『坂口安吾全集 8』 (ちくま文庫)

「オレが天井を見上げると、(中略)何十本もの蛇の死体が調子をそろえてゆるやかにゆれ、隙間からキレイな青空が見えた。(中略)ぶらさがった蛇の死体までがこんなに美しいということは、なんということだろうとオレは思った。こんなことは人間界のことではないとオレは思った。」
(坂口安吾 「夜長姫と耳男」 より)


『坂口安吾全集 8』
街はふるさと/飛騨の顔/夜長姫と耳男 ほか
ちくま文庫 さ 4-8

筑摩書房
1991年1月29日 第1刷発行
607p 「編集付記」2p
文庫判 並装 カバー
定価1,030円(本体1,000円)
装幀: 安野光雅
カバーデザイン: 横尾忠則



本書「解題」より:

「第八巻には、長編小説『街はふるさと』を中心に昭和二十五年(一九五〇)五月から昭和二十八年(一九五三)一月にかけて発表した小説七篇および戯曲一篇を発表年代順に収めた。」


新字・新かな。

「夜長姫と耳男」は、たぶんオスカー・ワイルドの「サロメ」と「レディング監獄のバラッド」の換骨奪胎ですが、安吾文学のエッセンスがすべて詰め込まれた、安吾文学すら越えてしまった古代的縄文的傑作なので、宮崎さんがジヴリで、というか裏ジヴリでアニメ化すればよいのになと思いました。


坂口安吾全集08 01


目次:

街はふるさと
膝が走る
飛騨の顔
夜長姫と耳男
幽霊
漂流記
輸血
犯人

解説 (古山高麗雄)
解題 (関井光男)



坂口安吾全集08 02



◆本書より◆


「街はふるさと」より:

「「人間て、どうして人のことを、あれこれと、臆測したがるのでしょうね。自分のことだけ考えていればいいのに」」

「生活が体をなしていれば、何かと特に欲しいものもあるかも知れないが、無一物、万事にボロだらけの放二の生活には、何もかも欠けているから、特に必要なものがなかった。無ければ無いで、まにあうような生活環境がちゃんと組み上っているものだ。全部を変える以外には、それに多少つけ加えるべきものがないように見えるほどである。」

「「このまま。そして、それから、なるがままに」」

「「どんな人生だって、同じことだろうよ。(中略)めいめいが自分の一生をかけがえのないものだと分ればタクサン。」」

「「ぼくは、ノンビリと、ノンキな気持なんです。すべてに、満足しています」」

「子供の私は、不平家で、ねたみ強くて、いつも人にたてついていましたが、この町へ辿(たど)りついて野良猫生活をはじめてからは、人が変ったように素直でした。どんな小さな不平も、忘れてしまったのです。」



「飛騨の顔」より:

「作者の名が考えられないということは、芸術を生む母胎としてはこの上もない清浄な母胎でしょう。彼らは自分の仕事に不満か満足のいずれかを味いつつ作り捨てていった。(中略)こういう境地から名工が生れ育った場合、その作品は「一ツのチリすらもとどめない」ものになるでしょう。ヒダには現にそういう作品があるのです。そして作者に名がない如く、その作品の存在すらも殆ど知られておりません。作者の名が必要でない如く、その作品が世に知られて、国宝になる、というような考えを起す気風がヒダにはなかった。(中略)必要に応じて作られたものが、今も昔ながらにその必要の役を果しているだけのことで、それがその必要以上の世間的な折紙をもとめるような考えが、作者同様に土地の人の気風にもなかったのである。」

「私は考えていた。ヒダの郷土史家の中に、ヒダ流の方法で郷土史を考えている人はないかと。――ヒダ流の方法というのは、ヒダ王朝は日本国史のタブーであり、それは完璧に隠されているが、ヒダに残った伝説をモトにしてヒダ流の国史を考えている人はないか、という意味である。しかし、そういう独特の史家はいなかったようだ。」

「私はこの仁王を見て、つくづく思った。
 「なるほど。そうか。ヒダの顔というものが、たしか、どこかで見かけた顔だと思っていたが、仁王様の顔も、ヒダの顔じゃないか」」

