オディロン・ルドン 『ルドン 私自身に』 池辺一郎 訳

「彼の一生は、はじめから終りまで、彼自身であることに貫かれていた。それは小さなことではない。他の事はどうでもいい。」
(オディロン・ルドン「私自身に」より、ドラクロワについて)


オディロン・ルドン 
『ルドン 私自身に』
池辺一郎 訳


みすず書房 
1983年7月5日 第1刷発行
2007年8月30日 第3刷発行
235p 目次2p 索引1p 
A5判 丸背紙装上製本 カバー 
定価3,800円+税
 


Odilon Redon: A soi-même : journal (1867-1915)


ルドン 私自身に 01


帯文:

「少年の日の記憶、普仏戦争での一兵士としての体験、植物学者クラヴォーによってひらかれた未知の生命体への驚き、銅版画家ブレダンとの出会い。幻想の画家の50年に及ぶ100編の断章を収録。」


目次:

芸術家のうちあけ話
私自身に 日記 1867―1915
 マリー・カザン
 ジャン・ドラン
 シューマン
 ベルリオーズ
 フロマンタン
 ミレー
 アングル
 カザン
 メッソニエ
 シャントルイユとプリュードン
 ファンタン・ラトゥール
 ピュヴィス・ド・シャヴァンヌ
 クールベ
 印象派展覧会について
 ロドルフ・ブレダン
 ドラクロワ

訳者あとがき



ルドン 私自身に 02



◆本書より◆


「芸術家のうちあけ話」より:

「そのころの海の旅は長く、危険にみちていました。悪天候や逆風のために、私の両親の乗っていた船は、大洋の真中で漂流しかけたといいます。その話を聞くと私は、海上にさまよう運命が長びいて、自分が波の上で出生すればよかったのにという気がしました。後に私は苦しみ悩んでブルターニュの断崖の上から、海を見つめたことがありますが、深淵の上にあるあの国籍のない場所こそ私にふさわしいと思いました。」

「今では死んでしまった意識、その残映も変わってしまった現在、はるか遠い状態を再生させようとできるかぎり記憶を探って見ると、弱い陰気な子としての自分が浮かんできます。黙っているのが好きでした。影を求める子供だったのです。家の中では暗い隅々を求め、遊び部屋でも、大きなカーテンの後にかくれていることに、異常な深い喜びを感じました。外に出ると、野原のまん中で、空が私の魂を奪いました。
 後に、はるか後のことですが、(中略)私は何時間も、というよりは一日中人のいない野原で地面に仰向けに寝て、雲が通って行くのを見ていました。」

「学校に行った期間は、私の若い時の最もみじめな暗い時期でした。」
「結局私は自分の力で、なんとかひとりで自分を作りました。私が受けようとした教育には、ほんとうに私に合った献立がなかったからです。」
「私の受けた教育は、私の性質に反するものでした。教師は私の生まれながら授けられているものに対して、全く盲目で、完全な誤認しか持っていませんでした。何から何まで私を理解しなかったのです。」

「現在の私の孤立は、私がやって来たような仕方以外で芸術を作ることが、私には絶対に不可能だったからです。いわゆる「妥協」といわれるものは、私にはどういうことかわかりません。」
「私がもっぱら力を注いだのは自分の能力の方向を守ることでした。自分の創造を目覚めさせ成長させる方法を意識的に探求し、それを完全な、自律的な形、つまりそれ自身によって存在する形にまで持って行くことを願ったのです。」

「天から授かったものに従うことも、自然の命ずることです。私の授かったものは、夢にふけることでした。」

「私のデビュー時代に私に加えられた批評はすべて誤っていました。ここでは定義は無用であり、理解しようとしてはならないこと、限定することも断言することもいらない、すべて誠意のある新しさは――美も含めて――、それ自体として意味がある、このことを悟らなかったのが批評家の誤りの原因だったのです。」

「私の手柄は最も非現実的な創作物に、生のイリュージョンを与えたことにあるのは人に認めてもらえると思います。」



「私自身に」より:

「イエス――あの人は決して人を有罪とはしなかった。我々のために彼は死んだ。許し、忘れることだけを口にしながら。
 徳は色々に形を変える。拒否することが、徳となる場合もある。
 人を傷つけることを拒否すること、場合によっては完全に孤立することが善行となることがある。そういう振舞いをする人はとかく不当に扱われる。彼らは一種の行動の人であり、異常な意志の人なのだ。
 「インターナショナル」の大きな独創性は、「何びとも所有すべきではない」と言い切ったことにある。これこそ最高の誓い、人類が地上から眼を離し、翼が生えるのを感じはじめた誓いだ。」

