『レメディオス・バロ展』 (1999年)

「レメディオスは非常に控えめでした。彼女は展覧会場に足を運ぶのを嫌い、展覧会そのものを避けようとすらしました。今日、自分の作品が、美術品の「マーケット」で要求している法外な値段を知ったら、恥しいと思ったに違いありません。」
(ヴァルター・グルーエン 「レメディオス・バロの思い出」 より)


『レメディオス・バロ展』
REMEDIOS VARO


東京新聞 1999年
168p 
29×20cm 並装(厚紙) カバー
執筆: 野中雅代/ルイス=マルティン・ロサーノ/ヴァルター・グルーエン
翻訳: 皷直/木下亮/太田泰人/アルフレッド・バーンバウム/ヤーン・フォルネル/リン・イー・リッグス/マーサ・マクリントク
デザイン: 米村隆
制作: コギト
編集・発行: 東京新聞


伊勢丹美術館
1999年6月10日―6月25日
主催: 東京新聞

名古屋電気文化会館
1999年7月27日―8月15日
主催: 中日新聞社/東海テレビ放送/中電ビル

神奈川県立近代美術館
1999年10月21日―11月28日
主催: 神奈川県立近代美術館/東京新聞

後援: 外務省/メキシコ外務省/メキシコ国際協力研究所/メキシコ大使館/メキシコ国立文化芸術審議会/メキシコ国立芸術院

監修: 野中雅代
企画・構成: 東京新聞/神奈川県立近代美術館
企画協力: ヴァルター・グルーエン
コーディネーション: 曽根広美



レメディオス・バロ展図録。
カラー図版(カタログ)67点。モノクロ図版多数。


レメディオスバロ展1


カバー表「行動する銀行家たち」。


レメディオスバロ展2


内容:

Acknowledgements
ごあいさつ (主催者)
Foreword (The Organizers)
メッセージ (メキシコ合衆国外務大臣 ロサリオ・グリーン)
Mensaje (Rosario Green)
メッセージ (メキシコ国立文化芸術審議会総裁 ラファエル・トバール)
Mensaje (Rafael Tovar)
Apariciones y Desapariciones de Remedios Varo (Octavio Paz)
レメディオス・バロの出現するものと消滅するもの (オクタビオ・パス/皷直訳)

レメディオス・バロ――その魂の軌跡 (野中雅代)
レメディオス・バロの芸術――ボスとブルトンのはざまで (ルイス=マルティン・ロサーノ)
レメディオス・バロの思い出 (ヴァルター・グルーエン)

