は実生活からまったくかけ離れたところにいて、そのために秘密を支配する力を持っている。」
(ワイルド夫人/W・B・イエイツ 『アイルランド各地方の妖精譚と民話』 より)


W・B・イエイツ 
『ケルト幻想物語集 II 
アイルランド各地方の妖精譚と民話 下』 
井村君江 訳

妖精文庫 ⑩

月刊ペン社 昭和53年3月20日
287p 四六判 丸背紙装上製本 カバー 定価1,300円
装幀: 秋山道男



『ケルト幻想物語集 III』「あとがき」より:

「この翻訳本三巻に亘る『ケルト幻想物語集』(中略)には、W・B・イエイツの編纂した二冊の本『アイルランド各地方の妖精譚と民話』(Fairy and Folk Tales of The Irish Peasantry 1888)と『アイルランドの妖精譚』(Irish Fairy Tales 1892)を全篇収録した。これらは過去二百年にわたってアイルランド各地方に残っていた民間伝承物語を、イエイツ自身及び多くの優れた文学者たちが採集して、ゲール語より英語に直し発表したものの中から、イエイツが選択して編集したものである。」


ケルト幻想物語集5


目次:

魔女(ウィッチ)、妖精学者(フェアリー・ドクター)
 魔法にかかったバター(ドニゴール地方) (レティシア・マクリントック嬢)
 クイーンズ地方の魔女(ウィッチ)
 魔女(ウィッチ)うさぎ (S・C・ホール夫妻)
 魔法にかかったバター(クイーンズ地方)
 角の生えた女 (ワイルド夫人)
 魔女(ウィッチ)の遠出 (パトリック・ケネディ)
 トム・バークの告白 (T・クロフトン・クローカー)
 魔法のかかったプディング (ウィリアム・カールトン)
常若の国(チル・ナ・ヌオグ)
 オドノフー伝説 (クロフトン・クローカー)
 支払い日
 レー湖(ルッフ)(病いを治す湖)
 ハイ・ブラゼル――至福の島 (詩) (ジェラルド・グリフィン)
 幽霊島 (ジラルダス・キャンブレンシス)
聖者、司祭
 司祭の魂 (ワイルド夫人)
 クルーニイの神父 (詩) (W・B・イエイツ)
 小鳥の話 (クロフトン・クローカー)
 レイル王の娘の改心
 オトゥール王とその鵞鳥 (S・ラヴアー)
悪魔
 魔物猫(デーモン・キャット) (ワイルド夫人)
 悪魔との賭け (パトリック・ケネディ)
 キャスリーン・オシェー伯爵夫人
 三つの願いごと (W・カールトン)
巨人
 巨人の階段 (T・クロフトン・クローカー)
 ノックマニーの伝説 (ウィリアム・カールトン)
王様、王妃様、王女様、王子様、盗人などの話
 十二羽の鵞鳥 (パトリック・ケネディ)
 怠け者の美しい娘とその叔母たち (パトリック・ケネディ)
 高慢な王女 (パトリック・ケネディ)
 ギャロイ・イエルラの魔法 (パトリック・ケネディ)
 ムナハとマナハ (ダグラス・ハイド訳)
 ドナルドとその隣人たち (サッカレーが、彼の「アイルランドのスケッチ・ブック」の中で述べている、呼び売り本(チャップ・ブック)の一冊、「ハイバーニアン・テイルズ」(「アイルランドの物語集」)より)
 小がらす
 コン・エーダの物語またはエルン湖(ルッフ)の金の林檎 (ニコラス・オカーニ訳/語り手エイブラハム・マッコイのアイルランド語の原話より)




ケルト幻想物語集6



本書「魔女、妖精学者」より:

「最もよく人に知られた妖精学者(フェアリー・ドクター)は、時として妖精たちに愛され、妖精の国(フェアリー・ランド)に連れ去られて、七年もそこにとどめておかれた人々である。しかし妖精に愛された者が、いつも連れていかれるとは限らない――こうした人々は黙りこくって人目を避けるようになり、静かなところをひとりさ迷うのを好むようになる。妖精に愛された人々は、後に大詩人になったり、音楽家になったり、また妖精学者(フェアリー・ドクター)になったりする。」

