『ポポル・ヴフ』 A・レシーノス 原訳/林屋永吉 訳 (中公文庫)

「彼らは独りでに創(つく)られたもので、母親も父親もいなかったということである。(中略)創成主たちの奇蹟により、呪術によって創り上げられたものにほかならなかった。彼らは人間の恰好をしていたから、人間であったのである。」
「彼らは才能に恵まれ、見渡せばたちまちはるか彼方までも見ることができ、この世にあるすべてのことを見ることができ、また知ることができたのである。」

(『ポポル・ヴフ』 より)


『ポポル・ヴフ』 
A・レシーノス 原訳
林屋永吉 訳
 
中公文庫 D19

中央公論社
昭和52年9月25日 印刷
昭和52年10月10日 発行
321p
文庫判 並装 カバー
定価400円
表紙・扉: 白井晟一
挿画: ディエゴ・リベラ
カバー絵: D・リベラ画



本文中挿画図版(モノクロ)17点。「解説」中に地図1点。
邦訳初版は1961年中央公論社刊(挿絵は北川民次)。1971年にリベラの水彩画17点をカラーで掲載した改訂版が刊行されています。本書はその文庫化です。


ポポルヴフ 01


ポポルヴフ 03


カバー裏文:

「●ポポル・ヴフ讃 三島由紀夫
 メキシコのマヤ文化の古事記ともいふべきポポル・ヴフが、林屋永吉氏によつて本邦にはじめて紹介されたことは、喜びに堪へない。ある考古学者はマヤ族を新世界のギリシア人と呼んでゐる。この聖典はマヤの万神殿(パンテオン)を形成する神と英雄との物語で、そこに猛威を振ふ太陽の力のすさまじさは、今日なほ、密林に包まれたマヤの廃墟のかたはらで如実に味はふことができる。魅力あるメキシコの風土とそのダイナミックな暗い活力は、ポポル・ヴフの中に、神話的叙述をとほして、ありありと感じられる。」



目次:

ポポル・ヴフ
 序文
 第一部
 第二部
 第三部
 第四部

付録 首長の起原の書

訳注 (アドリアン・レシーノス/林屋永吉)
解説 (アドリアン・レシーノス)
解説注

原訳者あとがき (アドリアン・レシーノス)
訳者あとがき (林屋永吉)



ポポルヴフ 02



◆本書より◆


「第一部」より:

「ここには、すべてが静かに垂れ下がり、すべてが動くこともなく平穏にうちしずみ、空がただうつろにひろがっていた模様が語られる。
 これはその最初の話、最初の物語である。人間はまだ一人もいなかった。獣も、鳥も、魚も、蟹(かに)もいなかった。木も、石も、洞穴も、谷間も、草や森もなく、ただ空だけがあった。
 地の表もさだかに見わけられなかった。ただ静かな海と限りなくひろがる空だけがあった。
 寄り集まって物音をたてるようなものは何もなかった。空には動くものも、ゆれるものも、また騒ぎたてるものもなかった。
 立っているものは何もなかった。ただ水が淀み、海が安らかに静まりかえっていた。生を享(う)けたものは何もなかった。
 暗闇のなか、夜のなかに、ただ不動と静寂があるのみであった。」

「男の肉はチッテー豆で造られていたが、創造主たちが女を造るときには、シバケ葦をその肉にした。
 しかし彼らは考えることもできず、彼らを造り出した創造主たちと話をすることもできなかった。そんなわけで彼らは殺され、水に沈められてしまったのである。
 天から樹脂がおびただしく降ってきた。シェコトコヴァッチという神がやって来て彼らの眼をえぐり出し、カマロッツがやって来て頭を斬り、コッツバラムがやって来て肉をむさぼり食ってしまった。トゥクムバラムもやって来て彼らの骨や神経をうち砕き、切りさいなんでしまい、その骨をこなごなに挽(ひ)いてしまった。」



「第三部」より:

「たくさんの人間が創られ、そして暗闇のなかで繁殖していった。太陽も光もまだ現われていなかったころのことである。彼らはみんな一緒に大勢で住んでいて、あの東のほうで歩きつづけていたのである。」
「そこにはたくさんの黒い人間、白い人間、いろんな種類の人々、いろんな言葉の人々がいて、その言葉をきいているのは、素晴らしいことであった。
 地上には、幾世代を経ても山に住んでいて、まったく顔を見せず、家ももたず、ただ大きな山々、小さな山々を気狂いのように歩きまわっている者がいる。人々はこれらの山々の人たちを軽蔑して、気狂いとよんでいる。太陽の昇る地方の人々もまた彼らをそう呼んでいたのである。
 この人たちがしゃべる言葉はみな同じであった。彼らは木や石の像を崇めなかったが、ツァコルやビトル、天の心、地の心の言ったことはよく覚えていた。
 彼らは夜明けの来るのをもどかしく待っていた。」



「第四部」より:

「三人はすぐに絵を描きはじめた。まずバラム・キツェーがケープの上にじゃぐゎーるの絵を描いた。次にバラム・アカブが鷲の絵を描き、つづいてマフクタフがケープの布いっぱいに熊蜂と蜂の絵を描き上げた。こうして三人は三枚のケープの上に絵を描き終わった。」
「娘たちは、早速、絵の描いてあるケープを拡げて見せたが、布には、じゃぐゎーるや、鷲や、熊蜂や、蜂がいっぱいに描かれてあって、眼もまばゆいほどであった。これを見て首長たちは、早速、着てみたくなった。
 そこで首長は、じゃぐゎーるの絵が描いてある一枚目のケープを肩にかけたが、じゃぐゎーるはべつに何もしなかった。つづいて鷲の絵を描いたケープを身に着けたが、首長はケープにくるまって気持よさそうであった。彼はみんなの前でぐるぐると廻ってみせた。それから首長はみんなの前で袴(はかま)を脱ぎ、三枚目のケープを身に着けた。すると、なかに入っていた熊蜂や蜂が襲いかかり、たちまち首長の体じゅうを刺しまわった。首長はこの痛みに耐えかね、叫び声をあげて苦しんだ。これは、マフクタフが三枚目のケープに描いた蜂の仕業であった。」








































































































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大林太良 『神話と神話学』 (日本古代文化叢書)

大林太良 
『神話と神話学』
 
日本古代文化叢書

大和書房
1975年9月25日 初版発行
251p 引用文献11p 索引xvii
四六判 角背紙装上製本
カバー ビニールカバー
定価1,600円
装幀: 渡辺千尋



本書「あとがき」より:

「私にとっては、神話と神話学は、二十年間、学問的関心の焦点の一つであった。その間に、いろいろな機会に発表した文章のうち、比較的一般的なテーマについて書かれたものや、広い読者層を対象として書かれたものを選び、加筆の上、ここに一冊にまとめることにした。」


大林太良 神話と神話学


帯文:

「民族学的見地から探る日本神話の源流
朝鮮から東南アジア、ポリネシアなどの神話との精密な比較対比の中で、さまざまの異質な要素から成り立つ日本神話の構造を分析し、その系統を明らかにする。」



目次:

Ⅰ 世界の神話
 一 神話研究の歩み
 二 神話の諸問題
 三 説話における東洋と西洋
 四 世界の神話
  a 研究史から
   i 南アメリカ
   ii アフリカ
   iii 東南アジア
  b 地域のスケッチ
   i 東アジアの神話
   ii 東南アジアの神話
   iii 海と山・男と女
   iv 東南アジアにおける失われた文字の伝承
   v オセアニアの神話

Ⅱ 日本の神話
 五 日本神話の世界
 六 日本神話の源流
 七 神話伝説の諸相
  a 八岐大蛇と朝鮮
  b 戦神としての剣の崇拝
  c 稲作の神話と儀礼
  d 『今昔物語集』と神話
  e 民族学から見た伝説

あとがき
初出一覧
引用文献/人名索引/事項索引




◆本書より◆


「神話の諸問題」より:

「それでは今日の学術用語としての神話とは何であるかについては、学者によってさまざまな説がなされている。たとえば松村武雄は神話を次のように定義した。
  「神話とは、非開化的な心意を持つ民衆が、おのれと共生関係を有すと思惟した超自然的存在態の状態・行動、又はそれらの存在態の意志活動に基くものとしての自然界・人文界の諸事象を叙述し又は説明する民族発生的な聖性若しくは俗性的説話である。」
 しかし今日からみれば、この神話の定義では超自然的存在態ないし神とか、神話のもつ説明的機能にのみ重点がおかれていて、けっして充分なものとはいえない。ことにバウマンやフルトクランツ(中略)などの最近の所説からみて、松村が挙げたような諸特徴のほかに、神話が真実であると考えられている報告であること、神話的行為が行なわれたときは形成的な原古であって、このときにすべての本質的なものが基礎づけられ、今日の事物や秩序が作られたこと、また神話は存在するものをたんに説明するばかりでなく、同時に一回的な原古の出来事によって基礎づけ、証明するものであること、さらに神話で語られている原古の出来事は、後の人間がまもるべき範疇を提示しており、今日でも関心の対象であるから、その意味では時間をこえた永遠のものであること、などをつけ加える必要がある。
 神話は単なる事物の説明物語ではない。今述べたように、それは事物を基礎づけ、またどのように人は振舞うべきかの指針なのである。
 北米南西部のナバホ族では、世俗、神聖の両領域において神話は正しい振舞い方の陳述であり、その理由でもあって、キリスト教社会において聖書が果たしている(あるいは果たしていた)ところに、ほぼ相当するものである。女性の聖なる人たちが、ある姿勢で坐ったのだから、女たちはそのように坐らなくてはならない。ほとんどどんな事も特定の仕方でなされねばならないのは何故か、と聞かれると、ナバホ族は普通、「《聖なる人たち》が最初にそういうふうにしたからだ」と答えるであろう。子供たちが、ナバホ族の遊戯を一定のルールに従って遊ぶ理由を聞かれたときでさえ、彼らはほとんどいつも、この返事をするのである。」
「このようなことは、別にナバホ族に限ったことではない。世界の多くの民族のところでそうなのである。」

「神話的思考に関しては、いろいろの説があるが、最近ことに注目されているのは、レヴィ=ストロースの説である。かれによれば、神話のなかに意味がみいだされるとすれば、それは一つの神話の構成要素となっている個々の孤立した要素にあるのではなく、これら諸要素が結合されている仕方にある。神話的思考によって用いられる論理の種類は、現代科学の論理と同様に厳格なものである。現代科学と神話的思考における論理の相違は、知的な過程の質にあるのではなく、それが適用されている事物の性質にあるのだ。また、神話は《一種の知的器用仕事(ブリコラージュ)》である。転用はできても用途に限りのある既成の道具と材料の有限な集合でやりくりするのが器用仕事であるように、あいまいではあるが恣意的ではない意味をもつ過去の出来事の証言の有限な集合を、その制限をもつ可能性の内部で再編成しようとする。この営みはそれ自体の規則や論理にしたがって行なわれる。レヴィ=ストロースは、南アメリカのインディアンの多数の神話の分析を通じて、これらの神話は実は自然と文化との関係についての神話的思考の記録であることを論じている。」

「かつてマリノフスキーは、メラネシアのトロブリアンド諸島の実地調査にもとづき、神話は先行例によって現実を正当化し、伝統を強化する憲章であると論じたが、このような先行例ないし範型による正当化や権威づけは、大なり小なり今日の文明社会の生活においてもみられるところであり、また先行例の行為者が神秘化される傾向もまれではない。しかし、これらの例は、比喩的に《神話》と呼ぶことができても、真の神話ではない。というのは、行為が行なわれたのは原古でもなく、また行為者も神的存在としてとらえられておらず、むしろ伝説の範疇に入るものである。」

「神話への関心は今日、世界的に高まってきているといえる。その理由はいろいろあると思われるが、その一つは、今日文明社会において支配的な合理的思考が結局は人類とその文化の行きづまりを招き、人間疎外の現象が生じていることに対する反応である。それは神話や神話的思考に人間性の回復と人間の新たな可能性の探求が模索されているといえよう。」



「説話における東洋と西洋」より:

「レオ・フロベニウス(中略)は、その晩年において、世界の説話中における(中略)東と西の対立を示すモチーフについて、次のように論じている。」
「第一群は太平洋の沿岸と周囲に分布しているもの、つまり東群であって、次のようなモチーフを含んでいる。
 一 英雄が母の死後生まれる。
 二 英雄は父が天にいることを聞き、矢を次々に射て、矢を連ねた梯子をつくり、天に上る。
 三 他界に到着すると、少年は、あらゆる悪戯をする。天の主が建築している現場に少年が来たところ、建築の労働者たちが、柱穴に少年を入れ、柱で潰そうとし、事実潰してしまったと思ったところ、悪戯小僧は柱の上で笑っていて、柱を通って上に上ったと言った。
 四 英雄が海の怪物に呑まれてしまうが、英雄は怪物の胎内で、火をおこし、また石の小刀で怪物の心臓を切り取って殺してしまう。怪物の胎内から出てきた英雄は、魚の腹の中では、あまり熱くなったので、髪の毛が抜けてしまった。
 五 少女、主として王女は太陽を愛し、彼女は脚を拡げて横たわり、陽光に内部を照らさせ妊娠する。生まれた太陽の子は後に父なる太陽のところに行き、試練を受ける。
 六 男あるいは女の英雄が蕾あるいは花から生ずる。これは次の神話と親縁である。
 七 死体の各部分からの栽培植物の発生。
 八 木彫や、彫った木片から魚あるいは鰐が発生する。
 九 釣られた少女(日本の海幸山幸の話もその一例で、失った釣具を英雄が追って行くと、海中の人間の喉にひっかかっているのが発見される等々)。
 第二群は主としてユーラシア大陸西部と北アフリカに分布しているモチーフつまり西群である。中には東は中国にまで及んでいるものもある。
 一〇 生命の卵。ある怪物あるいは巨人の、生命の本質が卵の中にあり、その卵は一羽の鴨の中にあり、この鴨は一匹の兎の中にあり、この兎は一匹の狐の中にあり、かつそれは一個の岩の中にあり、この岩は遠い海の底にある。怪物のところにいる助手の少女から恋人の英雄がこの秘密を聞き出し、卵を探しに出かける。
 一一 悪者に目を潰された善人が、夜、木の下にいると、鳥から秘密を聞く。目が治る。
 一二 旅の道づれ。森を吹き倒す男、海の水を飲み干す男、山を置き換える男、そして無限に見ることのできる男を、ある若者が道づれにする。
 一三 見映えのせぬ騎士。金髪の若い庭師が庭で帽子を脱ぎ、末のお姫様がこれを見て愛するようになり、夫に選ぶ。姫は幽閉される。戦争が始まり、庭師が騎士として戦功をたて、彼が英雄であることがわかる。
 一四 父の木から林檎を盗んだ英雄が井戸の下に下され、姫を救う。多くの場合、このあとに兄弟の裏切りのモチーフが続く。
 一五 魔法の食卓(食卓よ用意せよと言うと食事の用意ができる)などの一連の奇蹟昔話。
 一六 《開け胡麻》(アリババの呪文)
 一七 交互転身あるいは連鎖的変身。一人が兎に変身すると他方がライオンに変身し、一人が真珠になると、他方が鶏になって真珠を追う等々。
 フロベニウスが指摘するように、これはヨーロッパの昔話の世界である。
 第三群は、同じ系列の話であるが、東西において様相を異にしているもの。
 一八 巨人または怪物の口の中に焼石をころげ入れて殺す。
 一九 英雄は鉄棒を焼き、怪物の目あるいは身体の他の部分をつき刺す。
 二〇 一八は、旧大陸でも太平洋をめぐる地域、それにアメリカ大陸に分布し、新石器的な形式と称するように、インド、ヨーロッパ、北アフリカに分布する一九の鉄器文化的形式よりも古い。」



「世界の神話」より:

「海幸山幸の神話は、『古事記」や『日本書紀』に記録された日本神話の中で、最もポピュラーな話の部類に入ると言ってよかろう。」
「ところで、海と山との対立の観念は何も古代日本に限られたものではない、実は中国の東南部からベトナムにかけても顕著にみられるのである。
 エピソードを一つ紹介しよう。昔ペトーという名のフランス人技師が象に踏み殺されたことがある。そこでフランス人たちは復讐のために象狩を行なった。彼らは獲物の象の脚を、サイゴンで加工させて花瓶にしようと思った。しかしアンナン人のジャンクは、一艘として象の足をサイゴンに運ぶのを引き受けようとはしなかった。理由はこうである。象は陸上の支配者であり、海の支配者は鯨である。象は男性で鯨は女性である。もしも象の脚を海上に運んで、鯨の特権が犯されるようなことになれば、彼女はやきもちをやくであろう。だから、彼女の縄張りの上で象の脚を運ぶと、彼女は怒ってその舟を沈めてしまうだろう。このエピソードから、ベトナム人の表象界における陸と海との宿命的な対立が読み取られるのである。
 事実、陸と海との間の対立は、ベトナム人の多くの神話・伝説の中に表現されている。その際注意しておきたいことは、海がいつも女性原理を表わし、陸ないし山がいつも男性原理を表わしているとは限らないことである。」



































































































































