島尾敏雄 『硝子障子のシルエット』

「街にこんなに犬が殖えて来てああ厭なことだ。どうしてこんなにたくさんの犬がうろうろ歩き回っていることなのか。(中略)これらの夥しい犬はどこに棲息していることなのか。」
(島尾敏雄 「街なかは荒野!」 より)


島尾敏雄 
『硝子障子のシルエット 
葉篇小説集』


創樹社 
1972年2月25日 第1刷
214p 
四六判 丸背布装上製本 貼函 
定価800円
装幀・装画: 司修



本書「あとがき」より:

「創樹社を創設した竹内達さんと玉井五一さんのところから書物を出してもらうことになって、林檎箱の中をさがしたら、ごく短い小説十二篇があらたに出てきた。それは昭和二十七年から二十九年にかけた約三年のあいだに大阪のABC放送から放送してもらった台本の大部分だった。当時友人の庄野潤三がその放送局のプロデューサーをしていて、彼の企画で引受けたいくつかの仕事の中のそれは「掌小説」として書いたものであった。それらの日々、私は父のもとをはなれ東京に出て、妻と子供二人の、四人水いらずの生活を送っていたが、ABCでの折々の仕事が生活の支えに役立った。今度それらを読みかえし、思いきってまとめて置こうと思ったのは、たぶん歳月の癒しがはたらいてのことだろう。同時にてごろな短さの小説のつもりで書いたとも言えるほかのものをも、この際収集してみたが(その多くは十年ほどまえのエッセイ集の中に収めた)、その二十八篇中十七篇までは、ABC放送の「掌小説」として書いたものだ。
 三区分に配置したのは、I に夢と現のさだかでないもの、II に幼少年時や戦中戦後に素材を求めたもの、そして III になかんずく東京都江戸川区小岩町での三年間の生活にだぶらせてその渦中で書いたものを、それぞれ区別したかったからだ。
 これらを名づけて「葉篇」と呼ぶその用字は、李昇潤さんの私宛のてがみの中で発見した。彼が私のごく短い小説を指して呼んだその「葉篇小説」という言い方を、この書物の副題にしても彼はおそらくは許してくれるだろう。」



島尾敏雄 硝子障子のシルエット 01


目次:

I
街なかは荒野!

夢にて
体験

II
三つの記憶
松田君の場合
笛の音
草珊瑚

III
硝子障子のシルエット
鶏飼い
終電車
鶏の死
妻の職業
きみよちゃんの事
金魚
子供
突つき順
おちび
ニャンコ
居坐り猫
マヤ
玉の死
ある猫の死のあとさき
つゆのはれ間
二軒の古本屋
運動会
拾った猫
地蔵のぬくみ

あとがき

跋 (埴谷雄高)



島尾敏雄 硝子障子のシルエット 02



◆本書より◆


「夢にて」より:

「その日。白い雲がもくもくと湾口の岬の方の空に出ているのを行く手に見ながら、両側に低い家並のつづいた道を歩いて勤め先に足を運んでいた。もう夏は過ぎてしまったのにまだあんな雲の出ることがあるのだなと思ったとたんに、その裂け目から朱にぬられた物体がつと首を前に出すように現われて、胸壁を削ぐような不安な音が、故障箇所の直った拡声器みたいにいきなり耳にかぶさってきた。」


「体験」より:

「げんかんのまえに小川がながれ、それをまたいでその幼稚園にはいることができたが、小川の底にはかどのとれた丸石がいっぱいしずんでいた。そしてそのなかからまいにちみっつずつとりのぞかれる。とりのぞかれた石は、ちいさいものじゅんにならべられ、それがあいずになって幼稚園のこどもがさんにん溶かされてしまう。とけてなくなってこの世から消されるのだ。なんということか、このへんな殺人のしごとをうけもっているのが、ぼくのむかしのクラスメイトだとは。小学校のときのか、それとも予備学生のそれだったかはっきりおもいだせないのだが、かつておなじなかまという、うすまくにへだてられた誤解にもとづくあの親密なけはいがかれとのあいだにあって、ぼくはかれのひとがらをみわけることができない。めのふちがずずぐろくくまどっているのはかれのしごとのせいだとおもう。そんなことはやめてはどうかとすすめたが、宿命だからやめるわけにはいかないといっていた。それいじょうあえてことばをかさねるのはおそろしい。」


島尾敏雄 硝子障子のシルエット 03




































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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