E・M・シオラン 『四つ裂きの刑』 (叢書ウニベルシタス)

「怠惰は冗漫さから私たちを救い、したがってまた、生産につきものの恥知らずの行為からも私たちを救ってくれる。」
(E・M・シオラン 「眩暈素描」 より)


E・M・シオラン 
『四つ裂きの刑』
金井裕 訳

叢書・ウニベルシタス 184

法政大学出版局 
1986年4月1日 初版第1刷発行
230p 「訳者への手紙」1p 目次1p
四六判 丸背布装上製本 カバー 
定価2,400円



本書「訳者あとがき」より:

「本書は、E.M. Cioran : Ecartelement, Coll. 《Les Essais》, Gallimard, 1979. の全訳である。」
「「訳者への手紙」は序文がわりにとシオランから訳者宛に送られてきたものである。」



シオラン 四つ裂きの刑


目次:

訳者への手紙

二つの真理
回想録の愛好者
歴史以後
最悪事の緊急性

眩暈素描

訳注
訳者あとがき




◆本書より◆


「訳者への手紙」より:

「別のところですでに述べたことですが、重ねていっておきたいことがあります。それは青年期以来、幸福のときも不幸のときも、私が「自殺」は唯一の解決策であり、私の一切の問いに対する完璧な答えであると思わずに、一日たりと過したことはなかったということです。この観念、というよりむしろこの妄執が私の生きるよすがであったことを、私は一瞬たりと疑ったことはありません。望みのときに死ぬことができるという確信、ここにはなにかしら私たちの気持を奮い立たせ、くすぐるものがあり、そしてそれが耐えがたきものを耐えうるものに変え、無意味なものに意味を与えるのです。幸か不幸かは知りませんが、生存を正当化しうる客観的理由など見出すべくもないのです。」


「眩暈素描」より:

「書物は古い傷口を開き、さらには新しい傷をさえもたらすものでなければならない。書物とは一篇の危険であるべきだ。」

「「キリスト磔刑のことを思うと、きまって私は妬みの罪を犯す。」
 シモーヌ・ヴェーユをかくまで私が愛するのは、並ぶものなき聖者たちと高慢のほどをきそってもおさおさひけをとるまいと思われる、こういう言葉があるからである。」

「仕事ができないから退屈している、といったその友人に私は答えたものだ。退屈とは一種至高の状態であり、それを労働の観念に結びつけるのは退屈を貶めることにほかならないと。」

「天啓あるいは熱狂、これはともに自分がだれであるか分からぬ状態であるが、他人に伝染し、有効なのは、この状態から生れた言葉だけである。」

「動物園で。 ――ここにいる動物たちは、猿を除けば例外なく上品だ。思うに、人間は猿と大差のないものだ。」

「街に出て人間どもを目にすると、まっさきに思いつくのは皆殺しという言葉だ。」

「私は世界に対して戦っているのではない。世界よりはもっと大きな力、つまり世界に対する私自身の疲労と戦っているのだ。」

「ある画家がやって来て、こんな経験談を披露する。南フランスへ行っていたとき、ある夜、彼はひとりの盲人を訪ねたが、真暗闇のなかでたったひとりきりでいる盲人を見てつい気の毒に思い、明りがなくとも生活には差し障りがないかどうか尋ねた。すると盲人は答えた、「あなたは御自分の失ったものがなにか御存知ないのです」。」

「こうして通りすぎてゆく人間どもを眺めていると、どいつもこいつも人間の真似をするのにいいかげんあきあきした、疲労困憊のゴリラのように見えてくる。」

「健康であるというのは非感覚の状態、あえていえば非実在の状態だ。苦しむことをやめれば、私たちはたちどころに存在しなくなる。」

「私は書物を通して自殺を奨励し、言葉によって自殺回避を奨励することに時間を費している。第一の場合は哲学上の解決策にかかわっているからであり、第二の場合は、ひとりの人間に、ひとつの声に、ひとつの嘆きにかかわっているからである。」

「長く持病を患っている者、こういう人間を意志薄弱者とみなすことはできまい。ある観点からすれば、彼は自分の理想を達成しているのだ。あらゆる病気は例外なくひとつの肩書である。」

「わずかとはいえ死を思わせるところのないものは、なんdねあれ例外なく俗悪である。」

「怠惰は冗漫さから私たちを救い、したがってまた、生産につきものの恥知らずの行為からも私たちを救ってくれる。」

「あの世などというものはない。いやこの世そのものさえ存在しない。それならいったい何が存在するのか。両者の明白な不在が私たちの内部に誘いだす内面の微笑、これだけである。」

「植物園で私は一匹のアメリカ鰐の目を、太古以来のその目差しをじっとみつめていた。爬虫類が私を惹きつけるのは、石にもみまがう彼らの鈍麻ぶりである。いわば彼らは生命以前にやって来たかのようであり、それと予告することなく生命に先行し、生命を回避してさえいたかのようである……」

「だれであれひとりの人間が死ねば、その人間とともに世界は消えうせる。すなわち、その死と同時に、一切が抹殺されるのだ、一切が。これこそ死を正当化し、その名誉を回復させる至上の裁きである。だからいさぎよく旅立とうではないか。なぜなら、私たちの意識だけが唯一かけがえのない実在であり、私たちの後に生き残るものはなにもないのだから。意識が消滅すれば、一切は消滅する。よしんばこれが客観的な真実ではないことが分かっているにしても、そして事実、私たちに続いて死ぬことを諾うものも、私たちとともに消えうせてくれるものもなにひとつないことが分かっているにしても、意識が消滅すれば、一切が消滅するのである。」

「「自分の進むべき道を探すかわりに、自分の好みに従うこと。」
 タレーランのこの言葉が私にとりついて離れない。」
「私たちは、自分のありとあらゆる欠点を糾合し、さまざまの弱点と一体となり、自分の〈好み〉に従ってはじめて自分なのだ。自分の進むべき〈道〉を探しはじめ、なんらかの高貴なモデルを自分に課するや、私たちはみずからを台無しにし、道を踏みはずすのである。」

「私たちはあれこれの決断をなしえなかった不甲斐なさを悔むが、しかし、どんなものであれひとつの決断をなしたときの悔みはもっと激しい。行為によってもたらされるさまざまの結果を見れば、むしろ非行為こそ願わしい!」












































































































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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

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