『世界神話事典』 大林太良・伊藤清司・吉田敦彦・松村一男 編

「トリックスターには他人のために何かをするという意識はない。彼の関心は利己心と遊びである。」
(『世界神話事典』 より)


大林太良・伊藤清司・吉田敦彦・松村一男 編 
『世界神話事典』

角川書店
平成6年1月30日 初版発行
平成7年6月20日 四版発行
518p
四六判 丸背紙装上製本 
本体カバー 函
定価3,900円(本体3,786円)
装丁: 代田奨



二段組。本文中図版(モノクロ)多数。

角川書店の『世界神話事典』はアマゾンで単行本(本書)と角川選書版(2006年)と角川ソフィア文庫版(二分冊、2012年)の三種類のエディションの存在が確認できましたが、マケプレで一番安かったので単行本(送料込で957円)を購入してみました。


世界神話事典 01


目次:

序 (大林太良)

総説――神話学の方法とその歴史 (大林太良)
 神話の定義
 神話、伝説、昔話
 創世神話
  混沌から秩序への展開
  二種類の起源神話
 神々の神話
 神話研究の歴史
  十九世紀まで
  歴史民族学
  機能主義
  構造主義
  心理学
  その他
  日本における神話研究
 神話と儀礼
  シベリアのシャーマン起源神話
  東南アジアの水掛け祭り
 神話と社会
  人類起源神話
  現実の逆転としての側面
 神話の歴史
  神話の分布と伝播
  神話自体の変化

Ⅰ 共通テーマにみる神話
 世界の起源 (松村一男)
  主要なタイプ
  東アジア
   日本
   朝鮮半島
  中国
   盤古の死体化生・漢族
   天地の分離・漢族
   布朗族
   苗族
   阿昌族
   彝族
   侗族
  シベリア
   チュクチ族
   ブリヤート族
   マンシ族(旧称ヴォグール)
  東南アジア
   カチン族 ミャンマー
   ガロ族 アッサム西部
   レジャング族 スマトラ南部
   ガジュ=ダヤク族
  インド
   原人プルシャの死体化生
   黄金卵
  オリエント
   アッカド
   旧約聖書・神の意志による創造
   エジプト・ヘリオポリスの天地創造
  ヨーロッパ
   ギリシア・宇宙卵
   ゲルマン・原人ユミルの死体化生
   フィンランド・宇宙卵
  アフリカ 
   マリ・ドゴン族
   北ガーナ・ブルサ族
   ヨルバ族
  北アメリカ
   モノ族・カイツブリの潜水
   マンドゥ族・亀の潜水
   ヒューロン族・大地を支える亀
   ズニ族・天父地母の聖婚
   ポーニー族
  中央アメリカ
   メキシコ・古代アステカ
   メキシコ・マヤ
  南アメリカ
   グァラユ族・意志による創造
   チブチャ族・光による創造
   デサナ族・太陽による創造
  オセアニア
   ニュージーランド・マオリ族
   ハワイ
   タガロア・サモア
   プンタン・サモア
   パラオ島
   島釣り・アネイティム島
 人類の起源 (大林太良)
  定義と分類
   創造型と進化型
   出現型
   死の起源神話
  人類の創造
   単独神による創造
   他神との協力や争いによる創造
   土器つくりのアナロジー
  人類の進化
   生物・物体からの進化
   神話の性別
   物体からの進化
   世界巨人神話
  出現する人類
   地中からの出現
   天からの降下
   植物からの出現
  男の起源・女の起源
 洪水神話 (大林太良)
  定義と分布
  洪水神話で強調されること
   懲罰
   タブー侵犯と動物虐待
   闘争が原因
   陸地造成
   人間社会の創設
   洪水の警告
  ノアの洪水神話の影響
   一神教的なセム系
   二元論的なイラン系
   儀礼との関係
  未来の洪水
  洪水神話の分類
   原初洪水型
   宇宙闘争洪水型
   宇宙洪水型
   神罰洪水型
  洪水神話の意味
   精神分析からの解釈
   洪水神話は創世神話の一種
 死の起源 (吉田敦彦)
  前史
   石器時代の大女神
   縄文時代の土偶
  メソポタミア
   『ギルガメシュ叙事詩』
   アダパ神話
  日本
   イザナギとイザナミ
   性の起源
   文化の起源
   岩と花の姉妹
  バナナ型
   セレベス島
   モルッカ諸島
   ニアス島
   マレー半島
  脱皮と月
   宮古島の変若水と死水
   日本本土の脱皮信仰の痕跡
   『万葉集』の変若水信仰
  月の蛙と不死の飲料
   中国
   不死の飲料、酒
   月の女神と地母神
  脱皮モチーフの広がり
   台湾
   メラネシア
   テネテハラ族(南アメリカ)
  南アメリカ
   カドゥヴェオ族
   テネテハラ族
   カヤポ=ゴロティレ族
   アピナイェ族
  ポリネシア
   マオリ族(ニュージーランド)
   英雄マウイ
  アフリカ
   ホッテントット族
   ブッシュマン族
   ガラ族
  旧約聖書
   アダム、エバ、蛇
  共通性とその理由
 火の起源 (吉田敦彦)
  プロメテウス
   ゼウスとの知恵比べ
   黄金時代の終焉
   プロメテウスの火盗み
   最初の女パンドラ
  盗みによる火の獲得(南アメリカ)
   ガラニ族
   カヤポ=ゴロティレ族
   アピナイェ族
  火を盗む鳥
   アンダマン諸島
   ブリアート族(シベリア)
   ハイダ族(北アメリカ)
   フランス
  虫による火盗み
   タイ
   トラジャ族
  獣による火盗み
   パプアニューギニア
   シルク族(アフリカ)
   クリーク族(北アメリカ)
   トラトラシコアラ族(北アメリカ)
  日本神話
   火の神カグツチの誕生
   文化、死、性との関連
  女性器から出た火
   マリンド=アニム族(パプアニューギニア)
   トロブリアンド諸島(メラネシア)
  マウイの冒険
  イザナミ神話と南アメリカ神話の類似
   ワラウ族
   タルマ族
  縄文土器に見える火の神話
  神と自然への反逆であった火の獲得
 作物の起源 (吉田敦彦)
  オオゲツヒメ、ウケモチ、ワクムスヒ
   オオゲツヒメ
   ウケモチ
   ワクムスヒ
  ハイヌヴェレ型
   セラム島(インドネシア)のハイヌヴェレ神話
   ナチェズ族(北アメリカ)
   古栽培民文化
  土偶と土器に見る縄文の神話
   破壊される女神像
   女神の体としての土器
  昔話とハイヌヴェレ
   「天道さん金の鎖」
   「牛方山姥」
   「瓜子織姫」
  プロメテウス型
   ドゴン族(西アフリカ)
   ケチュア族(南アメリカ)
  プロメテウス型と日本
   「狐の稲盗み」
   弘法大師の麦盗み伝説
   アイヌの神話
  トリプトレモス、朱蒙、ホノニニギ
   トリプトレモス
   朱蒙
   ホノニニギ
  ペルセポネと麦
  アドニス(=タンムズ)とキリスト
   アドニス
   タンムズ
   イエス=キリスト
  オオクニヌシとアドニス
  粟の穀霊スクナヒコナ
  雑穀栽培から稲作へ
  作物起源神話の多様性とわが国
 女性 (松村一男)
  男性の観念の産物
  日本
   アマテラス
   食物女神――オオゲツヒメ、ウケモチ
   山姥、山の神
   鬼子母神
  中国
   西王母
  インド
   河川の女神たち
   ドラウパディー
   パールヴァティー、ドゥルガー、カーリー
   シュリー(ラクシュミー)
  メソポタミア
   イナンナ
   イシュタル
  エジプト
   イシス
  ギリシア
   アテナ
   ヘラ
   デメテルとペルセポネ(コレ)
   アルテミス
   アフロディテ
   ヘレネ
   アマゾン
   メドゥーサ、ゴルゴン
   パンドラ
  ゲルマン
   フレイヤ
   ワルキューレ
  キリスト教ヨーロッパ
   マリア
  北アメリカ
   セドナ
  女神像の分類
 トリックスター・文化英雄 (松村一男)
  混沌による創造
   比喩としての動物性
   トリックスターの無秩序性
   肯定的で真面目な文化英雄
  日本
   アメノウズメ
  中国
   孫悟空
  インド
   クリシュナ
   ハヌマン
  オセット
   シュルドン
  ギリシア
   ヘルメス
   ディオニュソス
   プロメテウス
   ダイダロス
  ゲルマン
   ロキ
   ヴェールンド
   ロビン=フッド
  アフリカ
   ペテ族
   ザンデ族
   アニー族
   ナイジェリア
   グバヤ族
   フルベ族
  北アメリカ
   ウィネバゴ族
   ブラックフット族
   北西沿岸インディアン
   地域ごとの特徴
  南アメリカ
   インカ族
  人間の鏡像
 英雄 (松村一男)
  古代社会と英雄崇拝
  日本
   ヤマトタケル
   スサノオ
   義経と弁慶
  インド
   インドラ
   カルナ
  イラン
   ロスタム
  オリエント
   ギルガメシュとエンキドゥ
   サムソン
  ギリシア
   アキレウス
   ヘラクレス
   ペルセウス
  ゲルマン
   シグルズ
   ジークフリート
  ケルト
   クー=ホリン
  パターンの共通性とその背景
 王権の起源 (松村一男)
  特徴的な要素
  日本
   神武天皇
  琉球
   天帝の子孫の降臨
   外来王の子・舜天
  朝鮮半島
   高句麗の始祖東明王(朱蒙)
   新羅の始祖朴赫居世
   閼智
   共通の特徴
  モンゴル
   チンギス=ハン
  トルコ民族
   突厥
   高車
  東南アジア
   扶南
   チャンパ
  インド
   ラーマ
  イラン
   キュロス
  アッカド
   サルゴン
  旧約聖書
   モーセ
   ダヴィデ
   ソロモン
  新約聖書
   イエス
  エジプト
   ホルス
  アナトリア
   天上の王権――アヌ、クマルビ、天候神
  ギリシア
   天上の王権――ウラノス、クロノス、ゼウス
  ローマ
   ロムルス
  ヘレニズムの世界
   アレクサンドロス
  ゲルマン
   オーディン
  ケルト
   アーサー王
  アフリカ
   南西タンザニア・フィパ族
   東北ナイジェリア・ジュクン族
  オセアニア
   フィジー
  モチーフの伝播
 異郷訪問 (伊藤清司)
  異世界存在への関心
  日本
   黄泉の国の訪問
  シュメール
   イナンナの冥界下り
  ギリシア
   ペルセポネの冥界下り
   オルフェウスの冥界下り
  ローマ
   アイネアスの地獄極楽めぐり
  ゲルマン
   冥界への使者ヘルモッド
  グリーンランド
   呪術師の冥界訪問
  メラネシア
   亡夫の魂を冥界に捜す妻
  ポリネシア
   妻を地下の国から連れ戻す
  朝鮮半島
   地下の国の悪鬼退治
  インド
   ラーマの魔王退治
  フィンランド
   ワイナモイネンの冒険
  日本
   浦島太郎の常世の国訪問
  中国
   周穆王の西王母訪問
   武陵桃源
  アイルランド
   常若の国を訪ねたオシアン
  インドネシア
   猪の国を訪ねた男
  スコットランド
   アザラシの国を訪問した漁夫
  異郷の類型論(タイポロジー)
   冥界訪問
   理想郷訪問
   異類国訪問
 異類婚 (伊藤清司)
  異郷の聖存在との結婚
  日本
   三輪山神婚
   三輪山神婚異伝
   トヨタマヒメの出産
   柳の精の女
  朝鮮半島
   作帝建と竜王の娘
   甄萓(キョンホン)伝説
   カワウソの子
   檀君神話
  中国
   槃瓠神話
   馬娘婚姻
  ベトナム
   カワウソの子、丁先皇
  タイ
   バナナの精と結婚した男
  マレーシア
   象と結婚した男
  ビルマ
   竜と結婚した男
  インドネシア
   水牛と結婚した娘
  ブリヤート族
   シャーマンの起源
  シベリア
   鴎と結婚した男
  アフリカ
   ライオンと人間の娘の結婚
   ニワトリの娘を妻に迎えた王
  北アメリカ
   サメと夫婦になった娘
   熊男
   鮭女
  ブラジル
   鹿と結婚した男
  コーカサス
   英雄ナルトたち
  アイルランド
   鹿から生まれたオーシン
   天人女房
  フランス
   メリュシヌ
  異類婚神話の背景
 天体 (伊藤清司)
  太陽、月、星辰
  太陽と月の誕生
   日本
   ポリネシア
   オーストラリア
   アフリカ
   中国
  太陽と月の分離、昼夜の発生
   エジプト
   ヘブライ
   日本
   中央アフリカ
   ミクロネシア
  日食・月食の起源
   インド
   タイ
   アフリカ
  月の陰影の由来
   インド
   ミャンマー
   アフリカ
   フランス
   中国
   日本
   ブラジル
   インドネシア
   ポリネシア
   ドイツ
   北アメリカ
   中国
  牽牛星と織女星
   中国
   ベトナム
  銀河・天の川
   ギリシア
   エジプト
   アフリカ
  大熊座と小熊座
   ギリシア
  北斗七星
   北アメリカ
   朝鮮半島
   中国
  かんむり座
   ギリシア
   日本
  オリオン座・さそり座
   ギリシア
   ポリネシア
  牡牛座
   ギリシア
  すばる星
   ギリシア
   南アメリカ
  南十字星
   インド
  特色
   太陽と月の誕生
   昼夜の発生
   日食・月食
   複数の太陽・月
   月神話の意義
   月と不死と豊穣
   星神話

