皆川博子 『笑い姫』

「――世の動きに流されまい……十七歳の蘭之助は、そう思い決めた。なにごとにも、心をあずけまい。はげしい葛藤は、戯作(げさく)の中にぶちこめばいい。理不尽と思える世に、彼がえらんだ抵抗の表現は、〈無為〉であった。」
(皆川博子 『笑い姫』 より)


皆川博子 
『笑い姫』


朝日新聞社
1997年3月1日 発行
300p
四六判 角背紙装上製本 カバー
定価1,648円(本体1,600円)
装画: 安久利徳
装丁: 菊地信義


「「週刊朝日」連載(一九九五年九月五日号~一九九六年五月二四日号)
*単行本化に際し、補筆訂正がなされました。」



紫色のインクで印刷されています。


皆川博子 笑い姫 01


帯文:

「笑い姫、Who?
時は、水野越前守の政治改革が進む、天保の世。戯作者・蘭之助、婀娜な軽業師・小ぎんは政争の真っ只中に巻き込まれ、江戸から長崎、そして幾百里の波濤を越えて小笠原島へ……驚天動地、超面白時代小説の始まり、始まりーっ!」



帯背:

「戯作と合体した
極上吉の時代小説」



帯裏:

「さあ、いま、大流行りの戯作だよっ! 柳亭種彦に勝るとも劣らねぇ、狂月亭乱麿先生の合巻本『狂月亭綺譚笑姫』てぇーのは、これだっ! えっ、笑い姫たぁ何のことだって? 口が、こう……おっと、うっかり喋っちゃあ、商売あがったりだぁ。聞けば、大奥のお女中がたも先を争って読んでるそうな…」


目次:

Ⅰ ハリトォ ハリトォ
Ⅱ ヒュール
Ⅲ マルス
Ⅳ ボニン アイランド
Ⅴ コルベット



皆川博子 笑い姫 02



◆本書より◆


「Ⅱ ヒュール」より:

「「異国に、コンプラチコスという闇の一味があったのだそうだ。その連中は、赤ん坊をさらって、顔やからだに酷(むご)い細工をほどこした。二つ三つの幼い子供を、蓋のない壺に入れる。子供のからだは、壺の形に成長するほかはない。空隙をみたすほどになったら、壺をこわす。あるいは、口を切り裂き、不気味な笑い顔に造りかえる。そうして、見世物師に売りとばす商売をしていた」
 「ほんとうにいたのかい、そんなやつらが、異国にも」早飛が身をのりだした。
 「ユゴオという作者は、そう書いていたが、異国の作り話だから真偽は知らん。おれは、悲惨な顔にされた笑い姫に、おれの戯作の中で存分に大人に仕返しさせてやろうと思ったのだったが」そう答えてから、蘭之助は、気がついた。――異国にも、と、早飛は言った……。「この国にも、いた、というのか」
 早飛は、うなずいた。」




◆感想(ネタばれ)◆


狂月亭乱麿こと蘭之助は、ヴィクトル・ユーゴーの『笑う人』を元ネタに、口を「半月のように」切り裂かれた人造畸形の「笑い姫」が活躍する戯作を構想中ですが、その書き損じがふとしたきっかけで見世物一座の座長・玉本小ぎんの手に渡り、小ぎんは一座の小人・奇鈴丸(きりんまる)を蘭之助のもとに遣わします。
じつは小ぎんは戯作にでてくるのと同じような「泣いているときも笑い顔の子供」を何度も夢に見たことがあったのですが、それは小ぎんが嬰児のころに見た幼い姉の姿であって、本庄茂平次によって人造畸形の手術を施され、それがもとで死んでしまったのでした。
そこで蘭之助が小ぎんとその兄の早飛幻之丞(これも実は本庄の犠牲者)に協力して、戯作と見世物で復讐を果たそうとする(本庄をおびき出すために蘭之助が笑い姫に扮して仇討狂言を演ずる)、という話になるのですが、ボニン島(小笠原諸島)も出てきて、さては絶海の孤島に人造畸形工場があるのかと思いきや、さすがにそれはないですが、そのかわりいろいろあって(※)、早飛は島で間宮林蔵に切られて死に、島から戻った蘭之助は仇討で失明し、小ぎんは顔に大きな傷を負うも、「わたしは、蘭さんの眼」になる、というわけで、小ぎんの協力のもとにようやく完成した戯作『笑い姫』の「大尾」が本書のエンディングを兼ねているというのは著者らしいトリックですが、戯作の主人公の笑い姫には小ぎんが、笑い姫を慕う盲目の「千鳥」には蘭之助がそれぞれ投影されて、目が見えるようになった千鳥が月にさらされた笑い姫の「おぞましい顔」をあおぎ見て、「お美しい……」と呟く、という幕切れです。