カタログ (カラー図版/解説: 野中雅代)
1 私の友人アグスティン・ラソに A mi amigo Agustin lazo (1945年)
2 ジプシーとアルレッキーノ Gitana y arlequin (1947年)
3 トンボ人間 Personajes libelulas (1951年)
4 編まれた時空 Tejido espacio-tiempo (1954年)
5 啓示 または 時計職人 Revelacion o El relojero (1955年)
6 無用な科学 または 錬金術師 Ciencia inutil o El alquimista (1955年)
7 隠者 Ermitano (1955年)
8 笛を吹くひと El flautista (1955年)
9 決裂 Ruptura (1955年)
10 トレーラーハウス Roulotte (1955年)
11 猫の天国 Paraiso de los gatos (1955年)
12 発見 Hallazgo (1956年)
13 ご婦人方の幸福に Au bonheur des dames (1956年)
14 祖先たち または 詩 Los ancestros o Poema (1956年)
15 枯葉 Les feuilles mortes (1956年)
16 宇宙のエネルギー Energia cosmica (1956年)
17 星の狩人 Cazadora de astros (1956年)
18 隠れたものの棲む通り La calle de las presencias ocultas (1956年)
19 よこしまな道 Caminos tortuosos (1957年)
20 鳥の創造 Creacion de las aves (1957年)
21 婦人服の仕立屋 Tailleur pour dames (1957年)
22 放浪者 Vagabundo (1957年)
23 秘薬(エリキシル) Elixir (1957年)
24 イグナシオ・チャベス医師の肖像 Retrato del doctor Ignacio Chavez (1957年)
25 羊歯猫 El gato helecho (1957年)
26 過去への訪問 Visita al pasado (1957年)
27 簡潔でありなさい Sea usted breve (1958年)
28 星粥 Papilla estelar (1958年)
29 予期せぬ訪問 Visita Inesperada (1958年)
30 人物 Personaje (1958年)
31 毛力移動 Locomocion capilar (1959年)
32 オリノコ河の水源の探求 Exploracion de las fuentes del rio Orinoco (1959年)
33 遭遇 Encuentro (1959年)
34 奇妙な儀式 Ritos extranos (1959年) 鉛筆
35 奇妙な儀式 Ritos extranos (1959年) 油彩
36 アナロゴ山に登る Ascension al monte analogo (1960年)
37 再生 Nacer de nuevo (1960年)
38 精神分析医の診療を終えた女 Mujer saliendo del psicoanalista (1960年)
39 スキーヤー Esquiador (1960年)
40 擬態 Mimetismo (1960年)
41 整形外科医を訪ねて (1960年)
42 塔へ向かう Hacia la torre (1960年)
43 逃亡 La huida (1961年)
44 突然変異した地質学者の発見 Descubrimiento de un geologo mutante (1961年)
45 人物 Personaje (1961年)
46 宝瓶宮に向かう Hacia Acuario (1961年)
47 吸血鬼 Vampiro (1961年)
48 少年と蛾 Nino y mariposa (1961年)
49 人物 Personaje (1961年)
50 召命 La llamada (1961年)
51 断崖 Acantilado (1962年)
52 植物建築 Arquiectura vegetal (1962年)
53 不毛の道 Camino arido (1962年)
54 螺旋の運航 Transito en espiral (1962年)
55 行動する銀行家たち Banqueros en accion (1962年)
56 巡回する寄宿舎 Internado ambulante (1962年)
57 名ドライバー As del volante (1962年)
58 菜食主義の吸血鬼 Vampiros vegetarianos (1962年)
59 悪循環を断って Rompiendo el circulo vicioso (1962年)
60 遭遇 El encuentro (1962年)
61 水上タクシー Taxi acuatico (1962年)
62 水上移動 Locomocion acuatica (1963年)
63 インボケイション Invocacion (1963年)
64 無重力現象 Fenomeno de ingravidez (1963年) 鉛筆
65 無重力現象 Fenomeno de ingravidez (1963年) 油彩
66 蘇生する静物 Naturaleza muerta resucitando (1963年) 鉛筆
67 蘇生する静物 Naturaleza muerta resucitando (1963年) 油彩

略年譜
Remedios Varo: The Trajectory of a Soul (Masayo Nonaka)
El trabajo creativo de Remedios Varo: entre El Bosco y Andre Breton (Luis-Martin Lozano)
Memories of Remedios Varo (Walter Gruen)
展覧会歴/Exhibitions
参考文献/Bibliography



レメディオスバロ展3


「トンボ人間」


レメディオスバロ展8


「決裂」


レメディオスバロ展4


「宇宙のエネルギー」


レメディオスバロ展5


「羊歯猫」


レメディオスバロ展9


「オリノコ河の水源の探求」


レメディオスバロ展10


「再生」


レメディオスバロ展6


「断崖」


レメディオスバロ展7


「水上タクシー」


レメディオスバロ展0


「宇宙のエネルギー」部分。

ネコがぱちぱち火花を出している。セロ弾きはなんの曲を奏でているのであろう。ロマチックシューマン作曲トロメライであろうか。


レメディオスバロ展










































































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ジャネット・A・カプラン 『レメディオス・バロ 予期せぬさすらい』 (中野恵津子 訳)

「すべてを包含するビジョンを得たいというバロの究極の願いは、神秘主義思想と科学を芸術に結びつけることにあった。」
(ジャネット・A・カプラン 『レメディオス・バロ』 より)


ジャネット・A・カプラン 
『レメディオス・バロ
― 予期せぬさすらい』
中野恵津子 訳


リブロポート 1992年1月16日発行
263p 索引2p 
B5判 角背クロス装上製本 カバー 
定価8,755円(本体8,500円)
造本・装幀: 東幸見



レメディオス・バロ評伝。
Janet A. Kaplan "Unexpected Journeys: The Art and Life of Remedios Varo" (1988)。

図版222点(うちカラー49点)。


レメディオスバロ 予期せぬさすらい1


帯文:

「挑戦という名の織物
この女性アーティストたちにとって
生きかたが作品であり
作品が生きかただ。
[作品と生涯]」



ちなみに、女性アーティスト・シリーズの他の巻は:

アイリーン・グレイ――建築家/デザイナー (ピーター・アダム著/小池一子訳)
フリーダ・カーロ――痛みの絵筆 (マルタ・ザモーラ著/北代美知子訳)
タマラ・ド・レンピツカ――激情のデッサン (キゼット・ド・レンピツカ・フォックスホールほか著/村上能成訳)


レメディオスバロ 予期せぬさすらい2


目次:


1 少女時代
2 シュルレアリスムへ向かって――パリとバルセロナ
3 シュルレアリストの中で――パリとマルセーユ
4 亡命した芸術家――メキシコとヴェネズエラ
5 芸術家とその観衆
6 隠喩としての旅
7 変容
8 追想
あとがき――レメディオス・バロを求めて

注記
展覧会
文献資料
索引



レメディオスバロ 予期せぬさすらい4



◆本書より◆


「序」より:

「レメディオス・バロは魔法を信じていた。迷信深く、自然に波長を合わせて暮していたバロは、物事を左右し、支配する、自己を超越した神秘的な力があると考えた。そして、人生にも芸術にも、こうした見方で取り組んだ。」

「自己形成の初期を内戦前スペインの前衛芸術家の中で、次いでフランスのシュルレアリストの中で過ごしたバロは、夢、錬金術、占星術、神秘主義思想、魔術、オカルト、科学に目を向け、自分の主題や技巧の新しい試みのために、絵画や文学から幅広くインスピレーションを引き出した。物事の営みを知りたいと思い、そのわけを知りたがった。そして自分で仮説を立て、絵の中でそれを探求した。もしも見本作品を刺繍する女学生が世界をつくったら、どうなるだろう? 貸し部屋の家具が、前の住人のイメージをずっともち続けていたら、どうなるだろう? チョッキをボートにして川に浮かせることができたら? 緑の葉の代わりに光合成の化学式が出てくる植物があったとしたら? それぞれの仮定が新しい発見、自然の発見、自己の発見につながった。スペインで育った女の視点と、ラテンアメリカ特有の超現実的傾向をもって、バロは世界を探求しながらそれに代わる別な世界を創りだしていった。」



レメディオスバロ 予期せぬさすらい3


「4 亡命した芸術家」より:

「こうしたエネルギーや想念の発露にとって重要だったのが、リオノーラ・カリントンとの友情だ。それは、カリントンとは特別な感受性を共有しているという信念に基づいた、熱烈な友情だった。ふたりはほとんど毎日のように顔を合わせ、自分の見た夢、強迫観念、胸の奥にしまい込んだ秘密(「レメディオスがリオノーラ以外には誰にも打明けなかった秘密」)を話し合った。」
「ともに、インスピレーションを強く感じ、超自然現象や魔術の力を信じる人間だったバロとカリントンは、気がつくと、自分の生活や仕事に糧を与えるように親密に付き合うようになっていた。スペインの病院に入院していたカリントンと、フランスで留置されていたバロには、深い信頼に基づいた強固な絆があった。それは、ほかの人には理解してもらえない痛みと絶望であることを、ふたりは知っていた。バロは自分を、他人には理解できない変人だと思い、説明する必要のない魂の友としてカリントンを求めた。彼女なら、上面だけの論理でバロの不安を解釈しようとしたり、常識でバロの見方を傷つけることもなかった。カリントンも、この冷淡な世界でついに親友を見つけたという気持だった。」



レメディオスバロ 予期せぬさすらい5


「6 隠喩としての旅」より:

「バロ自身が精神医学に助けを求めたかどうかは不明である。(中略)しかし、実際のバロは多くの不安を抱えた心配症の女として知られていた。「私はどうしようもなく迷信深くて……近所に出かける時でさえ、まるで誰かに追いかけられているように、できるだけ早く家に戻って閉じこもってしまう」。」

「女学生のバロは神秘的なものに憧れ、ヒンズー教の行者に手紙を書いたり、不思議な植物を集めたりした。そうしたエネルギーは、大人になってから(まだ心理的不安から抜けだせないでいた)別な精神的探求へと向けられ、神秘主義の教義を研究し、形而上学の本を読みあさった。そのうち、精神的自我の発展を通じてその意味や安定を探求することが、強迫観念のように作品を支配するようになった。バロは、西洋、非西洋を問わず、広く神話や錬金術伝説を題材とするとともに、ユング、G・I・グルジェフ、P・D・ウスペンスキー、ヘレナ・ブラバツキー、マイスター・エックハルト、スーフィズム、聖杯伝説、聖幾何学、錬金術、易経にも興味をもち、そのひとつひとつが、自己解明と意識変革へ続く道だと考えた。「子供の頃に身につけたものは一方的に教え込まれたもの、自分で克服すべきもの」と語り、幼少時に教育されたカトリックの教義を拒否したバロは、自己探求の源泉となるこれらの主題を追い続け、作中人物にも同じような探求をさせた。」

