クラフト・エヴィング商會 『らくだこぶ書房|21世紀古書目録』

「そういえば「目録」の扉ページにはこんな言葉がありました。
 「仮にこの世界が、茫漠(ぼうばく)とした砂漠のようになってしまっても、このらくだのこぶの中には、いつでも書物のオアシスがあります」……」

(クラフト・エヴィング商會 「砂時計の中の砂粒」 より)


クラフト・エヴィング商會 
『らくだこぶ書房|21世紀古書目録』
写真: 坂本真典


筑摩書房
2000年12月10日 初版第1刷発行
2004年5月10日 初版第3刷発行
160p
A5判 丸背紙装上製本 カバー
定価2,000円+税
装幀・レイアウト: 吉田篤弘・吉田浩美



本書はまだよんでいなかったので(一部は筑摩書房のPR誌の連載でよんだおぼえがあります)、アマゾンマケプレで600円弱(送料込)で売られていたので注文しておいたのが届いたのでよんでみました。

図版(カラー/モノクロ)多数。


クラフトエヴィング 21世紀古書目録 01


帯文:

「すでに未来はなつかしい」


帯裏:

「茶柱の未来
神話の未来
インクの未来
闇の未来
占いの未来
クイズの未来
横分けの未来
詩集の未来
食堂の未来
くだものの未来
黄表紙の未来
屋上の未来
漢字の未来
黒板の未来
ガリバーの未来
喫煙の未来
いい話の未来
羊の未来
魂の未来
出前の未来
句点の未来」



目次:

茶柱
老アルゴス師と百の眼鏡の物語
世界なんて、まだ終わらないというのに
羊羹トイウ名ノ闇
絶対に当たらない裸足占い・2049年版
A
7/3 横分けの修辞学
卓球台の上で書かれた5つの詩片
岡村食堂御品書帖
あたらしいくだもの/なつかしいくだもの
月天承知之介・巻之一
屋上登攀記
Water/Door/Big
大丸先生傑作黒板集成・第1版
大いなる来訪者
SMOKING AREA
その話は、もう3回きいた
羊典
魂の剥製に関する手稿
出前
最後にひとつ〇を書くということ

らくだこぶ書房21世紀古書目録

〔コラム〕
 21世紀最初の本
 砂時計の中の砂粒
 玉手箱
 注文しなかった本たちのこと
 〈らくだ書房〉のこと
 手で書く、ということ



クラフトエヴィング 21世紀古書目録 02



◆本書より◆


「1997年の秋のこと、ある日、私たちクラフト・エヴィング商會の仕事場に、ひとつの小包が届きました。」
「表紙には、古めかしい文字で『京都・駱駝こぶ書房製古書目録』とあります。」
「「砂時計をひっくり返すようにして、こちらからそちらへとこれをお送りいたします。こちらは、ただ今、西暦2052年になったところでございます。(中略)御覧いただければおわかりになられるでしょうが、この目録で紹介しておりまする本は、21世紀になりましてから、この50年ほどの間に出版された古本に限ったものでございまして、(中略)そちら様にしてみれば、まだ見たことも聞いたこともない『未来の古本』たち、すなわち来るべき21世紀の古書目録なのであります……」」
「半信半疑ではありましたが、まず試しに一冊選び、指示のとおりに注文してみました。
 あるいは誰かのいたずらかもしれないと思いました。」
「ところが、ちゃんと送られてきたのです。」



「7/3 横分けの修辞学」より:

「「しかし、もう迷うこともありません。だってそうでしょう? 誰も未来にはさからえないわけですからね。未来がここにこうしてある以上、悩むことなどまったくない。……違いますか?」
 そのとおり。
 それは動かしがたく「そこ」にあり、その頁が開かれるのを静かに待っているのです。
 誰もそれを変えることはできません。
 誰も過去を変えることができないのと同じようにです。
 もう誰もさからえない。それが未来というものの正体です。」
「そして未来というものは、確実に「いま」とつながっているはずです。「いま」がなければ未来はありません。それと同じように未来がなければ「いま」もない、というふうには考えられないでしょうか?
 人はみな多かれ少なかれ未来を想い、その未来と「いま」とを、どのようにしてつなげていったらいいか、そう考えながら日々を送っているような気がします。そう思うと、未来というのは決して遠いものではなく、また夢のようなことでもないと分かります。
 「過去」と「いま」とが、どうしようもなく地続きであるように、「いま」と「未来」も地続きであるはずです。極端なことを言ってしまえば、「いま」が「未来」です。」



