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ロード・ダンセイニ 『ダンセイニ戯曲集』 松村みね子 訳

「近ごろ彗星がこの地球に近く来たので地球が焦げて暑くなって来た、そのため神々はねむくなった、それで人間の心の中にある神の性質が、つまり、慈善とか、酔っぱらうこととか、贅沢とか、歌とかいうものが次第に消えてなくなったが、神々はそれの注ぎ足しをしようともなさらない。」
(ロード・ダンセイニ 「山の神々」 より)


ロード・ダンセイニ 
『ダンセイニ戯曲集』 
松村みね子 訳



沖積舎
2018年9月5日 発行
273p 付記(出版部)1p
四六判 並装 カバー
定価3,000円+税
カバー: ロード・ダンセイニ
装釘: 秋山由紀夫



本書「解説にかえて」より:

「松村みね子の翻訳による『ダンセニイ戯曲全集』の初版は、大正十年(一九二一年)十一月三日、警醒社書店から出版された。」
「出版にあたっては、原文の漢字を新字に、また仮名遣いは新かなに統一し、現在一般的にはつかわれていない表記(儘、猶、而しなど)はひらがなにひらいたことを、また初版とは作品順が違っていることをお断りしておく。」



「現在一般的にはつかわれていない表記はひらがなにひらいた」とあるものの、「最う(もう)」「最っと(もっと)」がそのままになっているのは何故なのか、謎です。
本書は同じ出版社から1991年に刊行された本の増刷だとおもいます。まだよんでいなかったのでバーゲンブックで出ていたのを注文しておいたのが届いたのでよんでみました。



ダンセイニ戯曲集



帯文:

「あのイナガキ・タルホが真の男性文学と称賛した、愛蘭土の
ファンタスト、ダンセイニ卿。いとしの第三惑星にかかわる物語を、
星と神々の目から描くことができたこの作家が、生涯にもっとも
力をいれた分野こそ、戯曲であった。折りしもケルティック・ルネッサンスの
意気あがる舞台で演じられた〈妖精劇〉の熱気を伝える、
いちばん古くて、いちばんモダンな神秘劇が、大正期の麗歌人
松村みね子の訳文をまって、いま蘇る。
――荒俣宏」



目次:

アルギメネス王
アラビヤ人の天幕
金文字の宣告
山の神々
光の門
おき忘れた帽子
旅宿の一夜
女王の敵
神々の笑い

解説にかえて (山崎郁子)




◆本書より◆


「アラビヤ人の天幕」より:

アオーブ 沙漠はどうしてあんなにこすく水を隠しているのだろう。沙漠は人間に恨があるのかも知れない。沙漠は都会(まち)のように人間を歓迎してくれない。
ベルナアブ 恨があるんだとも。俺は沙漠は嫌いだ。
アオーブ 都会(まち)ほど美しいものは又とあるまいなあ。
ベルナアブ 都会(まち)は美しいものだ。
アオーブ 俺は思う、都会(まち)がいちばん美しいのは、夜(よる)が人家から滑り落ちて行く夜明けの少し後(あと)の時だ。都会(まち)はゆっくりと夜から離れて行く、ちょうど上着のように夜を脱ぎ捨ててしまう。そして美しい素肌で立って何処かの広い河にその影をうつす。すると日が昇って来てその額の上に接吻する。その時が都会(まち)の一番うつくしい時なのだ。男や女の声が街に起る、やっと聞えるか聞えないくらいにかすかに、あとからあとからと起る。それがしまいにはゆったりと大きな声になって、どの声も一つに集まってしまう。そういう時には都会(まち)が俺に物をいうように俺はたびたび思う。都会(まち)はあの自分の声で俺にいう。アオーブ、アオーブ、お前は何時か一度は死ぬ、わたしは此世のものではない、わたしは昔から何時も在ったものだ、わたしは死なないと。
ベルナアブ 都会(まち)は夜明けがいちばん美しいと俺には思われない。沙漠では夜明けが何時でも見られる。俺は思う、都会(まち)のいちばん美しい時は、日が沈んで夕闇がそうっと狭い町々に降りて来る時分だ。まだ夜(よる)でもない、そうかといって日中(ひる)でもない夕やみ、ちょうど謎のような夕やみ、その夕やみの中では外衣(うわぎ)を着た姿を見ることは出来ても誰の姿だか見分けることは出来ない。それからちょうど暗くなろうとする時、沙漠に出ていればただ真黒い地平線と、その上に真黒い空とよりほか何ひとつ見る物もない時分、ちょうどその時分、風に揺れる提灯がともされる、燈火(あかり)が一つ一つ窓に現われる、そして着物の色がすっかり違って見えて来る。そうすると何処かの小さい戸口から女が忍び出るかも知れない、男が刃物を持って古い遺恨(うらみ)をはらしに忍んで行くかも知れない。スカアミは店をひるのように明るくして一晩中酒を売ろうとする、男たちはあの店の外の腰掛に腰かけて小さい青い提灯の暗いあかりで骨牌の遊戯(あそび)をする、煙のうずまく大きな煙管(ぱいぷ)で強い烟草を吸う。ああ、それを見ているのは楽しいものだ。そして俺は好い気持になって考える、俺が烟草を吸いながらそんな事を見ているあいだに、何処か遠くの方の沙漠では、大きな赤い雲が翼のように拡がっているかも知れない、その雲を見ればアラビヤ人はみんな知っている、明日(あす)は熱風が吹くと、魔(サタン)の父親のエプリスの呪いの息の熱風が吹くと。」