「すべてを包含するビジョンを得たいというバロの究極の願いは、神秘主義思想と科学を芸術に結びつけることにあった。柔軟な探求心をもって取り組めば、このうちのどれをとっても膨大な可能性を秘めた創造的プロセスになるはずだ。「探求者」兼「神秘主義者」兼「科学者」を自認するバロではあったが、やはり彼女は何よりもまず芸術家であり、科学と精神と芸術を結合する登場人物を描く時には、その役柄として芸術家を振り当てた。」



「8 追想」より:

「バロは将来に不安を覚える一方、現在の成功もだんだん重荷に感じるようになっていた。人目につくことを好まなかったにもかかわらず、公的な役割を果さざるを得ないことが多くなった。完成までに時間がかかるのに、彼女の絵を欲しがる顧客が殺到していた。しかし、バロと親しかった人たちは、それぞれ申し合わせたように、彼女の心配症は何度も再発したけれど、自分の命を絶つようなことはしないはずだと自信ありげに語っている。落ち込んでいるという電話をもらったひとりであるギュンテル・ゲルソでさえ、死亡証明書に記載されバロの夫が確認しているとおり、バロは心臓発作で死んだと信じて疑わない。」


レメディオスバロ 予期せぬさすらい6



WikiArt - Remedios Varo:
http://www.wikiart.org/en/remedios-varo/mode/all-paintings












































レメディオス・バロ 『夢魔のレシピ』 (野中雅代 訳)

「筆を続けるに先立って、もし私の手紙にご理解いただけない言葉がありましたら、私の綴り字は、不幸なことに、現在流布している辞書が認めるものとはまったく違っているので、その言葉を辞書で探されるのは無駄だと申し上げておきたいと思います。残念なことですが!」
(レメディオス・バロ 「ある科学者への手紙」 より)


レメディオス・バロ 
『夢魔のレシピ
― 眠れぬ夜のための断片集』
野中雅代 訳


工作舎 1999年5月20日第1刷/2003年9月30日第2刷
212p(うち別丁図版32p) 著者・訳者紹介1p 
四六判 丸背紙装上製本 カバー 
定価2,500円+税
エディトリアル・デザイン: 宮城安総+小泉まどか



レメディオス・バロ文集。本文中図版(モノクロ)多数。
「イメージの実験室――バロ自身によるバロ展」のセクションは、32点の作品図版(モノクロ)と画家自身によるコメントからなっています。


レメディオスバロ 夢魔のレシピ1


帯文:

「「レメディオス・バロ展」
開催記念出版
エロス

戯れ
●バロ自身による自作品解説30点
●夢のレシピ
●魔女のテクスト
●バロのアルバム
シュルレアリスム
芸術」



帯裏:

「【バロへのオマージュ】

女性性さえも、ここでは象形文字による戯れ、
鳥の目の中の輝き
――アンドレ・ブルトン――」



カバーそで文:

「電光石火のごとき幻像を
彼女はゆっくりと描く
現れるものは元型の影
レメディオスは創造するのではない。
想起するのだ。
Octavio Paz
オクタビオ・パス」



目次:

1 夢のレシピ
 エロティックな夢をかきたてるレシピ
 アドバイスとレシピ
 悪夢と不眠症とベッドの下の砂地獄を追い払うレシピとアドバイス
 夢の記述 1~10
 自動記述 テクスト1~3
 プロジェクト覚書 1~3

2 魔女のテクスト
 ホモ・ローダンス
 ある科学者への手紙
 「家庭内の物の相互依存とそれが日常生活に与える影響の観察者たち」のグループを支持する者の苦悩
 ある魂への手紙
 ガードナー氏への手紙
 劇の草案
 愛人トロムプソン夫人は偶然に、ケントの領土に浸透する巨大な湿気の水源を発見する
 カルシド・マルティン・デ・ビルボア騎士