「月天承知之介・巻之一」より:

「これは、21世紀に突如として現れた「黄表紙」です。」
「題名は『月天承知之介(がってんしょうちのすけ)』といい、その内容はと言えば――
 「どんなことにも『よおし、がってんだい!』と飛び出してゆく少年剣士ふうの主人公と、彼に対峙(たいじ)し、『知らんなぁ、わからんなぁ』と、のらりくらりする素浪人、その名も不知不存左衛門(しらぬぞんぜぬざえもん)。この二人の他愛もない知恵くらべの物語」
 ――というところでしょうか。「知恵くらべ」に終始しているところがポイントで、なるほど傍題には「連続無冒険不活劇(引用者注: 「無」「不」に傍点)」とあります。」



クラウフトエヴィング 21世紀古書目録 03



◆感想◆


そういうわけでわたしがよみたい未来の古書は『月天承知之介』シリーズであります。たぶん久生十蘭の『顎十郎捕物帖』みたいな話なのではないでしょうか。

クラフト・エヴィング商會さんの本は、さくさくっとよめるのでよいですが、よくよむといろいろな本への見えないリファレンスに満ちているので、よみたい本がふえてしまうのでやっかいです。本書の設定に関してはブランショ『来るべき書物』(は、よまなくてもよいですが)やボルヘス『砂の本』、実在しない書物を対象とした架空の評論集『ブストス=ドメックのクロニクル』(ボルヘス/ビオイ=カサレス)『完全な真空』(レム)などです。
「羊羹トイウ名ノ闇」は、谷崎潤一郎のエッセイ「陰翳礼讃」の一節「だがその羊羹の色あいも、あれを塗り物の菓子器に入れて、肌の色が辛うじて見分けられる暗がりへ沈めると、ひとしお瞑想的になる。人はあの冷たく滑かなものを口中にふくむ時、あたかも室内の暗黒が一箇の甘い塊になって舌の先で融けるのを感じ、(中略)味に異様な深みが添わるように思う。」が発想源であろうとおもわれます。
「大丸先生傑作黒板集成・第1版」は『ガレッティ先生失言録』 と『ルドルフ・シュタイナー 遺された黒板絵』から着想されたのではないでしょうか。「世界なんて、まだ終わらないというのに」と畑亜貴『世界なんて終わりなさい』(CD)の関連性は不明です。
「羊典」は、『どこかにいってしまったものたち』に登場する、昭和20年代に森野睡眠普及社から刊行された『五万羊』(「「古今東西、多種多様なる羊の図版が、1ページにつき一匹ずつ、番号入りで紹介されていく」という趣向のもの」)の簡約復刻版なのではないでしょうか。「ニュースが伝える「クローン羊」の数だけを数えてゆくような、そんな味気ないばかりの次世紀を控えた私たちにとって」云々と『どこかにいってしまったものたち』では慨嘆されていますが、20世紀末には「どこかにいってしまった」ように思えたものたちが、21世紀になってちゃんと戻ってくるというのはありがたいです。

さいごに、この本の直前によんだ本『ブルーノ・シュルツ全集』の「書簡篇」から引用してお別れしたく思います。

「いまセガドウォヴィチの『悪夢』を読んでいます。ひどく面白いし、わくわくする。この本の背後に自分で書いてみたい本の輪郭が見える。というわけで、読んでいるのが『悪夢』なのか、それとも書かれていない潜在的な本のほうなのか分からなくなる。こういう読み方が最高だ、行間に自分が、自身の本が読みとれるから。幼年時代にわれわれはそうやって本を読んだ、そのせいで、それらの同じ本――かつては豊かで果肉に満ちていたもの――が、成長してから読むと枝葉の裸(はだか)となったものに変わる、つまり、隙間(すきま)という隙間を子どものわれわれが埋めていたそのかってな作り話が消えてなくなったわけです。(中略)子どものころの記憶と果肉をいまだに持っている人は、昔あったままにそれらの本を新しく書くべきだ。本物のロビンソン物語が、ガリバー物語が出来上がるだろう。」













































































































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クラフト・エヴィング商會 『すぐそこの遠い場所』

「ただし、人は本当に眠りたい時は、ぐっすりと眠ってしまうのが一番である。
 「魂」なんて、くれてやってもいいのだから……」

(クラフト・エヴィング商會 「睡魔」 より)


