柴田宵曲 『明治の話題』 (ちくま学芸文庫)

柴田宵曲 
『明治の話題』

ちくま学芸文庫 シ 22-1

筑摩書房 
2006年12月10日 第1刷発行 
333p+1p
文庫判 並装 カバー 
本体1,300円+税
装幀: 安野光雅
カバーデザイン: 間村俊一
装画: 「街燈」(三谷一馬)


「『明治の話題』(昭和三十七年九月、青蛙房刊)を底本とし、明らかな誤字脱字はこれを訂した。常用漢字は原則として新字体に改め、適宜ルビを補った。ルビは新仮名遣いとした。」



本文新字・正かな。三谷一馬による「中扉絵」10点。


柴田宵曲 明治の話題


カバー裏文:

「彗星、憲法発布、園遊会、観覧車、辻占売り、アイスクリーム、烟草の広告、鐘の音、コックリさん、ゴム風船等々、百五十余に及ぶさまざまな事物、風俗、主題によって明治を語った随筆集。博覧強記にして地味横溢。事物起原の考証から懐かしい日常風景まで、多種多様な話題をめぐって、漱石、鏡花、子規、緑雨らの文章を縦横に引き、また文化人、政治家、ジャーナリスト等の興味深い逸話を数多く収めた本書は、さながら明治文学詞華集、人物逸話集の趣もある。三谷一馬の挿画10葉を付す。」


目次:

はしがき


彗星
春の大雪
晴雨
憲法発布
国会
提灯行列
凱旋門
凱旋異聞
記念絵葉書
演説
通訳
弔詞
投票
文芸委員


焼芋と牡丹餅
発行停止
檜可斬
号外
校正
懸賞小説
電信
電話
図書館
試験
採点
賄征伐


酒癖
貫目
官界の高士
吾輩は猫
暗殺の予言
安藤閣上
十人組
諢名
超人
年齢
水嶋寒月
死神
宿望
詐称
腰弁
高利貸
成金
乞食
忘れた日本語
花井お梅


丁髷
カイゼル髯
ハイカラ
燕尾服
シルクハツト
夏帽
角帽と制服
美術学校の制服
下駄
眼鏡
時計
香水


人力車
鉄道馬車
自転車
飛び乗り飛び降り
花電車
一銭蒸汽
渡船
変つた乗物
飛行機


園遊会
音楽会
かるた会
海水浴
水泳場

VII
日比谷公園
両国橋
吾妻橋
兜町
紅葉館
イルミネーシヨン
観覧車
日英博覧会
電気館
ルナパーク
手品
うつし絵
菊人形
国技館
角力の名前
角力勝負附
酉の市
砂文字
占ひ
催眠術
声色つかひ


絵草子屋
質屋
氷店
露店
お宝売り
苗売り
辻占売り
薬売り
パン売り
豆売り
カツフエー
ミルクホール


ビール
サイホン
烟草の広告
官製烟草
岩谷天狗
詰め替へ
きんとん
牛肉
サンドヰツチ
文字焼
カステラ
アイスクリーム
トマト
汁粉
懐中汁粉
砂糖水


ピストル
決闘
贋造紙幣
銀貨
銅像
幻燈
蓄音機
広告の楽隊
鐘の音
午砲
新内の流し
火の番
土蔵
街燈
洋字看板
ゼム
ラムプ
玩具
ゴム風船
焼きぬき
燐票
蚊遣香
ライオン
コレラ
ミイラ
コスモス
洒落
作文の型
ミツドウエー

あとがき (岡本経一)
解説 「小さな明治」への愛惜 (川本三郎)




◆本書より◆


「忘れた日本語」より:

「明治四年にアメリカに留学した五人の女子のうち、永井繁(しげ)とあるのが益田孝(たかし)の妹である。十一歳で洋行し、十年後に帰朝して瓜生外吉(うりゅうそときち)といふ海軍士官(後の大将)と結婚した。この留学の間に日本語はすつかり忘れ、おぼえてゐたのは猫といふ言葉一つだったさうである。」
「或時どこかで落し物をして、警察へ届けに行つたが、日本語では書けないので英語で書いて出した。益田孝によこす手紙は後々までずつと英語であつた。」



「うつし絵」より:

明治時代に「うつし絵」と称したものはいろいろあつた。汽車のことを「むしけぐるま」と詠む流儀の歌人は、写真のことを「うつし絵」といふ。幸田露伴の「うつしゑ日記」なども、写真器携帯旅行の意である。
 今の紙芝居に似た街頭の見世物があつた。背景に黒い布を張り、舞台に当たるところで紙の人形を使ひながら、演者が絶えずしやべつてゐた。人形は紙を両面から貼り合せて柄がついてゐる、極めて簡単なものであつたが、例へば孫悟空のやうなものを演ずる場合、手早く裏返すと、全く替つたものになる特色があつた。見物は無論子供で、これを「うつし絵」と称してゐた。
 寄席で見せた「うつし絵」は一種の幻燈であるが、活動写真や幻燈がスクリーンの正面からうつすのと違つて、幕の裏からうつす。絵はガラス板に直接画いたもので、幻燈と同じ着色であつた。」
「以上の「うつし絵」とは全く種類を異にしながら、やはり同じ名で呼ばれるものがあつた。花卉鳥獣などを色刷りにした紙を、濡らして手の甲へ貼り付け、やゝあつて徐(おもむ)ろに剥がすと、絵ははつきり皮膚の上に残る。その絵はいづれかと云へば西洋臭い感じであつた。」

 
 


こちらもご参照ください:

柴田宵曲 『明治風物誌』  (ちくま学芸文庫)
































































































スポンサーサイト

柴田宵曲 著/小出昌洋 編 『新編 俳諧博物誌』 (岩波文庫)

龍の落ちし畑見に行くや雲の峯 几董


柴田宵曲 著/小出昌洋 編 
『新編 俳諧博物誌』

岩波文庫 緑 31-106-4

岩波書店 1999年1月18日第1刷発行
347p 編集付記1p
文庫判 並装 カバー 定価600円+税
カバーカット: 「鳥獣画巻」より

「本書『新編 俳諧博物誌』は、『俳諧博物誌』(日本古書通信社、昭和五十六年八月二十三日刊)に、新たに七篇を加えて編集した。」


新たに加えられた七篇は、「猫」「鼠」「金魚」「虫」「菊」「蒲公英」「コスモス」。


俳諧博物誌


カバー文:

「兎ならちと出て遊べ月の中/蒲公英やローンテニスの線の外――兎、猫、雀、狸、金魚、鶴、蒲公英、コスモスなど動植物17のテーマでよまれた俳諧をとりあげ、博識で知られる著者ならではの評釈を加えた俳諧随筆。ルナールの『博物誌』にヒントを得て、俳諧の中の動植物の世界をみごとに浮かびあがらせた名著。」