3 イメージの実験室――バロ自身によるバロ展
 啓示または時計職人
 隠者
 笛を吹くひと
 中身泥棒
 トレーラーハウス
 感応
 発見
 ベロナを編む人
 三つの運命
 ご婦人方の幸福に
 曲芸師または大道芸人
 ハーモニー
 婦人服の仕立屋
 放浪者
 イグナシオ・チャベス医師の肖像
 簡潔でありなさい
 世界の創造または小宇宙
 予期せぬ訪問
 ロコモシオン・カピラール
 人物
 遭遇
 遭遇
 アナロゴ山に登る(※)
 精神分析医の診療を終えた女
 擬態
 三部作(塔へ向かう/地球のマントを刺繍して/逃亡)
 突然変異した地質学者の発見
 反抗する植物
 召命
 無重力現象

4 地球の想い出――バロのアルバム
 インタビュー
 スペインの女友達への手紙
 哲学者ゴンザレスと歴史家デ・ラ・ガルサへの手紙
 母への手紙 1、2
 知らないひとへの手紙

5 メキシコの魔法の庭――バロとキャリントン (野中雅代)



レメディオスバロ 夢魔のレシピ2



◆本書より◆


「夢の記述」より:

「私はあるホテルの洗面所で金髪の小猫を洗っている。でもそれが猫かどうかはっきりしなくて、レオノーラかもしれない、だぶだぶでそろそろ洗ったほうがいいコートを着ているから(訳注)。少し石鹸水で湿らせて猫を洗い続けるが、私は動揺し戸惑っている、誰を洗っているのかわからないから。」
「訳注: レオノーラ・キャリントンである。キャリントンは通常余り身なりに頓着しない。」



「ガードナー氏への手紙」より:

「個人的には、私には特殊な能力が備わっているのではなく、因果関係を素早く見抜く能力があると思います。それは日常の論理の限界を越えた関係のことです。また長年の実験の結果、私は家庭での小さな太陽系を自由に統御できるようになりました。物が相互に依存し合っていること、また惨事を避けるために物を特定のやりかたで配置する必要性があること、物がぶつかり合わないような事実を誘導するために、突然配置を変えなければならないことなどがわかってきました。たとえば、私の皮製の大きな肘掛け椅子を天体の中心に撰ぶとすると、その近く東から西に五〇センチ離れたところに、木のテーブル(素朴な大工のベンチで、職人の手仕事の強い思い入れの籠ったもの)を置きます。椅子の後二・五メートルの位置に鰐の頭蓋骨を置きます。椅子の左で、他の物との間に、偽造ダイヤを嵌め込んだパイプを置き、右側三メートルの位置にありふれた緑色の陶器の水差しを置きます。これで私が思うままに動かせる太陽系(そのすべてにわたって細部を言及しようとは思いません。途方もなく長いものになってしまうでしょうから)が出来上がります。どんな結果が生じるか予想しながら、太陽系を動かせます。時には、私の定まった配置を横切る予想外の流星の早い軌道に誘発されて、計算外の事件が起こることもありますが。流星とは他ならぬ私の猫なのですが、徐々に私はこの不確定要素を意のままに操作できるようになりました。今では猫に特別に羊のミルクを餌に与えると、軌道にほとんど影響を与えないことがわかってきたのです。
 もちろん私の友人たちもまた、それぞれの家にふさわしいやり方で、苦心して小さな太陽系を形作ろうとしています。そして私たちはそれらすべての間に一つの相互関係を作りあげました。」



「劇の草案」より:

「ミラグラ夫人は暗闇を恐れている。暗闇のどこからか熱い手がにゅっと伸びて、彼女の踝(くるぶし)を掴んでその場に釘付けにする。そのあいだに破壊的な火が踝から彼女の体に燃え拡がり、彼女は灰の山になっていくだろう。さらに悪いことには彼女は自分の恐怖をひとに隠さなければならないことだ。他人にその恐怖を告白すれば、同時に自分が有罪で、処罰されるのを恐れていると告白することになるだろう。」


「イメージの実験室」より:

「隠者 1955年 
これは隠者です。彼は私たちの時間と空間を越えたところにいます。彼の体は上向きと下向きの二つの三角形で構成されていますが、それにより頂点に六個の星が出来ます。それは古代の秘教の教義で時間と空間のシンボルなのです。彼の開いた胸の内には、調和(ハーモニー)を象徴する陰陽のサインがあります。これはすべてのなかで最も美しいシンボル(少なくとも私にはそう思えます)です。というのはそれは円のなかに封じこめられていて均衡・心の平静を意味するようになっているからです。」