「この国だけが一風変ってガンコな歴史を残している。庶流の大和朝廷をうけいれずにかなりの期間ただヒダ一国のみがガンコに抗争して以来、明治の梅村事件に至るまで、何かにつけて妙にガンコな抗争運動をシバシバ起しているのである。その気風はやや異常であるし独特でもあり、それも一途(いちず)なタクミの気質でもあるらしくもあるし、あのヒダの顔に結びつくものであるかも知れない。それはヒダ王朝の系統とは別な、南方的なガンコな鼻ッ柱を感じさせる。」
「ヒダの祭りの中には、神前で先祖伝来の伝えを口の中でモグモグくりかえす行事があって決してそれを人に口外しないことになってる部落などもあるようだ。(中略)探せばいろいろの秘められた物がでてくるかも知れぬ唯一の秘密国、歴史家の手の加わらぬ唯一の国であった。私にとっては他のどこよりもなつかしい国だ。なぜなら日本の芸術の本当の故郷がここであるし、また妙なイキサツで、その一国が現在に至るまで古墳の底へ閉じられたように史家の目から閉されていた。生きている人間までが歴史的に古墳の中の住人のようなものだ。この古墳からはミイラでなくて生きている歴史が発掘されるかも知れないからである。」



「夜長姫と耳男」より:

「「一心不乱に、オレのイノチを打ちこんだ仕事をやりとげればそれでいいのだ。目玉がフシアナ同然の奴らのメガネにかなわなくとも、それがなんだ。オレが刻んだ仏像を道のホコラに安置して、その下に穴を掘って、土に埋もれて死ぬだけのことだ」」

「オレは一心不乱にヒメを見つめなければならないと思った。なぜなら、親方が常にこう言いきかせていたからだ。
 「珍しい人や物に出会ったときは目を放すな。オレの師匠がそう云っていた。そして、師匠はそのまた師匠にそう云われ、そのまた師匠のそのまた師匠のまたまた昔の大昔の大親の師匠の代から順くりにそう云われてきたのだぞ。大蛇に足をかまれても、目を放すな」
 だからオレは夜長ヒメを見つめた。オレは小心のせいか、覚悟をきめてかからなければ人の顔を見つめることができなかった。しかし、気おくれをジッと押えて、見つめているうちに次第に平静にかえる満足を感じたとき、オレは親方の教訓の重大な意味が分ったような気がするのだった。のしかかるように見つめ伏せてはダメだ。その人やその物とともに、ひと色の水のようにすきとおらなければならないのだ。
 オレは夜長ヒメを見つめた。ヒメはまだ十三だった。身体はノビノビと高かったが、子供の香がたちこめていた。威厳はあったが、怖ろしくはなかった。オレはむしろ張りつめた力がゆるんだような気がしたが、それはオレが負けたせいかも知れない。オレはヒメを見つめていた筈だが、ヒメのうしろに広々とそびえている乗鞍山(ノリクラヤマ)が後々まで強くしみて残ってしまった。」

「長者はかたえのヒメを見やって云った。
 「このヒメの今生後生をまもりたもう尊いホトケの御姿を刻んでもらいたいものだ。持仏堂におさめて、ヒメが朝夕拝むものだが、ミホトケの御姿と、それをおさめるズシがほしい。ミホトケはミロクボサツ。その他は銘々の工夫にまかせるが、ヒメの十六の正月までに仕上げてもらいたい」
 三名のタクミがその仕事を正式に受けて挨拶を終ると、酒肴(しゅこう)が運ばれた。」

「長者が金にあかして買い入れたハタを織る美しい奴隷なのだ。オレの生れたヒダの国へも他国から奴隷を買いにくる者があるが、それは男の奴隷で、そしてオレのようなタクミが奴隷に買われて行くのさ。」
「可哀そうな女たちよ、とオレは思った。けれども、ヒメの気に入った仏像を造った者にエナコをホービにやるという長者の言葉はオレをビックリさせた。
 オレはヒメの気に入るような仏像を造る気持がなかったのだ。馬の顔にそッくりだと云われて山の奥へ夢中で駈けこんでしまったとき、オレは日暮れちかくまで滝壺のそばにいたあげく、オレはヒメの気に入らない仏像を造るために、いや、仏像ではなくて怖ろしい馬の顔の化け物を造るために精魂を傾けてやると覚悟をかためていたのだから。」

