『ロートレアモン全集』 (栗田勇 訳)

「ぼくの人間に対する戦いが永遠に続いてほしいものだ。めいめいが相手のうちに自分じしんの堕落を感じる以上……両方とも共に天を戴かざる仇敵である以上は止むを得ない。願わくばぼくが不幸なる勝利を獲得するか、さもなくば打倒されんことを、そうしたらこの戦いは素敵だろう。ぼく、一人で、人類を向うにまわすのだから。」
(ロートレアモン 『マルドロールの歌』 より)


『ロートレアモン全集』
栗田勇 訳


人文書院 1968年5月15日初版発行/1971年6月15日重版発行
470p 
A5判 丸背布装上製本 
本体ビニールカバー 
貼函 函プラカバー 
定価2,000円
装幀: 粟津潔



本書「解説」より:

「本訳書は、はじめ、José Corti 一九五三年版を底本として、十数年前から翻訳に着手し、はじめ、東京ユリイカ書肆より三巻本の『ロートレアモン全集』として発刊したものを、今度、Jose Corti 新版ならびに、Maurice Saillet による Le Livre de Poche 版を底本として全面的に改訳したものである。」


ロートレアモン全集 栗田1


帯文:

「「彼は十七歳と四ヶ月……ミシンと洋傘との手術台の上の、
不意の出逢いのように美しい」
の詩句に要約することができるトートレアモンの世界。
ロマン派の感傷性、高踏派の客観性、象徴派の意識性
のすべてをはらみながら、しかも、
まったく異なった次元で詩を成立させた
呪われた詩人の全貌を解き明かす決定版全集。」



ロートレアモン全集 栗田2


目次:

マルドロールの歌
 第一の歌
 第二の歌
 第三の歌
 第四の歌
 第五の歌
 第六の歌

詩学断想

資料
 第一の歌ヴァリアント
 書簡
 出生証明書
 死亡証明書
 一八六九年の公開討論会でのデュカス

解説 (栗田勇)

マルドロールの歌: ストローフ索引



ロートレアモン全集 栗田3



◆本書より◆


「第一の歌」より:

「神よ、願わくば読者がはげまされ、しばしこの読みものとおなじように獰猛果敢になって、毒にみちみちた陰惨な頁の荒涼たる沼地をのっきり、路に迷わず、険しい未開の路を見いださんことを。読むにさいして、厳密な論理と、少なくとも疑心に応じる精神の緊張とを持たなければ、水が砂糖を浸すように、この書物の致命的放射能が魂に滲みこんでしまうからだ。猫も杓子も、これから先の頁を読めるというわけにはいかない、中毒せずにこの毒ある果実を味わうことができるのは特別な者にかぎる。」

「マルドロールが、幸福に暮らしていた幼き日の数年というもの、どんなに善良だったかを、すんでしまったことだが、ごく簡単にたどってみよう。間もなく彼は、邪悪な生まれつきに気がついた。数奇なる運命! じつに、幾年ものあいだ、彼はできるかぎりはその性格をおしかくしていた。柄にもない精神集中をしたおかげで、一日一日と頭に血が逆上して、あげくのはては、そんな生活にはもうとてもこらえきれず、決然と悪の生涯に身を投じた……」

「彼女は、「いつかは世間の人々も私を義しとするでしょう。私にはそれいじょうはいえません。行かせて。かぎりない悲しみを海のそこにかくしにゆくのです。私を軽蔑しないのは、深淵の暗黒のなかでうごめいているものすごい怪物たちとあなただけ。あなたはよい方だわ。さようなら、あなたは私を愛してくださったのね!」ぼくは、「さようなら! もういちど、さようなら! いつまでも君を愛しているよ!……今日からは、ぼくは、美徳をすてるのだ」と。」

「老いたるわだつみよ、君は自己同一のシンボルだ。いつまでもあなたはあなた自身。あなたは決して本質的に変らない、たとえどこかで波浪が荒れ狂っていようとも、遠くはなれたほかの海域は、まったき静けさのうちにある。あなたは人間みたいなことは決してない、(中略)ぼくは、あなたをたたえよう、老いたるわだつみ!」