目次:

はしがき




河童








金魚


蒲公英
コスモス

解説 (奥本大三郎)
本書の編集について (小出昌洋)




◆本書より◆


「はしがき」より:

「はじめてジュウル・ルナアルの『博物誌』を読んだ時、これは俳諧の畠(はたけ)にありそうなものだと思った。『博物誌』からヒントを得たらしい芥川龍之介の「動物園」の中に、
     雀
 これは南画だ。蕭蕭(しょうしょう)と靡(なび)いた竹の上に、消えそうなお前が揚(あが)っている。黒ずんだ字を読んだら、大明方外之人(たいみんほうがいのひと)としてあった。
とあるのを読んだ後、『淡路嶋』に
 枯蘆(かれあし)の墨絵に似たる雀かな 荊花(けいか)
という句を発見して、その偶合に興味を持ったことがある。古今の俳句の中から、こういう俳人の観察を集めて見たら、日本流の博物誌が出来上るであろうが、今のところそんな事をやっている暇がない。」
「俳諧におけるこの種の観察は、元来一部的な傾向である。(中略)やはり擬人とか、見立(みたて)とかいう平凡な言葉で片付けられやすい。(中略)仮に陳腐を嫌って、一々新意を出すとしても、その新しさが観察の範囲を脱却し得ぬとすれば、俳諧の大道にはやや遠いものといわなければならぬ。」
「「俳諧博物誌」と銘打ったのは、決してルナアル的観察に終始するわけではない。これを冒頭として各方面にわたる俳句の世界を一瞥しようというので、フランスの『博物誌』とは縁の遠いものになりそうである。」



本書掲載句より:

「鳶の啼く日の淋(さび)しさよ草の花 士朗
鳶鳴(ない)て木を割(わる)音や冬籠り 海印

龍の落ちし畑見に行くや雲の峯 几董
書を干(ほし)て龍と添寝の鼾かな 沾徳
足入(いれ)て龍の夢見る清水かな 其角

春の海鯛の腸(はらわた)ながしけり 笙洲

獺(かわうそ)を河童思ふや秋の水 月斗
子河童を捕りし祟(たたり)や秋出水(でみず) へき生

戸を敲(たた)く狸と秋を惜みけり 蕪村
狸かもしらず夏野を行(ゆく)坊主 千畦
夕顔に狸の出(いず)る小雨(こさめ)かな 賀瑞
こがらしや宙にぶらりと狸の火 随古

春雨に雀かぞゆる夕部(ゆうべ)かな 如嬰
藪垣(やぶがき)や雀に交る烏瓜 桃司子

蟻を喰(くう)熊の命や冬籠 東以

狼に喰はれてかへれ山桜 許六
こがらしや狼原をいづる月 五明

日暮るやうさぎの耳の動く時 搓雀

人に死し鶴に生れて冴返る 漱石

猫の尾の何うれしいぞ春の夢 賢明
猫の子のくんづほぐれつ胡蝶かな 其角

鼠にもやがてなじまん冬籠 其角

もらひ来る茶碗の中の金魚かな 鳴雪

怪しさや夕まぐれ来る菊人形 我鬼

蒲公英に狐の遊ぶ昼間かな 柳絮」







































































柴田宵曲 編 『奇談異聞辞典』 (ちくま学芸文庫)

柴田宵曲 編 『奇談異聞辞典』 
ちくま学芸文庫 シ-22-3

筑摩書房 
2008年9月10日第1刷発行/同年10月10日第2刷発行
734p 文庫判 並装 カバー 定価2,200円+税
装幀: 安野光雅
カバーデザイン: 間村俊一
装画: 河童(「化物づくし」より)

「本書は柴田宵曲編『随筆辞典 奇談異聞編』(昭和三十六年一月刊、東京堂)を底本とし、文庫化にあたり、(中略)書名を『奇談異聞辞典』とあらためた。なお、『随筆辞典』は、近世期の随筆書の中から見るべき記事を抄出し、主題別に辞典体に配列したもので、「衣食住編」(柴田宵曲編)、「雑芸娯楽編」(朝倉治彦編)、「風土民俗編」(鈴木棠三編)、「奇談異聞編」(本書)、「解題編」(森銑三編)の全五巻が刊行されている。」



本文中挿図(モノクロ)はいくつあるかなーと数えてみたら11点ありましたが、なにぶん奇談の本なので数えなおしたら違っているかもしれません。


奇談異聞辞典1


カバー裏文:

「江戸時代の随筆集は怪談奇談の宝庫である。博覧強記の柴田宵曲が、『耳嚢(みみぶくろ)』『甲子夜話』をはじめ107種もの随筆集から奇談異聞の記事を抜粋、見出しをつけ、五十音順に配列した本書は、近世奇談随筆の一大アンソロジーである。おびただしい文献から選り抜かれた奇談異聞の数々は、まず読物として面白く、同時に、河童・天狗・竜・狐狸・魚怪・幽霊・化物屋敷・ろくろ首・舟幽霊・異人・奇石・隠し里など、全国各地の怪異妖怪譚の貴重な資料集でもある。これらの奇談随筆は、多くの作家に題材を提供し、現代の怪談実話にもつながっている。『随筆辞典 奇談異聞編』を改題。」


目次:

はしがき (柴田宵曲)
凡例

奇談異聞辞典
 あ
  会津の老猿
  青池の竜
  青木明神奇話
  青山妖婆
  赤鼠
  秋葉の魔火
  明屋敷神々楽
  明屋敷の怪
  明屋の狸
  悪気人を追う
  悪路神の火
  麻布の異石
  足長
  小豆洗
  小豆はかり
  油揚取の狐
  油盗みの火
  雨面
  海士のたきさし
  雨畑の仙翁
  雨夜の怪
  雨夜の笛
  網に掛った銘刀
  怪しき古冑
  蟻が池の蛇
 い
  家焼くる前兆
  烏賊と蛇
  異形を見る
  いくじ
  池尻村の女
  池の満干
  石臼の火
  石燈籠の夢
  石の中の玉
  異人異術
  鼬と蛇
  鼬の怪
  鼬の火柱
  一念
  一目連
  一夜の夢
  銀杏樹の天狗
  異鳥の肉
  縊鬼
  飯綱の法
  犬の伊勢参宮
  犬の転生
  伊吹山異事
  入方の火
  義眼と蜂
  窟の女
  陰徳陽報
 う
  魚石
  浮嶋
  兎と月
  兎除の札
  牛鬼
  牛と女
  失なった釵
  謡と小鳥
  空木の人
  空船
  宇土の岩屋
  鰻の怪
  馬にて空中を飛来る
  厩橋の百物語
  海蜘蛛
  海坊主
  うわばみ
 え
  荏草孫右衛門
  越後根張地蔵
  冤鬼
  縁切榎
  閻魔頓死
  閻魔の眼を抜く
 お
  扇星
  黄金千枚の執念
  奥州の仙女
  応声蟲
  鸚鵡蔵
  鸚鵡石
  大鮑
  大蚊柱
  大亀
  大鯉
  大坂城中の怪
  大坂城と難波戦記
  大摺鉢
  大鯛
  大多津が崎の老狐
  大塚鳴動
  大鳥
  大鳥人を掴む
  大入道
  大猫の怪
  大鼠
  大蚯蚓
  大蜈蚣
  大門崩壊
  大山伏
  屋上の足音
  巨椋池の鯉
  長壁神
  御先狐
  お七の墓
  尾長馬
  女化原
  鬼が城・鬼が洞
  鬼の面
  鬼橋
  燐火
  お目出度座鋪
  面の夢
  温泉宿の雪隠
  女と蛇
  女の首
  女の大力
  女の幽霊
  怨霊による奇病
 か
  怪魚万歳楽
  怪光
  海虎の巾着
  怪児
  怪獣
  怪人
  海水赤変
  海中の火
  怪刀
  怪力の武士
  案山子の怪
  鏡の顔
  餓鬼
  杜若長屋
  隠れ里
  影の病
  風穴
  火事と天狗
  菓子の中の小判
  火車
  果心居士
  画像の祟
  形なき妖
  片目魚
  片眼の蛇
  片輪車
  勝五郎転生
  河童
  河童薬
  合羽神
  河童銭
  河童と報復
  河童の手
  加藤家断絶の前表
  蟹沢の長源寺
  蟹鳥と化す
  金が嶽の新左衛門
  金霊
  鐘の岬
  蚊の智
  竃の怪
  釜鳴
  蝦蟇の怪
  髪切
  雷狩
  髪の中の火焔
  神遊行
  亀の怪
  亀報恩
  蚊除の瓢
  唐津の水怪
  河獺の怪
  蛙石
  関羽の像
  元日の化物
  棺上の白無垢
  観相奇談
  神田社神霊
  眼病と猫
 き
  義犬
  紀州屋敷怪談
  奇子を産む
  鱚釣の竿
  奇石
  喜多院鐸振るを禁ず
  貴重の陣太鼓
  狐打善九郎
  狐浄瑠璃を聴く
  狐茶碗
  狐憑
  狐天狗妖言
  狐と魚
  狐と鐘撞
  狐と烏
  狐と士
  狐と僧
  狐と奏楽
  狐と笛
  狐と牡丹餅
  狐と夢
  狐に魚を取られる
  狐に化けた老剣士
  狐の歌
  狐の怨
  狐の子
  狐の高下
  狐の使者
  狐の玉
  狐の聴講
  狐の使
  狐の取った鳥
  狐取持
  狐の火玉
  狐の嫁入
  狐の老女
  狐の老人
  狐火
  狐報恩
  狐を助け鯉を得る
  木の中の硯
  木の中の文字
  奇病
  疑問の弁当箱
  窮鬼
  虚庵
  狂言茶碗割
  京丸牡丹
  巨鐘を動かす
  巨物
  清正像と鼠
  霧島山の仙人
 く
  空中怪音
  空中の帆影
  釘打たれた守宮
  九鬼家の節分
  弘教寺古駕籠
  公家の遊人
  孔雀飛ぶ
  九頭竜川の陰火
  くだ狐
  国玉の大橋
  九人橋
  首縊り狸
  熊と猪
  熊の窟
  熊野牛王の神威
  熊本城の狸
  蜘蛛の怪
  九輪の掛直し
  黒手切り
  黒ん坊
  桑原井
  群猿舞を望む
 け
  下女の幽霊
  毛玉
  怪鳥
  月華・日華
  解毒酒
  毛降る
  幻影の官人
  源五郎狐
  源内狸
 こ
  洪水と怪女
  紅雪
  鸛と錨草
  鴻池の皿
  紅毛人幻術
  高野山の幽霊
  高野山笛を禁ず
  強力の僧
  小右衛門火
  黄金の鶏
  古鏡
  穀物降る
  古樹の怪
  湖水の火
  梢の経帷子
  古銭と蛇
  古銭掘出し
  小僧蛇
  木葉天狗
  小幡小平次
  小日向辺怪異
  五百羅漢
  瘤取り
  小仏峠怪異
  小堀家稲荷
  小町の筝
  狐魅談
  虚無僧の怪
  狐妖
  狐狸の火傷
  狐狸の遊興
  狐狸の落書
  狐狸を伏せた歌
  碁を打つ狸
  金色の鹿
  金毘羅の馬
  金毘羅霊験
 さ
  犀が淵の玉
  豺狼の義気
  逆沓
  鷺の火
  桜が池
  酒飲む妙案
  座頭の建碑
  佐野稲荷
  皿屋敷
  猿ヶ辻の古狐
  猿と鷹
  猿と戸棚
  猿になった児
  山上の異人
  山神の怪異
  山賊の弟
  山中異人
  山中の窟
  山中の怪松
  山中の声
  山中の白猴
  山中の女怪
  山中の弥陀
  山門修復中の異変
  山霊の祟
 し
  寺院埋没
  磁石
  死者蘇生
  死者の帰宅
  死者の人違い
  止宿の危難
  死女芝居見物
  七ヶ浜の怪獣
  地縮
  日月の石
  嫉妬の智慧
  嫉妬の火の玉
  篠崎狐
  不忍池の怪
  芝居者怪死
  嶋遊び
  嶋原の殺鬼
  寂光院本尊
  蛇毒と脂
  住持天狗となる
  執心の蛇
  執念の怪火
  獣面人心
  樹怪
  修験と武士との喧嘩
  樹梢の声
  酒石
  春夢仙遊
  鉦鼓が淵
  上酒有りの貼紙
  城主の幽霊
  少女行方不明
  小蛇昇天
  浄土寺の怪
  小児前生を語る
  小児の幽霊
  女鬼
  白髪畑の怪
  不知火
  虱と盗人
  白犬の使
  白き鴉
  白鷲
  深淵の黄牛
  蜃気楼
  信玄の墓
  針術老狐を斃す
  真定山の怪
  清人の幽霊
  神木の祟
  神竜
  神領の鹿