 (中略)ああタランナよ、タランナよ、わたしは此 市(まち)を憎む、ほそいほそい市街(とおり)と、酔いどれの男たちが悪漢(わるもの)のスカアミおやじの悪い評判のばくち店でいつの夜も博奕をやっている此 市(まち)を憎む。ああわたしは祖先の代(よ)から何時の時代にも都会(まち)を見たことのない卑しい家の子を妻としたい。我等二人は沙漠の中の長い路を乗り通して、たった二人でアラビヤ人の天幕までも乗り着けよう。王冠は――何処ぞの愚かな欲深の人間の苦労の種にやってしまえ。」

 そうだ、我々は時の奴隷である。」
エズナルザ 時は沙漠に住んでいるとわたくしの種族(たみ)は申します。あの沙漠の太陽の中にいると。
 いや、いや、時は沙漠には住んでいない。沙漠では何物も変らないではないか。
エズナルザ わたくしの種族(たみ)は申します、沙漠は時の故郷であると。時は自分の生れ故郷には仇をしない。併し、世界の何処の国でも、沙漠のほかの国々をば荒すのだとわたくしの種族(たみ)はいって居ります。」
 時は何物をも惜まず滅ぼしてしまう。
エズナルザ 時よりも最っと力強い人間の小さな子がございます。その子は世界を時の手から救ってくれます。
 時よりも力強いその小さい子は何だろう? 愛だろうか、時よりも力づよいのは?
エズナルザ いいえ、愛ではありません。」
 時にも打勝ち愛よりもなお勇ましいその人の子は何ものだろう?
エズナルザ それは追憶(おもいで)でございます。」



「金文字の宣告」より:

少年 僕は金の塊(かたまり)を持ってるよ。ギションに流れ落ちる小川で僕が見つけ出したんだ。
少女 あたしは詩を知ってるわ。それはあたし自分の頭の中から見つけ出したのよ。」

少年 (中略)僕がそこの扉の上にその詩を書いて上げよう。
少女 書ける?
少年 うん、書けるとも。(中略)この金塊で書いて見よう。鉄の扉だから金色の字が書けるだろう。」

予言者の長 純金で書かれてあります。神々の一人が書かれたのでありましょう。
侍従長 神が?
予言者の長 永遠の星の中に住みたもう神の一人が書かれたのでありましょう。
第一衛兵 (第二衛兵に小声で)昨夜(ゆんべ)おれは星が一つ光りながら地に墜ちるのを見た。
 これは何かの知らせか、それとも最後の宣告か?
予言者の長 星のお言葉でございます。
 それでは最後の宣告であるな?
予言者の長 星のお言葉は冗談(たわむれ)ではございません。
 わしは大なる王であった――星が彼を滅した、星は彼の最後の宣告に神を遣わした、と歴史に云って貰いたい。」



「山の神々」より:


オーグノ (熟考しながら)あの人たちがこんな風になってもう幾月も経つ。何事が起ったのだろう?
サアン 何か悪いことが起ったのだ。
アルフ 近ごろ彗星がこの地球に近く来たので地球が焦げて暑くなって来た、そのため神々はねむくなった、それで人間の心の中にある神の性質が、つまり、慈善とか、酔っぱらうこととか、贅沢とか、歌とかいうものが次第に消えてなくなったが、神々はそれの注ぎ足しをしようともなさらない。
オーグノ まったく、この頃はあついね。
サアン おれは夜よる彗星を見る。
アルフ 神々はねむいんだね。」



「神々の笑い」より:

第二衛兵 王妃(おきさき)はお気が変なのだ。
第一衛兵 お気が変ではないのだが、奇妙な御病気なのだ。何も恐ろしい事がないのに、始終何か恐れていらっしゃるそうだ。
第二衛兵 それは恐ろしい病気だ。それじゃ、上から天井が堕ちかかるか、地面が足の下で切れ切れに裂けるか、怖がるようになるだろう。そんな事を怖がるくらいなら、俺は気違いになった方がいい。」

ルデプラス 神々か? 今の世に神々はない。我々の世が開けてからもう三千年も立つ。我々の幼時を育ててくれた神々は死んでしまった。それともあるいは、もっと年の若い国を育てに行ったのかも知れぬ。」

王妃 ああ、神々のことをおっしゃいますな。神々は恐ろしゅうございます。凡ての、ありとあらゆる審判(さばき)はみんな神々から来るものでございます。うねり曲がった山々の霧の帷帳(とばり)の蔭で、神々は鉄床(かなしき)の上の金属(かなもの)のように未来をお造り出しになります。私は未来が恐ろしゅうございます。」

予言者 日は低く沈みかけている。もうお別れします。私は常に夕日を愛していました。夕日が金にへりどられた雲の中に沈んで見馴れた万物を目あたらしくするのを見に行きましょう。日が入って夜が来る、悪が行われて神々の復讐が来る。」




◆感想◆


「アルギメネス王」は、自分の神(偶像)を持つ者が王になり、その神が滅ぼされれば王座を追われる、という話で、神像を壊され王座を追われダルニアック王の奴隷となって土木工事に従事しているアルギメネス王は、痴呆状態で犬のように骨をむさぼって喜んでいる有様ですが、土を掘っていて、かつて「王様だった人」の「恐ろしい刀」を見つけ、その刀の力によってダルニアック王の神を滅ぼし、王座を奪還します。痴呆状態の時には奴隷仲間のザアブと、ダルニアック王の犬が死んだら死体をもらって食べようなどと相談していたのに、王座に戻ると王様らしさを取り戻して、犬は「先王と共に葬ってやるがよろしい」などと常識的なことをいってザアブをがっかりさせます。

