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内田善美 「空の色ににている④」

内田善美 「空の色ににている④」 

「ぶ~け」 1980年11月号 (第3巻第11号)
集英社 昭和55年11月1日発行
p.141~p.191



空の色ににている1


アオリ文:

「4ヵ月集中連載感動の最終回51ページ
―青春さわやか今さなか―」



ハシラ文:

「前号までのお話し

蒼生人(たみと)は浅葱(あさぎ)が好き。そして冬城(ふゆき)には尊敬とも畏怖ともつかない感情をもっている。浅葱と冬城の関係は、蒼生人にはつかめない。そんな中で蒼生人の青春は少しずつ動いている。彼に思いを告白する女生徒が現われたり、校内競歩大会で、同じ1年生・野球部の山科士郎(やましなしろう)と懸命の争いをしてみたり。ある朝、冬城が蒼生人の家の前にいた。2人で黙って走ったあと、冬城はアトリエに来いといった。約束の日、彼は姿を消す…」



空の色に似ている2


浅葱:

「あの人
どんどん
目がみえなく
なっていたの

以前
事故をおこして
視神経が
おかされてるって
わかったの

いつか
完全に視力を
失うだろうって…

きれいに
片付いてる

みんな
棄てたのね

あの人の
すべてだった世界を
完全に」



空の色ににている3


蒼生人(心の声):

「いってしまった
いってしまった

根拠もなく
その言葉だけが
体の芯のあたりで
明滅する

浅葱さんを
描(か)いた絵だけを
残して……

いってしまった」



浅葱:

「「ぼくを探しに」って
本があるのよ

“ぼく”っていうのはね
円なの

まあるいね

でもね
一部分 口みたいに
かけてるのよね」

「かけたところで
カクンって
つっかえてね

きれいに
まわって
動けないの」



『ぼくを探しに』はシェル·シルヴァスタインのベストセラー絵本だ。日本版は倉橋由美子の訳で出ていた。「ぼく」は「かけら」を探しに行く。「ネタバレ」になってしまうので困るが、「ぼく」はとうとう「かけら」をみつける。「かけら」と一体化した「ぼく」は完全な円になった。ころころと坂道をころがることもできる。しかし。


空の色ににている4


「……
私にとって

あの人こそ
そのかけらだったわ

私達は融合し
完全な円を
形づくることが
できたのよ

時間も
夢さえもこえられる
無限の小宇宙」



「そんな存在があるなんて考えたことある?」と浅葱はいい、蒼生人はそんな存在が「たしかに存在するのだと」「考えるよりはやく感じとっていた」。


浅葱:

「彼の粗野
彼の傲慢
彼の奔放

私には
そんなこと
どうでも
いいことだった

ただ
“彼”でさえあれば
よかったの

彼の生き方
思念・行動
そんなものに
私から 何も
望まなかったわ

彼もそうだった

あの人
私に
何も望まなかった

望みとか 夢とか
そういったものを
こえていたの」

「いつだって
感じていたのよ

幻を

私たちは
ほんとうに
手にいれて
しまったんだって」

「人間が
完全な円を
形づくることが
できるなんて

夢幻に
近すぎる

…ね?

あんまり
きれいすぎて

ふたりのうちの
どちらか
何かひとつでも
失ってしまったら

幻はもう

意味のない
ただの幻にしか
すぎなく
なってしまうわ」



空の色ににている5


「そうよ

いつだって
わかっていたの

失ってしまったものを
何かちがうもので
とりもどそうと
するような
人じゃないって」



冬城は北アルプスで遭難して行方不明になったようだ。


蒼生人(心の声):

「あざやかに

消えてしまった
ものを
追って

……そうだ

どこに行けば
いいというんだ

すべてが
秘められてしまっている

いくところなど
ありはしないんだ」

「僕の中で
何かが
えぐられたように
かけていた

いや
生まれた時から
かけているんだ

その
かけていたものの
大きさに
こんなかたちで
気づきはじめて
いたのかもしれない」

「あの冬城さんが
なぜ完璧に
過去を抹殺せずに
あの絵1枚を
残して
いったのだろう」



空の色ににている6


似たもの同士の蒼生人と浅葱は考えることも同じだ。蒼生人が冬城のアトリエに行くとそこにはすでに浅葱がいた。


浅葱:

「あの人が
呼んだような
気がしたの」


蒼生人:

「おいていったんだよ
冬城さんは
浅葱さんを描いて
おいていって
しまったんだよ」


蒼生人(心の声):

「口にした瞬間
身も凍るような
痛みがはしった」



空の色ににている7


浅葱:

「……え…?」

蒼生人(心の声):

「浅葱さんは
何か
不可解なものを
みるような
目をした

悲しみ……

悲しみなんかじゃ
ない

もっと暗い
このはかりしれない
空洞のような淋しさ……

ちがう……ちがう
恐怖……

浅葱さんは
冬城さんとの世界を
無限だといった

なら
今この目の前に
ひろがる限り無い
空洞はなんだろう

あまりに異なった
無限が
そこに
広がっていた

この人のそばに
いなければ…!」



空の色ににている8


「俺は……
どこに
いくんだろう

浅葱さんは
どこに
いくんだろう

北からよせる
風とともに

日々は
移ろい

静かに
静かに

ひそやかに
冬はやってきた」



空の色ににている9


「それは
暗雲がたれこめ
くずれ

この地方には
珍しい大雪に
なろうとしていた
日だった

一昼夜
降りつづいた雪は
翌朝になっても
やむ気配をみせなかった

風景の色は
かきけされ

すべてが
白の中に
のみこまれた」



雪山で倒れているところを発見された浅葱。蒼生人は病室にかけつける。


蒼生人:

「なぜだよ

なぜ
なぜ
なぜ」


浅葱:

「私も
あの雨の日から
ずっと考えてたわ

「なぜ」?

そしたら

雪が
降りだして

ああ
これは
あの人を消した雪

あの人が
消えていった雪

私も……
消えられるかも
しれない

私も消えて

どこか知れない
秘められた場所に
行けるかもしれない

ああ……

この雪が
あの人の所に
導いてくれるかもしれない」


蒼生人:

「……
消えたんじゃ
ないよ

消えたんじゃ
ないよ」


浅葱:

「君
いったじゃない

空想は
事実を裏づけ
できないって

彼が事実
消えたんなら

消えなくちゃ
彼には
追いつけないでしょ

ねえ

もうちょっと
何も考えないで
いたら


あの雪の中で
消えられたのよ

その時ね
“カクン”て
つまずく音が
聞えたの

そう
懐かしい音よ

私あわてて
目をこらしたわ

ねえ
あんまりじゃない

そうよ
あの円よ

それもふたつ

おっきさも同じ
かけた部分も
まるっきり同じ

だから
かけた部分が
同じに
つっかかるけど

それは
楽しそうに
ころげ
まわるのよ

なぜ?
なぜ?


あの雨の日から
ずっと
考えてたわ

あの絵は
なんなのだろう

なぜあの人は
あの絵を
残さなければ
ならなかったんだろう

君を描いて
それを
残していったのは
なぜ?」


蒼生人:

「え?

俺はあれは
浅葱さん
だって……」


浅葱:

「そう
そうなの

私たちは
あんなにきれいに
かさなりあえる


消えられる
その瞬間に
たったひとつ
わかったのよ

私が
消えてしまったら

片っぽうの
あのかけた円は
どんなに
悲しむだろう」

「そして
私のそばにいることで
傷つき 淋しい思いばかり
したろうに
つかず離れず
私を慈しみ

どんな時も
私を
みつめていてくれた

あのかけた円は
どんなに
悲しむだろう

そう思った時

私はもう
消えられなく
なっていたのよ」



空の色ににている10


この世から姿を消してしまったアウトサイダーと、消えずに地上にとどまった少女、そしてそれを見守る少年。本作は地上に残った二人のハッピーエンドですが、内田善美の最後の長編『星の時計のLiddell』は、はるか昔に地上から姿を消してしまった少女のゆくえを追って、この世から消えてしまう青年と、その一部始終を傍観する友人の物語になっています。


空の色ににているa
































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
なぜならわたしはねこだから
 
◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

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Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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