『つげ義春コレクション 大場電気鍍金工業所/やもり』

つげ義春 
『つげ義春コレクション 
大場電気鍍金工業所/やもり』


ちくま文庫 つ-14-2
筑摩書房 2008年11月10日第1刷発行/2009年6月10日第3刷発行
353p 文庫判 カバー 定価760円
カバーデザイン: 間村俊一

「本書は『つげ義春全集7』(一九九三年十月二十五日、筑摩書房刊)を文庫化したものです。」



文庫版つげ義春全集。「自伝的」作品集成。


大場電気鍍金工業所1


間村俊一装幀。1950-60年代「ブルーノート」盤ジャケットのような表紙デザインがすばらしいです。


帯文:

「青年時代までの悲惨と滑稽を描く
つげ義春自伝的作品群
第2回配本(全9冊)」



カバー裏文:

「「大場電気鍍金工業所」から「別離」まで、自伝的色彩が強く投影された作品9編を収録。少年時代から青年時代までの貧乏と悲惨を、著者独特のユーモアを交えて描く。」


目次:

大場電気鍍金工業所 (「別冊・漫画ストーリー」 1973年4月28日号)
少年 (「カスタムコミック」 1981年7月号)
海へ (「COMICばく」 1987年3月号)
やもり (「COMICばく」 1986年9月号)
下宿の頃 (「ヤングコミック」 1973年1月10日号)
義男の青春 (「漫画サンデー」 1974年7月27日号、11月16日号、11月23日号)
池袋百点会 (「COMICばく」 1984年12月号)
隣りの女 (「COMICばく」 1984年12月号)
別離 (「COMICばく」 1987年6月号、9月号)

解題 (高野慎三)
解説 悲惨な町の安全運転 (赤瀬川原平)



著者の「自伝的」作品を、発表順ではなく、主人公の成長過程を辿れるような順番で集成している。主人公の性格は、かなり一般化(「普通の人」化)されているように思える。
本シリーズの「解題」には、著者が自作について語ったインタビュー本『つげ義春漫画術』から適宜引用されているが、本書収録作「別離」(いまのところ著者の最後のまんが作品)については、
「ロマンの香りとか、そういうのを全部はぎ取ってしまいたいという気はあるんですよ。最近、この歳になってきて、赤裸々な姿を描きたいみたいな気も多少あるわけです。小説だと、徳田秋声なんかにそれを感じるんですね。夢も希望もない、汚いことでもなんでも、ずけずけ書いてしまうでしょう」
と語っている。
そういうわけで、著者自身の姿というのであれば、むしろ主人公よりも、主人公が共感を示す脇役、たとえば本書には収録されていないが、連作『無能の人』に登場する寝たきり古本屋とか作中で言及される俳人の井月とかに、理想像として、象徴的に表現されているような気がします。


そこで、今回は、本書収録「海へ」(いまのところ著者の最後から二番目のまんが作品)に登場する「キヨちゃん」に注目してみたいと思います。


大場電気鍍金工業所2


主人公の家の工場で働く女工さんです。始めたばかりの小さな工場なので、働いているのは、家族のほかにはキヨちゃんだけです。キヨちゃんは最初の日だけ主人公の家族と昼食をともにしますが、翌日からは外で食事するようになります。裏庭の祠にお弁当を隠しておいて、昼になるとそのへんの路地で一人で食べるのです。「陰鬱で人とろくに口もきかぬ義父との作業」は「暗く気づまりで耐えがたいものだった」から、女工さんも居心地が悪かったのだろう、と主人公は推測していますが、もちろん、キヨちゃんにとっては、口をきかぬ義父よりも、いろいろ気をつかってくれる親切なお母さんのほうが気づまりだったのです。そしてキヨちゃんは基本的に人と一緒にいると寛げない人なのです。
そういうわけで、キヨちゃんは昼休みを主人公一家と一緒にすごしたくないので、たとえ雨降りの日でも、外に出て一人で時間をつぶすのです。人といるよりも一人で雨に打たれている方がキヨちゃんにとっては居心地がいいのです。そんなキヨちゃんを見て主人公は「変な奴」と呟きますが、それは『無能の人』の主人公が野垂れ死にした俳人の井月を「大馬鹿ものだよ」とののしるのとおなじことなのです。彼らは何ごとかを理解しつつあるのです。
キヨちゃんは初めての給料をもらうとさっさとやめてしまいます。「キヨちゃんとはひとことも言葉を交したことはなかったが/なんだか味方に去られたような気持ちになった」「キヨちゃんはやめることができても自分はそうはいかない/逃場がない」そう主人公は考えますが、のちにキヨちゃんの「逃場」のなさが自分のそれよりもはるかに深刻なものであると知ることになるのです。
というのも、キヨちゃんは水道も電気もない「家舟」に一人で暮らしていたのです。


