FC2ブログ

ホルヘ・ルイス・ボルヘス 『アトラス』 鼓宗 訳

「世界のあらゆる物事が何らかの引用や書物にわたしを導かずにはいないことを確認し、一種のほろ苦い郷愁を感じている。」
(ホルヘ・ルイス・ボルヘス 『アトラス』 より)


ホルヘ・ルイス・ボルヘス 
『アトラス
― 迷宮のボルヘス』
鼓宗 訳

エートル叢書 10

現代思潮新社 
2000年10月20日 初版第1刷発行
108p 
菊判 丸背紙装上製本 カバー 
定価3,000円+税



「訳者あとがき」より:

「本書は一九八四年にアルゼンチンの Sudamericana 社から刊行された Jorge Luis Borges; "Atlas" の全訳である。」


本文中図版多数。


ボルヘス アトラス 01


帯文:

「怪物の足跡…
ヴェネツィア、マヨルカ、出雲…
アルゼンチンの生んだ偉大なる盲目の作家ボルヘス最晩年の世界旅行記。
ミノタウロス=作家の描く迷宮地図には「世界」そのものが含まれている!
【写真】
マリア・コダーマ夫人」



帯背:

「幻想の旅日記」


目次:

まえがき

ガリアの女神
トーテム
カエサル
アイルランド

イスタンブール
天恵
ヴェネツィア
ボッリーニの抜け道
ポセイドンの神殿
始まり
気球の旅
ドイツで見た夢
アテネ
ジュネーヴ
石とチリ
ブリオッシュ
モニュメント
エピダウロス
ルガノ
わたしの最後の虎
ミドガルドの蛇
悪夢
デヤのグレイヴズ

小舟
街角
レイキャヴィク、エスヤ・ホテル
迷宮
エル・ティグレの島々
噴水
短剣のミロンガ
一九八三年
カルチェラタンのホテルで記された覚書
偉大な術(アルス・マグナ)
合流点
マドリード、一九八二年七月
ラプリダ一二一四番地
沙漠
一九八三年八月二二日
シュタウプバハの滝
サクラメントの植民地
ラ・レコレタ墓地
作品による救済について

訳注
訳者あとがき



ボルヘス アトラス 02



◆本書より◆


「訳者あとがき」より:

「〈アトラス〉もしくは〈地図帳〉を意味する語を表題に掲げているこの書物には、見てのとおり一枚の地図も収められてはいない。代わりにそのページを埋めているのが多数の写真で、それらはいずれも、母レオノル亡きあとはボルヘスの秘書を務め、その最晩年には伴侶となったマリア・コダーマの撮影による。つまり、両名が連れ立って訪れた各地の印象的な光景を写し取った光学的な作物に、ボルヘスがそれぞれに相応しい文章を添えることで出来上がったのが、この魅惑的な詩文集であるというわけだ。」
「そもそも〈旅〉という観点からボルヘスの長い生涯を見渡したとき、それは截然と二つの時期に分たれる。一つは、少年時代から青年時代にかけてのヨーロッパ遊学の時期である。眼疾の治療を受ける父のお伴をしてジュネーヴ、パルマ、マドリードなどの都市を転々としながら、ボルヘスは当時の前衛的な思潮――表現主義やウルトライスモ――の洗礼を受け、帰国後の活躍のための素地を造ったのだった。そしていま一つの時期が、すでに作家として名を成し、講演や受賞のために日本を含む多くの地域に足跡を印すことになったそれである。言うまでもなく、本書は後者の時期に関わっている。」



「まえがき」より:

「この地上における快適な日々のなかで、マリア・コダーマとわたしは、多数の写真や文章から窺えるように、あちこちの土地を訪れ、楽しんだ。」
「それは写真に飾られた文章や、見出しによる解説が付された写真の羅列ではない。各章がイメージと言葉からなるひとつの単位を有している。未知のものを発見するのは、何もシンドバッドや、赤毛のエリックや、コペルニクスの専売特許とは限らない。発見者たり得ない人間など一人として存在しない。人間はまず、苦いもの、塩辛いもの、凹んだもの、滑らかなもの、ざらざらしたもの、虹の七色、二十数文字のアルファベットなどを発見することから始める。次いで、いろいろな顔や地図、動物や天体などを経験する。最後に、懐疑もしくは信仰で、そして自分自身の無知についてのほぼ全面的な確信で終わる。」



「一九八三年」:

「都心のレストランで、アイデエ・ランヘとわたしが会話していた。テーブルの支度が出来ていて、パン切れと、たしか二個のグラスがそこにあった。二人で食事をしたと考えるのが妥当だろう。キング・ヴィダーのフィルムについて議論していたように思う。グラスには少しばかりワインが残っていた。退屈がきざし始め、自分がすでに語ったことを繰り返し、相手もそれが分かっていて機械的に返事をしているのを悟った。すぐにわたしは、アイデエ・ランヘが何年も前に鬼籍の人になっていたことを思い出した。彼女は亡霊で、わたしはそれに気付いていなかったのだ。恐ろしくはなかった。あなたは亡霊である。それも美しい亡霊である、などと告げることはできない相談だし、おそらく不調法でもあると感じた。
 この夢は目覚めるまでに別の夢へと枝分かれしていった。」



「沙漠」:

「ピラミッドから三、四百メートルほど離れた場所で、わたしは屈みこんで一握りの砂をつかんだ。少しばかり遠くに移動して静かにそれをこぼし、小声で呟いた。「わたしはサハラ砂漠の姿を変えようとしている」。それはごく些細な出来事であったが、この気の利かない言葉も正鵠を射ており、これを口にするために自分の全生涯は必要とされたのだ、とわたしは思った。あの瞬間の記憶は、わたしのエジプト滞在でもっとも重みのあるものの一つであった。」


「作品による救済について」:

「ある秋に、時と老いる季節の一つに、それが初めてではないけれども、神道の神々が出雲に集った。その数は八百万に上ったそうだが、わたしは非常に内気な男なので、そんなに多くの神様に囲まれたら途方に暮れてしまいそうだ。」
「神々はある丘の緑豊かな頂上に車座になった。天空や岩、あるいは一片の雪から、神々は人間たちを見守ってきた。その神々の一人が口を開いた。
 「何日も前、いや何世紀も前に、われわれは日本と世界を生むため、ここに集まった。木も、魚も、虹の七色も、植物や動物たちの発生もうまくいった。あまりにも多くのものに圧倒されないように、われわれは人間たちに持続というものを、複数の昼と、単一の夜を授けた。そのように、われわれは彼らに変化を試みる力を与えた。ミツバチは同じような巣を作りつづける。人間は鋤や鍵、万華鏡といった道具を思いついた。また剣や戦争の技術を思いついた。つい先頃は歴史の終焉となりかねない目に見えぬ武器を思いついた。そんな馬鹿げた事態が生じる前に、人間たちを滅ぼしてしまおう」
 神々は思案をつづけた。別の神様がおもむろに言った。
 「確かにその通りだ。彼らはあの恐ろしいものを思いつきました。しかし、十七音節という空間に収まるこんなものもある」
 その神がその十七音節を唱えた。それは未知の言語で、わたしには理解できなかった。
 最年長の神様が宣告した。
 「人間たちを生き長らえさせよう」
 こうして、〈俳句〉のおかげで人類は救われた。
  一九八四年四月二十四日、出雲にて」






























































































































関連記事
スポンサーサイト



プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
なぜならわたしはねこだから
 
◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

Koro-pok-Guru
Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

すきなことば: 「だれもいない」「ギブアウェイ」「ウポポイ」「隠密」
きらいなことば: 「人と人とのつながり」「キャリアアップ」「ほぼほぼ」「三密」

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。
歴史における自閉症の役割。

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本