シオラン 『告白と呪詛』

「人間はいまや絶滅しようとしている。これが、こんにちまで私の抱いてきた確信だ。ちかごろになって、私は考えを変えた。人間は絶滅すべきである。」
(シオラン 『告白と呪詛』 より)


シオラン 
『告白と呪詛』
出口裕弘 訳


紀伊国屋書店 
1994年12月24日 第1刷発行
252p 
四六判 丸背紙装上製本 カバー 
定価2,200円(本体2,136円)
装画: 柄澤齊



本書「訳者後記」より:

「原題の Aveux et Anathèmes はなんとも訳しづらい言葉である。Aveux の古義は、封建時代、「君主がある者を臣下として認めた証文」であったし、その逆、つまり、臣下のほうが、ある者を、おのが君主として認めた証文でもあった。そこから転じて、同意、承認、認可を意味する語となり、さらに、自白、自供、白状にまで転じた。告白と訳したが、その点、自発的に行う Confession とは違う行為だ。シオランの場合、いっそのこと「自供」とでもしたほうがよかったかもしれない。Anathèmes も厄介な語である。もともと、カトリック教会が行う「破門」の意味で、「異端排斥」から単なる「排斥」へ、そして「激しい非難」へ、ついには「呪い」「呪詛」へと転じてきた。(中略)あれこれ考えつめたすえ、『告白と呪詛』に落ち着いた。」


シオラン 告白と呪詛 01


カバーそで文:

「人間という人間に、うんざりしている。それでも、私は笑うのが好きだ。そして、私は、ひとりでは笑うことができない。
生にはなんの意味もないという事実は、生きる理由の一つになる。唯一の理由にだってなる。
――本文より――」



目次:

存在の縁辺(ふちべ)で
切断
幻滅の魔
瞬間と向きあう
激情
忌わしき明察

訳注
訳者後記



シオラン 告白と呪詛 02



◆本書より◆


「存在の縁辺で」より:

「独りでいることが、こよなく楽しいので、ちょっとした会合の約束も、私には磔刑にひとしい。」

「誰であれ、原罪なんぞに用はない、と言いたげな人間を、本気で相手にするつもりはない。そこで私だが、いかなる事態に遭遇しようとも、私は原罪に助力を仰がずにはいないし、原罪なしでは、たえまない悲嘆、虚脱を、どうすれば避けられるのか、見当もつかない。」

「古代人たちは、成功というものに不信を抱いていた。それも単に、神々の嫉妬を怖れたというだけのことではない。どんな類のものにせよ、成功は、かならず内的な均衡喪失をともなうと考え、その危険をこそ怖れたのである。成功の脅威を知っていたとは、現代人にくらべて、なんという優越ぶりであろうか。」

「最善の策は、おそらく、同じことの繰り返しにあるのだろう……あの、バッハのような。」

「人間は、自分が呪われた存在だということをたやすく忘れてしまう。世の始まりからして、呪われているせいである。」

「批評は不条理だ。本を読むのは、他者を理解するためではなく、自分自身を理解するためなのだから。」

「人間であること以外、もはや、人間たちと、どんな共通点もなくなってしまった!」

「どんな欲望も、私の中に反=欲望を生じさせる。したがって、私が何をしても、重要なのは、私がしなかったことだけである。」

「健常者は、実在性が薄い。彼らは、すべてを所有しているようで、実は存在を持っていない。存在を授けてくれるのは、ただ、揺らぎがちな健康だけである。」

「戸外へ足を踏み出すやいなや、私は叫んだ。「この世は地獄の模造品だそうだが、まったくよくできてる!」

「サン・セブラン寺院で、パイプ・オルガンの奏する「フーガの技法」を聴きながら、私は何度もこんなことを呟いた。「なるほど、これが、わたしのありとあらゆる呪詛への弁駁なんだろうな」」



「切断」より:

「自分がしたことを誇るのもよかろう。だが、それよりも私たちは、自分がしなかったことを、大いに誇るべきではなかろうか。その種の誇りを、ぜひとも創り出すべきだ。」

「いつも傍観者として振舞い、行動に加わらず、新奇なものを嫌うといって、Xは私を非難する。「でも、君、僕はね、この世の何かを変えようなんて、これっぽっちも考えていないんだぜ」――私はそう答えた。どうやら彼は私の返事の意味を掴みそこねたらしい。なんと私を、謙虚な人間だと思ったのだ。」

「自己放棄は行為にはちがいないが、唯一、私たちの品性を卑しくしない行為である。」



「激情」より:

「怪物と心を通わせあうほうが、怪物とはまったく無縁な人間と理解しあうのより、まだしも容易である。」

「一九三七年の春、トランシルヴァニアのシビウで、精神病院の中庭をぶらついていたら、「在院者」のひとりが声をかけてきた。しばらく言葉をかわしたあと、私はいった。「いいところですね、ここ」――「わたしもそう思うよ。気狂いになるって、なかなかいいものなんだ」
 「でも、ここって、一種の監獄でしょう」――「そりゃまあ、そうさ。だけど、ここじゃ、心配ごとなんて、これっぱかりもないんだよ。おまけに、もうすぐ戦争だろう。あんただってようく御存知のはずだ。ここは、安心さ。わたしら、動員される気づかいはないし、気狂い病院を爆撃するやつもいないだろうからね。わたしがあんたなら、すぐにでもここへ収容してもらうな」
 当惑もし、感嘆もしつつ、私はこの人物と別れた。そして彼のことを少し詳しく調べてみた。本当に狂人だった。だが、狂人、常人を問わず、かつてこの男ほど、筋の通った助言を与えてくれた者はいない。」

「仕事の最中よりも、倦怠のときのほうが、比較を絶してたくさんのことを私たちは学び取るものである。努力こそ、瞑想の最大の敵なのだから。」

「人間はいまや絶滅しようとしている。これが、こんにちまで私の抱いてきた確信だ。ちかごろになって、私は考えを変えた。人間は絶滅すべきである。」



































































































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難破した人々の為に。

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