大場電気鍍金工業所3


これがその家舟です。キヨちゃんのお父さんは肺病で死んだのですが、キヨちゃんは葬式も出さずに、お父さんの死体を川に流してしまったのです。
(それはべつにたいしたことではないのです。水葬なのです。キヨちゃんにとってはそれでいいのです。)
家出した主人公は、キヨちゃんの家を訪れます。
「なによ」
「おれ家出したんだぞ/お前なんか一人でいいよな」
「よくないよ」
「舟の家っていいよな/何処だって好きなところへ行けるしさ/海の方へ行こうぜ/海へ行こうぜ」(※)
そんな呑気な「ロマンの香り」のする発言をする主人公に共感されても、キヨちゃんにとってはいい迷惑なのです。キヨちゃんは家舟と桟橋を繋ぐ板を外して、主人公を残して無言で家に入ってしまうのです。
小さいときに住んでいた大島に行けば、死んだ父親がまだ元気でいるのではないかというような、家族幻想(ファミリー・ロマンス)を抱くことができる主人公の甘っちょろさは、キヨちゃんによって手痛く批判されるのです。主人公は家舟に石をなげて「ちくしょう」と叫ぶしかないのです。

※ 余談ですが、名作「枯野の宿」には、旅先で熱にうかされた主人公が、宿屋の子息の岩男さんに、寝ていた布団ごと舟に載せられて「これからいい所へ行きましょう」と連れていかれる夢をみる場面がありました。




























































































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『ねじ式 つげ義春作品集』

『ねじ式 つげ義春作品集』

青林工藝舎 200年6月21日初版第1刷
iv 456p B5判 並装 カバー 定価2,900円+税
装丁: 南伸坊



ねじ式1


帯文:

「西暦2000年分の孤独が生み出したリアリティの結晶/「ねじ式」(オリジナル2色バージョン)「噂の武士」(4段組バージョン)他、65~70年発表の代表作を初出誌サイズで一挙に再現。単行本未収録を含むカットやエッセイも可能な限り収録し、単行本により微妙に異なっていたセリフもオリジナル無修正版とした定本的集成。全書影入り単行本リスト、完全作品リストを始めとする最新版年譜を付した決定版!」


帯背:

「時代を超えた
リアリティ」



ちくま文庫版「つげ義春コレクション」は手軽につげ作品が概観できて有難いが、画面が小さく、隔靴掻痒の感が否めない。そこいくと本書は大判なので迫力があります。
本書収録の「ねじ式」は初出版を再現。「眼科」が「眠科」になっている。主人公の顔なども初出後、部分的に描きかえられているようだ。
「眠科」というのは映画「カリガリ博士」に登場する「眠り男」を連想させるし、詩的でいい。

ヤフオクで500円+送料350円でした。


ねじ式3


カセットテープは大きさ比較用。


ねじ式2


目次:

【作品】
ねじ式
噂の武士
西瓜酒
運命
不思議な絵

チーコ
初茸がり
通夜
山椒魚
李さん一家
峠の犬
海辺の叙景
紅い花
西部田村事件
長八の宿
二岐渓谷
オンドル小屋
ほんやら洞のべんさん
ゲンセンカン主人
もっきり屋の少女

やなぎ屋主人
【エッセイ】
密航
京都ブラブラ日記
断片的回想記
【解説・資料】
解説
つげ義春全単行本リスト
つげ義春年譜(含/全作品・執筆文献・記事リスト)



ねじ式4


余白ページにカット掲載。


ねじ式5


現存しない幻の作品「万力のある家」は、「作者とおぼしき一人の青年が、深大寺周辺の雑木林を散策しているうちに、粗末な小屋をみつけ、中に入ってみると、無造作におかれた机のはしに万力がくくりつけられてあり、その万力にはまだ生温かい金魚がはさまれていた」という内容とのこと。



つげ義春作品集 ねじ式1


つげ義春作品集 ねじ式2


つげ義春作品集 ねじ式3


つげ義春作品集 ねじ式4


つげ義春作品集 ねじ式5



































































プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー

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