Ⅱ 地域別にみる神話
 日本の神話 (伊藤清司)
  日本神話の構成
  国生み神話
  高天原神話
  出雲神話
  日向神話
  日本神話の特徴
  日本神話の系統
 中国の神話 (伊藤清司)
  体系化していない神話群
  天地創造神話
   天柱神話
   太陽神話
   月神話
  人類起源神話
  始祖神話
  少数民族の神話
   納西族
   布朗族
   苗族
   独竜族
 朝鮮半島の神話 (松原孝俊)
  天地創造神話
   天地分離神話
   複数の太陽・月
   国土生成
  人類起源神話
   兄妹始祖
   穴からの出現
  穀物起源神話
  中国神話の影響
  建国神話
   高句麗
   百済
   加羅諸国
   朱蒙神話
   新羅
  檀君神話
 東南アジアの神話 (大林太良)
  序論
  創世神話
   植物からの人類起源
   楽園喪失神話
   洪水神話
   仏教神話の土着化
  冒険と愛情
   失われた釣針
   羽衣
   竜王の娘との結婚
  研究の現状
 インドの神話 (上村勝彦)
  ヴェーダの神話
   ヴェーダ聖典
   デーヴァとアスラ
   インドラ
   ヴァルナ
   ミトラ
   アシュヴィン
   その他の神々
   創造神話
   ブラーフマナ文献
  ヒンドゥー教の神話
   『マハーバーラタ』
   『ラーマーヤナ』
   プラーナ
   ヒンドゥー教の神々
 イランの神話 (山本由美子)
  三つの源流
  創世神話
   善の存在アフラ=マズダー
   悪の存在アングラ=マインユ
  混合の時代
   大地の支配者イマ
   悪の蛇王アジ=ダハーカ
   スラエータオナ
   クルサースパ
  『シャー=ナーメ(王書)』の神話
   サーム
   ザール
   ロスタム
 メソポタミアの神話 (渡辺和子)
  概観
  エヌマ=エリシュ
  アトラハシス物語
  ギルガメシュ叙事詩
  アダパ神話
  エタナ神話
  サルゴン伝説
  アンズー神話
  イナンナの冥界下り
  イシュタルの冥界下り
  ネルガルとエレシュキガル
 エジプトの神話 (鈴木まどか)
  起源と文献
  神話と風土
  太陽神話
   ヘリオポリスの太陽神学
   太陽への攻撃
   「人間の絶滅」
   ハトホル女神
   聖眼
  オシリス神話
   オシリスの誕生とセトによる殺害
   イシスによる夫オシリスの遺体探索
   ホルスとセトの戦い
   オシリス神話と歴史のかかわり
 ギリシア・ローマの神話 (吉田敦彦)
  ギリシア神話とローマ神話の関係
  天地の生成とゼウスの勝利
  ゼウスの結婚と子の神たち
   アテナの誕生
   季節、運命、美の三女神群
   デメテルとペルセポネ
   学芸の女神たちムサイ
   アポロンとアルテミス
   ヘラの子供たち
   ヘルメス
  ディオニュソスとヘラクレス
  プロメテウスと人間の運命
  トロイ戦争の始まり
  英雄たちの活躍と木馬の計略
  戦争の後日譚とローマ
   オデュッセウス
   アイネイアス
  ローマの起源とその神々
 ケルトの神話 (松村一男)
  ケルト人とは
  アイルランド
   天地創造神話
   アルスター神話
   フィアナ神話
  ウェールズ
   マビノギ
   アーサー王伝説
  ケルト神話の特徴
  文学と芸術
 ゲルマンの神話 (松村一男)
  資料
  神々
   オーディン
   トール
   フレイ
   フレイヤ
   ロキ
   バルドル
   チュール
  世界観
  神々の黄昏
  英雄伝説――ヴォルスング一族の栄光と悲惨
  文学と芸術
 スラヴの神話 (松村一男)
  資料
  東スラヴの神々
  西スラヴの神々
  創世伝承
  民間信仰
  吸血鬼と人狼
  英雄叙事詩
 シベリアの神話 (荻原眞子)
  自然と民族
  西シベリア
   ウラル語族とケート族の神話
  東シベリア
   ツングース=満州語系諸族の神話
  北東シベリア
   パレオアジア諸語系の神話
  極東
   アムール川、サハリン地域諸族の神話
   射日神話
   兄妹始祖神話
   異類婚
 内陸アジアの神話 (荻原眞子)
  自然と民族
   遊牧騎馬民族と英雄叙事詩
   諸大宗教の影響
  アルタイ族の創世神話
   至高神ウリゲンと冥府王エルリク
  宇宙の三界構造と多層性
  イスラム圏諸民族の神話
  民族、王朝の起源神話
 オセアニアの神話 (大林太良)
  オーストラリア
   夢の時代
   イニシエーション(通過儀礼)
  メラネシア
   人間の起源
   脱皮型死の起源
   栽培植物の起源
   兄弟の争い
   食人鬼退治
  ミクロネシア
   マリアナ諸島の創世神話
   カロリン群島の創世神話
   マーシャル諸島の創世神話
   ギルバート諸島の創世神話
   兄弟の争い
  ポリネシア
   タンガロア(タガロア)の宇宙創造
   系図型・進化型の宇宙起源神話
   天地分離神話
   文化英雄・トリックスター、マウイ
   階層化している神々の世界
  まとめ
 北アメリカの神話 (荻原眞子)
  アメリカ=インディアン
  世界の起源
  人類の起源
  部族の起源
  トリックスターの神話
  エスキモーのセドナ神話
  アジアとアメリカに共通する神話の可能性
 メソアメリカの神話 (八杉佳穂)
  神話の領域
  資料
  神話資料の時代的特徴
  研究状況
  征服以前の神話
  征服後の神話
  世界の創造と破壊
  太陽と月
 南アメリカの神話 (友枝啓泰)
  神話研究の歴史
  神話の構造分析
  双子の英雄神話(アマゾン、テネテハラ族)
  アンデス高地(ペルー)の類話
  天界に昇った若者(アンデス)
  栽培植物の起源(アマゾン、アピナイェ族)
  死の起源(アマゾン、ワラオ族)
  類似のインカ神話
  一致と反対称
 アフリカの神話 (阿部年晴)
  神話の主題
   起源の神話
   神々の神話
  世界の起源
   創造神
   世界の創造
   天と地の結婚
  人類の起源
  天地分離の神話
   天地の分離・神人の分離
   天と地の拮抗
   非連続性の導入、あるいは世界の分節化
   神の自己分裂
  さまざまな事象の起源
   性と生殖の起源
   死の起源
   火の起源