※この「ボニン島」のくだりは、久生十蘭の短篇「ボニン島物語」へのオマージュでしょう。最初のうちは地上の楽園のようだった十蘭の「ボニン(無人)島」は、やがて「わずかな平地を争って、飽くことなく自分のほうへ取りこもうとする。やるまいとする。垣根をつくる。それを壊しにくる」といったありさまになって、「人間が住んでいるところに、安楽世界はないものだ。間もなく、ボニン島も、地獄のようになることでしょう……」というのが「ボニン島物語」の結論です。





























































































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皆川博子 『ゆめこ縮緬』

「居るべきではないところに闖入したよそもの。それが、彼であった。」
(皆川博子 「玉虫抄」 より)


皆川博子 
『ゆめこ縮緬』


集英社
1998年5月27日 第1刷発行
258p+2p
四六判 丸背紙装上製本 カバー
定価1,680円(本体1,600円)
表紙人形: 吉田良一
装幀: 中島かほる



巻末に初出一覧と著者略歴。
泉鏡花みたいな文体です。かつては「鏡花みたいに書いてはいけない」というのが文学の世界の不文律でしたが、古井由吉『山躁賦』が出たり、唐十郎が芥川賞を受賞したりしたあたりから、鏡花みたいに書いてもよいことになったのではないでしょうか。


皆川博子 ゆめこ縮緬 01


カバーは半透明な紙に著者名と表題が印刷されていて、本体表紙の球体関節人形(吉田良)が透けてみえています。


皆川博子 ゆめこ縮緬 02


帯文:

「この世、
 あの世、
それとも
 幻の世界
   *
 妖(あや)しさの中に
 紡ぎだされる
 華麗な作品集」



帯裏:

「ここに収められた八つの隠花植物たちの名を見るだけで、私は噎(む)せて死にそうになる。「文月の使者」「影つづれ」「桔梗闇」「花溶け」「玉虫抄」「胡蝶塚」「青火童女」、そして「ゆめこ縮緬」――酔って、乱れて、夢から覚めて、ふと足元に目をやれば、私の足は膝から下は朧ろに霞んで、そこから先が見えなかった。私は、信じられない幸福に、もう一度息が絶えそうになる。
久世光彦
(「青春と読書」1998年6月号より)」



目次 (初出):

文月の使者 (「小説すばる」 1996年7月号)
影つづれ (同 1995年7月号)
桔梗闇 (同 1995年1月号)
花溶け (同 1998年2月号)
玉虫抄 (同 1997年3月号)
胡蝶塚 (同 1996年1月号)
青火童女 (同 1997年7月号)
ゆめこ縮緬 (同 1997年10月号)



皆川博子 ゆめこ縮緬 03



◆本書より◆


「文月の使者」書き出し:

「「指は、あげましたよ」
 背後に声がたゆたった。
 空耳。いや、なに、聞き違え……。
 くずれ落ちた女橋のたもと、桟橋への石段を下りようとしたときだった。川面までほんの三、四段。すりへった石段は海綿のように、一足ごとにじわりと水を吐き出す。振り返ろうとして足がすべり、あやうく身をたてなおす、その間に、声の主は、消えていた。怪しげな術を使ったわけでもあるまい。路地のかげに曲がって行ったのだろう。
 明石縮(あかしちぢみ)が薄く透けたすがすがしい夏ごろも。パラソルが、くるりとまわったような気がする。」



「影つづれ」書き出し:

「狂(たぶ)れた、と思う。
 行けど行けど、果てしない野である。
 秋草が道をはばみ、いや、道などはじめからありはしない、尾花をかきわけ踏み出せば、一足だけの空間は生じるものの、歩んだうしろはたちまち、茫漠と芒(すすき)の原。
 まばゆく、火の粉の朱じゃあない、穂の銀砂子(すなご)がどっとなびいて降りかかり、全身月光にうちのめされ、おもわずよろめく足を草にかくされた石塊(いしくれ)がすくう。
 やがて、硫黄のにおいが鼻をつき、視野をしめるのは、岩石ばかりとなった。
 赤褐色、茶褐色、鉄錆色の岩を、乗り越え踏み越え、歩く。
 ――散り舞う桜をば、夢見草とも呼びます。ご存じないか。春に狂った魂が、秋の宿に夢を見せます。おまえさまの仮寝の枕は、夢見草の花びらをつめたものであったから、狂れるのも不思議はございますまい。
 芒の葉ずれのような声が、岩の割れ目から噴き出す霧に綯(な)いまざる。
 ――衣くだされ。布くだされ。」



「桔梗闇」より:

「「きっと、あなた、ぐうたら病なのよ」」

「亡命、それがどういうものか、やはりくわしい知識はない。国を捨てて逃げなくてはならなかった人。地上に居場所のない人。佳耶に想像がつくのはそれくらいであり、それだけで十分に悲哀を共感できた。」



「玉虫抄」より:

「居るべきではないところに闖入したよそもの。それが、彼であった。」


「胡蝶塚」より:

「からだが二つあるような気が、いつも、彼はしていた。小学校にかよっているのは、からっぽのからだのほうで、もう一つは、シャガの原のまんなかにある乳母の家にいるような気がした。」

「もともと、好奇心の強いたちではなかった。好きな絵を描くことのほかに、関心を持たないのでもあった。
 Nをはじめとする、彼の絵を受け入れ、称賛してくれる小説家たちにしたところで、その日常は、彼の目から見ればいたって索漠としたもので、現実のなかでだれのようになりたいという願望も彼にはなく、まして、現実に即応して世間知をまなぶ気もない。」



「ゆめこ縮緬」より:

「書物は、子供の日常のうわっつらをなぞったものでさえなければ、現実の社会を書いたものであろうと、非現実であろうと、子供にとってはすべて不可思議な霧のなかの幻想世界であり、そこでこそ、楽に呼吸ができた。」







































































皆川博子 『蝶』

「託された寓意などどうでもよく、甘やかな感傷的な憂愁のなかに漂っていれば満足なのだった。」
(皆川博子 「妙(たえ)に清らの」 より)


皆川博子 
『蝶』


文藝春秋
2005年12月15日 第1刷発行
171p+2p
四六判 角背紙装上製本 カバー
定価1,429円+税
装丁: 柳川貴代+Fragment



短篇集。主人公はたいてい発狂するか自殺するかです。戦時中だろうが戦前だろうが戦後だろうが、戦場だろうが家庭だろうがおなじことです。


皆川博子 蝶 01


帯文:

「死線から
帰還した男は
荒寥たる
海辺で
戦後の
長い
虚無を
生きる

夢幻へ
 狂気へと
誘われる
 戦慄の
八篇」



帯背:

「戦慄の短篇世界」


帯裏:

「インパール戦線から
帰還した男は
ひそかに持ち帰った
拳銃で妻と情夫を撃つ。
出所後、
小豆相場で成功し、
氷に鎖された
海にほど近い〈司祭館〉に
住みついた男の生活に、
映画のロケ隊が
闖入してきた……。

現代最高の
幻視者が紡ぎ出す
瞠目の短篇世界」



目次 (初出):

空の色さえ (「オール讀物」 2001年8月号)
蝶 (同 2004年2月号)
艀(はしけ) (同 2005年2月号)
想ひ出すなよ (同 2003年2月号)
妙(たえ)に清らの (同 2002年10月号)
龍騎兵(ドラゴネール)は近づけり (同 2002年2月号)
幻燈 (同 1999年10月号)
遺し文 (同 2005年10月号)

使用した詩、句などの出典
初出



皆川博子 蝶 02



◆本書より◆


「蝶」より:

「印緬(いんめん)国境を潰走(かいそう)中、友軍とはぐれた。瘴気(しょうき)のたちこめた密林を彷徨(さまよ)っているとき、英軍将校と出くわした。とっさに小銃の台尻でなぐり、昏倒させた。銃剣で腹を突き刺すと皮膚を破る手応えがあり、剣先は肉に沈みこみ、相手は大きく痙攣(けいれん)した。ひきぬくと、臓物がからみついてきた。」


「艀」より:

「「戦争のあいだ、戦争に役に立たない僕は生きている価値がないと思っていた。戦争が終わったら、前向きに明るく力強く、希望にみちていなくてはいけないということになった。絶望して踠(もが)いている気持ちを、なんとか美しい言葉であらわそうとしたのだけれど、そんなのは、悪いことなんだそうです」」


「想ひ出すなよ」より:

「男物の黒い傘の石突(いしづき)は、槍のように細く鋭い。」
「石突の尖端が柔らかいものを突き刺した手応えを感じたような気もするのだが、わたしは思い出さない。傘を抜いたら、血と一緒にどろりとしたものがささっていたような気がするのだが、わたしは思い出さない。
 家が茅屋(ぼうおく)と成り果てるまでの長い歳月が過ぎたような気がするのだが、(中略)わたしはどこかに閉じ込められていたような気もするのだが、戦争があって空襲があったのかもしれないが、もしかしたら、わたしは骨になったのかもしれないが、わたしは思い出さない。」



「妙に清らの」より:

「振り仮名がついているおかげで、学齢前であっても、活字が導き入れる日常から隔絶された世界に棲息することができた。
 まして美術全集となれば、その一頁ごとに、彼を招じ入れる一つの異界があった。」
「幼い彼を最も惹きつけたのは、仄昏(ほのぐら)い浪漫の気配を帯びた絵を蒐(あつ)めた一巻であった。」
「鍾愛(しょうあい)のひとつに、両眼を布で覆った若い女が、水とも雲ともつかぬ靄(もや)だったなかに半分をあらわした球体――地球だろうか――の上に横座りになった、ワッツの絵があった。女が持っているのは粗末な竪琴だが、その絃は切れ、わずかに一筋だけが残っている。画題の『希望』は、この儚(はかな)い糸によって象徴されているのだろうか。
 抱いた竪琴に頭をもたせかけ、女は眠っているように見える。それとも、糸の切れた楽器が奏でる、他者には聴こえぬ楽の音に身を委(ゆだ)ねているのだろうか。
 身にまとった羅衣(うすぎぬ)の繊細な皺は、女の全身をひしひしと縛る糸のようでもある。託された寓意などどうでもよく、甘やかな感傷的な憂愁のなかに漂っていれば満足なのだった。」



「遺し文」より:

「翌朝、朝餉の支度ができたからと離れに呼びにいった加代が、秋穂の死を皆に伝えた。
 秋穂は黒い絽の夏の喪服をまとい、鴇色のしごきで両膝を結わえ、剃刀で喉を割いていた。
 六畳間の畳を二枚裏返した上に油紙を敷き、血溜まりにうつ伏せになっていた。巻紙に墨でしたためられた遺書にも、血痕が散っていた。

 二年後、涼太は、霞ケ浦航空隊に志願、入隊した。
 零戦に乗り、ラバウルで戦死した。」



皆川博子 蝶 03



































































































































皆川博子 『少女外道』 (文春文庫)

「それを何と呼ぶのかは知らなかったが、決して他人に知られてはならないと、本能が久緒に教えた。」
(皆川博子 「少女外道」 より)


皆川博子 
『少女外道』
 
文春文庫 み-13-10 

文藝春秋
2013年12月10日 第1刷
266p
文庫判 並装 カバー
定価560円+税
装丁・カバーデザイン: 柳川貴代


「単行本 二〇一〇年五月 文藝春秋刊」



皆川博子 少女外道


カバー裏文:

「戦前の日本。大きな庭のある裕福な家庭に育った久緒は、あるとき怪我を負って苦悶する植木職人・葉次の姿を見て、自分が苦しみや傷に惹かれる「外道」であることを知る――。特異な感覚を抱きながら昭和を生きた女性の生涯を描いた表題作など、彼岸と此岸、過去と未来を自在に往還する傑作短編全七編を収録。」


目次:

少女外道
巻鶴トサカの一週間
隠(こも)り沼(ぬ)の
有翼日輪
標本箱
アンティゴネ
祝祭

解説 (黒田夏子)




◆本書より◆


「少女外道」より:

「血は簡単に止まった。薄皮をちょっと切っただけだった。二つの小さい傷口をあわせてみた。一つの痛みを二人で感じていると、久緒は思った。」


「巻鶴トサカの一週間」より:

「どちらからともなく、皮膚を失った指頭の、傷口と傷口をあわせた。ずきずきする痛みを、二人で同時に感じていると彼は思った。」


「隠り沼の」より:

「「この子は凶暴なのよ。生まれる前から、この子は人殺しなんだから」」

「「お腹の中で、死んでいたんだそうだ」一衛は言った。「それも……ちゃんと人の形になる前で、このくらいの」と親指と人差し指で輪を作った。「なんか、変な……鼈甲の欠片みたいな形だったって」」



「有翼日輪」より:

「「あなたは死者なのですか」」
「「私は九歳の時、死んだんですよ」画家は言い、すぐに言い添えた。「誤解を招く表現ですね。肉体は死にそびれました。ですから、年齢を重ね、躰は生きています」」



「標本箱」より:

「「成長できない破片でも、夢は見ているのよ」」

「「あなた、誰?」
 男の子に訊ねた。
 「僕はあなたの、生まれなかった従弟」
 男の子の声は言い、そうして続けた。「倫さんは、生まれてしまって気の毒だね」」



「祝祭」より:

「「お前みたいな本狂いになったら、ものの役に立たないだろうが」」



























































『池田澄子句集 拝復』

「各人に各願いあり鰯雲」
(池田澄子)


『池田澄子句集 
拝復』


ふらんす堂
2011年7月24日 初版発行
210p
四六判 地券表紙 カバー
定価2,476円+税
装丁: 和兎



本書「後記」より:

「『拝復』は第五句集。『たましいの話』以後の二〇〇五年後半から、二〇一〇年までの作を、作年順に近いかたちで纏めた。」


第三句集をまだよんでいないのに第四句集をよんでしまったので第三句集をよみたいのですが品切れ状態なので、第六句集をよむまえにせめて第五句集をよもうとおもったもののこれも在庫切れでしたがアマゾンマケプレで1,686円(送料込)で売られていたので注文しておいたのが届いたのでよんでみました。
ちなみにわたしの願いは「世界人類がのらねこになりますように」です。それと一度「拝復」というものがしてみたいです。本書奥付には著者の「現住所」が書いてあるので手紙を出してみるとよいかもしれません。


池田澄子 拝復


瀟洒な女の人の横顔はさわるとやや立体感のある印刷になっています。帯にも同じ絵が印刷されているようですがうちに届いた本は帯欠だったのでやや残念です。


帯文:

「俳句を呼ぶ。

待つ。

それは祈りに似ていた。」



目次:







後記




◆鑑賞◆


「野に在りて小鳥ごこちや百千鳥」

春ともなれば「在野」は百花斉放百鳥争鳴ですが、いずれにしても万物斉同であります。小鳥に付和雷同してしまうのは有りです。

「まんさくや希いかなえばまた希う」

それは迷信かもしれないですが、迷信といえども古来の伝統でありまして、伝統を守るのはよいことです。しかしあまり希いすぎると仏の顔も三度なので気をつけてください。

「世に蝶を加えて晴れて草ぼうぼう」

そういえば蝶というのは冬になると死んでしまうので、それは人類が氷河期になると死んでしまうのと同じだとおもいますが、「世」から人類を引くと図鑑に載ってない虫や雑草の楽園になるのではないでしょうか。

「散る花の快楽つっかい棒の快楽」

なにやらかぶき者のデカダンスの美学っぽいであります。信長のように人に寄りかかって町をふらふらするのはアレですが、つっかい棒や樹木に「倚りかかる」、というか「椅りかかる」のはよいです。

