多田智満子 『川のほとりに』

「ふりむけば 墓原に
片足で立ちあがる虹」

(多田智満子 「桃源再訪」 より)


多田智満子 
『川のほとりに』


書肆山田 
1998年4月25日 初版第1刷
125p 初出一覧ほか4p 
菊判 角背紙装上製本 カバー 
定価2,800円+税
装幀: 吉野史門



第16回「花椿賞」受賞。
カバーは模様と背文字がうすく印刷されたトレーシングペーパーのような半透明の紙で、本体表紙が透けてみえています。


多田智満子 川のほとりに 01


帯文:

「詩人は王である。死者である。うすい翅で広大な午後の重みを量る蜻蛉である。迷宮の奥で、全身に眼帯をほどこされてメスを待つからだである。そして、長い脚註の杖をついたひとつの死語である――」


帯背:

「新詩集」


目次:

お誘い
*
方陣
骨折の次第について
木枯らし
蝶のかたち
迷宮
さびしい土地
栽培
薤露歌
川のほとりに
*
種播かれた龍の歯から
王たちの遺書
王の死あるいは旱魃
旅の窓から
桃源再訪
秋の谷
玄牝あるいは羊の谷
*
新月の夜の物語

ユーカリの葉を噛みながら

初出一覧
多田智満子(ただちまこ)



多田智満子 川のほとりに 02



◆感想◆


「死ぬのもなかなかいいものだよ」

(「お誘い――《えてるにたす》の翁に」)


「《えてるにたす》の翁」は西脇順三郎のこと。「永遠の旅人 西脇順三郎展」のために書かれた詩です。なお、「没後二十年 西脇順三郎展」図録の「西脇順三郎へのオマージュ」に掲載されている多田智満子の句「翁遊ぶよ/Ω(オメガ)の亀を/裏返し」は、この詩の「八十八歳 つまりは八十八秒/でもそれだけの時があれば/濁り水もひとりでに澄んでくる/平面がしずかに光る/虎杖(いたどり)の杖の先で裏返してみたよ/Ω(オメガ)の形した亀を」によるのでありましょう。

「骨折の次第について」では、現代医学が骨の「ひびわれの形によって吉凶を占う」古代占術と重ね合わされ、骨折した詩人は「片足で 地上と冥界の間をさすらう」神と同一化されます。片足の神については詩集『長い川のある國』もご参照下さい。


「蝉がボロボロと木から落ちると
はやくも木枯らしである
虚空から死者の裏声が近づいてくる」

「季節の循環論法のなかで
わたしもまた一つの引用句にすぎない」

「長い脚註の杖をついて
このわたし ひとつの死語となりつつある」


(「木枯らし」より)


「どこからか わたしは見ている
体重のない人たちが
この岸からあの岸へ
一度かぎり運ばれていくのを」

「へさきにとまった蜻蛉が うすい翅で
広大な午後の重みを量っている」


(「川のほとりに」より)


「蛇たちはみな地の下に還った
一山紅葉(いっさんこうよう)の盛儀のなか
蒼ざめる秋の帝(みかど)」

「帰るべきところは想い出せない
岩蔭にひとり痩せた膝をかかえ
前世のにおいを嗅ぎながら
苦い草の根を煮る」


(「秋の谷」より)


最後の三篇「新月の夜の物語」「川」「ユーカリの葉を噛みながら」は、ボルヘスあるいはカルヴィーノを連想させる散文詩です。

「新月の夜の物語」は、王の「夢師」の話。「夢師は一種の歴史家ともいえた。その夢はことごとく史実とみなされたからである。」

「川」では、詩人は汽車に乗って時間を遡ります。

「ユーカリの葉を噛みながら」で、詩人は樹上に生活の拠点を移します。


「見おろせば私たちがヴェランダから幹にたてかけて登った梯子は、まだ倒れもせず半ば落葉に埋もれて立っているけれど、その後、木が信じられないほど大きくなったので、もうあの家にもどることは到底不可能になった。(中略)家は今やマッチ箱ほどに小さく、しかも一階は落葉に完全に埋もれ、落葉を葺いたような二階の屋根しか見えない。犬小屋はむろん跡かたもない。それでいいのだ。もう二度とあそこへもどる気はないのだから。
 ただひとつだけ気がかりなことがある。アサが毎晩遠吠えするようになったのだ。犬はのどをそらせ、鼻を天に向けて、月に吠えるように遠吠えするのがふつうなのに、アサは首を低くうつむけ、地上に向かって遠吠えする。(中略)その物悲しげな声を聞いていると、成層圏的なユーカリの芳香を全身の細胞に吸収して、樹上からいよいよ天上への移住さえも夢ではないと信じているこの私まで、つい地上への郷愁をそそられてしまうのである。」
















































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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