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フィッツ=ジェイムズ・オブライエン 『金剛石のレンズ』 大瀧啓裕 訳 (創元推理文庫)

「いまやわたしは狂人だといわれている。働こうという気持ちも意志もないので、わたしは貧しい。財産を使いつくしたので、慈悲にすがって生きている。」
(フィッツ=ジェイムズ・オブライエン 「金剛石のレンズ」 より)


フィッツ=ジェイムズ・オブライエン 
『金剛石のレンズ』
大瀧啓裕

創元推理文庫 F オ-3-1

東京創元社 
2008年12月12日 初版
438p 
文庫判 並装 カバー 
定価980円+税
カバーイラスト: 東逸子
カバーデザイン: 東京創元社装幀室



Fitz-James O'Brien: The Diamond Lens and other stories

オブライエンはサンリオSF文庫で『失われた部屋』が出た時に買おうと思いつつうっかり忘れていましたが、ブックオフオンラインで本書が安く売られていたので注文しておいたのが届いたので読んでみました。訳者は同じ人ですが、全面的に改訳され、内容も増補されているようなので、買い忘れた甲斐があったというものです。

1932年刊の豪華版よりフェルディナンド・H・ホーヴァースによる挿絵(モノクロ)9点を収録、訳者解説にも書影など資料図版(モノクロ)7点が掲載されています。
Ferdinand H. Horvath はハンガリー出身の挿絵画家で、1930年代にはディズニーのスタジオで働いていたようです。


オブライエン 金剛石のレンズ 01


帯文:

「変幻自在の小説の魔術師
神秘の極小宇宙から魔法のホテルまで
幻想科学小説の先駆者の名作14篇
夭折の天才による傑作」



帯裏:

「斬新なアイディア、卓抜なプロット、透徹した文体、流麗な描写によって生み出される小説は、前人未踏の領域を次つぎに切り開き、その八面六臂の活躍たるや、まさに変幻自在の小説の魔術師と呼ぶにふさわしいものだった。アメリカの文学界に彗星のごとくあらわれ、ケルトのポウと謳われたこの青年が、アイルランド生まれのフィッツ=ジェイムズ・オブライエンである。 (解説より抜粋)」


カバー裏文:

「19世紀半ばのアメリカで活躍し、偉大な足跡を残した夭折の天才オブライエン。顕微鏡学者が水滴の中に極小宇宙を見出す「金剛石のレンズ」、ロボット・テーマの古典「ワンダースミス」等の幻想科学小説から、魔法の支配する奇怪なホテルでの冒険を描く怪作「手から口へ」まで、“変幻自在の小説の魔術師”が33年の生涯のうちに物した傑作群から、本邦初訳作を含む14篇を精選する。」


扉ページ文:

「19世紀半ばに33歳で世を去った夭折の天才オブライエンは、幻想科学小説など多くのジャンルにおいて珠玉の如き作品を発表し、アメリカの短編小説の流れをかえた。顕微鏡学者がレンズ越しに極微の森と美しい乙女を見出す「金剛石のレンズ」、邪悪な人形を操る謎めいた店主の陰謀を描く「ワンダースミス」、憂愁に満ちた奇妙な味わいの「失われた部屋」、中国を舞台にした奇想天外な綺譚「手妻使いパイオウ・ルウの所有する龍の牙」等、“小説の魔術師”による洗練の極みともいうべき傑作群から14篇を精選する。」


目次:

金剛石のレンズ (The Diamond Lens)
チューリップの鉢 (The Pot of Tulips)
あれは何だったのか (What Was It? A Mystery)
失われた部屋 (The Lost Room)
墓を愛した少年 (The Child That Loved a Grave)
世界を見る (Seeing the World)
鐘つきジューバル (Jubal, the Ringer)
パールの母 (Mother of Pearl)
ボヘミアン (The Bohemian)
絶対の秘密 (A Dead Secret)
いかにして重力を克服したか (How I Overcame My Gravity)
手妻使いパイオウ・ルウの所有する龍の牙 The Dragon-Fang Possessed by the Conjuror Piou-Lu)
ワンダースミス (The Wondersmith)
手から口へ (From Hand to Mouth)

変幻自在の小説の魔術師 (大瀧啓裕)



オブライエン 金剛石のレンズ 02



◆本書より◆


「金剛石のレンズ」より:

「ごく幼いころから、わたしは顕微鏡を使っての研究にしか興味がもてなかった。」
「わたしは友人たちには理解できない言葉で自然と語りあった。友人たちが奔放きわまりない夢のなかでさえ見たこともないような、生ける驚異と日々に交わった。事物の外面を超えて奥処(おくか)に入りこみ、その聖域を歩きまわった。」
「このころわたしの心を満たしていたのは、科学に対する渇望ではなかった。驚異の世界が開示された詩人が抱くような、純粋な歓喜もあった。しかしこのひとりきりの喜びは誰にも話さなかった。顕微鏡だけを相手に、昼も夜も、顕微鏡が明らかにしてくれる驚異の数かずを、目がかすむまでのぞきこんだ。古代のエデンがなおもかつての美しさを保ったまま存在するのを発見した者が、その在所を誰にも知らせずにひとりだけで楽しもうと決意したようなものだった。」