「アラビヤ人の天幕」は、沙漠に憧れる王が自分にそっくりな駱駝の御者に王位を譲ってロマ(ジプシー)の娘とともに沙漠を放浪する話です。

「金文字の宣告」は、少女が「自分の頭の中から見つけだした」詩を、少年が「小川で見つけだした」金で王宮の門に書きつけると、それが神の宣告であるとみなされる話ですが、もちろん、「小川で見つけだした」金塊は神の金塊であり、「自分の頭の中から見つけだした」詩は神が与えた詩であります。

「山の神々」は、神々のふりをして人々を騙そうとした乞食と泥棒がほんものの神々によって石像にされ、それを見た人々が「われわれは疑っていた」が、乞食たちは「ほんとうの神々だったのだ」と平伏する話です。これは、神のふりをした乞食が神に罰せられる話と受けとるのが妥当なのかもしれないですが、わたしとしては、乞食が神になった話として読みたいところです。

「光の門」は、死んだ二人の泥棒が「天の門」を開くとそこには「遠い星が途もなくさまよい歩いている」「無」があるだけだった、という話ですが、「無」をその目で見、神々の哄笑をその耳で聞くことができたこの二人の泥棒は、ある意味、選ばれた人であるというべきなのではなかろうか。つまり、ふつうの人々(奴隷も含む)より王や子どもや乞食や泥棒の方が神に近い、というわけです。

そういうわけで、結論が出たので後ははしょりますが、戦争で殺しあうことしか頭にない「男たち」を怖れた女王が、招待した敵の男たちをナイル河に祈って溺死させる「女王の敵」が印象に残りました。現代的によめば神経症とか殺人とかですが、神話的によめば父権制に対する母権制の勝利です。





こちらもご参照ください:

イエーツ 『鷹の井戸』 松村みね子 訳 (角川文庫)
フィオナ・マクラオド 『かなしき女王 ― ケルト幻想作品集』 松村みね子 訳
ロード・ダンセイニ 『エルフランドの王女』 原葵 訳




























































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ロード・ダンセイニ 『二壜の調味料』 小林晋 訳 (ハヤカワ・ミステリ)

「さて、矢の先端がべとべとしていて臭いがしました。警察が分析してみると、地球上で最強の猛毒、カラハリの秘薬である腐ったイモムシが塗りつけられていることが判明しました。」
(ロード・ダンセイニ 「二人の暗殺者」 より)


ロード・ダンセイニ 
『二壜の調味料』 
小林晋 訳

ハヤカワ・ミステリ 1822 

早川書房
2009年3月10日 印刷
2009年3月15日 発行
333p
18.4×10.6cm 
並装 ビニールカバー
定価1,400円+税
装幀: 勝呂忠



本書「解説」より:

「本書は、Lord Dunsany, The Little Tales of Smethers and Other Stories (一九五二)の全訳である。」


本書は文庫版もでていますがアマゾンマケプレでポケミス版の「非常に良い」が300円+送料257円で売られていたので注文しておいたのが届いたのでよんでみました。


ダンセイニ 二壜の調味料 01


裏表紙文:

「いつまでも記憶にこびりつく強烈な結末……
調味料のセールスをしているスメザーズが、ふとしたことから同居することになった青年リンリーは、ずばぬけて明晰な頭脳の持ち主だった。彼は警察の依頼で難事件の調査をはじめ、スメザーズは助手役を務めることに。数々の怪事件の真相を、リンリーは優れた思考能力で解き明かしていくのだった――江戸川乱歩が「奇妙な味」の代表作として絶賛したきわめて異様な余韻を残す表題作など、探偵リンリーが活躍するシリーズ短篇9篇を含む全26篇を収録。アイルランドの巨匠によるブラックユーモアとツイストにあふれたミステリ短篇集、待望の邦訳!
〈著者紹介〉1878年生まれのアイルランド人。1905年の『ペガーナの神々』をはじめとするファンタジイ作品で名高い。イェイツなどとともにアイルランド文芸復興に取り組んだことでも知られる。1957年没。」



目次:

二壜の調味料
スラッガー巡査の射殺
スコットランド・ヤードの敵
第二戦線
二人の暗殺者
クリークブルートの変装
賭博場のカモ
手がかり
一度でたくさん
疑惑の殺人
給仕の物語
労働争議
ラウンド・ポンドの海賊
不運の犠牲者
新しい名人
新しい殺人法
復讐の物語
演説
消えた科学者
書かれざるスリラー
ラヴァンコアにて
豆畑にて
死番虫(しばんむし)
稲妻の殺人
ネザビー・ガーデンズの殺人
アテーナーの楯

解説 (中野善夫)



ダンセイニ 二壜の調味料 02



◆本書より◆


「スコットランド・ヤードの敵」より:

「「しかし、世界は一層複雑になった。幾つも許可証が必要だ。申請書に書き込まなくても済んだ時代は、たぶん今よりも幸福な時代だったのだろう。しかし、仕方がない。もはや、あの時代に戻ることはたぶんかなわないことだ。」」


「アテーナーの楯」より:

「「どんな職業でも一世代に一人や二人の偉大な人物を生み出すものだ。ぼくはその一人になりたかった。誤った職業を選択して、真珠採りに生まれた人間が煙突掃除人になるようなことをしたら、平凡な人間になるしかない。」」



◆感想◆


そういうわけで、本書についても、真珠採り(ファンタジー作家)が煙突掃除人(ミステリー作家)になって平凡な仕事をしているうちに、うっかり真珠採りの癖が出て煙突から落っこちて残念な結果になってしまった本、といえるのではないでしょうか。
一度世俗の塵にまみれてしまった者は、エルフランドに戻ることはかなわない、と言いかえてもよいです。
「アテーナーの楯」などは、女の人が大理石の彫刻にされてしまう話ですが、むしろ神話への未練を断ち切って、それこそ乱歩のようにいっそ俗悪に徹して芋虫ごろごろすればよかったのに、とおもわずにいられません。
































































































ロード・ダンセイニ 『エルフランドの王女』 原葵 訳

「二つのものがある場合、そのうち、より謎にみちた方をとるのがいつでも魔女のやり方だったのである。」
(ロード・ダンセイニ 『エルフランドの王女』 より)


ロード・ダンセイニ 
『エルフランドの王女』 
原葵 訳


沖積舎
1998年10月28日 発行
329p
四六判 並装 
カバー ビニールカバー
定価2,800円+税
装画: 山田章博


「翻訳原本:
“The King of Elfland's Daughter” by Lord Dunsany
G. P. Putnam's Sons, London & New York,
Second Edition June 1924. Printed in Great Britain.」



ダンセイニ エルフランドの王女


帯文:

「エルフランドの王の最後の魔法
いつも変わらぬ黄昏の国エルフランド。その王女リラゼルを探して、アルヴェリックの旅はつづく――ダンセイニ・ファンタジーの最高傑作!」



目次:


1 アールの郷の評定衆の考え
2 アルヴェリック、エルフランドの山々の見えるところへくる
3 魔法の剣、エルフランドの剣と交わる
4 アルヴェリック、長い年月の後、人間の世界へ帰る
5 アールの郷の評定衆の知恵
6 エルフの王の呪文
7 トロールはやってきた
8 魔法の呪文の到着
9 リラゼルは飛んでいく
10 消え失せたエルフランド
11 森の奥
12 魔法の消え失せた平原
13 皮職人の沈黙
14 エルフランドの山なみをたずねて
15 エルフの王の退居
16 オリオン、大鹿を狩る
17 ユニコーン、星の光の下へあらわれる
18 夜の中の灰色の天幕
19 魔法を持たぬ十二人の老いた人びと
20 歴史的事実
21 地の涯
22 オリオン、鞭役を言いつける
23 ルルル、地上のあわただしさを見まもる
24 ルルル、地上と人間のようすについて語る
25 リラゼル、人間の世界の野原を想いだす
26 アルヴェリックの角笛
27 ルルルが戻ってくる
28 ユニコーン狩りの章
29 沼地の者たちの誘い
30 あまりにも多くの魔のおとずれ
31 エルフランドのものたちへの呪い
32 リラゼル、地上を思い焦がれる
33 輝く光の前線
34 最後の大いなる呪文

訳者あとがき




◆本書より◆


「今度は魔女は、誰も手入れする者のない荒れた林や庭から吹いてくる、夏の風のようなメロディーを小さく口ずさんでいた。その歌は、かつて子どもたちに愛され、かれらが大きくなるともう忘れられ、ただ夢の中でだけうたい聞くような、谷間をわたる風に似たメロディーだった。その追憶の歌は、忘却の縁(ふち)の翳(かげ)を見え隠れしながら、子どもの頃の美しい時代の黄金の瞬間を垣間(かいま)見させ、そして再び記憶からすばやく姿を消して、忘却の翳へと戻っていく。それは人の心に、小さく輝く微かな足跡を残していき、それがぼんやりと感じられる時、人はそれを哀惜と呼ぶのだった。魔女は、釣鐘草が真っ盛りの、過ぎ去った夏の真昼どきをうたった。高く茂った色濃いヒースの上に坐って、幾多の露に濡れた朝(あした)や夕(ゆうべ)をうたった。魔女の魔法によって、朝や夕はいつまでも朝や夕でありつづけるのだった。アルヴェリックは、魔女の焚火が薄暮から呼びだした、歌の小さなさまよう翼の一つ一つが、あたかも人間にとって失われた日の幻で、それはもっと玲瓏(れいろう)で美しかった昔の日から、魔女の歌の力で呼び起こされてきたのではないかと思った。」

「アールの谷は、黄昏の国境いのすぐ近くにあり、そのむこうには、人間の世界はもうない。」

「人間の世界の野原の上だけに空想をとどめておこうとする賢い人たちに、アルヴェリックがやってきたこの土地について物語るのは難しい。そういう人たちは、まばらに木が生えたこの野原や、その遠くにエルフランドの宮殿の塔が輝いてそびえでている暗い森を心に思い描くことができないだろう。そしてその彼方の上方には、私たちが知っているどんな色もしていない峰々が、静かに連なっているのだ。私たちが空想を遠く駆けめぐらせるのは、まさにこういう光景を思い描くためである。」
「エルフランドの色をよく暗示してくれるものは、たとえばちょうど黄昏が終ったばかりの、夏の夜の深い蒼さ。夜に光を投げかける金星の蒼白い色。黄昏の湖の深み。それらはみんな、エルフランドの色を暗示する。(中略)画家たちは、この私たちの世界に住みながら、あのエルフランドのことをほのかに見てたくさんの絵を描いている。それだからこそ私たちは、この地上の世界には素晴らしすぎるほど魅力的なものを、時として絵画の中に見ることができる。それは、画家たちが画架の前に坐って地上の世界の野原を描き写しながら、実はエルフランドの蒼白い山々のきらめきを垣間見た記憶の記録なのである。」

