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白川静 『中国の神話』 (中公文庫)

「中国の濶大な天地には、かつて多くの種族がそれぞれの神話をもち、その守護神を擁して相争った。東夷、南蛮、北狄、西戎といわれる諸種族が中原をめぐって角逐し、(中略)その闘争の過程は、神話的表象として展開した。敗れた神々は悪神として辺裔に放竄せられ、勝者の神々はまたその序列を争った。」
(白川静 『中国の神話』 より)


白川静 
『中国の神話』
 
中公文庫 し-20-1

中央公論新社 
1980年2月10日 初版
2001年1月25日 7版
310p 
文庫判 並装 カバー 
定価686円+税



初版単行本は昭和50年、中央公論社より刊行。本書はその文庫化。
本文中図版(モノクロ)多数。


白川静 中国の神話


カバー裏文:

「神話なき国とされ、従来、ほとんど知られることのなかった中国の神話・伝説を底知れぬ学識と豊富な資料で発掘し、その成立=消失過程を体系的に論ずる。日本神話理解のためにも必読の書。」


目次:

第一章 中国神話学の方法
 一 第三の神話
 二 『楚辞』「天問篇」
 三 文化領域
 四 古代の王朝
 五 隠された神話

第二章 創世の神話
 一 文化の黎明
 二 夷夏東西説
 三 洪水神の葛藤
 四 伏羲と女媧

第三章 南人の異郷
 一 南方の楽
 二 銅鼓文化圏
 三 饕餮の国
 四 石寨山の文化

第四章 西方の人
 一 岳神の裔
 二 牧羊人の行方
 三 伯夷降典
 四 皐陶の謨
 五 秦の祖神

第五章 殷王朝の神話
 一 夷羿の説話
 二 河伯の祭祀
 三 玄鳥説話
 四 舜の説話
 五 太陽神とその御者
 六 光明と暗黒
 七 自然神の系譜
 八 神話の構成

第六章 ペーガニズムの流れ
 一 漢の游女
 二 江南の賦
 三 崑崙と西王母
 四 西方のパラダイス

第七章 古帝王の系譜
 一 歳星と分野説
 二 黄帝と五行説
 三 列国の説話と姓組織
 四 華夏について

第八章 神話と伝統
 一 神話と祭儀
 二 顧命と大嘗会
 三 神話と伝統

参考文献
図版解説
あとがき




◆本書より◆


「古代王朝としての殷は、その古代的な文化の様相からも知られるように、多くの神話をもっていたはずである。しかし殷の神話は、殷周の革命による殷の滅亡のために、挫折する。西北系の周は、すでに農耕的段階に達するものであったが、本来は牧畜族であった。滅び去った殷の子孫である宋の国は、周的な天下の中では異質のものとして、つねに軽侮の対象となった。戦国期の文献に「宋の人」といえば、たとえば切り株に兎がふれて死ぬのを待つ待ちぼうけの話のように、間の抜けたものばかりである。かれらの神話は、継承されなかった。大体神話は、継承される性質のものではない。国が滅びると、神話は滅びるのである。神話を失った宋の地では、のち荘子の哲学が起った。神話的な思惟の方法は、その寓話のなかに生かされる。神話は思想のなかに隠されるのである。」

「中国の濶大な天地には、かつて多くの種族がそれぞれの神話をもち、その守護神を擁して相争った。東夷、南蛮、北狄、西戎といわれる諸種族が中原をめぐって角逐し、それぞれの適地を求めて漁労、遊牧、牧畜、農耕の生活をつづけたが、そのような自然条件と生活のなかから、それぞれ異質の神話が生まれ、その闘争の過程は、神話的表象として展開した。敗れた神々は悪神として辺裔に放竄せられ、勝者の神々はまたその序列を争った。そして西方の影響を受けながら五行思想が成立するころ、戦国期の列国対峙の関係の上に、天下的世界観が形成され、神話もまた天下的世界観に対応するものとして組織される。五行の配当において中央を占める黄帝が、その組織の中心にすえられた。しかしそのときすでに、神話構成の主体となるべき王朝はなかった。五帝のような古帝王の系譜が、空間的にも、また時間的にも、この天下的世界を整序する組織の原理とされた。そこには国家神話の成立する機縁はなかった。国家神話の形成は、殷王朝の発展のなかで進められつつあったが、その古代王朝の崩壊とともに伝承を失った。そして祖祭の体系として伝えられた王統譜のみが残り、神話的系譜は、おそらく戦国期の五行的思考の上に再組織されたものが、「殷本紀」に加えられた。卜辞にみえる河・岳のような自然神の祭祀は、その高祖化の定着しないうちに滅びるのである。そしてこれに代った制服王朝である周は、ほとんど何らの神話体系をもたなかった。(中略)このもと西方牧畜的な種族は、このときすでに完全な農耕民族であったが、現実的な征服国家にとって、被征服者の古い神話はもはや摂受しがたいものであり、また不必要でもあった。そのため天の思想が、その国家理念として成立するのである。殷の人格神的な上帝に代って、人格神的形象をもたない天が一般者とされた。それがいわば、かれらの国家神話であった。それで周王朝の衰退した東周期には、列国間の秩序はすなわち天下の秩序に外ならぬという政治的関係となる。神話はそのような天下的な世界の観念的な整合と統一を志向する。黄帝を中心とする古帝王の系譜は、秦、楚のような独自の伝承をもつ異質な国家をも、その体系のうちに包摂する。それは道徳的原理として道統説となり、五行の運旋の理法を示すものとして五帝徳説となり、さらには革命の理論とさえなる。それはもはや神話ではなく、政治的主題をもつ思想であり、神話としては観念の虚構にすぎない。それが中国を神話なき国と規定させた最も大きな理由であった。(中略)神話が、本来はその神意の実現を永遠にわたって求めつづけるものであるとすれば、革命の理論に転化されるような神話の体系は、神話としての自己否定であるともいえよう。」



白川静 中国の神話 02













































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