「オレはクビをまわしてオレの左の肩を見た。なんとなくそこが変だと思っていたが、肩一面が血にぬれていた。ウスベリの上にも血がしたたっていた。オレは何か忘れていた昔のことを思いだすように、耳の痛みに気がついた。
 「これが馬の耳の一ツですよ。他の一ツはあなたの斧(おの)でそぎ落して、せいぜい人の耳に似せなさい」
 エナコはそぎ落したオレの片耳の上半分をオレの酒杯の中へ落して立ち去った。」

「そのとき、ヒメの声がきこえた。
 「スダレをあげて」
 そう命じた。」
「「耳男よ。目をあけて。そして、私の問いに答えて」
 と、ヒメが命じた。オレはシブシブ目をあけた。スダレはまかれて、ヒメは縁に立っていた。
 「お前、エナコに耳を斬り落されても、虫ケラにかまれたようだッて? ほんとうにそう?」
 無邪気な明るい笑顔だとオレは思った。オレは大きくうなずいて、
 「ほんとうにそうです」
 と答えた。
 「あとでウソだと仰有(おっしゃ)ッてはダメよ」」
「ヒメはニッコリうなずいた。ヒメはエナコに向って云った。
 「エナコよ。耳男の片耳もかんでおやり。虫ケラにかまれても腹が立たないそうですから、存分にかんであげるといいわ。虫ケラに歯を貸してあげます。なくなったお母様の形見の品の一ツだけど、耳男の耳をかんだあとではお前にあげます」
 ヒメは懐剣をとって侍女に渡した。侍女はそれをささげてエナコの前に差出した。
 オレはエナコがよもやそれを受けとるとは考えていなかった。斧でクビを斬る代りにイマシメの縄をきりはらってやったオレの耳を斬る刀だ。
 しかし、エナコは受けとった。」
「オレの耳がそがれたとき、オレはヒメのツブラな目が生き生きとまるく大きく冴えるのを見た。ヒメの頬にやや赤みがさした。軽い満足があらわれて、すぐさま消えた。すると笑いも消えていた。ひどく真剣な顔だった。考え深そうな顔であった。なんだ、これで全部か、とヒメは怒っているように見えた。すると、ふりむいて、ヒメは物も云わずに立ち去ってしまった。」

「それからの足かけ三年というものは、オレの戦いの歴史であった。
 オレは小屋にとじこもってノミをふるッていただけだが、オレがノミをふるう力は、オレの目に残るヒメの笑顔に押されつづけていた。オレはそれを押し返すために必死に戦わなければならなかった。オレがヒメに自然に見とれてしまったことは、オレがどのようにあがいても所詮勝味がないように思われたが、オレは是が非でも押し返して、怖ろしいモノノケの像をつくらなければとあせった。」
「オレの小屋のまわりはジメジメした草むらで無数の蛇の棲み家だから、小屋の中にも蛇は遠慮なくもぐりこんできたが、オレはそれをひッさいて生き血をのんだ。そして蛇の死体を天井から吊した。蛇の怨霊(おんりょう)がオレにのりうつり、また仕事にものりうつれとオレは念じた。
 オレは心のひるむたびに草むらにでて蛇をとり、ひッさいて生き血をしぼり、一息に呷(あお)って、のこるのを造りかけのモノノケの像にしたたらせた。」
「小屋の天井は吊した蛇の死体で一パイになった。ウジがたかり、ムンムンと臭気がたちこめ、風にゆれ、冬がくるとカサカサと風に鳴った。
 吊した蛇がいッせいに襲いかかってくるような幻を見ると、オレはかえって力がわいた。蛇の怨霊がオレにこもって、オレが蛇の化身となって生れ変った気がしたからだ。そして、こうしなければ、オレは仕事をつづけることができなかったのだ。
 オレはヒメの笑顔を押し返すほど力のこもったモノノケの姿を造りだす自信がなかったのだ。オレの力だけでは足りないことをさとっていた。それと戦う苦しさに、いッそ気が違ってしまえばよいと思ったほどだ。」
「三年目の春がきたとき、七分通りできあがって仕上げの急所にかかってから、オレは蛇の生き血に飢えていた。オレは山にわけこんで兎や狸や鹿をとり、胸をさいて生き血をしぼり、ハラワタをまきちらした。クビを斬り落して、その血を像にしたたらせた。
 「血を吸え。そして、ヒメの十六の正月にイノチが宿って生きものになれ。人を殺して生き血を吸う鬼となれ」
 それは耳の長い何ものかの顔であるが、モノノケだか、魔神だか、死神だか、鬼だか、怨霊だか、オレにも得体(えたい)が知れなかった。オレはただヒメの笑顔を押し返すだけの力のこもった怖ろしい物でありさえすれば満足だった。」