「おそらくわたしは狂っていたのだろう。偉大な天才は自分が偉大である分野において狂っている。成功しなかった狂人は失脚して、変人と呼ばれるようになるのだ。」



「ワンダースミス」より:

「「ぼくの店には半端な本しかないんだよ」ソロンがいった。「でも、たぶんそれがふさわしいことなんだ。何といっても、ぼくは半端者なんだから」
 「ねえ、そんなにふさぎこまないで、ソロン。坐って、お話をしてよ。ファーバロウも連れてきて聞かせるわ」
 ゾーニラはそういうと、陰気な屋根裏部屋の暗い片隅に行き、ブラジル猿を抱いてもどってきた」
「ソロンはゾーニラの足もとに坐って話をはじめた。
 「昔、このニューヨークと同じくらい大きな街に、哀れな猫背の若者が住んでいたんだ。古本屋をやっていて、かろうじて食べていけるだけの稼ぎを得ていた。ときどきとても悲しくなることがあったんだ。ほとんど知り合いもなかったし、ほんのわずかな知っている人にも好かれてはいなかったからさ。ひどく孤独な生活を送っていたんだ。(中略)若者が通りすぎると、道を行く人びとは哀れみの目で見つめたり、嘲ったりしたんだよ。」」
「「ある夜、またそんなふうに考えこみながら、書棚に並ぶ黴(かび)の生えた本の背をじっと見つめていると、『わたしたちもあなたと同じように、完全なものになるのを待っているんだよ』とでもいいたそうに、本の背が物足りなさそうに見つめ返したんだ――葉がさらさら鳴るような音がした。そして見えない手に引っぱりだされたかのように、本が一冊ずつ書棚から床に落ちて、虫に食われた表紙が開き、それぞれの本のページから奇妙な小人の群があらわれて、部屋じゅうのあちこちで踊ったんだ。この小さな生物はアルファベットの文字によく似た姿をしていた。背が高くて足の長い者はAに似ているようだった。頭が大きくて太鼓腹をした逞(たくま)しい者はBで、横目で見る小さな者はQといっていいくらいで、すべてそんな調子だった。この妖精たちは――本当に妖精だったんだよ――哀れな若者のベッドに登って、蜂のように枕に群がった。『さあ』彼らが若者にいったんだ。『妖精の国に連れていってあげよう』妖精たちがそういって手を掴むと、たちまち若者は美しい土地にいるのを知った。光は太陽や月や星が放っているんじゃなく、大気のようにいたるところに漂っているんだ。あらゆるところから、妙に不思議なくらい耳に快い声で歌われる謎めいたメロディが聞こえたよ。そこは何もかもがぼんやりしていたけど、目のまえで溶け合うさまざまな色のぼんやりした調和に目をこらすと、いわくいいがたい美が感じられるんだ。まわりじゅうに輝くものが舞っていて、輝く空間を飛びまわっていた。鳥じゃないのに、鳥みたいに飛んでいるんだ。そしてそんな生物が目のまえをよぎると、若者は頭のなかに不思議な歓喜の光が走って、何か美しい考えをはらむ詩が脳に直接歌われるような気がしたんだ。小さな妖精たちはこんなあいだもずっと、若者のまわりを飛びまわって、頭や肩に止まったり、指先で危うくバランスを取ったりしていたよ。『ここはどこなんだ』ようやく若者は友達になった妖精たちにたずねた。『ああ、ソロン』妖精たちが遠くで鳴る銀の鈴のような声でいった。『この土地に名前はないけど、わたしたちがここに誘う人たち、ここの地面を歩いて、ここの空気を吸って、ここに漂う光の輝きを目にする人たちは、永遠に詩人になるんだよ』そういうと、妖精たちは消えてしまい、彼らとともに、朦朧(もうろう)とした美しい土地も、閃く光も、輝く大気も消えうせて、哀れな若者はまたベッドに横たわっていて、月光が床で揺らめき、書棚に並んだ本は以前のように、黴の生えた汚らしいものになっていたよ」
 「お莫迦さんね。お話のなかで自分の名前をいってしまったわよ」ゾーニラがいった。「夢だったの」
 「わからないよ」ソロンがいった。「でも、その夜から、ぼくは詩人になったんだ」」




◆感想◆


オブライエンの作品は、江戸川乱歩もよんでいたようなので、「金剛石のレンズ」の、レンズの魔力に魅入られた青年が金にあかせてのレンズ道楽の果てに発狂するというストーリーは、レンズを鏡におきかえて「鏡地獄」に、そしてまた、レンズの向うに発見したこの世のものではない美女への思慕というモチーフは、顕微鏡を双眼鏡に持ちかえて「押絵と旅する男」に生まれ変わったといってよいのではないでしょうか。








































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
なぜならわたしはねこだから
 
◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

Koro-pok-Guru
Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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