クラフト・エヴィング商會 
『すぐそこの遠い場所』
Craft Ebbing & Co. : The Dictionary of Azoth

晶文社
1998年12月25日 初版
2002年6月30日 10刷
126p
19.2×12.6cm
丸背紙装上製本 カバー
定価1,800円+税
装幀・レイアウト: 吉田篤弘/吉田浩美
写真: 坂本真典



そういうわけで『クラウド・コレクター』の姉妹編である本書も出てきたのでよんでみました。
本文中図版多数です。


クラフトエヴィング商会 すぐそこの遠い場所 01


帯文:

「この事典はね、
見るたびに中身が変わってゆくのだよ。

クラフト・エヴィング商會の先代が遺した、
不思議な場所「アゾット」の永遠に未完の事典。本邦初訳!

[サブ・カルチャー]」



帯背:

「世にも不思議な空想図鑑」


帯裏:

「人々は夜毎、蒸留酒を飲み、
遊星オペラ劇場に出かけ、筆談を交しては、水葉書を買う。
紙石鹸には、6Hペンシルで詩が刻まれ、
空飛ぶじゅうたんの上には、ものすごく太った猫が眠り続ける。
師匠王様も姿が見えない。
そして夕方の果てから、誰にも知られずに、あの小さな列車が現われる……。
見知らぬ懐かしさに充ちた世界〈アゾット〉
そのすべては、今も、この本の中を生き続けている。」



カバーそで文:

「「この事典はね。見るたびに中身が変わってゆくのだよ」
 クラフト・エヴィング商會の先代、吉田傳次郎がそう言い残した一冊の書物「アゾット事典」。傳次郎の孫であり、現在のクラフト・エヴィング商會の主人が、書棚の隅から、この不思議な書物を見つけてきた。
 遊星オペラ劇場、星屑膏薬、夕方だけに走る小さな列車、エコー・ハンティング、ガルガンチュワの涙という蒸溜酒、雲母でできた本、忘却事象閲覧塔……。アゾットには、謂れも始まりもわからないたくさんの事や物がつまっている。
 茫洋とした霧のなかにあるかのような、なつかしい場所アゾットの、永遠に未完の事典。つづきは読者の方それぞれに書いてほしくて、まずは一冊、お届けします。」



目次:

読むことのできなかった事典のこと

アゾット事典
 本事典の編集にあたって
 AZOTHという名前について
 アゾットの「21のエリア」について
 世界の回転について
 アゾットの言語
 過客
 地図と楽譜
 回覧板
 忘却事象閲覧塔
 雲母印書房
 21の天使の分け前
 長き夜の筆談と、句読点としてのオードヴル
 星屑膏薬[スター・ダスト・リップ・クリーム]
 夜肆
 睡魔
 ヘヴンリィ・ハット
 雨師
 検問官
 6Hの詩人
 残像保管庫/残響音保管庫
 回転木馬の中から発見されたコックの記録
 夕方にだけ走る小さな列車
 卓球詩人・ピングとポング
 ドラゴン
 イプシロンと[書肆イプシロン]
 ホルン製造工房の伝説
 見えない師匠と、その職人たち
 ガルガンチュワの涙
 哲学サーカス団
 人工降雨機に関する手稿
 セスピアン
 蝙蝠的手品師
 紙肆
 手袋製造人
 空飛ぶじゅうたんの上のものすごく太った猫の話
 BAR[死神としての床屋]
 BER[うずまき研究者としての床屋]
 ツブラディ/ツブラダ
 薄い眉
 エコー・ハンティング
 空耳
 太陽王の予言暦
 遊星オペラ劇場
 かなでるものたち
 忘れな草[FORGET-ME-NOT]
 ブヴァールとペキュシェ帽子研究所
 夏の本/冬の本
 夏の図書館/冬の図書館
 紙石鹸に記されたD氏の肖像
 ドクター・スコットのクラウド・コレクション
 幻の蒸留酒[ゴールデン・スランバー]
 クラウド・シュガー[雲砂糖]
 ゴジと校正士
 イヴたちの耳
 路地裏の剥製工場
 観光
 沙翁
 ショーヨー・ツボウチ
 プロンプター[影としての黒子について]
 エラノス・カフェ
 デンジロウ・ヨシダ