「リラゼルは、自分がいろいろなことを学んだり知ったりしなくてはいけないということをわかっていなかった。(中略)ここの人びとのする奇妙なことどもを理解する必要があるのか。路の上で踊ってはいけないのか。山羊たちに話しかけてはいけないのか。葬列を笑ったりしてはいけないのか。夜、うたってはいけないのか? (中略)彼女がやってきたこの見知らぬ世界では、陽気な楽しいことは、重苦しい退屈に頭を下げねばならないのだろうか? (中略)彼女には、エルフランドでは長い長い歳月にも決して曇ることのない美しさを、地上の世界では「時」が蝕んでいくということが恐ろしかった。」

「アルヴェリックは赤ん坊に彼女が名前をつけないことで困惑しきっていたから、彼女の顔を見るとすぐに、子どもに名前をつけるように彼女に求めた。そこで彼女は、ある名前を彼に申しでた。しかしそれは、この世界では誰も発音することができない名前だった。それは非常に不思議なエルフの名前で、夜、小鳥が啼く時の啼き声のような音節でできていた。」

「彼女の想いは深刻なことの上に決して長くとどまってはいられなかった。それは蝶々が翳の中に長くとどまっていないのと同じだった。」

「幻想が境界地帯をこえてどんどん押しよせ、暴れまわり、歌い、叫ぶにつれて、彼女の身体はだんだん軽くなっていった。足が、半分床に着いていたり、半分床から浮き上がったりした。地球はもう彼女を下に引きおろすことができなかった。彼女はそれほどすばやく、夢のようなものになっていった。地上への彼女の愛も、彼女への人間の子どもたちのどんな愛も、もう、ここに彼女をとどめておく力を持っていなかった。
 今、エルフランドの湖沼の畔で過ごした、「時」のない子ども時代の想い出、国境いの深い森のそばの、あの夢のような芝生のそばの、ただ歌の中にだけ語られているかもしれないあの宮殿の中の子どもの時の想い出が、彼女に甦った。それは水の中の小さな貝がらを見るようにはっきりと見えた。静かな湖にはった透き通った氷を通して水底を見ると、氷ごしに少しぼんやりした別の世界が見えるように、彼女の想い出も、エルフランドの境界を通して少しぼんやりと光っていた。エルフの国に棲む生きものたちの、やや奇妙な物音が聞こえてきた。彼女が知っているあの芝生のそばで輝いている神秘的な花の香が漂ってきた。魔法の歌の微かな歌声が境界地帯をこえて、彼女が坐っているところまでとどいてきた。声もメロディーも想い出も、黄昏を通りぬけて漂い流れてきた。エルフランドのすべてが呼んでいた。」
「彼女はすぐに立ちあがった。今や大地は、彼女をつかまえておく力を失った。それは物質の上にしか及ばない力であるが、彼女は今や夢や空想、伝説、幻想などのようなものとなり、室内から漂いでた。」
「その時、北の方から一陣の風が吹きつけ、森の中に入っていって、金色に光る枝から葉を剥(は)ぎとった。そして草原の上を踊りながら、赤や金色の葉の一群をつれていった。(中略)そしてそれらと一緒に、リラゼルも行ってしまった。」

「アルヴェリックは、記憶をさかのぼり記憶の中の光景を再び訪れようとする男のように、孤独な旅をつづけた。」

「詩人たちが歌っているところによれば、その黄昏の辺境においてエルフランドと人間の世界とは接しているのだ。はるか北方に、彼はその辺境がじっと動くことなく黄昏とともに眠ったように横たわっているのを見つけることができるかも知れない。そして蒼白い山々の麓へ行き、再び妻に会うことができるかも知れない。」

「アルヴェリックはアールの村を出、うしろに探険の仲間を従えて馬を進めていった。月に憑かれて気のふれた男、うすのろの気違い、恋わずらいの男、羊飼いの若者、それに詩人であった。(中略)アルヴェリックは男たちの不満を聞き、また感じながら、このような旅では、いちばんえらいものは、正気ではなくて狂気だということがわかった。」

「そのエルフランドの果てしなく長い朝の間、その静穏を乱すものは何もなかった。リラゼルは、地上の煩らいごとの後で疲れた心を休め、エルフ王は深く満ちたりた心でそこに坐っていた。(中略)そして宮殿は輝き、照り映えた。それは都市の喧騒の彼方にある、どこかの深い池の水底の光景のようだった。そこでは緑の葦が生え、魚たちの鱗がきらめき、たくさんの小さな貝が深い水の底の薄明かりの中で光っていて、その長い夏の一日じゅう何ものもそれを掻きみだすことがない。
 こうして彼らは飛びゆく「時」の彼方に休息し、彼らのまわりでは「時」は憩った。流れを氷が凍てつかせ静まらせる時、大滝の小さな躍る波も休息するように。そしてエルフの山々の静かに映えわたる蒼い峰が、彼らの上に、変ることない夢のようにそびえたっていた。」