「感応 1955年
この婦人の猫はテーブルに飛び上がって、上にある物を台無しにしますが、(私のような猫好きの人間は)辛抱しなければなりません。猫を愛撫すると非常に多くの火花が飛んで、巨大で非常に複雑な電気的からくりが形成されます。火花と電流が彼女の頭に届くとすぐに、髪にパーマがかかります。」

「ハーモニー 1956年
これは一等賞をとった作品です。この人物はすべてを結びつける目に見えない糸を見つけようとしています。だから、金属の糸で作った五線に、最も単純な物から数学の公式を書いた紙片まで、それ自体で、多くのものを意味するのですが、あらゆる物を配置しているのです。いったん彼が様々な物を配置すると、五線譜を支える音部記号から風が吹いて、音楽が流れ出ます。その音楽は調和的であるだけでなく客観的でもあって、言い換えれば、もし彼が意図すれば、五線のまわりのすべての物を動かせるのです。壁から現れる人物は――彼を助けるのですが――偶然(すべての発見にはつきものの要素です)を表していますが、それは客観的偶然です。私は「客観的」という言葉で、それが私たちの世界の外にあるもの、つまり私たちの世界を越えたものだと示唆したいのです。それは私たちの世界である現象の世界よりは、むしろ原因・根拠の世界とつながっているのです。」

「三部作 
1 塔へ向かう 1960年
少女たちは蜜蜂の巣のような家を出て仕事に向かいます。彼女たちが逃亡できないように、鳥たちが注意深く監視しています。彼女たちは催眠術にかけられたように見え、編み棒をハンドル代わりに使っています。前方の少女だけがこの催眠術に抵抗しています。
2 地球のマントを刺繍して 1961年
この少女たちは偉大な師の命令通りに、地球のマント、海、山々、生物を刺繍しています。しかしひとりの少女が策略を刺繍して、そこでは彼女が恋人と一緒にいるのが見えます。
3 逃亡 1961年
その策略のおかげで、少女はやっとのことで恋人と逃亡できて、特殊な乗り物で、砂漠を越えて洞窟に向かいます。」

「突然変異した地質学者の発見 1961年
原子爆弾で根こそぎにされた風景に、ひとりの地質学者が――彼は放射能で突然変異したのですが――巨大な花を調査しています。地質学者は非常に興味深い実験装置を運んでいます。」

「無重力現象 1963年
地球が地軸と引力の中心からはずれてしまい、この天文学者は仰天して、左足を一方の空間に、右足を別の空間に置きながら、均衡を保とうとしています。」




「メキシコの魔法の庭」(野中雅代)より:

「バロとキャリントンは夢と現実の境界のないぼんやりとした領域を信じていた。」

「二人の異なった才能を持つ女性芸術家が、異国の地メキシコで深い友情で結ばれて創造活動をしたのは画期的な歴史の偶然だった。閃きのキャリントンに対して、バロは職人芸的な確かな技術があり、分析的で観察力に優れていた。バロック的感覚で大胆に素材を混ぜ合わせるキャリントンに対して、バロは注意深く分類しながら、科学と詩を絶妙のユーモア感覚で結合させた。お互いがお互いを必要としていた。共に想像力に溢れていても二人の資質は違っていた。」

「バロとキャリントンの創造活動は、「精神探求性」を帯びていた。メキシコで二人は、普通の人間には隠されている「別の現実・真実」探求の実験を始めた。それはシュルレアリストに特有の、遊びでもあり真面目な創造作業でもあった。まず彼女たちは霊的能力に長けていなければならなかった。」



本書より、オクタビオ・パスによるオマージュ:

「メキシコには二人の素晴らしい芸術家がいる。二人の魔法にかけられた魔女(魔術師)たち。美術派閥や、党の賞賛や非難には耳を貸さず。……社会のモラルにも値段にも無感覚で、別の領域に魅入られた者の特権ともいえる最高の風にのって、レオノーラ・キャリントンとレメディオス・バロは私たちの都市を横切っていく。どこへ行くのか? 創造力と情熱が二人を呼ぶところへ……彼女たちは誰の手本にもならない。自分のヴィジョンに忠実である……真性の画家は創造することによって、自分自身から解脱する。その行為は市場(しじょう)と市場(マーケット)の算術のモラルを拒絶する」





































































































プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー

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