参考文献
写真・図版協力機関(者)一覧
索引
執筆者一覧



世界神話事典 03



◆本書より◆


「トリックスター・文化英雄」より:

「トリックスターとは、神話的な「いたずら者」あるいは「悪ガキ」である。その特徴は、あらゆる面での常軌の逸脱である。言葉の面で言えば、彼は普通のことは言わない。言うのは法螺(ほら)か嘘である。体も尋常ではない。男女の性もしばしば変わるし、人間・動物・神などの定められた範疇に合致しないことが多い。」
「北欧神話のロキは女性になって子供を産むが、これは彼が秩序よりも混沌を体現していることの神話的な表現だし、トリックスター・文化英雄の多くが動物であることも同様の観念にもとづく。」
「北アメリカ神話では、トリックスター・文化英雄としてコヨーテやワタリガラスが多く見られる。彼らは腐肉をあさる動物であり、肉は食べるが自分で殺すわけではないので、本格的な肉食動物と草食動物の中間に位置している。本格的肉食動物は狩猟、戦争、死と結びつき、草食動物は農耕、生産、生と結びつく。コヨーテやワタリガラスは、北米インディアンの思考にとっては生と死の調停者なのであり、破壊者であるとともに有益なものの生産者なのである。」
「このように、トリックスター・文化英雄は単なる破壊者、秩序の騒乱者ではない。彼の活動によって、よい場合も悪い場合もあるが、なにか新しい物が生じ、世界は変化していく。生の全体性には無秩序も含まれるのであり、そのことを無秩序を強調してわれわれに再認識させてくれるのがトリックスターであろう。真面目で硬直化した社会は、トリックスターのいたずらによって変化と笑いをもたらされ、世界は再活性化されていくのである。」
「トリックスターには他人のために何かをするという意識はない。彼の関心は利己心と遊びである。」

「もともとは樹木や果樹の神であったディオニュソスの性格は、哲学が隆盛し、理想的思考が顕著になってきた古典期のギリシアにおいて、しだいにトリックスター・文化英雄に近づいた。葡萄の産物である葡萄酒は彼の支配下にあったが、都市文化の発達に伴う葡萄酒の普及は、葡萄酒を発見した文化英雄としてのディオニュソスへの姿を印象づけることになった。同時に、理性の存在の認識と並行して進行したらしい非理性、狂気の発見は、葡萄酒のもたらす酩酊による理性や秩序感覚からの一時的解放をもディオニュソスに由来するとする見方を生んだ。こうした「異化」作用は葡萄酒だけではなく、熱狂的な音楽や舞踏、仮面をつけて別の人間として演じる演劇の場などにおいても感じられるから、これらもまた葡萄酒と並んでディオニュソスの恵みとされるようになった。場合によっては束縛的、閉塞的と感じられる社会秩序に風穴を開け、心身に解放をもたらし、活性化するディオニュソスはトリックスター的な風貌を帯びるに至る。だからこそ、この神をもっとも熱心に崇拝したのは、当時の社会においてもっとも社会的束縛からの解放を必要としていた女性や奴隷であった。」

「西アフリカ(中略)に住む牧畜民のフルベ族は、次のような物語を伝えている。
 悪童サンバは土曜日に生まれ、日曜日に大きくなった。木曜日には牛の仲買いをしていた。ある日、彼の兄が旅に出ることになった。父はすでに死んでいた。母は妊娠していた。牝馬も妊娠していた。犬も妊娠していた。兄はサンバに、母が子供を産んだら、牡山羊を殺して母に食べさせるように、牝馬が子供を産んだら、母馬に落花生の殻を食べさせるように、そして犬が子を産んだら、糠を食べさせるようにと頼んだ。ところがサンバは、子を産んだ母親に糠を持っていった。母親は糠なんか食べないと言った。するとサンバは母親を殺した。牝馬が子を産むと、サンバは牡山羊を殺して、肉を牝馬に与えた。牝馬は肉を食べようとしなかった。サンバは牝馬を殺した。牝犬が子を産むと、サンバは落花生の殻を与えたが、犬は食べようとしなかった。サンバは犬を殺した。その後、サンバは赤ん坊に水を汲んでくるように言った。しかし赤ん坊は目も見えず、耳も聞こえなかったので、水を汲みに行こうとはしなかった。サンバは赤ん坊を殺した。サンバは子犬たちを呼び集め、狩りに行くと言った。しかし生まれたばかりの子犬たちは走ろうとはしなかった。サンバは子犬たちを殺した。サンバは子馬に鞍をのせた。子馬は鞍の重みに耐えられず地面に倒れた。サンバは子馬を殺した。」

「トリックスターの振る舞いは偶発的で、悪意や悪戯心から行われることが多い。(中略)彼は本質的に泥棒であり、社会の規範を逸脱する「犯罪者」である。明確な目的、手段、結果を考察するという深い思索は、彼には無縁である。」
「彼は常識人なら考えつかないような組み合わせを試み、幾多の失敗のなかから、偶然の結果として新しい文化的・社会的風習を生むのである。」



