ロオトレアモン 『マルドロオルの歌』 (青柳瑞穂 訳/講談社文芸文庫)

「僕のポエジイは、人間といふこの野獣を、あらゆる方法で、ひたすら攻撃することにあるんだ。」
(ロオトレアモン 『マルドロオルの歌』 より)


ロオトレアモン 
『マルドロオルの歌』
青柳瑞穂 訳

現代日本の翻訳
講談社文芸文庫 あC2

講談社 1994年10月10日第1刷発行
155p 
文庫判 並装 カバー 
定価880円(本体854円)
デザイン: 菊地信義


「本書は、木馬社刊『マルドロオルの歌』(1952年1月発行)の本文(旧漢字・旧かなづかい)を底本とし、漢字のみ新漢字にあらためた。
〔参考資料〕は青磁選書(1947年9月発行)より転載した。」



青柳瑞穂「ロオトレアモンに関する断想」より:

「「マルドロオルの歌」は六つの「歌」から成っている。それぞれの「歌」は多くて十六の、少くて五つの章から成っていて、全巻で五十九の章を数える。即ち本書の各章はその章を示すものである。おのおのの章は、とまれ、外面的意味のつながりは無いと見ていい。
 五十九章に対して、わずか十二の章しか訳し得なかったのは、原文が難渋で、日本語に移りがたいものが大部分を占めているに由る。しぜん、平易なものを選んで訳したことになるが、この十二篇は全巻中でも著名のものであったのは、偶然ながら、よろこばしい。」



〔参考資料〕中に図版(モノクロ)4点。
各章には訳者によってタイトルがつけられています。
講談社文芸文庫は基本的に紙質がよくないですが、本書はヤケにくい厚手の紙を使っています。しかしそれならばいっそのこと、底本にあった駒井哲郎による挿絵も収録してほしかったところです。


ロオトレアモン マルドロオルの歌


カバー裏文:

「「筆名ロオトレアモン伯爵、本名イジドル・デュカス。
一八四六年に生れ、一八七〇年に死す。」
これ以外、その生涯が全く不明の詩人が残した『歌』は、
奇跡的に今世紀に伝わり、現代文学の新たな脱皮、革命の
起爆装置として日々作用しつづけている。
『マルドロオルの歌』の初訳者として、戦中・戦後の熱烈な
読者の詩魂を震盪せしめた青柳瑞穂の名訳を収める。」



目次:

マルドロオルの歌
 老いたる海
 少年の血
 泣くことを知らぬ男
 蟇
 馬車は逃亡する
 日々の散歩の折りに
 自分に似てゐる人
 二本の柱
 僕はきたならしい
 断崖の夢
 Falmer の髪の毛
 溲瓶(しびん)の王冠

随想 
 マルドロールのマルグリット (塚本邦雄)
〔参考資料〕
 詩人の神秘的な生涯 (青柳瑞穂)
 ロオトレアモンに関する断想 (青柳瑞穂)
著書目録 
 青柳瑞穂 (作成: 青柳いづみこ)
 ロオトレアモン翻訳書目 (作成: 編集部)




◆本書より◆


「老いたる海」より:

「老いたる海よ、お前は同一性の象徴だ。つねにお前自身そのままだ。お前は本質的には変化しない。よし、お前の波濤がいづれの部分かで荒れ狂つてゐようとも、それより遠いべつの地帯では最も完全な静謐のなかにある。」


「馬車は逃亡する」より:

「僕のポエジイは、人間といふこの野獣を、あらゆる方法で、ひたすら攻撃することにあるんだ。そして、このやうな虫けらを産んではならない筈の創造者をやつつけることにもあるんだ。僕の生涯の終りまで、如何に巻は巻を重ねようとも、人々がそこに見るのは、つねに僕の心に附纏つてゐるこの唯一の思念のみだらう!」


「自分に似てゐる人」より:

「僕は自分に似てゐる魂をもつた人を探してゐた。さうして、さういふ人を見出すことは出来なかつた。僕は世界のあらゆる隅々を探しまはつた。僕の辛抱強さも無駄だつた。そのくせ、僕には一人ではゐられないのだ。誰れか、僕の性格を是認してくれる人が必要なんだ。誰れか、僕と同一の思想を抱懐してゐる人が必要なんだ。」


「Falmer の髪の毛」より:

「いまだかつて……おお! 否、いまだかつて、一度もそんなことはなかつたのだ! 人間の声でありながら、天使のやうなこんな優しい口調を聞かしてくれたことは、いまだかつて一度もないことだつた。痛ましいほどに優美な調べに満ちあふれて、このやうに、僕の名前のシラブルを発音してくれるなんて! 蚊の羽音……。なんとその声に好意があることだ……。さうだとすると、彼は僕を赦してくれたのだらうか! (中略)《マルドロオル!》と、その声。」


塚本邦雄「マルドロールのマルグリット」より:

「昭和二十二年九月十五日青磁社刊・青柳瑞穂訳『マルドロオルの歌』にめぐりあつたのは、翌年の三月六日らしい。らしいとは面妖な記述であるが、実はこの文庫本の裏表紙の前の一葉に、明らかに、6 Mars 1947 と私の手で書き入れてゐる。だが発行の半歳も前に、入手できるはずはないから、多分西暦年号を数へそこなつたのだらう。私はその当時も、半世紀近い後の今も、かういふケアレス・ミスを頻々と犯す性癖がある。」
「濁つたベージュ色の紙の重なりの奥に廃墟と化した大阪の巷がありありと浮んで来る。二十世紀末の、すべてが有り剰つて腐れゆく空間に生きながら、木煉瓦(もくれんぐわ)の剥ぎ取られた、テープを米印に貼りめぐらしたまま爆破された硝子窓の並ぶ、堺筋、御堂筋が浮んでくるのを打消すわけにはゆかぬ。私の「マルドロオルの歌」はそれと共に滅びない。
 青磁社の本は他にもなほ手許にある。昭和十八年一月二十日刊、村上菊一郎編、定価二円五十銭也の『仏蘭西詩集』、同年同月同日同値で発行された、菱山修三編のやや頁数の多い、B6判『続仏蘭西詩集』、これらはすべて戦中戦後の、私の有つて無い「青春」の形見に他ならぬ。」
「前記『続仏蘭西詩集』、巻頭が山内義雄訳のクロオデル「共和国戦死者に捧ぐる歌」、次は菱山修三訳、シュペルヴィエル「未知なるものへの祈り」、次々と動悸の高まるやうな詩篇が続いて、計十篇の九番目に、青柳瑞穂訳「マルドロオルの歌」が現れる。私にとつてのマルドロールは、実はこれが先行してゐた。戦争さへなかつたら、泰平の世にあつたら、私はこの詩人に終生関はつてゐたかも知れない。」
「呉海軍工廠へ拉致同様に徴用されて、連日の空襲に、友人が五十米先で焼夷弾に吹き飛ばされるのを、なぜか無感動に傍観してゐたあの日々。一日が終つて下宿の押入に引込んだ40W燭光の灯の下で、私はマルドロールをシュペルヴィエルを、この世からあの世への道の伴侶とするつもりで、読み、記憶してゐた。それから半世紀経つ。」

「無名のロートレアモンをフランスの詩歌界に推薦紹介したのは詩人フィリップ・スーポーであつた。彼はロートレアモンについてかう述べてゐる。「彼は独りで生きてゐた。他人には自分の生活を知られたくないのだつた。キャッフェにもあまり足は向けず、セーヌ河畔を、時間をかけて散歩した。云々」。」
































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難破した人々の為に。

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