「オレは戸を叩く音に目をさました。夜が明けている。陽はかなり高いようだ。そうか。今日はヒメの十六の正月か、とオレはふと思いついた。戸を叩く音は執拗につづいた。」
「「目がさめたら、戸をおあけ」
 「きいた風なことを言うな。オレが戸を開けるのは目がさめた時じゃアねえや」
 「では、いつ、あける?」
 「外に人が居ない時だ」
 「それは、ほんとね?」
 オレはそれをきいたとき、忘れることのできない特徴のあるヒメの抑揚をききつけて、声の主はヒメその人だと直覚した。にわかにオレの全身が恐怖のために凍ったように思った。」
「「私が居るうちに出ておいで。出てこなければ、出てくるようにしてあげますよ」
 静かな声がこう云った。ヒメが侍女に命じて戸の外に何か積ませていたのをオレはさとっていたが、火打石をうつ音に、(中略)オレははじかれたように戸口へ走り、カンヌキを外して戸をあけた。
 戸があいたのでそこから風が吹きこむように、ヒメはニコニコと小屋の中へはいってきた。オレの前を通りこして先に立って中へはいった。」
「ヒメは珍しそうに室内を見まわし、また天井を見まわした。蛇は無数の骨となってぶらさがっていたが、下にも無数の骨が落ちくずれていた。
 「みんな蛇ね」
 ヒメの笑顔に生き生きと感動がかがやいた。ヒメは頭上に手をさしのばして垂れ下っている蛇の白骨の一ツを手にとろうとした。その白骨はヒメの肩に落ちくずれた。それを軽く手で払ったが、落ちた物には目もくれなかった。」
「「火をつけなくてよかったね。燃してしまうと、これを見ることができなかったわ」
 ヒメは全てを見終ると満足して呟(つぶや)いたが、
 「でも、もう、燃してしまうがよい」
 侍女に枯れ柴をつませて火をかけさせた。小屋が煙につつまれ、一時にどッと燃えあがるのを見とどけると、ヒメはオレに云った。
 「珍しいミロクの像をありがとう。(中略)ゴホービをあげたいから、着物をきかえておいで」
 明るい無邪気な笑顔であった。」
「いよいよヒメに殺されるのだとオレは思った。」

「本当に怖ろしいのは、この笑顔だ。」





「夜長姫と耳男」については、こちらもご参照ください:

坂口安吾 夜長姫と耳男 (青空文庫)
夢野久作 微笑 (青空文庫)
夢野久作 ココナットの実 (青空文庫)
オスカー・ワイルド 作/日夏耿之介 訳 『院曲サロメ』 (沖積舎)













































































































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『坂口安吾全集 11』 (ちくま文庫)

「もう止してくれ。人間どものつながりの話は、もう、たくさんだ」
(坂口安吾 「不連続殺人事件」 より)


『坂口安吾全集 11』
不連続殺人事件/復員殺人事件/能面の秘密 ほか
ちくま文庫 さ 4-11

筑摩書房
1990年7月31日 第1刷発行
829p 「編集付記」2p
文庫判 並装 カバー
定価1,340円(本体1,301円)
装幀: 安野光雅
カバーデザイン: 横尾忠則



本書「解題」より:

「第十一巻には、坂口安吾が読者を視野に入れたエンターテイメントに新境地を拓いた昭和二十二年(一九四七)八月から不意に逝去した昭和三十年(一九五五)二月にかけて発表した推理小説十一篇すべてを収めた。」