「このように狭い街路に囲まれて、人の噂にすべての情熱を注ぐよりすることのない人々の間で過ごす人生は、何とわびしいものであろう。高貴なものに精神を向ける者にとっては、なんという煩わしさ、なんという束縛であろう。小さな庭でも、孤独のあるところは、貴い! そんなところで、たった一人でいるのは、さぞ退屈でしょうと人はいう。― この世のあわれな人々よ、のぞき見をし、うかがい、さがし回り、計算をしなさい。そんなことで過ごす一生は、永い拷問の末に死を迎えるようなものだ。自由はない。暇にまかせて考えるところには、どこにでも自由がある。狂人や賢者が不思議な音を聞いているところ、あなた方には聞こえない響きを、流れる水の傍ら、――あるいはしゃべりながら秘密をあかそうとはしない空の下で、聞いているところでは、どこにも自由はある。」
 
「彼の一生は、はじめから終りまで、彼自身であることに貫かれていた。それは小さなことではない。他の事はどうでもいい。
 それに、すべての真の芸術家には、芸術家以外の者からは理解されぬ何ものかがあるのではないか。自ら自分を教育するより他はない者、自分のやり方を自分で作る者は、不可解な意見を持っているように見えることがある。
 普通の人々のように、その属する社会の社交的な義理に従うことはできない。
 何とかごまかして逃れるが、人はそれに気づく。彼を愛する、あるいは高く評価するものは、それを彼の自然として許すが、他の者にとっては、羽根の色も身のこなしもちがう島の鳥のように、変って見える。」

(ドラクロワについて)

「私の一生を通じて、社会的という形容詞はずいぶん聞かされた。現在になって、私はこの言葉を信用しない。」

「才能とは結局、生まれながら恵まれたものを結実させるだけの力を持っていることだ。」
「自然に、ゆっくり愛していれば、やがて恵みのように、喜びが湧いてくる、それを期待して愛することだ。それは閑(ひま)の必要ということでもある。」

「芸術家が生を受けるのは、ある神秘的なことを完成するためである。彼は偶然の産物だ。社会は彼に何も期待していない。産衣を用意する母親もなく、素裸で藁の上に生れる。そして若いうちに、あるいは年老いてから、珍奇な独創の花を生む。当然他にはない花で、その未知の花の匂いは、人の頭を悩ませ人を近寄らせない。芸術家は宿命的に、悲劇的といってもいい孤立に陥る。芸術家の青年時代は――幼年時代さえ悲しい不安に包まれる。そのために彼は野生動物のようになる。彼に親しさを感じて、理解を示す人があらわれるまで。」

「本屋の窓で「社会的芸術」という題の本を見た。いやな題だ。しかし私はそれを取って、中を開いた。「美の社会化」という文字がある。私は本を閉じた。」

「人々の無関心と軽侮の中に、悲しく、誠実に生きたいたましい生涯の例を、同時代の人々の中にどれだけ見たことか。」

「人が学ぶのは、ほとんどすべて自分で学ぶのだ。」
 
「独立精神にみちたわが友ステファン・マラルメは、ギロチンを廃止すべきであると同様にリセ(学校)を廃止すべしと唱えた。」
 
「群の中で学ぶのは、ひとりで強制もなく勉強するよりもむずかしい。」

「すべて個性的な知性を示すものがそうであるように、この道も多くの非難を受けたが、発見した道に従ったのがよかったのだ。それは彼の精神をあますところなく我々に開き、彼の夢を描かせた。一言でいえば人が模倣し、そして後に残る作品ができたのだ。彼自身の様式を発見したのだ。」

(ピュヴィス・ド・シャヴァンヌについて)
 


◆感想◆


本書の存在はたいへんありがたいですが、訳者は「coeur」を「心臓」と訳しているので、たとえば、
 
「自由を愛するのは囚われない大きな心臓にのみ宿るのだ」
「たとえば天才が友情を抱くのは、平凡な能力しか持たない、しかしすぐれた心臓を持った人に対してであることが多い」
「「自然」という言葉を大袈裟にとなえる人(心臓は何も感じていないのに)、そういう人に私は反感を持つ」


といったような文章が散見されます。なぜ「心」でなく「心臓」と訳したのか、謎です。



原文:

Wikimedia (djvu ファイル)。




























































































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難破した人々の為に。

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