世界神話事典 02















































































































山本ひろ子 『中世神話』 (岩波新書)

「観念上の神が、現実性を獲得していく――。」
(山本ひろ子 『中世神話』 より)


山本ひろ子 
『中世神話』
 
岩波新書 新赤版 593 

岩波書店 
1998年12月21日 第1刷発行
iii 216p
新書判 並装 カバー
定価640円+税



本文中図版(モノクロ)12点。


山本ひろ子 中世神話


カバーそで文:

「中世に日本神話が創造されていた。律令体制後の社会において、神仏習合とともに思想的変動を物語るおびただしい神道書、寺社縁起、本地物語などが著わされた。そこには、記紀神話とは別の神話的世界がある。「天地開闢」「国生み」などの物語が、未知の神々をキャスティングしてどのように変奏されたのか。中世びとが構想した神話空間への誘い。」


目次:

序章 中世神話への招待

第一章 屹立する水の神
 Ⅰ 中世の開闢神話
 Ⅱ 御饌の神から開闢神へ
 Ⅲ 水徳の神=豊受大神の成立

第二章 天の瓊矛と葦の葉
 Ⅰ 大日如来の印文神話
 Ⅱ 天の瓊矛のシンボリズム
 Ⅲ 葦の老王の物語
 Ⅳ 地主の神と今来の神

第三章 降臨する杵の王
 Ⅰ 稲の王から杵の王へ
 Ⅱ 天の瓊矛とその行方
 Ⅲ 猿田彦大神と大田命

終章 伝世されなかった神器

あとがき
基本文献一覧




◆本書より◆


「序章」より:

「ここに、記紀神話でもなく、南島の歌謡でもない、いわば第三の神話群として中世神話を招聘(しょうへい)することにしよう。だが、はたして中世に、神話が誕生したといえるのか。神話を、太古における出来事を一回性として語るものと定義するならば、「中世」神話は、それ自体が矛盾ではなかろうか。
 もちろん中世神話は、いわゆる起源神話と同じ位相に位置しているわけではない。中世に作成された、おびただしい注釈書・神道(しんとう)書・寺社縁起(えんぎ)・本地(ほんじ)物語などに含まれる、宇宙の創世や神々の物語・言説を、「中世神話」と呼ぶまでのことである。
 しかもそのほとんどは、自立した作品ではなく、断片的記事にすぎない。にもかかわらず中世神話と命名しうるのは、記紀神話や仏教神話などの、先行する神話物語に取材し、すべからくそこから出発していること、またその営み=神話的思考が、神道書や縁起・物語という作品世界を根底で支えており、中世の宗教思想の一大潮流と考えられるからだ。
 つまり中世神話とは、すぐれて方法意識的なカテゴリーということになろう。大事なのは、中世神話とは何かという定義であるよりは、中世神話という視座であり、それによって照らしだされる信仰世界の内実にある。
 これまで、あまり人々が覗き見たことのない、謎に満ちたカオスの海。もしかしたらその海底には、思いがけず豊かな、神話の鉱脈が眠っているかもしれない。」

「中世神話のテクスト群を、試みに三つのジャンルに分けてみることにしよう。
 その第一は、中世日本紀である。中世の文献を見ると、「日本紀に云う」という形で、しばしば『日本書紀』が引文されているが、その内容は、『日本書紀』の原文とは大きくかけ離れている。それが「中世日本紀」と呼ばれるもので、中世の学問の一大領野というべき「注釈」の場で形成されてきた。」
「そんな中世日本紀のひとつの達成を、鎌倉中期成立の卜部兼文(うらべのかねふみ)・兼方(かねかた)親子による『釈日本紀(しゃくにほんぎ)』や兼方本『日本書紀神代巻』に求めることができよう。」
「このような中世日本紀成立の一大源泉となったのが、中世神道であることは容易に想像できよう。(中略)中世神話第二のジャンルは、この中世神道が紡ぎだした神話世界にほかならない。
 周知のように、中世は本地垂迹(ほんじすいじゃく)説を旗印とする神仏習合の時代であった。本地としての仏・菩薩が、神となってこの世に迹(あと)を垂れて衆生(しゅじょう)を救うという思潮で、平安末から鎌倉にかけて、それぞれの神々に仏・菩薩が配当されていく。たとえば天照大神(あまてらすおおみかみ)は、観音の化現(けげん)で大日如来の垂迹であるというように。」
「多彩な神道の潮流と厖大な神道書は、そうした神々の変貌や、新しい宗教観を引き受け、またはそれを強力に牽引するべく成立・展開された。有力寺社や山岳寺院の僧侶・神官たちを主要な担い手として。
 神々の変貌を旗印とする神信仰の刷新は、宇宙や神々の始原・その意味相を捉え返し、再創造するという、ロゴスの運動なしには成り立たない。そこに記紀神話の秩序を大きく逸脱した、新しい神話的な思考が醸成される。それゆえに神道書の多くは、世界の創世=天地開闢(かいびゃく)から語り起こされていったのである。」
「第三のジャンルは、本地物語の世界である。神々の本地や前生を物語るもので、(中略)十四世紀に成立した『神道集(しんとうしゅう)』というテクストを代表的なものとみなすことができる。
 本地物語は地方郷村社会を基盤とし、廻国の宗教者たちによって運ばれ、唱導(しょうどう)文芸として発達しつつ、やがてはお伽(とぎ)草子のような室町小説にまで発展していく。
 「光を和(やわ)らげ、塵(ちり)に同じうす」。本地垂迹説は、この「和光同塵(わこうどうじん)」という標語に集約させることができよう。もとは『老子』を出処とするこの言葉は、中世では、仏菩薩がその威光を和らげ、汚辱にまみれたこの世に神として化現し、衆生を救うという意味を担って流通した。
 本地物語は、まさしくその「和光同塵」を身をもって実践する、悩める神々を主人公としていた。人と生まれて苦しみ、愛し、受難の旅を経て、神として転生する――。」

「中世日本紀、中世神道、本地物語。このような三つのジャンルを往還しつつ形成されていった中世神話は、注釈活動から唱導までという広がりと質をもっている。
 本書はそのなかで、中世神道にスポットライトを当て、神道界の中に生成した中世神話を考察していく。換言するなら、難解で混沌とした中世の神道書を、中世神話として読もうとする試みといえるだろう。」
「近世の国学者たちは、中世神道の言説を、〈さかしら〉による、過剰な作為の産物とみなした。そうしたレッテルから、まだ中世神道は、完全には解放されないでいる。」
「本書は、これまでの神道史観の枠組みから自由になって、中世びとが構想した神話のスペースに読者をいざなってみたいと思う。封印され、埋もれてきた中世宗教世界の豊かな像を提示することで、可能体としての中世思想を拓く試みでもある。
 素材としては、よく知られている「天地開闢」「国生み」「天孫降臨(てんそんこうりん)」の三つの神話を取り上げる。そこで遭遇する宇宙誕生の秘密や神々の変貌は、中世神話が、古代神話からのスリリングな超出であり、〈神話学〉という範疇(はんちゅう)を踏み破る、新しい宗教思想・信仰実践にほかならないことを告知してくれるにちがいない。」



「第1章」より:

「思うに神学者たちが開闢神話の神々に惹(ひ)きつけられたのは、これらの神々がそのあと神話の世界から消失してしまったからにちがいない。たしかに、はなばなしく活躍する英雄的な神々に負けず劣らず、「隠退神」には魅了してやまぬものがある。隠退するほど創造の事業をして疲労したわけでもないのに、神は忽然と身を隠した。なぜか。中世神話はその謎を、神の現象学によって解決しようとしていく。」




こちらもご参照下さい:

山本ひろ子 『異神 ― 中世日本の秘教的世界』

































































































山本ひろ子 『異神 ― 中世日本の秘教的世界』

「思えば彼らが強大なパワーを誇り、抗しがたい魅力を放って中世信仰世界の一角に棲息しえたのは、越境者というメンタリティ、すなわち非伝統ゆえの新奇性、非日本的な出自ゆえの覇王的性格にあったといえるだろう。」
(山本ひろ子 『異神』 より)


山本ひろ子 
『異神
― 中世日本の秘教的世界』


平凡社 
1998年3月23日 初版第1刷発行
1999年8月6日 初版第3刷発行
ix 673p 著者紹介1p 口絵16p
A5判 丸背紙装上製本 カバー
定価7,000円(税別)
装丁: 中垣信夫