 す
  水怪
  水居の人
  水虎
  水死者哭声
  水死僧亡霊
  水神の夢
  水中の蜘蛛
  水難者の霊
  菅谷の狐
  鈴石
  鼈の怪
  掏摸と瘤
 せ
  赤気
  石塔怪異
  石塔奇瑞
  石塔の飛行
  石麺
  関守の情
  石妖
  銭降る
  全家死脈
  善光寺の棟木
  善通寺狸  
  千人の昼幽霊
  先夫の幽霊
  千両箱掘出し
 そ
  相学的中
  宗語狐
  三途河の婆子
  双頭蛇
  曾我の目貫
  蘇生奇談
  杣小屋怪事
  空飛ぶ異人
  空飛ぶ物
  空に吹上げられる
  尊号の入墨
 た
  太閤異聞
  太鼓の剥革
  太鼓の張替
  大字
  大師の利生
  大蛇に呑まれた人
  大石落ちる
  大髑髏
  大木怪異
  大力 
  大力の尼
  宝の箱
  滝不動
  竜の雲
  竜巻
  立石村の立石
  立山奇異
  立山の幽霊
  棚谷家の怪
  狸油に酔う
  狸宗固
  狸と下女
  狸と中間
  狸と老女
  狸の金
  狸の幻術
  狸の腹鼓
  狸の筆蹟
  狸の宝劔
  狸の笑い
  狸火
  狸盲人に化す
  煙草とうわばみ
  足袋屋清八
  多摩川狐
  騙された狐
  魂火
 ち
  地下生活三十三年
  竹林院不明の間
  池水の怪
  地中の声
  地中の仏像
  蟄竜
  茶碗屋敷
  宙を行く青馬
  釣客怪死
  手水鉢の怪
  長泉院の鐘
  鳥類の智慧
 つ
  杖の霊異
  尽きざる油陶
  蹲踞の辻
  辻斬
  槌子坂の怪
  土降る
  津波と神馬
  礫打つ怪
  礫打つ小者
  釣狐類話
  鶴昇天
  鶴の上の仙人
 て
  手形傘
  的人
  手児崎大明神の松
  鉄砲自殺
  出羽の影波
  手を借る
  天狗
  天狗遊石
  天狗礫
  天狗の書
  天狗の爪
  天狗の銅印
  天狗の飛行
  天狗の雇
  天狗の情郎
  天狗火
  天狗六兵衛
  天井の艶書
  天井の一包
  天神の火
  天女の接吻
  天王寺坂妖怪
  天与の鰻
  天より降った男
 と
  唐館の幽霊
  東極の地
  湯治場の怪
  投石二件
  盗賊の刀
  道竜権現の鼻
  通り悪魔
  戸隠明神
  毒殺の夢
  徳七天狗談
  毒鳥・毒虫
  髑髏の謡
  土佐の怪
  土佐の竜
  土中の鯉
  土中の鳥
  土中の古箱
  土中の亡魂
  飛嶋
  鳶と蛇
  飛物
  富札一枚
  鳥の地獄
 な
  中橋稲荷の霊験
  中万字屋の幽霊
  中山家怪異
  鳴門の太鼓
  縄池
  南海侯の化物振舞
  南禅寺天狗
  南都の怪
 に
  肉芝
  濁り川・年取らず川
  二恨坊の火
  二十騎町の怪異
  二十年経て帰宅
  二条城の不明蔵
  贋天狗
  贋幽霊
  新田神霊
  人魚
  人形の魂
  木偶目瞬
 ぬ
  盗人の沈酔
 ね
  猫絵画き
  猫と老媼
  猫と狐
  猫と蛞蝓
  猫の踊
  猫の声
  猫の報恩
  猫物を言う
  鼠の怪異
  鼠の薬
  鼠の刑罰
  鼠の宿替
  煉酒
 の
  濃州仙女
  野尻湖の怪
  野衾
 は
  生ぬきの地蔵
  墓石磨き
  馬角
  白猿刀を奪う
  白色の怪魚
  伯蔵主
  博奕の名人
  白昼の飛び物
  白髪婚姻
  白比丘尼
  白竜
  化猫
  化物太鼓
  化物の足
  化物屋敷
  箱根山中の夜宴
  半婢の亡霊
  芭蕉の怪
  走り大黒
  破船の掛硯
  バタバタ
  蜂と蜘蛛
  八百比丘尼
  馬場の沓
  早道
 ひ
  東園家の怪
  光り物
  蟇と蛇
  引馬山妖怪
  飛行器
  美髯
  人狐に憑く
  人魂
  一目小僧
  火縄の相図
  非人風の神
  非人の茶
  日野家怪異
  火の玉
  火防の神
  姫路城の妖魅
  屏風画の女
  琵琶湖の大鯰
  灯を消す木兎
  貧乏神
 ふ
  風雨異変
  風中の妖
  笛吹川の獺
  腹中の蟲
  福鼠
  福仏坊
  武家屋敷の怪
  不思議の修練
  不思議の入湯者
  不思議の笛太鼓
  二つ岩弾三郎
  二人幽霊
  淵の怪
  仏像の汗
  仏法僧
  不動堂の賊
  布団と金
  鮒石
  舟底を穿つ魚
  舟幽霊
  船につくあやかし
  古塚の怪異
  古壺の奇事
  古猫の怪
  古櫃の金
  文福茶釜
 へ
  蛇甑
  蛇章魚に化す
  蛇と蟹
  蛇と鯉
  蛇と蛞蝓
  蛇の気
  蛇の菌
  蛇の毒
  弁才天奇談
 ほ
  法印怨霊
  亡妻看病
  亡妻に化けた狸
  放生の功徳
  疱瘡神と狆
  疱瘡除の守り
  峰頭の歌舞音曲
  亡婦に化けた狐
  星多く飛ぶ
  牡丹畠の怪
  掘の大魚
  本能寺の変と鮎
 ま
  前原権現霊験
  牧野家妖怪
  枕の怪
  枕元の座頭
  松任屋幽霊
  丸木船
  回り燈籠
 み
  身代り観音
  三毛の牡猫
  未熟の狸
  水汲む女怪
  水漉石
  蛟
  水冷え魚浮ぶ
  三峯山の犬
  美濃の仙境
  耳附の板
  都返りの鍔
  茗荷谷怪異
 む
  無縁塔の怪
  貉生捕
  貉の童
  夢中題詩
  夢中の遊魂
 め
  めいしん
  目黒在の雇人
 も
  盲人の予感
  盲人旅宿
  罔両
  木像怪異
  物言う妖物
  物に数あり
  物のうめく声
  森囃
  門跡と狐
 や
  疫鬼
  疫神退散
  疫神同道
  夜光珠
  屋敷の怪
  屋敷町の怪
  宿なし狐
  屋根舟漂流
  屋の棟の人
  夜発の怨霊
  山姥
  山男
  山男の足跡
  山女
  山伏怪異
  山伏伝授の薬法
  山伏の祟り
  山伏の鉄棒
  山童
 ゆ
  誘拐異聞
  遊魂
  幽霊の心得違い
  幽霊の筆跡
  幽霊問答
  夢茶屋
 よ
  妖怪話声
  洋人邪法
  妖を斬る
  夜著の怪
  夜著物言う
  呼出し山
 ら
  雷獣
  雷と馬
  雷と鶴
  雷と蜥蜴
  雷糞
 り
  竜
  竜穴
  流言
  竜光寺村岩屋
  竜石
  竜頭
  竜燈
  竜と琵琶
  竜の画
  猟師怪に遭う
  両頭の亀
 れ
  霊毎日来る
 ろ
  老狐蛻菴
  老狐僧に変わる
  浪人と狸
  牢抜自首
  轆轤首
  路上の姫君
 わ
  鷲と猿
  鷲と狸
  鰐退治
  和野の怪事

