レーモン・クノー 『地下鉄のザジ』 (生田耕作 訳/中公文庫)

「「おかしくない人間なんて」とザジ。「けつ喰らえ」」
(レーモン・クノー 『地下鉄のザジ』 より)


レーモン・クノー 
『地下鉄のザジ』 
生田耕作 訳

中公文庫 C 11

中央公論社 
昭和49年10月10日初版
昭和57年12月15日9版
232p
文庫判 並装 カバー
定価340円
表紙・扉: 白井晟一
カバー絵: 「一九六六年ガリマール版『地下鉄のザジ』所載のジャック・カルルマンによる挿画より。」
本文挿画: ジャック・カルルマン



Ramond Queneau "Zazie dans le métro" (1959)

久しぶりに『ラフォルグ抄』をよんだらレイモン・クノーをよみたくなったので久しぶりによんでみました。ラフォルグとクノーはたいへん似ています。ラフォルグだと公園のベンチが濡れていて座れないですが、クノーだと地下鉄がストで乗れないです。
ついでにルイ・マルによる本書の映画化も久しぶりにみてみましたが、これはこれでよいですが、ザジは笑ったりせずに無表情でふてくされているほうがよいです。

本文中挿絵(モノクロ)11点。


クノー 地下鉄のザジ1


カバー裏文:

「田舎からパリにやって来た少女ザジは、地下鉄に乗ることをいちばんの楽しみにしていたのに、あいにくの地下鉄ストで念願果たせず、警官か誘拐魔か奇妙な男につきまとわれたりしながら、なんともおかしな人生体験をする……。
庶民の精神風俗の鋭い観察、言葉の可能性の執拗なまでの探究から生み出された新しい小説形式の秀作(本邦初訳版)。」



内容:

地下鉄のザジ

解説 (生田耕作)



クノー 地下鉄のザジ2



◆本書より◆


「「あたし」ザジは宣言する。「六十五まで学校へいくつもりよ」
 「六十五まで?」いささか驚いてガブリエルは繰り返す。
 「そうよ」とザジ。「あたし小学校の先生になりたいの」
 「悪い商売じゃないわ」マルスリーヌがおしとやかに言う。「恩給がつくものね」
 彼女はそれを機械的につけ加えたのだ。国語に堪能だったから。
 「恩給けつ喰らえ」ザジはやり返す。「あたしはね、先生になりたいのは恩給のためなんかじゃなくってよ」
 「そうだとも」とガブリエル。「そいつはわかるよ」
 「じゃ、なんのため?」
 「それを聞かせてもらいたいのさ」
 「自分でわからないの?」
 「とにかくずるいね今日びの若者は」女房に向かってガブリエルは言う。
 それからザジのほうに向き直り、
 「さあ? どうしてなりたいんかね、学校の先生に?」
 「いじめてやれるからよ」ザジは答える。「十年さきに、二十年さきに、五十年さきに、百年さきに、千年さきにあたしの年になる女の子を。いつの時代だってシゴキ甲斐のあるガキは跡を絶たないもの」
 「なるほど」
 「女の子にめちゃくちゃ意地悪してやるの。床をなめさせてやるわ。黒板拭きを食べさせてやるの。お尻にコンパスを突き立ててやるわ。尻(けつ)の肉に突き刺さる大きな拍車のついた」
 「ねえ」ガブリエルはおだやかに言う。「新聞で読んだがね、これからの教育はまったくそういう方向には向かってないんだよ。いやむしろ逆さ。温和、寛容、親切を目指してるんだ。ちがうかね、マルスリーヌ、新聞じゃそう言ってるね?」
 「ええ」おしとやかにマルスリーヌは答える。「でもねェ、ザジ、あなた学校でひどい目にあわされたの?」
 「見せたくなかったわ」
 「それに」ガブリエルが言う。「二十年もすりゃ、もう先生なんていなくなるさ。映画や、テレビや、電子工学や、そういったものに取って代られるんだ。これもいつか新聞に書いてあったよ。そうだろう、マルスリーヌ?」
 「ええ」マルスリーヌはおしとやかに答える。
 ザジはちょっと間その未来を眺め渡す。
 「じゃ」と彼女は宣言する。「あたし宇宙飛行士になるわ」
 「なるほど」ガブリエルは賛成する。「なるほど、時代にあわさなくちゃ」
 「そうよ」ザジは続ける。「あたし宇宙飛行士になって火星人をいじめに行くんだ」」



クノー 地下鉄のザジ3


「「話し合いけつ喰らえ!」」


























































































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レーモン・クノー 『イカロスの飛行』 (滝田文彦 訳/ちくま文庫)

「どうだかわかるもんですか。たぶん結局みんなおなじことです。彼らだって別種類の作者の作中人物かも知れません。」
(レーモン・クノー 『イカロスの飛行』 より)


レーモン・クノー 
『イカロスの飛行』 
滝田文彦 訳

ちくま文庫 く-9-1

筑摩書房 
1991年1月29日 第1刷発行
定価640円(本体621円)
装幀: 安野光雅
カバーデザイン: 鈴木正道
カバー装画: 竹内和也


「この作品は一九七二年七月三〇日、筑摩書房より刊行された。」



本書「文庫版あとがき」より:

「本書は Raymond Queneau: Le Vol d'Icare, Gallimard, 1968. の全訳である。」
「なお今回の文庫収録にあたっては、(中略)全面的改訳を行った。」



クノー イカロスの飛行


帯文:

「えっ、登場人物が脱走した?
書きかけの小説から、次々と登場人物が消え、世紀末のパリは大騒ぎ。奇才クノーによるファンタジーの傑作。」



カバー裏文:

「時は19世紀末。所は花の都パリで、小説家ユベール先生の書きかけ原稿から、突如として作中人物イカロスが逃げ出した。イカロスは同業の小説家に盗まれたにちがいない! ユベールは大追跡を開始する。ところがその頃、他の小説家の作中人物たちも作者の定めた運命を嫌い、いっせいに脱走をはかっていたのである…。新しい小説形式に挑み続けたクノーによるファンタジー。」


目次:

イカロスの飛行 小説

文庫版あとがき (訳者)
解説 この作品に早く出会っていたら…… (清水邦夫)




◆本書より◆


イカロス  リュベールさんはぼくを名づけ、そしてぼくはリュベールさんがぼくのために産み出してくれる運命を果すのを待ちながら、静かにその家で暮していた。ところがある日、リュベールさんは原稿を閉じるのを忘れた……
LN  原稿ですって?
イカロス  うん。すきま風がぼくをさらって行った。ぼくは文字の家に戻るのはやめてそのまま先へ進み、とうとう通りに出た。そこでぼくはどうしたらよいか、どこへ行こうか考えた、と偶然にも、今じゃあアプサントの匂いだと知っている匂いに誘われて、あなたと知り合ったあの酒場に入ったんです。
LN  いいわよ、わたしのこときみと呼んで。
イカロス  そうしたわけだからと言って、ぼくはいったいこれからどうなるのやら。きみもわかるように、ぼくはたいした人生経験がない、でも狼や嵐を避けて食べたり眠ったりしなきゃいけないことぐらい知っている、そして狼や嵐を避けて食べたり眠ったりするには、たくさんお金がいることぐらい、だのにぼくには全然というかほんの少し、もっと正確に言えばあるかなしかぐらいのお金しかないんだ。
LN 心配しなくてだいじょうぶよ、わたしが毎日食べるものをあげるわ、そしてここで、わたしの部屋で眠ればいいわ。
イカロス  でもたくさんのお金の方は?
LN  平気よ、わたしが二人分稼ぐわ。」

ジャック  主題なんてないよ。
ジャン  主題なしだって! こりゃ驚きだ。
ジャック  ぼくは薄紫色(モーヴ)の印象をあたえたいのさ。」

ユベール  (中略)作中人物を失った小説家の運命とはいかなるものか? たぶんいつの日かすべての小説家がそうなるだろう。われわれはもはや作中人物を持たなくなるだろう。作中人物を探す作者たちになるだろう。小説はたぶん滅びはしないだろうが、作中人物はもはやなくなるだろう。作中人物のない小説だなんて想像するのがむずかしい。でも進歩とは、進歩などというものがあるとすればだが、すべて想像するのがむずかしくはないだろうか? 実を言えば、進歩ってものにはただ呆れるばかりだ。(中略)どこで進歩は止るのか? どこまで行ったら落ち着くのか?」

医師  で、あなたの作中人物はなんで逃げたんです? なにか不満があったんですか?
ユベール  不満なんてあるわけがないでしょ? まだ数ページしか生きていなかったんですから。
医師  たぶん彼に不愉快な運命を予定しておられたんじゃないですか。
ユベール  わたしの意見じゃちがいますね。
医師  たぶん彼の意見じゃ。」




◆感想◆


『ラフォルグ抄』を久しぶりによんだので、クノーもよんでみました。ラフォルグとクノーはたいへん似ています。

本書のタイトル「Le vol d'Icare」は、「イカロスの飛行」と「イカロスの盗難」のダブルミーニングです。

作家ユベールは居なくなった作中人物イカロス(Icare)の捜索を探偵モルコルに依頼しますが、そこのところで、モルコルが「手帳にニック・ハリット(Nick Harwitt)と書く」とあります。ユベールが「イカロス(イッカール)」と言ったのを「ニック・ハリット(フランス語ふうに発音するとニッカーリ)」と、複雑に聞きまちがえたのですが、日本語訳だと聞きまちがいであることに気づかないです。

引用したジャックのせりふ「ぼくは薄紫色(モーヴ)の印象をあたえたいのさ。(Je voudrais donner l'impression de la couleur mauve.」は、フローベールのせりふ「『サランボー』で私は黄色の印象を与えたかったのだ。(dans Salammbô, j'ai voulu donner l'impression de la couleur jaune.)」のパロディですが、薄紫色はゲイのシンボルカラーであります。




























































































































プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー

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