新字・新かな。

本書は他の巻より各ページの行数が一行多くなっているので余白が少ないです。


坂口安吾全集11 01


目次:

不連続殺人事件
復員殺人事件
投手殺人事件
屋根裏の犯人
南京虫殺人事件
選挙殺人事件
山の神殺人
正午の殺人
影のない犯人
心霊殺人事件
能面の秘密

解説 (池内紀)
解題 (関井光男)



坂口安吾全集11 02



◆本書より◆


「不連続殺人事件」より:

「「余分の註釈はよしにして、いきなり言ってしまうが、僕は昔から、加代子を熱愛していた。然し、ともかく兄と妹なんだから、僕は色情的なものを、極めて精神的に変形し、いたわり、聖母を敬慕するような、そんな風なやさしい心をもっていたのだ。困ったことに、加代子の方が僕以上に僕を愛していたんだね、その上に、君、あれぐらい毎日何かしら読書しているくせに、非常識な話だけれども、兄の僕を恋人として愛している、兄と妹は恋をしちゃいけないのだと言ってきかせても、どうして? 世間の人がそうだって、どうして私達がそうでなければならないの? 向う見ずだよ。世間なんか、もう眼中に入れたくないのだね。それが処女の生一本(きいっぽん)の情熱で思い決しているのだから、僕は打たれた。死んでもいいと思った。崇高そのものですよ。君は信じられないかね。これ以上の崇高はないですよ。なんと云ったって、君、加代子は世間を捨てているんだからな。罪を知らないのじゃないのだ。加代子は聡明そのものだ。なんでも知っている。神のように知っている。見抜いているのだ。自分の宿命だって見抜いているさ。僕はふらふらした。ねえ、そうだろう。もし神様にやさしくだかれて悪事をささやかれたら、いったい人はどうなると思う。僕は然し危いところで思いとどまった。(中略)加代子は言うのだ。結婚しよう。神様は必ず許してくれる。そして、死にましょう、とね。僕は然し死ねない。僕はそんなに単純じゃない。僕は悪党なんだ」」












































































































『坂口安吾全集 13』 (ちくま文庫)

『坂口安吾全集 13』
明治開化 安吾捕物帖 (下)
ちくま文庫 さ 4-13

筑摩書房
1990年9月25日 第1刷発行
458p 「編集付記」2p
文庫判 並装 カバー
定価930円(本体903円)
装幀: 安野光雅
カバーデザイン: 横尾忠則



本書「解題」より:

「第十三巻には、「明治開化 安吾捕物帖 (下)」として昭和二十六年(一九五一)十月から昭和二十七年(一九五二)八月にかけて発表した読み切り連作小説『明治開化 安吾捕物帖』第十二話から第二十話を発表年代順に収めた。」


新字・新かな。


坂口安吾全集13 01


目次:

明治開化 安吾捕物帖 (下)
 愚妖
 幻の塔
 ロッテナム美人術
 赤罠
 家族は六人・目一ツ半
 狼大明神
 踊る時計
 乞食男爵
 トンビ男

解説 (加藤秀俊)
解題 (関井光男)



坂口安吾全集13 02



◆本書より◆


「愚妖」より:

「近ごろは誰かが鉄道自殺をしたときくと、エ?生活反応はあったか? デンスケ君でも忽(たちま)ちこう疑いを起すから、ウカツに鉄道自殺と見せかけても見破られる危険が多い。けれども明治の昔にこの手を用いて、誰に疑われもしなかったという悪賢い悪漢がいたかも知れない。法医学だの鑑識科学が発達していないから、真相を鑑定することができないのである。指紋が警察に採用されたのが明治四十五年のことだ。
 ところが犯人にしてみると、科学の発達しない時の方が、かえって都合が悪いようなこともあった。その当時は世間の噂(うわさ)、評判というようなものが証拠になりかねない。殺された人物と誰それとは日頃仲が悪かった、という事だけでも一応牢へぶちこまれるに充分な理由となる。だから当時の犯人はアリバイがどうだの、血痕がどうだのということよりも、ふだん虫も殺さぬような顔をして行い澄ましているのが何よりの偽装手段であった。ホトケ様のような人が人を殺したり孝行息子が親を殺す筈(はず)はないと世間の相場がきまっているから、そういう評判の陰に身を隠すぐらい安全な隠れ家はない。殺した人間を遠方へ運んで行って自殺に見せかけるような手間をかけても、評判が悪ければ何にもならない。」







































































