引用書目一覧表
索引



奇談異聞辞典2



◆本書より◆


「空船 うつぼぶね
大木をくりぬいて造った舟

〔梅の塵〕 享和三癸亥年三月二十四日、常陸国原舎浜(はらとのはま)と云ふ処へ、異船漂著せり。その船の形ち、空(うつろ)にして釜の如く、また半に釜の刃の如きもの有り。これよりうへは黒塗にして四方に窓あり。障子はことごとく、チヤンにてかたむ。下の方に筋鉄(すじかね)をうち、いづれも南蛮鉄の最上なるものなり。総船の高さ一丈弐尺、横径(よこさしわたし)一丈八尺なり。この中に婦人壱人ありけるが、凡そ年齢二十歳ばかりに見えて、身の丈五尺、色白き事雪の如く、黒髪あざやかに長く後にたれ、その美(うつくしき)顔なる事、云ふばかりなし。身に著たるは異(こと)やうなる織物にて、名は知れず。言語は一向に通ぜず、また小さ成る箱を持ちて、如何なるものか、人を寄せ付けずとぞ。船中鋪物(しきもの)と見ゆるもの二枚あり、和(やわ)らかにして、何と云ふもの乎(か)しれず。食物は菓子と思(おぼ)しきもの、并(ならび)に煉(ね)りたるもの、その外肉類あり。また茶碗一つ、模様は見事成る物なれども分明(わか)らず。原舎の浜は、小笠原和泉公の領地なり。」













































































柴田宵曲 『続 妖異博物館』 (ちくま文庫)

「「夷堅志」に海上で大魚に行き違う話がある。その魚と舟との距離は十五里もあるに拘らず、完全に行き違うのに数時間を費した。恐らく魚の長さは幾百里もあるに相違ない。波の間に紅い旗のようなものが見えたのは、その鱗や背鰭(せびれ)だということであった。「玄中記」の大魚は更に凄まじく、魚の頭に出逢ってから七日目にその尾を見るとある。」
(柴田宵曲 「大魚」 より)


柴田宵曲 『続 妖異博物館』 
ちくま文庫 し-25-2

筑摩書房 2005年8月10日第1刷発行
345p 付記1p 文庫判 並装 カバー 
定価1,000円+税
装幀: 安野光雅
カバーデザイン: 神田昇和

「『続 妖異博物館』(昭和三十八年七月、青蛙房刊)を底本とし、原則として仮名遣いは現代仮名遣いに、常用漢字は新字体に改め、適宜ルビを補った。但し、引用等の文語文については歴史的仮名遣いのままとした。」



妖異博物館2


カバー裏文:

「空を飛ぶ話、羅生門類話、離魂病、白猿伝、化鳥退治など、奇譚の数々を集めた『妖異博物館』続篇では、日本の古典のみならず中国の志怪にまで範囲を広げ、様々な怪異を取り上げる、動物変身譚や竜宮譚について比較考証を試み、怪異の系譜をたどってシェイクスピアやアポリネエル、『アラビアン・ナイト』にまで話は及ぶ。まさに融通無碍、博覧強記の不思議物語集。」


目次:

はしがき

I
月の話
大なる幻術
雷公
雨乞い
鎌鼬
空を飛ぶ話
地中の別境
地中の声

II
宿命
火災の前兆
家屋倒壊
卒塔婆の血
経帷子
井の底の鏡
五色筆
難病治癒
診療綺譚
髑髏譚
眼玉
首なし
ノッペラポウ
首と脚

III
竜宮類話
羅生門類話
妖魅の会合
雨夜の怪
死者の影
離魂病
壁の中
吐き出された美女
関屋の夢
大和の瓜
死者生者
朱雀の鬼
樹怪
くさびら

IV
仏と魔
信仰異聞
押手聖天
金銀の精
名剣
不思議な車
樽と甕
埋もれた鐘
巌窟の宝
打出の小槌
茶碗の中
金の亀
木馬

V
竜に乗る
竜の変り種
虎の皮
馬にされる話
牛になった人
白猿伝
猿の妖
狐の化け損ね

鵺になった人
化鳥退治
大魚

魚腹譚
胡蝶怪

銭と蛇

あとがき (青蛙房主人)

解説 不思議の国の宵曲 (西崎憲)



妖異博物館3



◆本書より◆


「はしがき」より:

「尤も続篇と云ったところで、話の続きでないのは勿論、話の方角も大分変っている。前巻にも支那の話を引合いに出さぬことはなかったが、今度はその色彩がよほど強く、時には支那を主にしたのではないかと思われる箇所が出て来た。日本の話にしても、前巻の主流であった江戸時代より、少し遡ったところに話題を求めた。」


「月の話」より:

「王(おう)先生なる者が烏江(うこう)のほとりに住んで居った。(中略)長慶(ちょうけい)年間に楊晦之(ようかいし)という男が長安から呉楚に遊ぶ途中、かねてこの人の名を聞いていたのでその門を敲(たた)いた。先生は黒い薄絹の頭巾を被り、褐色の衣を著けて悠然と几(つくえ)に向っている。晦之が再拝して鄭重に挨拶しても、軽く一揖(いちゆう)するのみであった。併し晦之を側に坐らせての暢談(ちょうだん)は容易に尽きそうにもないので、晦之は一晩泊めて貰うことになった。先生の娘というのが出て来たが、七十ばかりで頭髪悉(ことごと)く白く、家の中でも杖をついている。これはわしの娘じゃが、惰(なま)け者で道を学ばぬものじゃから、こんな年寄りになってしまった、と云い、娘を顧みて月の用意をせよと命じた。この日は八月十二日であったが、暫くして娘が紙で月の形を切り、東の垣の上に置くと、夕べに至り自ら光りを発し、室内はどんな小さなものでもはっきり見えるので、晦之は驚歎せざるを得なかった。」

