ウィリアム・ベックフォード 『亜剌比亜綺譚 ヴァテック』 矢野目源一 訳/補訳・校訂: 生田耕作

ウィリアム・ベックフォード 
『亜剌比亜綺譚 ヴァテック』
矢野目源一 訳
補訳・校訂: 生田耕作


奢灞都館 
1988年4月 発行
239p 
A5判 角背紙装上製本 貼函 
定価4,000円
挿絵: Paul Elie



本書「「牧神社」版 校訂者解説」(一九七四年九月)より:

「矢野目源一訳『ヴァテック』は、春陽堂書店から「世界名作文庫」の一篇として刊行された。(中略)奥付には昭和七年十一月発行と刷られている。牧神社版『ヴァテック』は右の矢野目訳の再刻である。(中略)ただ、訳文に見られる明らかな誤植、脱落、現代の読者にとって理解しがたい特殊な言葉づかい等にのみ限り、原テキストの諸版を参照して充分慎重を期したうえで、校訂者がこれを補った。その他は新たに一八七六年刊のフランス語版に付された、詩人ステファーヌ・マラルメの手になる高名な序辞を追加した以外、春陽堂版の忠実な復元であるが、校正の段階で、矢野目訳は一個所だけ、訳稿にして約五十枚分(四百字詰)ばかりが梗概に近い抄訳のかたちでとどめられていることが判明した。(中略)やむなく校訂者がその部分のみを新たに訳出して付加した。」



本書「奢灞都館」版 後記」より:

「このたびの改訂新版にあたっては、旧漢字・旧仮名遣いを現代風表記法に改めるとともに、校訂者が原テキストと精密に照合の上、全体にわたって大幅な改訳を施し、旧版の欠陥個所を出来うるかぎり補正し、面目を一新することに努めた。」


William Beckford : Vathek, conte arabe

詩人バイロンに「英国(アルビヨン)の最も富裕なる公子」と呼ばれたベックフォード(1760―1844)がフランス語で書き下したゴシック小説。千一夜物語に範を取り、ハルーン・アル・ラシードの孫の教王(カリフ)ヴァテックを主人公に繰り広げられる幻想寓意譚です。「Vathek」は英語よみだと「ヴァセック」ですが、フランス語ふうに「ヴァテック」になっています。

Paul Elie による挿絵図版(モノクロ)10点。


ベックフォード ヴァテック 01


まっ黒な函の表面に台形の題箋が貼付されているだけで、背の部分もまっ黒です。


ベックフォード ヴァテック 02


本体表紙。


内容:

序文 (ステファーヌ・マラルメ/訳: 生田耕作)

ヴァテック
略註

解題
 「春陽堂文庫」版 訳者解題 (矢野目源一 一九三二・一一・一〇)
 「牧神社」版 校訂者解説 (生田耕作 一九七四年九月)
 「奢灞都館」版 後記



ベックフォード ヴァテック 03



◆本書より◆


マラルメによる「序文」より:

「教王(カリフ)ヴァテックの物語は大空が読まれる高塔の頂で始り、地下の魔界深く降りて終る。この両極を隔てて、数々の厳粛なまた滑稽な場景と不可思議な出来事との長い期間が横たわる。寓話の壮大な建築と、それに引けをとらぬ見事な構想! おのが国家を道連れに、一人の君主が実現する下降。宿命的な、もしくは言うなれば一種の法則に内包された何物かが、彼を権力の座から地獄へと急(せ)き立てる。ただ独り、断崖のふちに臨み。万人が跪くというただそれだけの事実によって己れもそれに結わえつけられているということに、専制君主として飽き足らなくなった国教を否定し、あくなき欲望と結託した魔術の実践に鞍替えすることを彼は望んだのだ。」


「ヴァテック」より:

「ところが、印度人のほうはひとことの応(いら)えもせず、その場にでんと腰を下ろしたまま、例の恐ろしい化物面で高笑いを繰返すばかりである。こうなってはもはやヴァテックも我慢ならない。足蹴にして相手を壇上から蹴落すと、追いすがりざま夢中になって打ちすえたので、閣僚全員がそれにつられてしまった。足はいっせいに宙に浮き、そして一度蹴りだすともう途中で止められなくなるのであった。
 印度人はすばらしい座興を提供した。背が低かったので、身体を縮めると、毬のようなかたちになり、打擲する連中の足蹴にあってあちらこちらに転げまわったからである。人々はやっきになって追駆けだした。こんなふうにして大広間や小部屋を突きぬけて転げまわりながら、毬は途中で行きあう連中を一人残らず後ろに従えるのだった。宮殿じゅうは今や上を下への大騒ぎである。後宮の女たちは最初のうち怯えて戸口の垂れ幕越しに眺めていたが、毬が目に入るともうじっとしてはいられなかった。女どもを引き止めようと宦官たちは血のでるほど抓(つね)ってみたが無駄であった。女たちはかれらの手からすり抜けてしまい。おまけにこれら職務に忠実な監視人までが、恐怖に戦(おのの)きながらも、不吉な毬の後を追って駆け出さずにおれなくなるのであった。
 そんな調子で宮殿の広間や小部屋や厨房や庭園や厩舎を駆け廻ったあげく、印度人は最後に内庭のほうへ向いはじめた。教王(カリフ)は、他の誰よりも夢中になって、間近に追いせまり、できる限り蹴飛ばしていたが、あせりすぎてときどき毬に向けられた他の連中の足蹴を我が身で受けとめるしまつ。」



ベックフォード ヴァテック 04






































関連記事
スポンサーサイト
プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本