それでも、読むことのできなかった事典のこと



クラフトエヴィング商会 すぐそこの遠い場所 03



◆本書より◆


「夕方にだけ走る小さな列車」より:

「なんというか、このエリアで流れる時間のほとんどは「ひき伸ばされた夕方」のように感じられるのだ。」
「この時間の中では、誰もが輪郭を失い、人のみならず、語られる言葉すらも、ぼんやりとして、すべてが長い影をひいている――このエリアでは、このような、いつでも10月であるような時間たちのことを、いつからか「彼(か)は誰(たれ)の刻」と呼びならわしてきた。
 実際、ここでは、そんな夕方的憂愁の力に丸めこまれ、誰ひとりとして「彼方の人物」の正体を見極められなくなる。「彼は誰か?」といぶかしむ時間さえ、どこまでも長い影をひいているような気がするのだ。
 ……このエリアには「夕方にだけ走る小さな列車」(正式名称はダンテズ・イヴニング・レイルロード)の停車場がある。」

「しかし、そうあわてることもない。ここには夜は来ないし、もちろん朝だって来ないのだ。ここでは、ただひたすら夕方が、永遠に繰り返されているだけである。
 永遠の夕方の中で、永遠に乗り遅れるがよろしい。それは、ほとんど天国に来てしまったかのような、心地よくも憂鬱な解放感なのだから……」



クラフトエヴィング商会 すぐそこの遠い場所 02






Landberk - I Nattens Timma












































































































クラフト・エヴィング商會 『クラウド・コレクター|雲をつかむような話』

「私はどうも、こういう「裏側」とか「もうひとつの」みたいなものに、訳もなく魅かれるのです。」
(クラフト・エヴィング商會 『クラウド・コレクター』 より)


クラフト・エヴィング商會 
『クラウド・コレクター 
雲をつかむような話』
写真: 坂本真典


筑摩書房
1998年11月25日 初版第1刷発行
2002年12月20日 初版第6刷発行
190p
A5判 角背紙装上製本 カバー
定価2,500円+税



さいきんは物忘れがひどくて自分の名前もうろおぼえです。というか、うるおぼえです。
そういうわけで、まえに買っておいたクラフト・エヴィング商会さんの本が出てきたのでよんでみました。
「クラフト・エヴィング商會」先代が残した遠国「アゾット」旅日記です。
本文中図版(カラー/モノクロ)多数。


クラフトエヴィング商会 クラウドコレクター 01


目次:

雲を売ろうとした男のはなし

[第1の手帳]
 ふたつの白い手袋
 雲の母の書物
 沙翁世界の逍遥
 見えない師匠
 もの忘れのひどい書記官
 ブヴァールとペキュシェ帽子研究所
 すべて・ありのままに・羽根あるもの

パスポート・ナンバーの謎を解く

[第2の手帳]
 サラマンドルのしっぽ
 いま、ここにだけ降る雨
 光を観るための旅
 すばらしい耳
 哲学サーカス団
 不吉なる理髪師
 青い涙を集めるひと

ゴンベン先生と一緒に読み解く[アゾット行商旅日記]第1の手帳と第2の手帳

[第3の手帳]
 小さな赤い悪魔
 雨の降る中庭
 星をめぐらせる劇場
 静かなる晩餐
 太陽王はかく語りき
 かなでるものたち
 クラウド・コレクター

バッカスに導かれて
バッカスのタロット全21枚解説

びん博士・庄司太一さんとクラウド・コレクションをつくる

あとがき



クラフトエヴィング商会 クラウドコレクター 02



◆本書より◆


「〈さかさまに降る雨は、私たちの記憶を少しずつ削りとるようにして、天に運んでゆく。そして、それは雲に結する……雲とは忘却の結晶である。雲とはわれわれの失われた夢であり、見知らぬ懐かしさなのだ〉」


「きっと、傳次郎さんは、自ら封印した物語たちの中に、毎夜そっと降りていっては、こっそり様子を窺いたかったのだよ。これは、その記録なんだろうね。それはつまり自分の内面を測量するようなことだったろうと思われるけれど、それを架空旅行記のスタイルで綴ったのだろう……それで思うのは、22枚目のタロット、すなわち0番のカードのことだけれど、このカードは〈愚者の旅〉と呼ばれていて、カードには、文字どおり愚かなる男の旅姿が描かれている。この愚かなる男が、私には〈素晴しい忘却人〉にならんとした傳次郎そのものに見えるのだ。」