「周生(しゅうせい)は唐の太和(たいわ)中の人で、(中略)道術を以て多くの人の尊敬を集めた。或時広陵(こうりょう)の舎仏寺に居ると、これを聞いた人が何人も押しかけて来る。恰(あたか)も中秋明月の夜であったから、皎々(こうこう)と澄み渡る月を見て、自(おのずか)ら月世界の話になり、吾々のような俗物でも、月世界に到ることが出来るでしょうか、と云い出した者があった。周生は笑って、その事ならわしも師に学んだことがある、月世界に到るどころではない、月を袂(たもと)に入れることが出来る、(中略)と云った。或者はこれを妄言とし、或者はその奇を喜ぶ中に、周生は委細構わず、一室を空虚にし、四方から固く戸を鎖(とざ)し、数百本の竹に縄梯子を掛けさせ、わしは今からこの縄梯子を上って月を取って来る、わしが呼んだら来て御覧、と云う。人々は庭を歩きながら様子を窺っていると、先刻まで晴れていた空が忽ち曇り、天地晦冥(かいめい)になって来た。その時突如として周生の声が聞こえたので、室の戸を明けたところ、彼はそこに坐っていて、月はわしの衣中に在る、と云う。どうかその月をお見せ下さい、と云われて、周生が衣中の月をちょっと見せると、一室は俄かに明るくなり、寒さが骨に沁み入るように感ぜられた。」



「大なる幻術」より:

「唐の貞元(じょうげん)中、楓州(ふうしゅう)の市中に術をよくする妓が現れた。どこから来た人かわからぬけれど、自ら胡媚児(こびじ)と称し、いろいろ奇怪の術を見せるので、これを見物する人が次第に集まるようになり、一日の収入千万銭に及ぶということであった。或時懐ろから一つの瑠璃(るり)瓶を取り出した。大きさは五合入りぐらいのもので、全体が透き通り、手品師のよく云うように、種も仕掛けもないものであったが、胡媚児はこれを席上に置いて、これが一杯になるだけ御棄捨(ごきしゃ)が願えれば結構でございます、と云った。瓶の口は葦(あし)の管のように細かったに拘らず、見物の一人が百銭を投ずると、チャリンと音がして中に入り、瓶の底に粟粒ぐらいに小さく見える。皆不思議がって、今度は千銭を投じても前と変りがない。万銭でも同じである。好事の人が次ぎ次ぎに出て、十万二十万に達しても、瓶は一切を呑却して平然としている。馬はどうだろうと云って投げ込む者があったが、人も馬も瓶の中に入り、蠅のような大きさで動いて居った。その時官の荷物を何十台という車に積んで通りかかる者があり、暫く立ち止って見ているうちに、大いに好奇心が動いたらしく、胡媚児に向って、この沢山の車を皆瓶の中に入れ得るか、と問うた。媚児は笑って、よろしゅうございますと云い、少し瓶の口をひろげるようにした。その口から車はぞろぞろと入って行き、全部中に在って蟻のように歩くのが見えたが、暫くして何も目に入らなくなった。そればかりではない、媚児までが身を躍らして瓶の中に飛び込んでしまったから、ぼんやり口を明いて見物していた役人は驚いた。何十台の荷物が一時に紛失しては申訳が立たぬ。直ちに棒を振って瓶を打ち砕いたが、そこには何者もなかった。媚児の姿もその辺に現れないと思っていると、一箇月余りの後、清河(せいが)の北で媚児を見かけた者がある。彼女は例の数十台の車を指揮し、東に向って進んでいたということであった。」


「眼玉」より:

「唐の粛宗(しゅくそう)の時、尚書郎房集(しょうしょろうぼうしゅう)が頗(すこぶ)る権勢を揮(ふる)っていた。一日暇があって私邸に独坐していると、十四五歳の坊主頭の少年が突然家の中に入って来た。手に布の嚢(ふくろ)を一つ持って、黙って主人の前に立っている。房ははじめ知り合いの家から子供を使いによこしたものと思ったので、気軽に言葉をかけたけれど、何も返事をしない。その嚢の中に入っているのは何だと尋ねたら、少年は笑って、眼玉ですと答えた。そうして嚢を傾けたと思うと、何升もある眼玉がそこら中に散らばった。」


「離魂病」より:

「夫婦のうち妻が先ず起き、次いで夫も起きて出た。暫くして妻が戻って来ると、夫は寝床の中に眠っている。夫が起き出たことを知らぬ妻は、別に怪しみもせずにいると、下男が来て鏡をくれという夫の意を伝えた。旦那はここに寝ているではないかと云われて驚いた下男は、寝床の中の主人を見て、慌てて駈け出した。下男の報告によって来て見た夫も、自分と全く違わぬ男の眠っているのにびっくりした。夫は皆に騒いではいけないと云い、衾(ふすま)の上から静かに撫でているうちに、寝ていた男の姿はだんだん薄くなり、遂に消えてしまった。この夫はその後一種の病気に罹(かか)り、ぼんやりした人間になったそうである。」


「吐き出された美女」より:

「許彦(きょげん)という男が綏安山(すいあんざん)を通りかかると、路傍に寝ころんでいた年の頃二十歳ばかりの書生が声をかけて、どうも足が痛くて堪らない、君の担いでいる鵞鳥の籠の中に入れて貰えぬか、と云った。彦も笑談(じょうだん)半分によろしいと答えたら、書生は直ぐ乗り込んで来た。籠には鵞鳥が二羽入れてあったのだが、そこへ書生が加わっても一向に狭くならず、担ぐ彦に取って重くもならぬのである。やがて一本の木の下に来た時、書生は籠から出て、この辺で昼飯にしようと云い、大きな銅の盤を吐き出した。盤の中には山海の珍味がある。酒数献廻ったところで、書生が彦に向い、実は婦人を一人連れているのだが、ここへ呼び出して差支えあるまいか、と云う。彦は異議の唱えようがない。忽ち口から吐き出したのは十五六ぐらいの絶世の美人であった。そのうちに書生は酔払って眠ってしまう。今度はその美人が、実は男を一人連れて居りますので、ちょっとここへ呼びたいのです、どうか何も仰しゃらないで下さい、と云い出した。女の吐き出したのは似合いの美少年で、先ず彦に一応の挨拶をした後、盃を挙げてしきりに飲む。たまたま書生が目を覚ましそうな様子を見せたので、女は錦の帳(とばり)を吐いて隔てたが、愈々(いよいよ)本当に起きそうになるに及んで、先ず美少年を呑却し、何事もなかったように彦に対坐している。書生はおもむろに起きて、大分お暇を取らせて済まなかった、そろそろ夕方になるからお別れしよう、と云い、忽ち女を呑み、大銅盤を彦に贈って別れ去った。」


「魚腹譚」より:

「銭塘(せんとう)の杜子恭(としきょう)が人から瓜を切る刀を借りた。後に持ち主が返して貰いたいと云ったら、あれはそのうち返すよ、と答えた。刀の持ち主が嘉興(かこう)まで行った時、一尾の魚が躍って船中に入ったので、その腹を割いたら子恭に貸した刀が出て来た。これは子恭の秘術であると「捜神後記」に見えている。」































































柴田宵曲 『妖異博物館』 (ちくま文庫)

