テオドール・W・アドルノ 『プリズメン』 (渡辺祐邦/三原弟平 訳/ちくま学芸文庫)

「カフカはその同郷人であるグスタフ・マーラーと同様、脱走者の味方である。彼にあっては(中略)人間の尊厳のかわりに、(中略)動物との類似性の記憶が登場してくる。」
(テオドール・W・アドルノ 「カフカおぼえ書き」 より)


テオドール・W・アドルノ 
『プリズメン』 
渡辺祐邦/三原弟平 訳

ちくま学芸文庫 ア-11-1

筑摩書房 1996年2月7日第1刷発行
511p 
文庫判 並装 カバー 
定価1,350円(1,311円)
装幀: 安野光雅
カバーデザイン: 渡辺千尋
Theodor Wiesengrund Adorno : Prismen: Kulturkritik und Gesellschaft, 1955



アドルノ・エッセイ集。弱者だけが、無責任な子どもになり、ひとでなしの動物になり、逃走することによって、「人間」社会をぶっこわしてユートピアを現出させることができる、ということをいっているようにおもいますが、誤読しているかもしれません。しかし誤読でもかまわないです。


テオドール アドルノ プリズメン


帯文:

「文庫版完全新訳
アウシュヴィッツ以後、詩を書くことは野蛮である
〈絶対的物象化〉の時代の文化批判」



カバー裏文:

「プリズメン(さまざまなプリズム)とは、未来からの微弱な光を感じとる鋭敏な精神の探査器を暗示するのか。エッセイという形式を武器に、現実の核心に迫る独自の哲学的思索を展開したアドルノの最初の自撰論集。〈アウシュヴィッツ以後、詩を書くことは野蛮である〉という命題を含む「文化批判と社会」に始まり、シェーンベルク、ベンヤミン、カフカへと深まる12のエッセイは、文化的しつらえによる権力の大衆威嚇、それに対する知識人の石のような沈黙のもと、果てしなく進行する〈絶対的物象化〉の時代の文化現象を鋭く追求する。本邦初訳の「オルダス・ハックスリーとユートピア」「ゲオルゲとホーフマンスタール」を加え、完全新訳で贈る。」


目次:

凡例

一 文化批判と社会
二 知識社会学の意識
三 「没落」後のシュペングラー
四 ヴェブレンの文化攻撃
五 オルダス・ハックスリーとユートピア
六 時間のない流行
七 バッハをその愛好者たちから守る
八 アルノルト・シェーンベルク 一八七四―一九五一
九 ヴァレリー プルースト 美術館
一〇 ゲオルゲとホーフマンスタール
一一 ベンヤミンの特徴を描く
一二 カフカおぼえ書き

引用文出典一覧
訳者解説 (渡辺祐邦/三原弟平)




◆本書より◆


「文化批判と社会」より:

「この制御は、かつて束縛された社会のなかで他律的な諸秩序がまかり通っていたのと同じように、自律的社会のなかに仮借なくまかり通っている。(中略)精神が主観的に自分を商品化しないところにおいてすら、精神は客観的に既存の体制に同化する。(中略)全体は個人の意識が逃げる余地をさらに残さなくなり、(中略)個人の意識から、いわばアプリオリに差異の可能性を摘み取って、差異は一様な提供品のなかの僅かな違いに落ちぶれる。(中略)精神がその自由から繰り広げるものは、無計画的・モナド論的状態の遺産である無責任という否定的契機だけである。しかし、そうしなければ精神は、単なる装飾として、それからの離脱を精神が要求している当の下部構造にいっそうしっかりとくっつけられる。」

「社会がより全体的になれば、それに応じて精神もさらに物象化されてゆき、自力で物象化を振り切ろうとする精神の企ては、ますます逆説的になる。(中略)文化批判は、文化と野蛮の弁証法の最終段階に直面している。アウシュヴィッツ以後、詩を書くことは野蛮である。そしてそのことがまた、今日詩を書くことが不可能になった理由を語り出す認識を侵食する。(中略)批判的精神は、自己満足的に世界を観照して自己のもとにとどまっている限り、この絶対的物象化に太刀打ちできない。」



「「没落」後のシュペングラー」より:

「シュペングラーの形態学の呪縛圏を逃れるには、野蛮を誹謗し、文化の健全さを信頼するだけでは十分ではない。(中略)むしろ文化そのものにおける野蛮の要素が洞察されなければならない。野蛮の現実性に劣らず文化の理念にも挑戦するこういう思想だけが、シュペングラーの評決を超えて生き残るチャンスをもっている。」
「人類の諸都市をまるで荒野であるかのように――いま実際にその通り荒野だが――監視し、見張っているシュペングラーの猟師のような眼――この眼から隠されているものが、ひとつある。それは頽廃のなかで自由になるさまざまな力である。「だが生成するものすべては、いかに病んでいるように見えることか」――詩人ゲオルク・トラクルのこの句は、シュペングラーの風景を超絶している。暴力的で抑圧された生の世界にあっては、この生や、その文化、その粗野さと崇高さの従者であることを辞めると通告するデカダンスこそ、より善い世界の避難所である。シュペングラーの命令どおり、なす術(すべ)もなく歴史によって押しのけられ、否定されたものたちは、いかに弱々しくであろうと文化の独裁を打破し、先史時代の恐怖にとどめを刺すことを約束するものを、この文化の否定性において、否定的に体現している。それらの人々の異議申し立てのなかに、運命と権力が決定権をもたなくなる日がいつかくる、という唯一の希望がある。西洋の没落に対立するものは、復活した文化ではない。そうではなく、没落してゆく文化像のなかに言葉なく問いかけながら、しまい込まれているユートピアである。」



「ゲオルゲとホーフマンスタール」より:

「ゲオルゲをボヘミアンたちと結びつけているもの、それは犯罪行為の可能性である。そもそも犯罪行為とは、反対派のものたちが最後の信頼を廃業したことを世界に通告したときに行なうやり方なのだ。」
「ゲオルゲの姿勢に正当性があるとすれば、その正当性が決定的に存しているのはひとえにここ、すなわち、「すべての乞食根性がもつ宝物」たる、社会から追放された者のもつボードレール流の傲慢さのなかに、なのである。」

「おそらくホーフマンスタールにあって持続しつづけているのは、この子どもの身振りを倦むことなく習得しつづけていくことだったのだ。」
「この少年時代への変形こそ、その力を借りてホーフマンスタールが、一つの姿勢を取る危険や責任を負う危険からいつもまたスルリと抜け出した、当のものなのである。子ども時代を魔法によって意のままにできること、それは弱者の持つ強みなのである。」

「はかなさは、それ自体はかなき権力ではないのだから、地上のいかなる権力も、はかなさには抗しえないこと、このことが誤解されているのだ。社会にたいする反抗は社会のもっている言葉にたいする反抗なのだ。」
「他の作家たちは、人間の言葉を分かちあたえてくれる。彼らは《社会的》なのだ。審美主義者たちは、非社会的である分だけ、彼らをリードしている。」



「ベンヤミンの特徴を描く」より:

「認識にあっては最も個別的なものが最も普遍的なものであるというのは、彼のためにあつらえたような文章である。」

「ベンヤミンが言ったり書いたりしているものには、メルヒェンや子どもの本にある約束を恥ずべきものとして成熟がはねつけるかわりに、(中略)彼の思考がそういったものを字義どおりに受け取っているような、そんなおももちがある。」

「カール・クラウスにおいて、彼が賛美し、そのことでクラウスの不興をこうむることとなった《全人的なものというペテンに抗する非人間性》は、まさにベンヤミン自身の特徴なのだ。」



「カフカおぼえ書き」より:

「カフカの作品はウルトラ左翼の調子(トーン)をおびている。なのに、それを《普遍的に人間的なもの》の水準に平板化するものは、すでにカフカを順応主義者に改鋳してしまっているのだ。」

「錬金術的原理とは、全き疎外におちいった主観性の原理なのだ。ブロートの報告する論争のなかでのカフカが、ありとあらゆる社会的帰属に反対していたのはゆえなしとはしないのである。この帰属ということが『城』のテーマになっているのは、ただそれに反抗するというためにだけ、なのだ。」

「彼にとっては、傲り高ぶるこの世界をきちんとは立ち行かなくさせる唯一の可能性は、この世界を正しいと認めることである。メルヒェンの末息子のように、まったく見すぼらしく小さくなって、無防備な犠牲者のままでいるがいい。間違ってもこの世の習いにしたがって、すなわち、間断なしに不当なことを再生産するだけの交換の習いにしたがって、自分の正当性を主張したりなんかしてはならないのだ。」
「物象化の魔力は、主観がみずからを物にかえることによって打ち破られるのだ。主観に害をなそうとふりかかってくるものには、最後までやらせてやるがいい。」

「カフカはその同郷人であるグスタフ・マーラーと同様、脱走者の味方である。彼にあっては(中略)人間の尊厳のかわりに、(中略)動物との類似性の記憶が登場してくる。」











































































































































































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プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

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