「ワイルド夫人はイニス・サークに住んでいたというある学者(ドクター)についてこう書いている。『彼は一生涯、ビールにも酒にも肉にも手を触れず、パンと果物だけを食べていた。実際に彼を知っていた人がこう言っている。『夏も冬も同じ服を着ていた』いつもフランネルのシャツと上衣に決まっていた。宴会に出ても並べられている酒やご馳走には決して手をつけない。それに英語を話さないし、敵を呪うのに非常に効力のあることばだと言いながら、どうしても英語を覚えようとはしない。」
「『暮らし向きは楽なのに、若い時ですら〈妖精学者(フェアリー・ドクター)〉は決して妻をめとろうとはしなかったし、女性を愛することもなかった。学者(ドクター)は実生活からまったくかけ離れたところにいて、そのために秘密を支配する力を持っている。金をやってそうした知識を得ようとしても無駄なことで、それは知識を売れば雷に打たれて死ぬ――こう信じているからである。(中略)彼は死ぬ前に魔力の秘法を明かすが、死の手がしっかりと彼を掴むまでは明かそうとはしない』」



怠け者を戒める教訓話がいくつか収録されていますが、「ムナハとマナハ」は、働き者のムナハが摘んだ木イチゴの実を怠け者のマナハが片端から食べてしまうので、ムナハがマナハを厄介払いしようと考えて、マナハの首をくくるひもを作る柳の枝を捜しに行きますが、枝を切るには斧を、斧を研ぐには砥石を、さらに砥石を濡らす水を捜さねばならず、そうやって奔走しているあいだに、「マナハはもうずっと遠くまで逃げてしまった」という話です。


原文(sacred-texts.com):
Fairy and Folk Tales of the Irish Peasantry
Edited and Selected by W. B. Yeats








































































W・B・イエイツ 『ケルト幻想物語集 I アイルランド各地方の妖精譚と民話 上』 (井村君江 訳/妖精文庫)

「たくさんの神を信じるということは、ぜんぜん信じなかったり、神はただ一人だと思うことより、ずっとはるかにいいことである。」
(W・B・イエイツ 『アイルランド各地方の妖精譚と民話』 より)


W・B・イエイツ 
『ケルト幻想物語集 I 
アイルランド各地方の妖精譚と民話 上』 
井村君江 訳

妖精文庫 ⑨

月刊ペン社 昭和53年3月20日初版発行/昭和57年4月5日3版発行
247p 口絵4p(うちカラー2p)
四六判 丸背紙装上製本 カバー 定価1,200円
装幀: 秋山道男
カバー・イラスト: リチャード・ドイル
コラージュ・着色: 秋山道男

妖精文庫月報⑧ 4p
妖精画廊: リチャード・ダッド絵 “The Fairy Feller's Masterstroke”
妖精郷だより: 〈イエイツ案内〉II (荒俣宏)



『ケルト幻想物語集 III』「あとがき」より:

「この翻訳本三巻に亘る『ケルト幻想物語集』(中略)には、W・B・イエイツの編纂した二冊の本『アイルランド各地方の妖精譚と民話』(Fairy and Folk Tales of The Irish Peasantry 1888)と『アイルランドの妖精譚』(Irish Fairy Tales 1892)を全篇収録した。これらは過去二百年にわたってアイルランド各地方に残っていた民間伝承物語を、イエイツ自身及び多くの優れた文学者たちが採集して、ゲール語より英語に直し発表したものの中から、イエイツが選択して編集したものである。」


ケルト幻想物語集3


帯文:

「ケルト民族の夢のエッセンス!!
群れをなす妖精たち、ひとり暮らしの妖精たち、取り替え子、海の精・メロウ など、いまもアイルランドの人々の生活の一部をなす妖精物語を分類・集大成した 詩人W・B・イエイツの労作。」



目次:

序文
群れをなす妖精たち
 妖精 (詩) (ウィリアム・アリンガム)
 フランク・マーティンと妖精たち (ウィリアム・カールトン)
 牧師の晩餐 (T・クロフトン・クローカー)
 ラグナニの妖精の泉(フェアリー・ウエル) (詩) (サミュエル・ファーガスン)
 タイグ・オケイン(タイグ・オ・カハーン)と死体 (英文はダグラス・ハイドによるアイルランド語からの逐語訳)
 パディー・コーコランの女房 (ウィリアム・カールトン)
 クシーン・ルー (詩) (原文はJ・J・カラナンによるアイルランド語からの翻訳)
 白い鱒――コングの伝説 (S・ラヴァー)
 妖精の茨(フェアリー・ソーン) (詩) (アルスター地方の民謡 サミュエル・ファーガスン卿)
 ノックグラフトンの伝説 (T・クロフトン・クローカー)
 ドニゴール地方の妖精 (レティシア・マクリントック)
取り替え子(チェンジリング)
 卵の殻の醸造 (T・クロウhトン・クローカー)
 妖精の乳母 (詩) (エドワード・ウォルシュ)
 ジェミー・フリールと若い娘――ドニゴールの物語 (レティシア・マクリントック)
 盗まれた子供 (詩) (W・B・イエイツ)
 メロウ
 魂の籠 (クロフトン・クローカー)
 フローリイ・キャンティロンの葬式 (クロフトン・クローカー)
ひとり暮しの妖精たち
 レプラコーン、クラリコーン、ファー・ダリッグ
 レプラコーン 妖精の靴屋 (詩) (ウィリアム・アリンガム)
 主人と家来 (T・クロフトン・クローカー)
 ドニゴールのファー・ダリッグ (レティシア・マクリントック嬢)
 プーカ族
 笛吹きとプーカ (「『シュゲーリヨホタの書』のアイルランド語からの翻訳」) (ダグラス・ハイド)
 ダニエル・オロールク (T・クロフトン・クローカー)
 キルディア・プーカ (パトリック・ケネディ)
 バンシー
 トーマス・コノリーがバンシーに会ったいきさつ (J・トドハンター)
 嘆きの歌 (詩) (クラレンス・マンガン訳)
 マック・カーシー家のバンシー (T・クロフトン・クローカー)
幽霊
 夢 (詩) (ウィリアム・アリンガム)
 グレース・カナー (レティシア・マクリントック)
 ティロンの伝説 (詩) (エレン・オレアリー)
 黒い子羊 (ワイルド夫人)
 幽霊の歌 (詩) (アルフレッド・パーシヴァル・グレイヴス)
 輝く子供 (クロウ夫人)
 フランク・マケナの運命 (ウィリアム・カールトン



ケルト幻想物語集4



◆本書より◆


「序文」より:

「たくさんの神を信じるということは、ぜんぜん信じなかったり、神はただ一人だと思うことより、ずっとはるかにいいことである。」


「タイグ・オケインと死体」より:

「何とも奇妙で恐ろしい所にやってきたものだ、と、タイグがなおもあたりを見回していると、冷たくなっている死体が耳もとで囁いた、「さあ、おれを埋めてくれ、今、埋めてくれ。鋤もあるから、土を掘りかえせ」。見ると、祭壇の脇に鋤がある。それを取り上げると、その刃を側廊の中央にあった敷石の下に当て、柄に全身の重みをかけて敷石を持ち上げた。(中略)下の土は柔らかくて楽に掘り返せたが、シャベル三杯か四杯分の土を掘り起こすと、鋤が何か肉のような柔らかいものに触ったような感じがした。まわりの土をさらに三、四杯ほど掘り起してみると、それは埋められていた別の死体だった。
「ひとつの穴に死体を二つ埋めるなんて、ぜったいに駄目だろうな」と、タイグは心に思った、「背中の死体さんよう」と彼はたずねた、「ここにおまえさんを埋めてもいいかな?」しかし、死体は一言も答えなかった。」
「タイグはもう一度鋤を地面に突き立てた。おそらく、もう一つの方の死体を傷つけたのだろう、そこに埋められていた死人が墓の中に立ち上がると、恐ろしい声で叫んだ、「フー! フー!! フー!!! 行け! 行け! 行け! さもなきゃ、おまえは、死、死、死ぬぞ!」そう言うと、死体はまた墓の中に倒れた。」
「タイグは側廊を少し扉の方に進み、背中の死体の墓を作る場所は他にないかと、また敷石を起こしはじめた。そして、敷石を三、四枚持ち上げると脇に置き、それから土を掘った。間もなくすると、シャツ一枚のほかは何も身につけていない婆さんを掘り出した。その婆さんは先程の死体より元気だった。というのは、婆さんのまわりの土をどけるかどけないうちに、起き上がって叫びはじめたからである。「ホー、この無骨者めが! ハー、この無骨者め! 墓がないなんて、そいつは今までどこにいたのかい?」
可哀そうにタイグは後ずさりした。婆さんは返事がないのを知ると、おとなしく目を閉じ、生気を失って、静かにゆっくりと土の中に倒れた。タイグは先程男にしたように、婆さんにも土をかけ直し、それからその上に敷石を置いた。
タイグはまた、扉の近くを鋤で掘りはじめたが、二、三度土をすくうかすくわないうちに、男の手があらわれた。「もう掘るのはやめだ」(中略)タイグはそこで、また男の上に土を投げ入れると、もとどおりに敷石を置いた。」
「何度となく道を曲がり、曲がりくねった小径を何度となく歩いて行くうちに、とうとう道の傍に古い墓地があるのが見えてきた。」
「タイグはこの古い墓地に近づいていった。しかし、二十メートルも行かないうちに目を上げると、何百という幽霊が――男や女、それに子供の幽霊が――墓地の周囲の塀の上に腰を掛けたり、塀の内側に立ったり、あるいは駈足で行ったり来たりして、彼の方を指さしているのが目に入った。タイグには、幽霊たちがまるで話し合ってでもいるかのように、口をぱくぱくさせているのが見えたが、そのことばはおろか、音ひとつ聴こえなかった。」



「ドニゴール地方の妖精」より:

「そのとおりなんです。あの連中の気分を害すのは、確かによくないことなんです。怒らせれば妖精たちは薄情な隣人にもなるし、親切に取り扱えば、良き隣人にもなるのです。」


「幽霊」より:

「死者の魂はときに動物の姿になる。スライゴーの町のある家の庭園でのことだが、その家の前の持ち主が兎になって現われるのを庭番が見かけたという。死者の魂はまた虫、とくに蝶になることがある。死体のそばをひらひら舞っている蝶がいたら、それはその人の魂で、永遠の至福へ入っていった徴(しるし)である。『アイルランド諸地方概観』(一八一四年)の著者は、ある婦人が蝶を追い回している子供に、こう言うのを聞いたそうである、「それはおまえのお祖父ちゃんの魂かもしれないんですよ」。十一月祭の晩には、死者が戸外で妖精たちと踊る。」」




































































W・B・イエイツ 『ケルト幻想物語集 III アイルランドの妖精譚』 (井村君江 訳/妖精文庫)

W・B・イエイツ 
『ケルト幻想物語集 III アイルランドの妖精譚』 
井村君江 訳

妖精文庫 ⑪

月刊ペン社 昭和53年2月20日初版発行/昭和55年7月15日再版発行
171p 口絵4p(うちカラー3p)
四六判 丸背紙装上製本 カバー 定価880円
装幀: 秋山道男
カバー・イラスト: リチャード・ドイル
コラージュ・着色: 秋山道男

妖精文庫月報⑦ 4p
妖精郷だより: 〈W・B・イエイツ案内〉 (荒俣宏)



本書「あとがき」より:

「この翻訳本三巻に亘る『ケルト幻想物語集』(中略)には、W・B・イエイツの編纂した二冊の本『アイルランド各地方の妖精譚と民話』(Fairy and Folk Tales of The Irish Peasantry 1888)と『アイルランドの妖精譚』(Irish Fairy Tales 1892)を全篇収録した。これらは過去二百年にわたってアイルランド各地方に残っていた民間伝承物語を、イエイツ自身及び多くの優れた文学者たちが採集して、ゲール語より英語に直し発表したものの中から、イエイツが選択して編集したものである。「この二冊はアイルランドの民話の代表的な素晴しい集録書だと信じている」とイエイツ自身も言うように、長い年月を経て農民や漁夫たちの生活に深く根ざし、素朴な心に育まれ形づくられた各種の物語は、そのままケルト民族の精神のエッセンスであり妖精文学の宝庫である。」