「エルフランドがどこへ行ってしまったのか私には言うことができない。またそれが地の涯とどこかの地平線で接しているのか、空に漂いのぼって高い山の峰とかすかに触れあっているのかどうかも、言うことができない。ただ言えるのは、かつて私たちの野原の近くに魔的なものが存在し、それが今は去ってしまったということだ。」

「彼はそこに立ち、人間の世界の叫び声が、深まっていく夕暮れの中で幽かになっていくのを聞いていた。背後には、地上の黄昏のあたたかな甘い薄明りがあった。そして彼の前には、顔のすぐそばに、エルフランドの全き沈黙があり、その沈黙でできている境壁が、不思議な美しさにほの光っていた。今や彼はもう地上のどんなものも想わず、ただ黄昏の壁の中をじっと見つめ、あたかも予言者が禁断の言い伝えを自分なりによみとろうとくもった水晶の中に見いっているようだった。オリオンの中を流れるエルフの血に向かって、彼が母親から受けついだ魔的なものに向かって、黄昏でできた境界の淡い光は誘いかけ、招きかけた。彼は母が、荒れ狂う「時」の支配のないところに、ひとり安らかに暮らしていることを思った。彼は母によって与えられた魔法の記憶によってぼんやりと知っている、輝かしいエルフランドのことを思った。彼の背後からは、この世の夕暮れの小さな叫びが伝わってきたが、彼はそれを気にもとめなかった。というより、彼にはもうそれは聞こえもしなかった。そしてこの小さな叫びとともに、人間の暮らし方や人間に必要なもの、人間が計画する物、人間があくせくと骨折り、また望む物、人間の忍耐がつくりあげるすべての小さき物も、彼にとっては失われたのだった。このきらめいている境界地帯のそばに立って知った、自分が魔の血筋を引く者だという思いの中で、彼はただちに「時」への忠節を投げ棄て、「時」の支配のもとにあって絶えずその専制に苦しめられているこの地を離れ、(中略)母がその父親とともに坐り、歌だけが思い描くことのできる、途方もなく美しい広間の霞のかかった玉座から母の父、エルフ王が統べている、その「時」のない国へ、入っていきたいと欲した。もはやアールは彼のふる里ではなかった。人間の生きる道は彼の生きる道ではなかった。(中略)伝説的なもの、この世のものではないものが、オリオンのふる里だった。」





























































































ロード・ダンセイニ 『最後の夢の物語』 (中野善夫ほか訳/河出文庫)

「「世界はもうすっかり科学的なものになっているのですよ」
 「それが問題なのです。それを正すのがあなたではありませんか」」

(ロード・ダンセイニ 「名誉会員」 より)


ロード・ダンセイニ 
『最後の夢の物語』
 
中野善夫・安野玲・吉村満美子 訳
河出文庫 タ-1-4

河出書房新社 2006年3月10日初版印刷/同20日発行
616p 「収録作品」1p
文庫判 並装 カバー
定価1,200円+税
ロゴ・表紙デザイン: 粟津潔
フォーマット: 佐々木曉
カバーデザイン・彩色: 坂野弘美
カバー装画: シドニー・H・シーム



本書「訳者あとがき」より:

「本書には、Fifty-One Tales (一九一五年)および The Man Who Ate the Phoenix (一九四九年)収録の全作品、くわえて In the Land of Time And Other Fantasy Tales (二〇〇四年)で始めて単行本に収録された作品の中から幻想的な味わい、あるいは不思議な味わいのある作品を二篇収録した(発表年は一九四七年と一九五二年)。」


ダンセイニ 最後の夢の物語


カバー裏文:

「不死鳥を食べて幽霊や妖精を見る不思議な力が備わった男の顛末を描いた中篇「不死鳥を食べた男」を表題作とする本邦初紹介の短篇集に、稲垣足穂に絶大な影響を与えた、日常の中に神話的世界が混ざり合うコント集『五十一話集』を初の完全版で合わせて収録。
ロード・ダンセイニの幻想短篇集成全四巻、遂に完結!」



目次:

I 五十一話集
 あいびきの約束
 カロン
 パンの死
 ギゼーのスフィンクス
 めんどり
 風と霧
 筏づくり
 鳶職人
 連れの客
 〈死〉とオデュッセウス
 〈死〉とオレンジ
 花の祈り
 〈時〉と職人
 小さな町
 草だに生いぬ野
 蛆と天使
 歌もたぬ国
 最新のもの
 煽動政治家と娼婦
 巨大な罌粟
 薔薇
 金の耳飾りの男
 カルナ=ヴートラ王の夢
 嵐
 ひとちがい
 兎と亀の駆けくらべの真相
 不滅なる無比の者たち
 教訓的小話
 歌は還りて
 街角に春が
 敵がスルーンラーナを訪いし事の次第
 勝ち目のないゲーム
 ピカデリーを掘る
 劫火のあと
 都
 〈死〉の糧
 哀しき神像
 テーベのスフィンクス(マサチューセッツ州にて)
 報い
 リーフィグリーン街の災い
 霧
 畑づくり
 ロブスター・サラダ
 流浪者たちの帰還
 〈自然〉と〈時〉
 くろうたどりの歌
 使者
 背の高い三人の息子
 駆け引き
 成れの果て
 パンの墓碑
 詩人、地球とことばを交わす