クラフトエヴィング商会 クラウドコレクター 03




こちらもご参照ください:

ルドルフ・ベルヌーリ 『錬金術とタロット』 種村季弘 訳論 (河出文庫)


Anthony Moore - Pieces from the Cloudland Ballroom





















































































クラフト・エヴィング商會 『どこかにいってしまったものたち』

クラフト・エヴィング商會 
『どこかにいってしまったものたち』
写真: 坂本真典


筑摩書房
1997年6月25日 初版第1刷発行
2000年6月10日 初版第6刷発行
158p
A5判 角背紙装上製本 カバー
定価2,400円+税



まえに買っておいたクラフト・エヴィング商会さんの本がでてきたのでよんでみました。
本文中図版(カラー/モノクロ)多数。


クラフトエヴィング どこかへいってしまったものたち 01


目次:

【クラフト・エヴィング商會不在品目録】 1897―1952
 引き出しの奥のもうひとつの世界
 【明治】 1898―1910
  硝子蝙蝠
  記憶粉
  迷走思考修復機
  七色李酒
 どこかにいってしまったものたち探偵調査ファイル
  File 1
  File 2
  File 3
  File 4
 【大正】 1916―1925
  万物結晶器
  アストロ燈
  月光光線銃
  立体十四音響装置
  時間幻燈機
  深夜眼鏡
 【昭和・Ⅰ】 1928―1944
  人造虹製造猿
  水蜜桃調査猿
   「水蜜桃調査猿解説」復刻
  全記憶再生装置
  卓上キネマハウス
  夜間自動記録式電氣箱
  遡行計
  中國的水晶萬年筆
 【冬眠】 1944―1946
  燃えつきてしまったものたち
 【昭和・Ⅱ】 1946―1952
  青い火花を散らすもの
  瞬間永遠接着液
  流星シラップソーダ
  空中寝台
 【平成】 1994~
  「どこかにいってしまったものたち」の作り方
  魔法のくすりのこと
  手品師の帽子を脱いで



クラフトエヴィング どこかへいってしまったものたち 02



◆本書より◆


「引き出しの奥のもうひとつの世界」より:

「ここにある、このいくつもの引き出し。」
「この引き出したちには、私たち「クラフト・エヴィング商會」の長くて風変わりな歴史が、さまざまなかたちで封じ込められてもいます。」
「この引き出したちはつまり「クラフト・エヴィング商會」という奇妙な名前の商店そのものを回顧するための、小さな博物館のようなものでもあるのですが、しかしそもそも「クラフト・エヴィング商會」とは一体何なのか? というお話から始めなければなりません。」
「私たちは、明治、大正、昭和と続いてきた当商會を、平成の時代になってから引き継ぐことになった「三代目」です。当商會の、この百年間変わらない謳い文句は「不思議の品売ります」であり、科学的な「装置」から子供のための玩具まで、それが「不思議なもの」であれば、どんなものでも取り扱ってきました。」
「さて、こうした引き出したちのひとつに「どこかにいってしまったものたち」と名付けられた引き出しがあります。中には、当商會の先代の字で「クラフト・エヴィング商會不在品目録」と記された書類がひと束はいっているだけですが、これこそこの本の主役、本書の元となった貴重な資料なのです。
 この書類は、当商會が取り扱ったものたちの中で、さまざまな理由により「今は存在していないもの」すなわち「どこかにいってしまったものたち」のデータだけを、先代がまとめたものです。その多くは、商品の名前と、わずかな概略だけしか残されていません。しかし、私たちが興味を覚えて引き出しやら倉庫やらをひっくり返してみたところ、これらいくつかの不在商品の、解説書やパッケージや宣伝用チラシなどが発見されたのです。」
「この平成の世に「不思議」を商うのは、非常に困難なことです。思えばこの百年は「不思議」を消費し続け、葬り続けた世紀でもありました。もしかするとこれらの不在品も、現物を確認してしまったら「なあんだ」というようなものであるのかもしれません。しかし、現物が不在であるがゆえに、これらの「不思議」は決して葬られることがありません。私たちとしては先代が残してくれたこの貴重な資料を紹介することで、「不思議の品売ります」を謳ったクラフト・エヴィング商會のモットーを受け継ぎたいと思うのです。」