ケルト幻想物語集1


帯文:

「ケルトの妖精たちの声が聞える
アイルランドの人々の記憶のなかに幾世紀にもわたって生き 語りつがれてきた妖精物語の精髄を 詩人W・B・イエイツが集大成した ヨーロッパ幻想文学の源泉。」



目次:

わが本の飛びゆく彼方 (詩)
序――アイルランド伝承物語を語る人々
大地と水の妖精たち
 妖精の踊り場 (ウィリアム・カールトン)
 糸紡ぎの競争相手 (ウィリアム・カールトン)
 幼い笛吹き (T・クロフトン・クローカー)
 妖精の魔法 (語り手 ミカエル・ハルト/筆記者 W・B・イエイツ)
 リー河のタイグ(T・クロフトン・クローカー)
 妖精のグレイハウンド犬
 ゴルラスの婦人 (クロフトン・クローカー)
悪霊
 悪魔(デヴィル)の水車小屋 (サミュエル・ラヴァー)
 ファーガス・オマラと空気の精たち (T・W・ジョイス博士)
 恐れを知らぬ男 (ダグラス・ハイド訳)

 吟遊詩人シャンハンと猫の王 (ワイルド夫人)
 オウニーとオウニー・ナ・ピーク (ジェラルド・グリフィン)
王と戦士
 クーハランの騎士叙勲 (スタンディシュ・オグラディ)
 ドゥリーク門の小男の機織り (サミュエル・ラヴァー)
付録
 アイルランドの妖精(フェアリー)の分類

あとがき (井村君江)



ケルト幻想物語集2



◆本書より◆


「序」より:

「いったん話しはじめると、老婆はしごく自在に語りつづけ、炉格子のほうに首を傾けたり、泥炭(ピート)をかき立てたりするときなぞ、その顔は炎に照らされて赤く輝いていた。以前にコロネイ村の近くから或る人が連れ去られ、七年のあいだ彼女が妖精たちを丁寧に言うときの呼び方に従えば「紳士がた(ジェントリー)」といっしょに暮らしていたこと、また、わたしがやってくる数ヵ月前にも、別の人がグランジのあたりの村から連れ去られ、妖精の女王の子供の世話をさせられたこと、などを語ってくれた。妖精たちについて彼女が語ることは、いつもまったく事実のようであり、詳細にわたっていたし、まるでごく当たり前のことのように話すのだった。」
「この老婆は、妖精たちが常に若く、いつもお祭り騒ぎをし、自分に襲いかかって骨を苦痛で満たすような老いを決して知らぬがゆえに、また、ちょうど小さな子供のようであるという点でも、妖精たちを愛している。
もし妖精がいなかったなら、アイルランドの農民はこれほど豊かな詩情を持ちえたであろうか。ドニゴールの農家の娘たちは、もし大地や海が、そうした美しい伝説やとても悲しい物語によって愛すべきものになっていないとしたら、内地に働きに出かけるときいつもするように、ひざまずいてその海の水に唇を触れるということをするだろうか。老人たちは、もし数限りない精霊たちが自分たちの囲りにいないとしたら、晴れやかに、こんな諺を呟きながら息を引きとることができるだろうか――「湖は泳いでいる白鳥を重荷とは思わない。(中略)そして人は、その内にある魂を重荷とは思わない」」



「恐れを知らぬ男」より:

「翌日の朝、ローレンスは道を続けた。彼はまる一日、家を見ることもなく旅をしていた。真夜中にほど近い頃、深く淋しい谷あいに出ると、たくさんの人々が、ボールを打ち合っている二人の男を見守りながら集まっているのに出会った。ローレンスは立ち止まって明るい月の光のもとで、その人たちを見ていた。人垣の中にいたのは妖精たちだった。そしてほどなくその一人が一打ち打ったボールが、ローレンスの胸もとに飛び込んできた。彼がそれを引き出そうと、探りながら手を入れてみると、なんと、それは人間の頭だった。」
































































プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本