『坂口安吾全集 12』 (ちくま文庫)

『坂口安吾全集 12』
明治開化 安吾捕物帖 (上)
ちくま文庫 さ 4-12

筑摩書房
1990年8月28日 第1刷発行
488p 「編集付記」2p
文庫判 並装 カバー
定価930円(本体903円)
装幀: 安野光雅
カバーデザイン: 横尾忠則



本書「解題」より:

「第十二巻には、「明治開化 安吾捕物帖 (上)」として坂口安吾が昭和二十五年(一九五〇)十月から昭和二十六年(一九五一)九月にかけて発表した読み切り連作小説『明治開化 安吾捕物帖』第一話から第十一話までを発表年代順に収めた。」


新字・新かな。


坂口安吾全集12 01


目次:

明治開化 安吾捕物帖 (上)
 読者への口上
 舞踏会殺人事件
 密室大犯罪
 魔教の怪
 ああ無情
 万引一家
 血を見る真珠
 石の下
 時計館の秘密
 覆面屋敷
 冷笑鬼
 稲妻は見たり

解説 (加藤秀俊)
解題 (関井光男)



坂口安吾全集12 02



◆本書より◆


「時計館の秘密」より:

「「オレのような余計な邪魔ものもいつ殺されるかも知れたものではない」
 と、彼は怖れにふるえたが、できるだけ邪魔にならないように暮す以外に分別はなさそうだった。」

「「人間は誰でも人殺しぐらいはやりかねませんが、生理的にやや縁遠い人物はいるものですよ。梶原さんは生来の小心臆病者、力にも自信がなく、生理的にとても人殺しのできない人ですよ。時にカッとして女の一人ぐらいは締め殺しても、その次の部屋でまた一人殺し、その次の部屋でまた一人殺すという勇気は持続しませんよ。こう苦労して人を殺すぐらいなら、いっそ自分が死にたいと、二人目ぐらいに気を失いかけてフラフラ逃げだすような人ですよ」」

「「そうする以外に手がなかったのです。あの男は、自分の欲するように身の出来事を処理する決断がない人なのです。半生めぐまれたことのないあの男に、はじめて訪れた幸福でしたよ。老先みじかい私が、あの男のたった一人の幸福のためにいくらか手荒なことをしてやった友情を分っていただけば満足です。」」










































































『坂口安吾全集 10』 (ちくま文庫)

『坂口安吾全集 10』
保久呂天皇/真書太閤記/狂人遺書 ほか
ちくま文庫 さ 4-10

筑摩書房
1991年4月25日 第1刷発行
678p 「編集付記」2p
文庫判 並装 カバー
定価1,130円(本体1,097円)
装幀: 安野光雅
カバーデザイン: 横尾忠則



本書「解題」より:

「第十巻には、未完の長編小説『真書 太閤記』を中心に昭和二十九年(一九五四)二月から昭和三十年(一九五五)四月にかけて発表された小説十五篇と、昭和十四年(一九三九)二月から昭和二十一年(一九四六)ころまでに書かれた未定稿の小説五篇を発表年代順に収めた。」


新字・新かな。


坂口安吾全集10 01


目次:

目立たない人
握った手
曾我の暴れん坊
女剣士
文化祭
保久呂天皇
左近の怒り
お奈良さま
真書 太閤記
花咲ける石
裏切り
人生案内
桂馬の幻想
狂人遺書
青い絨毯

〔未定稿〕
紫大納言
島原の乱草稿
猿飛佐助草稿
わが血を追う人々
焼夷弾のふりしきる頃

解説 (安岡章太郎)
解題 (関井光男)



坂口安吾全集10 02



◆本書より◆


「女剣士」より:

「存八は天性の怠け者であった。(中略)隙さえ見ればキリもなく怠けたくて、働くぐらいキライなことはなかった。怠けてさえいれば退屈しないというのだから始末がわるい。」




































































プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー

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