クラフトエヴィング どこかへいってしまったものたち 05


「月光光線銃」より:

「つまりこの光線銃は、まず「月光」を吸収し、それを内部に蓄えたのち発射するという仕組になっているわけです。言うまでもなく使用できるのは、月の出ている夜間のみに限られています。」


クラフトエヴィング どこかへいってしまったものたち 03


「遡行計」より:

「私達の生活は實感的現實時間の中にあり、時間は常に前に進むものだと考へられて來ました。しかし、物質や空間の中には時間を遡りながら存在するという現象が、しばしば起こりうるのであります。(中略)外見的にはただここにあるだけのものが、實は内側で、この物質固有の速さ、重さ、角度をともないながら時間を遡つていることがあるのであります。これは空間についても同じであります。この極めて重要な事實を捉へ、手輕に各々で計測するための計器が、この遡行計であります。」


クラフトエヴィング どこかへいってしまったものたち 04


「流星シラップソーダ」より:

「写真の青い箱は、どうやら街の菓子屋の店先に飾られていたディスプレイ広告のようです。ガラス板の扉に宣伝文句が印刷してあり、その扉が開閉できる作りになっています。おそらく当時は、中に置かれたグラスの中に、色とりどりの「星形ジュースの素」が入れてあったのでしょう。
 問題は、この「流星の味」ですが、はてさてどんなものだったのでしょう?」
















































































リンド・ウォード  『狂人の太鼓』

リンド・ウォード 
『狂人の太鼓』


国書刊行会 
2001年10月10日 初版第1刷 
ノンブル表記なし(262p) 
20.5×15cm 
丸背紙装上製本 カバー 
定価2,000円+税

栞(リンド・ウォード 狂人の太鼓について):
リンド・ウォードの最高傑作(牧眞司)



リンド・ウォード Lynd Ward (1905―1985) はアメリカのイラストレーターで、メアリー・シェリー『フランケンシュタイン』の挿絵でおなじみです。本書(Mad Man's Drum)は1930年刊。木版画の連続からストーリーを読み取る、文字のない小説(グラフィック・ノヴェル graphic novel)で、同様の作品はベルギーのフランス・マセレール Frans Masereel (1889―1972) やドイツのオットー・ニュッケル Otto Nückel (1888―1955) らによって1920年代から1930年代にかけて作られました。それらは総じてアール・デコ/表現主義的傾向にありますが、ほぼ同時期にシュルレアリストのマックス・エルンストが作成したコラージュ・ロマンも、そうした流れと無関係ではないと思われます。それらのうち代表的なものは現在でも洋書ペーパーバックで入手可能ですが、不安定な時代相にふさわしく暗鬱で絶望的な内容のものが多いです。


ウォード 狂人の太鼓 01


帯文:

「文字のない小説
奴隷商人がアフリカから持ち帰った太鼓は何をもたらしたのか。書物に埋もれた生活を送る男を次々に見舞う恐るべき死と災厄。グロテスクな想像力にあふれた120枚の木版画で綴る運命奇譚。」



カバーそで文:

「奴隷商人の父親がアフリカから持ち帰った太鼓は、一家に何をもたらしたのか。父の教えを守り、書物に埋もれた学究生活を続ける男とその家族を次々に見舞う恐るべき死と災厄。グロテスクな想像力にあふれた120枚の木版画で語られるこの「小説」には、文字が一切存在しない。読者は絵を1枚ずつ丹念に読み解くことによって、〈知〉に憑かれた主人公に下された過酷な運命を、ひとつひとつ辿っていくことになる。強烈な明暗対比と鋭い描線で読書界に衝撃を与えた特異な天才画家ウォードの〈文字のない小説〉。」


帯裏:

「聴け、太鼓の響きを
リンド・ウォード!その名の魔術的響き。祈りにも似た営為から産みだされた文字のない小説の圧倒的迫力は、まことに類例のないものである。言葉という限界を取り払った故に成ったこの豊で饒舌な物語の前では、我々はただ黙し、驚嘆し、瞠目するしかない。そして条理も愛も美も越えて、彼方から渉ってくるものにただ耳を澄ますのだ。聴け。存在の際から立ち昇る狂人の太鼓の響きを。
――西崎憲」



ウォード 狂人の太鼓 02


集中線を効果的に使用したダイナミックな表現。

 
ウォード 狂人の太鼓 03


ムンクを思わせる構図。
























































































プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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