II 不死鳥を食べた男
不死鳥を食べた男
林檎の木
皆の仕事が知られた町で
薔薇の迂回路
老人の話
いかにして鋳掛け屋はスカヴァンガーに到ったか
オパール鏃
スルタンの愛妾
カーシュのスルタンの血統
警官の予言
森を吹く風
虎の毛皮
ジュプキンス氏との邂逅
悪夢
マルガー夫人
選択
ローズ・ティベッツ
当世の白雪姫
帰還
狂った幽霊
理由
無視
リリー・ボスタムの調査
第三惑星における生命の可能性
オールド・エマ
如何にしてアブドゥル・ディンが正義を救ったか
最初の番犬
チェス・プレイヤーと金融業者ともう一人
名誉会員
実験
金鳳花の中を下って
悪魔の感謝
晩餐後のスピーチ
言葉ではいい表わせないもの
ポセイドン
九死に一生
犬の情熱
記憶違い
四十年後
鉄の扉
大スクープ

III その他の物語
妖精助け
忘れ得ぬ恋

訳者あとがき (中野善夫)




◆本書より◆


「都」より:

「「あの都にはなにか恐ろしいことが降りかかる運命にちがいない。詩人や芸術家は虫の知らせでこっそり逃げ出したんだ。ふつうの者には虫の知らせなんぞないのだろうさ」」


「帰還」より:

「わたしはほんとうに遠いところから、この芝生を再び眼にするために、ここに建つこの古い屋敷を眼にするために帰って来たのです。迂回するようにドアへと向かうと、ドアに嵌め込まれたガラスが虚ろにわたしを見返していました。その後ろには鎧戸があって、しっかりと鍵がかかっていました。そこにいる犬がわたしのほうを見ました。玄関の前に置いてある樽の中で腹ばいになって入口を護っていた犬が、不意にわたしを見て吠えたのです。それでも、屋敷の中からは何の音も聞こえず動きも感じ取れません。長い旅の終わりが近づいてきていることが判りました。ここの二階の部屋への通路にある楢材の羽目板には、奇妙な古(いにしえ)の王の彫刻があって、年月に黒ずみ、かつてわたしの子供部屋だった部屋へと通じる廊下を端から端まで暗くしていました。そのとき、この装飾が彫り込まれている楢材がわたしの旅の終着点だと知りました。屋敷に入ると、犬がまた吠えました。
 眼前は何もかもまっ暗でしたが、そこによく知っている階段がありました。明かりは必要ありませんでした。その階段の一段一段、曲がり具合も知り尽くしています。それぞれの段の板が軋んでたてる音の響きの違いまでも。わたしは階段を一気に上がりました。あの犬は今や長い震えるような声で吠えていました。二階へ上がると、暗い古い廊下がありました。変な顔をした古の首があって、わたしを見つめていて、長い旅がはじまってから初めて受けた歓迎のように思えました。犬の吠える声がますます大きくなって、とうとう屋敷の人を起こしてしまったようです。遠くで足音がするのが聞こえてきました。その足音はわたしのほうへと向かって来ていました。」
「少し離れたところのドアが開きました。足音が近づいてきます。蝋燭を手に持った女の人が廊下を歩いてきます。ゆっくりと、不安そうに辺りを見回しながら。ちょうどそのとき、村の古い教会の塔から、真夜中の鐘の音色が霧の中を越えて聞こえてきました。その瞬間、百年が終わったんだという感じがしました。」











































































































































ロード・ダンセイニ 『時と神々の物語』 (中野善夫ほか訳/河出文庫)

「熱気でむせ返る赤道近くの低地では、お化けのような蘭が風に揺れ、鼠ほどの大きさの甲虫が天幕のロープにとまり、夜になると蛍が小さな流れ星のように空を切って飛び回っている。この低地を発(た)った旅人たちは、仙人掌(サボテン)の森を三日間歩き続け、ついには大羚羊(れいよう)が棲む開けた平野にいたった。」
(ロード・ダンセイニ 「ブウォナ・クブラの最後の夢」 より)


ロード・ダンセイニ 
『時と神々の物語』
 
中野善夫・中村融・安野玲・吉村満美子 訳
河出文庫 タ-1-3

河出書房新社 2005年9月10日初版印刷/同20日発行
565p 「収録作品」1p
文庫判 並装 カバー
定価850円+税
デザイン: 粟津潔
カバーフォーマット: 佐々木曉
カバーデザイン・彩色: 坂野弘美
装画: シドニー・H・シーム



本書「訳者あとがき」より:

「河出文庫のダンセイニ短篇集第三弾である本書は、The Gods of Pegana (一九〇五年)と Time and the Gods (一九〇六年)、そして Tales of Three Hemisphere (一九一九年)の全作品、および生前単行本未収録だった短篇十一篇を収録している。また、(中略)原書に収められていたシドニー・H・シームの挿し絵も全点収録した。」


挿絵(モノクロ)18点。


ダンセイニ 時と神々の物語


カバー裏文:

「神々とは〈運命〉と〈偶然〉の賽(さい)ころ勝負の勝者のためマーナ=ユード=スーシャーイが造った戯れであり、世界はマーナの目覚めとともに消える幻に過ぎない。美しくも残酷な異境の神話を描いた極北のファンタジー・続篇『時と神々』完訳をおさめた初の完全版。
他に『三半球物語』等を収めた、ダンセイニ幻想短篇集成第三弾。」



目次:

I ペガーナの神々
ペガーナの神々
鼓手スカールのこと
天地創造のこと
神々の〈ゲーム〉のこと
神々の詠唱
キブ、あるいは〈ありとしある世界の命の送り手〉の御言葉
シシュ、あるいは〈時間の群をあやつる破壊者〉について
スリッド、あるいは〈海に御霊を宿す者〉の御言葉
ムング、あるいは〈ペガーナと縁のあいだの死の長〉の御業
神官の詠唱
リンパン=トゥング、あるいは〈喜びと歌人の神〉の御言葉
ヨハルネス=ラハーイ、あるいは〈ひとひらの夢と幻の神〉のこと
進行の神ルーン、および千万の地神のこと
地神の叛乱
終わりを見つめる目のドロザンドのこと
沙漠の目
神でも獣でもないもののこと
預言者ヨナス
預言者ユグ
預言者アルヒレス=ホテップ
預言者カボック
海辺でユーン=イラーラにふりかかった災いのこと、および〈日没の塔〉建立のこと
神々がシディスを亡ぼされた次第について
インバウンがアラデックの地で一柱を除くすべての神々に仕える大預言者となった次第について
インバウンがゾドラクに見えた次第について
ペガーナ
インバウンの独白
インバウンが王に死のことを語った次第について
ウードのこと

滅びの鳥と〈終わり〉

II 時と神々
序文
時と神々
海の到来
曉の伝説
人間の復讐
神々が睡ったとき
存在しない王
カイの洞窟
探索の悲哀
ヤーニスの人々
神々の名誉のために
夜と朝
高利貸し
ムリディーン
神々の秘密
南風
時の国で
世界を哀れんだサルニダク
神々の冗談
預言者の夢
王の旅

III 三半球物語
ブウォナ・クブラの最後の夢
オットフォードの郵便屋
ブゥブ・アヒィラの祈り
東の国と西の国
小競り合い
神はいかにしてミャオル・キ・ニンの仇討ちをしたか
神の贈り物
エメラルドの袋
茶色の古外套
神秘の書
驚異の都市
われわれの知る野原の彼方
 版元の覚え書き
 第一話 ヤン川を下る長閑な日々
 第二話 〈見過ごし通り〉のとある店
 第三話 ペルドンダリスの復讐者
 
IV その他の物語
谷間の幽霊
サテュロスたちが踊る野原
秋のクリケット
もらい手のない〈国の種〉がヴァルハラから持ち去られた事の次第
電離層の幽霊
おかしいのはどこ?
古い廊下にいる幽霊
白鳥の王子
ペリプル師への啓示
誓ってほんとうの話だとも
夜も森で

訳者あとがき (中野善夫)




◆本書より◆


「預言者の夢」より:

「私はアルデロンの谷にある神々の罌粟の原で睡(ねむ)っていた。夜、月が低く空にかかっている頃に神々が集まってきて話し合う処である。私が夢見たものは、〈秘密〉であった。
 〈運命〉と〈偶然〉が興じていた〈ゲーム〉が終わった。すべてが終わった。希望も涙も、後悔も悲哀も、人間が涙を流したことも、覚えてもいないようなことも、王国も小さな庭も、海も世界も月も太陽も。残っているものは何もなく、色や音もなかった。
 そのとき、〈運命〉が〈偶然〉に云った。「我らの古い〈ゲーム〉をもう一度始めようではないか」ふたたび、彼らは勝負を始めた。それまで何度も繰り返されてきたときのように、神々を駒に使って。だから、それまでに起きたことは何もかもふたたび繰り返されるだろう。同じ国の同じ川岸で、同じ春の日に陽光が不意にまぶしく輝き、同じ水仙の花がふたたび開き、同じ幼児がそれを摘むだろう。その間に流れた一兆年の歳月を惜しむこともない。昔馴染みの顔がまた姿を見せ、慣れ親しんだ溜まり場はまだ失われない。あなたと私は夏の日の午後、太陽が天頂と海の間に立つ頃に、以前よく出逢った庭でいま一度巡りあうだろう。」



「王の旅」より:

「羊や牛の番をしながら、キスネブはよく夢を見ていました。他の者が眠っているときに、キスネブはふらふらと歩いて人々が入ろうとはしない森の縁まで行くことがよくありました。フルンの国の長老たちは、キスネブが夢を見ているときつく叱りましたが、それでも、キスネブはまだ他の男たちと同じような人間で、仲間たちとの付き合いがありました。が、とうとう、これから私がお話ししようとしている日がやって来たのです。(中略)キスネブと私は家畜の群れの近くに坐っていて、彼はフルンの国の端で暗い森が海と出会うところを長いこと見つめていました。」
「キスネブは他の者と一緒に四人の王子たちのいる市場に来ませんでした。独りで野原を渡って森の縁に行ったのでした。
 翌朝、キスネブに不思議なことが起きました。朝、野原からやって来たキスネブに会った私は、羊飼い仲間の叫び声で挨拶をしました。私たちはそうやって互いに呼び合うのです。しかし、彼は応えませんでした。それで、私は立ち止まってキスネブに話しかけました。それでも彼は一言も答えなかったので、私は腹を立てて彼を置いて立ち去りました。」
「私たちは、こう云いました。『キスネブは狂っている』そしてキスネブの邪魔をするものはおりませんでした。」
「キスネブは毎晩森の縁の野原にただ独り坐っていました。
 そんなふうに、キスネブは何日もの間、誰にも話しかけず、誰かが無理やり話をさせようとすると、神々が遠い黄昏と海の彼方から森へやってきて坐る時間に、毎晩神々の声を聴いているのだと云いました。だから、もう人間とは話をしないのだと。」















































































































プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
なぜならわたしはねこだから
 
◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

Koro-pok-Guru
Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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