口絵図版34点(うちカラー31点)、本文中図版(モノクロ)多数。
本書はのちに「ちくま学芸文庫」版として再刊されています。


山本ひろ子 異神 01


目次:

プロローグ――異神たちの「顕夜」へ

第一章 異神と王権――頼豪説話をめぐって
 Ⅰ 『平家物語』頼豪説話の構成とモティーフ
  ⅰ 頼豪怨霊譚の位相
  ⅱ 史実と虚構のあいだ
 Ⅱ 呪殺された王――後三条天皇崩御譚
  ⅰ 神は「鳴動」した
  ⅱ 王家と山門・寺門
 Ⅲ 頼豪説話の成立
 Ⅳ 鼠の秀倉譚
  ⅰ 頼豪ねずみと日吉社・鼠の秀倉
  ⅱ 護因と後三条天皇(1)
  ⅲ 護因と後三条天皇(2)
 付論Ⅰ 赤衣と老翁・赤山明神
 付論Ⅱ 新羅明神来臨考――縁起と秘法をめぐって
  ⅰ 智証大師伝と新羅明神の渡来
  ⅱ 新羅明神と尊星王法――「三ヶ条の御本意」をめぐって
 付論Ⅲ 新羅明神の幻像を追って
  ⅰ 「御本国」での四つの本名――嵩山王・朱山王・松菘王・四天夫人
  ⅱ 「素髪の老翁」とスサノオ――疫神としての新羅明神

第二章 摩多羅神の姿態変換――修行・芸能・秘儀
 序 謎の神・摩多羅神
 Ⅰ 叡山常行堂と摩多羅神
  ⅰ 常行堂と引声念仏
  ⅱ 秘法「天狗怖し」
  ⅲ 摩多羅神のトポロジー――常行堂を超えて
 Ⅱ 秘儀と摩多羅神――摩怛利神法と玄旨灌頂の世界
  ⅰ 摩怛利神法――七母天供養法と七鬼の呪言
  ⅱ 玄旨灌頂と摩多羅神――「ふるまい」の本尊
 Ⅲ 修正会のなかの摩多羅神――秘法相伝と摩多羅神の「顕夜」
  はじめに――まぼろしの修正会から
  ⅰ 摩多羅神相伝と「天の祭」――多武峰の場合
  ⅱ 摩多羅神相伝と秘密の奥殿――毛越寺の場合
  ⅲ 摩多羅神の顕夜――日光山の場合
  終わりに――「神申し」の翁へ
 付論 日光山の延年舞と常行堂
  はじめに――日光山常行堂と摩多羅神
  ⅰ 倶舎舞と修正会――「延年舞」の源流を求めて
  ⅱ 教城院と光樹院――摩多羅神の奉斎者たち
  終わりに――甦った摩多羅神法

第三章 宇賀神――異貌の弁才天女
 はじめに――『渓嵐拾葉集』と二種の弁才天
 Ⅰ 宇賀神経と荒神祭文
  ⅰ 弁才天三部経の物語相
  ⅱ 荒神祭文と十禅師=宇賀神説
 Ⅱ 『弁才天修儀』の儀礼宇宙――行法と口伝をめぐって
  ⅰ 弁才天修儀への誘い
  ⅱ 『弁才天修儀』の行法と口伝
  ⅲ 表白の段
  ⅳ 結願作法
 Ⅲ 弁才天灌頂――戒家相承の弁才天と如意宝珠をめぐって
  ⅰ 弁才天五箇の灌頂
  ⅱ 生身弁才天灌頂
 終わりに――「如意宝珠王」の彼方に
 付論 戒家と大黒天――大黒天法と戒灌頂をめぐって
  ⅰ 弁才天修儀と大黒天法
  ⅱ 戒灌頂の儀礼世界
  ⅲ 合掌印の授与――「三重合掌」と師資冥合
  ⅳ 「三種法華」と大黒天
 資料
  Ⅰ 弁才天三部経
  Ⅱ 最勝護国宇賀耶頓得如意宝珠王修儀
  Ⅲ 弁才天修儀私

第四章 行疫神・牛頭天王――祭文と送却儀礼をめぐって
 はじめに――「牛頭天王島渡り」祭文と祇園縁起
 Ⅰ 「牛頭天王島渡り」祭文の世界
  ⅰ 牛頭天王の出生と龍宮行き
  ⅱ 蛇毒気神の物語
  ⅲ 津島への鎮座と疫病の造立―本復
  ⅳ 古端一族の殲滅
  ⅴ 釈迦との問答譚
  ⅵ 護符の授与と天王祭
 Ⅱ 津島の牛頭天王信仰と御葦流し
  ⅰ ふたつの護符――柳簡と立符
  ⅱ 津島の牛頭天王縁起――「牛頭天王講式」を読む
  ⅲ 流される疫神たち――御葦放流神事
 終わりに――「みさきたなびく牛頭天王……」

エピローグ――越境する異神たち

引用資料所収一覧
あとがき
人名・書名索引
事項索引




◆本書より◆


「プロローグ――異神たちの「顕夜」へ」より:

「新羅(しんら)明神、赤山(せきざん)明神、摩多羅(またら)神、宇賀(うが)神、牛頭(ごず)天王……。不思議な名前をもつ神々がいる。
 〈神〉と呼ばれてはいるのだが、はたして神なのか、仏なのか、その出自も来歴も不明の謎めいた霊格たちだ。彼らは一人として記紀や風土記、延喜式神名帳などに登場していないし、なれ親しんだ神々の物語をももってはいない。それもそのはず、記紀編纂の遙かな古代には、彼らはまだこの世に存在していなかったのだから。
 彼らは何者なのか、どこから来たのか。遠い日のたしかな足跡は杳として窺いしれない。しかし異風なその形姿や耳慣れぬ名前の響きが発揮する強烈なエグゾティシズムは、彼らが日本生え抜きの神でもなく、経典中の仏菩薩でもないことを告知している。
 どうやら彼らの始祖たちは、異国から海を渡ってきた越境者だったらしい。しかしそれはことの発端にすぎない。彼らは日本という国と風土を舞台に、一個の神格として豊かに自己形成を遂げていき、懐かしい原郷を忘れ去るほどに日本の神としてしたたかに君臨していく。
 神話の神でも、仏菩薩でもない、新しい第三の尊格。彼らを「異神」と命名することにしよう。
 日本中世こそ、彼ら異神たちがもっともダイナミックに活動した時代であった。とはいえ彼らのほとんどは、「深秘(じんぴ)」というタブーを外被に身を隠し続けていたのだが。
 異神の一人、日光山常行堂の隅に祀られていた摩多羅神という神は、年に一度、修正会の夜に御殿から出御した。この聖なる夜を摩多羅神の「顕夜」と称したが、神は己れの真容を決して晒しはしなかった。いや、霊異があまりに強大なため、僧徒たちは像容を仰ぐのさえ憚ったのである。
 重要なのは造像ではなく、秘儀や行法という劇的な場面に「顕現」した秘神の霊性そのものというべきだ。もちろんそこには、中世という時代の、大いなる儀礼的想像力が宿っている。
 よりグローバルな視界に立てば、摩多羅神の「顕夜」を、そのまま異神たちの「顕夜」に拡大させることができようか。異なる運命・来歴を身に纏ってはいたが、彼らは視えない時空で互いに信号を出し合い、エネルギーを交換しながらひとつの信仰の系を形造っていった。
 異神たちが同時多発的に誕生・成熟し、連携、時には対立しあって暗躍した中世の「顕夜」が、本書の舞台だ。日本の信仰史のなかで特異な光彩を放ちながら、綾なす異神たちの系譜。その脈動に耳を傾け、活動の軌跡を辿るとき、浮かびあがってくる中世の「顕夜」は、闇にかかる壮大な星宮図(ホロスコープ)となろう。」



「第一章 異神と王権――頼豪説話をめぐって」より:

「「異神」はいかにして日本へとやってきたのか。渡来人が日本へ持ち込んだ場合を別とすれば、考えられる状況は高僧(と弟子たち)の入唐求法である。(中略)ようやく訪れた異国・唐土における求法と巡礼の日々。その中で、それまで名前を聞いたこともない在地の神々との邂逅もあったろう。とすれば帰朝に際し、多くの聖教・仏像類に混じって、異神とその信仰が運び込まれたとしてもおかしくはない。」


「第二章 摩多羅神の姿態変換――修行・芸能・秘儀」より:

「さて摩多羅神は猿楽の鼓打ちに似た格好をし、二童子も笹と茗荷を持って舞う姿をとることから、そこに歌舞に関わる神、芸能神としての性格を窺うことができよう。」
「だが摩多羅神は最初から芸能神であったわけではない。」