「手を打って春や鯉浮く水の皺」

水の皺(波紋)は鯉が浮かんできたゆえにできたのでしょうか、それとも手を打った音の波動でできたのでしょうか。そもそも手を打ったら鯉は浮くかもしれないですが鳥は逃げてしまうのではないでしょうか。

「この位置と蛇の決めたる蛇の衣」

池田澄子さんは三橋敏雄の弟子ではありますが、この句などは永田耕衣っぽいであります。

「この靴を汚しちゃならぬ菖蒲かな」

「自分ルール」句であります。写真家のサラ・ムーンが監督した映画「ミシシッピ・ワン」の最初のほうでアレクサンドラ(女の子)が新しい靴をずっと見つめながら歩いている場面がありましたが、それをおもいだしました。

「はつなつの歩く速さで遠のく木」

まさにその通りでありますが、しかし遠ざかれば遠ざかるほど近づく、というか、相対性理論的にいうと、ずっと歩いていくと最初に居た場所に戻るのではないでしょうか。

「指牢の蛍を覗かせてもらう」

指牢のなかの蛍はじゃんけんで負けて蛍になった自分自身なのではないでしょうか。

「しぐれ煮の浅蜊の生きていた日など」

あさりだけどたいへんしじみ、じゃなかった、しみじみする句です。しかし浅蜊にとっては「あの頃はよかった」ですが、食べる方にとっては「今がいちばん」なのではないでしょうか。「蓋をして浅蜊あやめているところ」(本書より)。浅蜊をあやめるのは地獄極楽図でしょうか涅槃図でしょうか。

「冬うららか海豚一生濡れている」

生きていてよかった、そうおもえる句であります。

「亀にでもなって鳴いたら撫でてやろ」

季語をおちょくる句はたのしいです。

「あんな日があってこんな日ねむり草」

浅蜊にも生きていた日があったからこそしぐれ煮になる日もある、そういうことだとおもいます。

「山また山病気の蛇も居るならん」

たいへんよい句だとおもいました。

「世を憂い合えばストックよい匂い」

「ストックの花言葉」
「花言葉の「永遠の美」は、ストックの花持ちがよく、香りも長くつづくことに由来するといわれます。「愛情の絆」の花言葉は、ストックの言い伝え(下記参照)にちなむといわれます。」
「ストックの言い伝え
その昔、ある国のお姫様が、敵国の王子と恋に落ちました。それが王に知られてしまい、姫はお城から出られなくなってしまいます。そこで、王子が夜中に城の屋上にロープを投げ入れ、姫がそのロープを伝って降りてくるという方法でひそかに会うようになりました。しかし、ある日、ロープが切れて姫は亡くなってしまいます。それを哀れんだ神様が姫をストックの花に変えたといいます。」
http://hananokotoba.com/stock/

「藻が咲いて言葉は文字を嫌がりぬ」

万葉仮名などは「篭毛與(こもよ)」「布久思毛與(ふくしもよ)」などと「毛」だらけだったりするので、「詩藻」は文字に定着されることを嫌うのでありましょう。「秋風や言葉は気化しつつ匂う」(本書より)。

「虹見そこなわぬよう躓かぬよう」

「揚羽から目をはなさずに拝聴す」(池田澄子『たましいの話』より)

「水母殖えて殖えて淋しさ殖えて殖えて」

たいへんよい句だとおもいました。

「海よりも空は深くて日雷」

まさにその通りであります。空が煮凝りだとしたら海なんか湯葉です。

「風雨だし金魚赤いし夜が更ける」

風雨だし金魚だし昆布だし。

「世間かな枯葉が飛んで雀飛ぶ」

生あるものも生なきものも飛んでいってしまうのが世間というものなのかな。

「捨て難き箱なり捨つる秋の風」

肉体はたましいを入れておく箱である、ということだとおもいます。

「立てば芍薬坐れば空の見える窓」

「トリックアート」のような句であります。


そういうわけで、途中ですがこのへんで失礼します。














































































プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

Koro-pok-Guru
Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。


うまれたときからひとでなし、
なぜならわたしはねこだから。

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