「マルドロールよ、この穏やかな炉ばたから遠去かるのだ、おまえの席は、ここにはない。」



「第二の歌」より:

「ぼくの詩は、人間というこの野獣を、そしてまた、こんな虫けらを産み出すべきではなかった創造主を、ありとあらゆる方法で、ひたすら攻撃するにある。」

「あそこ、花々にかこまれた茂みのなかに、両性具有のエルマフロジットが眠っている。(中略)彼には自然にみえるものは一つもない。(中略)彼は額のうえで腕をまげ、べつな手で胸をささえて、まるで永遠の秘密の重荷を負って、いっさいの打ち明け話にたいして固くとざされた心の鼓動をじっと押えつけようとしている。人生にもうみ疲れ、自分とは似てもつかぬ人間たちの間で生きてゆくのも恥かしく、絶望が彼の魂をむしばんでしまったのだ。彼はただひとり、谷間をゆく乞食のようにたち去ってゆく。どのようにして生きてゆく力が得られるのだろう? 同情にみちた人々の心が、気づかれないように、彼のすぐそばでじっと見まもり、彼を見捨てないのだ。彼はそんなに善良なのだ!」

「おお聖なる数学たちよ、あなた方と一生涯つきあって、人間の邪悪と《全一者》の不正から逃れ、ぼくの余生をなぐさめるわけにはゆかないか?」

「ぼくはぼくに似た魂を探していた。だがしかし、見出すことができなかった。ぼくは地上の隅々までも探しまわった。ぼくの不撓不屈も無駄だった。それでも、ぼくは一人ぼっちではいられない。誰かしらぼくの性格を認めてくれる者が必要だった。ぼくとおなじ思想を持っている者が必要だった。」



「第四の歌」より:

「第四の歌を始めようとしているのは、人か石か樹木なのか。蛙をふんづけて足が滑ってもせいぜい嫌な気がするだけだ、ところが、人間の体にちょっとでも手がふれると、たちまち指尖の皮膚が、槌でうち砕いた雲母の鱗のように、割れてはがれる。そしてまた、鱶の心臓は、一時間もまえから死んでいてさえ、執拗な生命力で、甲板のうえでぴくぴく鼓動しつづけるが、それとおなじく、人に触れたあとでは、われわれの内臓は、いつまでも、上を下へと動転する。それほど人間というものは、じぶんの同類に嫌悪の念をひきおこす!」

「ぼくの人間に対する戦いが永遠に続いてほしいものだ。めいめいが相手のうちに自分じしんの堕落を感じる以上……両方とも共に天を戴かざる仇敵である以上は止むを得ない。願わくばぼくが不幸なる勝利を獲得するか、さもなくば打倒されんことを、そうしたらこの戦いは素敵だろう。ぼく、一人で、人類を向うにまわすのだから。」

「いまだかつて……おお! 決して、いまだかつてなかったことだ!……死すべき人間の声でありながら、このような天使の声の響きをきかせたことはない、それもこれほどまでに悩ましい優しさをこめて、ぼくの名前のシラブルを発音しながら! 蚊の羽音……その声にはなんという友情がこもっていることだろう……。それでは彼はぼくを許してくれたのだろうか? (中略)「マルドロールよ!」」



「第六の歌」より:

「アンゴラ猫が、奴の子供をアルコールで一杯な大釜のなかでぼくが煮させたからといって、突如としてぼくの背中にとびかかり、頭蓋に孔をあける穿顱錐のように、ぼくの顱頂突起を一時間もの間かじったあの日いらい、ぼくはじぶん自身にむかって、責苦の矢を放つことをやめなかった。」


「詩学断想」より:

「作者と読者との間にはかなり公然たる約束がある。それによって前者は自分を病人なりと自称し、後者を看病人とみなしている。だが人類をなぐさめるのは実は詩人なのだ。役割が勝手に置き換えられているのだ。」

「剽窃は必要なものである。進歩がそれを導入する。それは他の作家の文章に迫り、彼の表現方法を利用し、虚偽の観念を抹殺して、正しい観念におきかえる。
 箴言は、適切に作られるために、訂正される必要はない。展開されるべきなのだ。」

「詩はすべての人によって作られねばならない。一人によってではない。」













































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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