「天狗とは「一念妄心」の僧が形を変えたものという観念は、中世に広く流通した。「通力をえたる畜類」(『源平盛衰記』)で、左右の羽根を生やし飛行するという造型を、その代表的なものとみなすことができよう。(中略)この天狗がしばしば常行堂に出没し、行者の修行を妨害したわけだが、天狗調伏の秘法「天狗怖(おど)し」が摩多羅神の神通力を仰ぐものであるならば、摩多羅神という尊格は修行そのものと不可分であることに気づかされる。
 『渓嵐拾葉集』巻二十二の虚空蔵菩薩求聞持(ぐもんじ)法を述べた「行者用意の事」によれば、この法を修行中の行者は「種々の異相」を感じて障礙されることが多々あった。その「異相」とは、道場の中に海水が押し寄せたり、「明星拝見ノ窓」から死人の首が現われたあげく、その首が巨大になって道場内に充満したり、乳器の上に馬の脛(すね)がのしかかり、異臭が立ちこめるといったシュルレアリスティックな奇怪なイメージである。」
「「執心著相アレバ、必ズ魔ノ為ニ障礙セラルナリ」「外ヨリ障礙ノ来ルニハ非ズ。只一念ノ妄心ニ依ルナリ」と、光宗は「行者用心」の心得を説いている。これらの幻視体験は、自己の内に兆す三毒・煩悩などの「内魔」、また天狗などの「外魔」との葛藤・超克こそが修行の核心をなすものであることを示していよう。」
「さて仏道修行の妨害者天狗を調伏するという「怖魔」の機能こそ、常行堂・摩多羅神の存在理由であった。それははからずもこの神が、天魔・天狗と同じ障礙神であることを如実に物語る。摩多羅神も一箇の障礙神なのだ。つまり障礙という負のエネルギーを誘引し、天狗の除障へと転換・集中させることによって「天狗怖し」ははじめて「怖魔」の行法たりうるのである。
 それにしても興味を惹くのは、後戸で跳ね踊り、前後の見さかいなく経を読むという振舞である。「仮りに魔縁に屈服する形か」と光宗がコメントしたように、堂衆らは、撃退すべき対象である天狗が憑依したかのごとき狂態を演じることで彼らを畏怖せしめるわけだ。床板を踏みならす激しい音の轟きと、口々に発する経文の妖しいざわめきとの増幅・相乗。狭い密閉空間に反響する音と声の洪水の中を僧らが躍如する光景は、さながら異界での天狗の饗宴を思わせる。
 常軌を逸したごとき所作(パフォーマンス)と音響・経文の呪的パワーによって後の暗がりにひそむ摩多羅神を驚発し、障礙神としての力を覚醒させ、天狗を威嚇するのが「天狗怖し」であった。」

「中世ではスサノオは牛頭天王と習合し、行疫神(転じて除厄神)として畏れられていたが、ここで注目したいのは、新羅明神も「疫気ヲ消シ災難ヲ攘(はら)フ」(『園城寺伝記』)神であった点である。」
「しかしその除厄の功能も、いったん神の瞋恚(しんい)に触れた時には、強烈な咎懲(きゅうちょう)の力として発揮される。三井寺の頼豪が戒壇建立の願いを聞き入れなかった白河天皇を恨んで皇子・敦文親王を祟り殺したとの、『平家物語』などが伝える頼豪怨霊譚は、実はその背後に新羅明神の報復というモティーフを隠し持つものであった。また中世ではしばしば、疫病は新羅国から来ると信じられていたが、こうした行疫の働きと異神という存在性が共振しあうとき、王権への敵対という構図が説話の深層から浮上してくる。
 ここで摩多羅神=スサノオ説に立ち戻ると、異国出自の新奇な神という異神性はもちろんのこと、摩多羅神にも疫神的性格がありはしないか、という想像が脳裡をかすめる。」



「第三章 宇賀神――異貌の弁才天女」より:

「ところが日本にはこの妙音弁才天のほかに、もう一種の弁才天が存在した。こちらの弁才天は頭の上に「宇賀神(うがじん)」という奇妙な神を乗せており、そのために「宇賀弁才天」と呼ばれた。では、宇賀神とはどのような像容であったのか。江戸期の学者天野信景の語るところを聞こう。

  宇賀神とて頭は老人の顔にし、体は蛇体に作り、蛙をおさへたるさまして神社に安置し、祭る時には一器に水を盛り彼の像を入れ、天の真名井の水なんいふ文を唱へて其の像を浴す。像、或は金銅、または磁器也。
 (『塩尻』巻四十九)

顔は「老人」で体は「蛇体」、そして「蛙」を押えつけている。しかも祀る時には、水を湛えた器に神像を入れ、唱文を誦しながら像を浴すという。」

「宇賀神。異貌の弁才天女。記紀はもちろんのこと、『延喜式』神名帳にも登場しない「人頭蛇身」のこの尊は十世紀中葉にはその名を現わすが、おそらく院政期頃から成熟し、中世を通じて独特の形貌と活躍を信仰宗教史の上に刻みつけていったのだった。」

「経典中の妙音弁才天を尻目に、いな、その本性をも収奪しつつ、龍蛇と稀有なる合体を果たした異貌の弁才天女。かかる宇賀弁才天もまた「異神」たちの系譜に連なり、中世信仰世界の底知れぬダイナミズムをこの今に突きつけている。」



「エピローグ――越境する異神たち」:

「王権に鋭く対峙した新羅明神に始まる異神たちの系譜は、はからずも、神話の神アマテラスによって牛頭天王が追放される場面で終わることになった。「疫病王」として恐怖の権力を欲しいままにした天王一族が、威光を失って彷徨(さまよ)う姿は実に印象的だ。院政期という異神の爛熟期と、近代前夜という終息期のあざやかな対比を象徴するかのごとくに。
 出自の不明な異神は、しばしば正統を任じる仏教や神道から排撃される運命にあった。もしも、古さと由緒正しい出自こそを日本人の神信仰の原点とみなすならば、異神たちはあらかじめ日本宗教思想史の枠組みから排除されてしまう。また儀礼を最高の舞台とした彼らの様態を、神仏習合という思潮で括ってしまうのはあまりにも空しい。
 異神を〈発見〉し、その系譜と運動論を構想し、異神たちの「顕夜」を再現する本書の試みは、新仏教や宗派別の教義史に傾斜しがちな既成の中世宗教史に異議申し立てをする営みでもあった。
 院政期から中世を通じて、神々のありようは、飛躍的な展開を遂げていく。記紀神話という統辞法の締めつけも束の間のものでしかなかった。神々は、氏族・部族や土地との結び付きからも自由になり、奉斎者集団や修行者個人との交渉を通して、分離・融合・闘争・系列組み替え、変身といっためまぐるしい動きを見せる。海や国境を越えたボーダーレスな交流さえ生まれるようになった。そのもっとも先鋭的なニューウェイヴこそ、「異神」たちであったということができる。
 彼ら越境者たちは、原郷での古代的な装いを脱ぎ捨て、天台密教のロゴスで武装し、日本という新たな土壌であざやかに変身を遂げた。時には恐るべき行疫神として猛威を振るい、また渡来した仏教と協働してその護法神となり、あるいは奉斎集団との盟約によって富と力の招来者を任じ、さらに修行者個人の守護神ともなり、ひいては秘密結社の本尊という役割をも演じ……。
 思えば彼らが強大なパワーを誇り、抗しがたい魅力を放って中世信仰世界の一角に棲息しえたのは、越境者というメンタリティ、すなわち非伝統ゆえの新奇性、非日本的な出自ゆえの覇王的性格にあったといえるだろう。
 自生的、伝統的な神信仰は、否定の契機を孕みにくいがゆえに、〈正統〉を脅かす〈異端〉の覇者たりえない。異神たちが神々のヒエラルヒーや既成の秩序に組み込まれ、吸収されてしまったなら、かくも大きな新勢力たりえなかったことはたしかだ。
 異神たちがドラスティックに躍動した日本中世の「顕夜」――。その漆黒の帳(とばり)から時空を超えて、近代の貧しい霊性を覚醒させる光がわずかでも甦ってくるなら、この国土のどこかにまだ眠っている異神たちも、ふたたび哄笑を取り戻すかもしれない。」



山本ひろ子 異神 02


「摩多羅神像
像高およそ19cm、鼓を打ちながら歌う姿である。」



山本ひろ子 異神 03


「弁財天像
鳥居の向こうに浮き上がっているのは、宇賀神の顔。」















































































プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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