「果心居士が戦国の諸将を翻弄した模様は、左慈が曹操(そうそう)を手玉に取ったのとよく似ている。(中略)英雄の武力、権謀術数が何の威力も発揮し得ぬのが、左慈とか、果心居士とかいう人達の住む世界なのである。」
(柴田宵曲 「果心居士」 より)


柴田宵曲 『妖異博物館』 
ちくま文庫 し-25-1

筑摩書房 2005年8月10日第1刷発行
338p 付記1p 文庫判 並装 カバー 
定価1,000円+税
装幀: 安野光雅
カバーデザイン: 神田昇和

「『妖異博物館』(昭和三十八年一月、青蛙房刊)を底本とし、仮名遣いは現代仮名遣いに、常用漢字は原則として新字体に改め、適宜ルビを補った。但し、引用等の文語文については歴史的仮名遣いのままとした。」



妖異博物館1


カバー裏文:

「『甲子夜話』『耳嚢』など、江戸時代の随筆から不思議な話を蒐集・分類した怪異大百科。舟幽霊、轆轤首、人魂、化け猫、河童、怪石など、様々な怪異を取り上げながら、その筆はあくまで軽く、ある時は『今昔物語』の昔へ遡り、あるいは明治へと下って綺堂や八雲、鏡花作品の典拠を指摘する。簡潔にして含蓄ある語り口が味わい深い、奇譚アンソロジーの決定版!」


目次:

はしがき

I
化物振舞
大入道
一つ目小僧
轆轤首
舟幽霊
人身御供
再度の怪
夢中の遊魂
人魂
異形の顔
深夜の訪問
ものいう人形
ものいう猫
怪火
狸の火

II
地上の竜
大猫
猫と鼠
化け猫
狐の嫁入り
狐と魚
狸の心中
狸囃子
狸の書
猿の刀・狸の刀
鼠妖
大鳥
白鴉
うわばみと犬
河童の力
河童の薬
河童の執念
海の河童
百足と蛇
古蝦蟇
蜘蛛の網
守宮の釘
大鯰
妖花
茸の毒

III
果心居士
飯綱の法
命数
外法
鼠遁
山中の異女
乾鮭大明神
人の溶ける薬
煙草の効用
適薬
秋葉山三尺坊
天狗と杣
天狗の姿
天狗になった人
天狗(慢心)
天狗の誘拐
天狗の夜宴
天狗の爪
手を貸す

IV
光明世界
生霊
小さな妖精
執念の転化
気の病
形なき妖
道連れ
大山伏
そら礫
消える灯
夜光珠
異玉
化物の寄る笛
持ち去られた鐘
行厨喪失
銭降る
猫の小判
雁の財布
夜著の声
古兜
古枕
木像読経
斬られた石
動く石
魚石
提馬風
風穴

赤気

あとがき (青蛙房主人)

解説 アンソロジスト宵曲 (東雅夫)



妖異博物館3



◆本書より◆


「はしがき」より:

「小川芋銭(うせん)氏は「芋銭子開七画冊」の序に於て「図中往々怪を描くものあり、是(これ)予が癖にして実に東洋民族の癖なり。縁由(えんゆう)する処は老樹浮藻廃瓜水蟲狐獺の類、則(すなはち)自然物体中より其(その)妖氛(ようふん)魅形を捕捉し来る。惟(おも)ふに宇宙間虚霊遊動して予が方寸を誘(みち)びくものか」と云った。著者が平生読書の際、妖異に対して感ずる興味の如きも、やはり東洋民族の脈管を流れる血の致すところかも知れぬ。柳宗元(りゅうそうげん)の「竜城録」によれば、「昏夜(こんや)鬼(き)を談ずるなかれ、鬼を談ずれば則ち怪至る」というのであるが、深夜明るい電燈の下にインクの滴々より成った本書には、そういう虞(おそ)れは万々ない事と信ずる。」


「舟幽霊」より:

「人吉(ひとよし)侯の侍医であった佐藤宗隆という人は、江戸へ出る船中で舟幽霊を見た。播州(ばんしゅう)舞子(まいこ)の浜あたりは、こういう事の稀なところであるが、その夜は陰火が海面を走って怪しく見えた。ほどなく大きさ四尺余りもある海月(くらげ)のようなものが漂って来て、その上に人の形をした者が居り、船頭に向って何か云いかけそうに見えた。」


「異形の顔」より:

「鈴木桃野(とうや)の祖父に当る向凌という人が若い時分に、独り書斎に坐っていると、忽然として衣冠を着けた人が桜の枝から降りて来た。(中略)衣冠を着けた人などが、この辺に居る筈がない。固(もと)より天から降るべき筈もないから、心の迷いでこんなものが見えるのであろうと、暫く目を閉じてまた開けば、官人は次第に降りて来る。目を閉じては開くこと三四度、遂に縁側のところまで来て、縁端に手をかけた。」


「猫と鼠」より:

「「閑窓瑣談(かんそうさだん)」にあるのは遠州御前崎(おまえざき)の話で、西林寺(さいりんじ)という寺の和尚が或年暴風の際、舟の板子(いたご)に乗って流れて来る子猫があったのを、わざわざ小舟を出して救い寺中に養う。十年ほどたって、猫は附近に稀れな逸物の大猫になり、この寺には鼠の音を聞くこともなかった。西林寺は住職と寺男だけという簡素な寺であったが、或時寺男が縁端でうたた寝をしていると、猫も傍に来て庭を眺めている。そこへ隣りの家の猫がやって来て、日和もよし、伊勢参りをせぬかと声をかける。寺の猫がそれに答えて、わしも参りたいが、この節は和尚様の身の上に危い事があるので、外へは出られぬ、と云う。隣りの家の猫は寺の猫の側近く進んで、何やらささやくものの如くであったが、二疋はやがて別れた。寺男は夢うつつの境で、この猫の問答を聞いたのである。その夜本堂の天井に恐ろしい物音が聞える。折ふし雲水の僧が止宿して居ったのに、この物音が聞えても、一向起きて来ない。(中略)夜が明けて後、天井から生血が滴るので、近所の人を雇い、寺男と共に天井裏を見させたところ、寺の猫は朱(あけ)に染まって死んで居り、隣りの猫も半ば死んだようになっていた。更に驚いたのは、それより三四尺隔てて、二尺ばかりもある古鼠の、毛は針を植えたようなのが倒れていることであった。(中略)猫はいろいろ介抱して見たが、二疋とも助からなかった。」


「大鳥」より:

「ある雪の明け方、新城(しんじょう)の農民が近くの山へ炭焼きに行くと、向うの山にいつも見たことのない大木が、二本並んで立っている。上に物があって、大きな翼を搏って上るのを見れば、前に大木と思ったのは鳥の両脚であったというのである。」


「茸の毒」より:

「普請をする家があって、黄姑茸を煮て職人に食べさせることにした。時に屋上に在って瓦を葺(ふ)く者が、ふと下を見れば、厨(くりや)には誰も居らず、釜の中で何かぐつぐつ煮えている。忽ち裸の子供がどこからか現れて、釜を繞(めぐ)って走っていたが、身を躍らして釜中に没した。やがて主人が運んで来たのは茸の料理である。屋根屋ひとり食わず、他人に話もしなかったが、食べた連中は皆死んだ。」


「果心居士」より:

「その時少し疑惑を持つ一人が進み出て、(中略)どうか私の身について奇特をお見せ下さい、と云った。居士は笑って、(中略)座中の楊枝を手に執り、その人の上歯を左から右へさらさらと撫でた。上歯は一遍にぶらぶらして、今にも脱け落ちそうになったので、その人大いに驚き悲しみ、恐れ入りました、御慈悲にもとのようにして下さい、と歎願に及ぶ。(中略)再びかの楊枝で右から左へ撫でると、歯はひしひしと固まって、もとの通りになった。人々今更の如く感歎し、とてもの事に今夜この座敷で、すさまじい幻術をお見せ下さい、(中略)と所望する。お易い事と呪文を唱え、座敷の奥の方を扇を揚げて麾(まね)けば、どこからか大水が涌き出して、座敷にあるほどの物が全部流れはじめた。水は忽ちに座敷に充ち満ち、逃げようにも逃げられなくなったところへ、十丈ばかりもある大蛇が、(中略)波を蹴立ててやって来る。」


「命数」より:

「鯰江(なまずえ)六太夫という笛吹きがあった。国主の秘蔵する鬼一管という名笛は、この人以外に吹きこなす者がないので、六太夫に預けられたほどの名人であったが、何かの罪によって島へ流された。(中略)ひそかにこの鬼一管を携え、日夕笛ばかり吹いて居った。然(しか)るにいつ頃からか、夕方になると、必ず十四五歳の童が来て、垣の外に立って聞いている。雨降り風吹く時は、内に入って聞くがよかろう、と云ったので、その後はいつも入って聞くようになった。或夜の事、一曲聞き了(おわ)った童が、こういう面白い調べを聞きますのも今宵限りという。不審に思ってその故を問うと、私は実は人間ではありません、千年を経た狐です、ここに私のいることを知って、勝又弥左衛門という狐捕りがやって参りますから、もう逃れることは出来ません、という返事であった。そこで六太夫が、知らずに命を失うならともかくも、それほど知っていながら死ぬこともあるまい。弥左衛門が嶋にいる間、わしが匿まってやろう、と云ったけれども、狐は已(すで)に観念した様子で、ここに置いていただいて助かるほどなら、自分の穴に籠っても凌(しの)がれますが、弥左衛門にかかっては神通を失いますので、命を失うと知っても近寄ることになるのです、今まで笛をお聞かせ下さいましたお礼に、何か珍しいものを御覧に入れましょう、と云い出した。それでは一の谷の逆落しから源平合戦の様子が見たい、と云うと、お易い事ですと承知し、座中は忽ち源平合戦の場と変じた。」


「山中の異女」より:

「「醍醐(だいご)随筆」に記されたのは土佐(とさ)国の話で、鹿を捕えようとして山中に入り、鹿笛を吹いたところ、俄かに山鳴り騒いで、茅葦が左右に分れ、何者か来るけはいである。樹の間に隠れて鉄砲を構えていると、向うの伏木の上に頭ばかり見えたのが、色白く髪うるわしく、眉目晴れやかな美しい女であった。」


「人の溶ける薬」より:

「旅商人が越後で大蛇の人を呑み、且つ傍らの草を舐(な)めると、膨れた腹が忽ちもとのようになるのを見、その草を摘んで帰る。江戸へ帰ってから、蕎麦を五六十食べると云い出して賭になる。二十五ばかり食べたところで廊下に出して貰う約束で、ひそかにその草を嘗(な)めたのはいいが、元来人を溶かす薬であったので、蕎麦が羽織を着著て坐っていたという落語がある。
幸田露伴博士が「圏外文学雑談」に記すところに従えば、この話は元禄六年の「散人夜話」に出ているそうである。延享五年の「教訓しのぶ草」には、蕎麦でなしに餅になっているという。(中略)文政三年の「狂歌著聞集」にあるのも牡丹餅であった。先ず元禄あたりが古いところであろう。」



「天狗と杣」より:

「山城国淀の北横大路という里の庄屋善左衛門の家は、裏の藪際に土蔵があり、その土蔵の傍に大きな銀杏樹(いちょう)があった。(中略)杣(そま)を雇って下枝を切り払わせた。だんだん下から切って行って、三ツ叉のところに到り、その太い枝を切ろうとすると、俄かに陰風吹き来り、首筋を何者か掴むように覚えてぞっとした。杣大いに恐怖し、(中略)これは天狗の住まれるところを切りかかったためと思われます、もう少しぐずぐずしていたら、命はなかったかも知れません、と云い、その上の祟りを恐れて、(中略)その日の賃銭も取らずに帰ってしまった。」

「天狗住んで斧入らしめず木の茂り 子規」



「夜光珠」より:

「元文年間、遠江(とおとうみ)国豊田(とよた)郡百古里(すかり)村の女が、畠に出て菜を摘んでいると、夕日の光りを受けて輝くようなところがある。早速そこの土を掘り返して、卵ほどな美しい石を得た。家に帰って夫にも見せ、席上に置くうちに日が暮れた。すると一町ばかり離れた藪蔭に住む医者がやって来て、自分の家からこの家を見ると、灯火はついてない様子なのに、甚だ明るく見える、一体どういうわけか、と尋ねた。」


「異玉」より:

「江戸の亀井戸に住む大工の何某が、夏の夜涼みに出たら、どこからか狐が一疋出て来た。その狐が手でころばすようにすると、ぱっと火が燃え出る。不思議に思って様子を窺えば、火の燃える明りで虫を捕るらしい。狐は虫を捕ることに夢中になって、近くに人がいるのを忘れ、別に避けようともせぬので、手許へ玉のころがって来たのを、あやまたず掴む。狐は驚いて逃げ去った。玉は真白で自ら光を放つ。夜人の集まった時など、この玉を取り出してころがすと、ぱっと火が燃えて、付木(つけぎ)なしに明りの用を弁ずる。大工は大いに重宝して、二年ばかり所持して居ったが、その間一疋の狐が大工の身に附き添って、昼夜とも離れない。年を経るに従い、大工も痩せ衰えて来た。多分この玉の祟りだろうと皆に云われるので、漸(ようや)く玉を返そうと思う心が起り、或夜闇の中に投げ遣った。狐は忽ち躍り上ってこれを取り返し、大工の方は何事もなかった。」

























































プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本