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岡谷公二 『ピエル・ロティの館』 (叢書メラヴィリア)

「ゴーギャンが、「私にとって再生を意味する野蛮」と言う時、それは、自分の中の文明人を殺し、自分の中にある「インディアンの、インカの素質」をたよりにして、タヒチで野蛮人として再生することだ。再生とは劇である。ロティは生涯、ついにこうした劇に立ち合うことはできなかった。彼が最後まで宗教を求め続けたゆえんである。
 原始と野蛮は、ロティにとって対蹠に存在するものであった。それゆえそこにエグゾティスム――異質なものへの関心――が生れる。ゴーギャンにエグゾティスムがなかったとは言えないが、ロティに比べれば少ない。エグゾティスムは、ロティにとって、癒えることのない病いだったのである。」

(岡谷公二 『ピエル・ロティの館』 より)


岡谷公二 
『ピエル・ロティの館
― エグゾティスムという病い』

叢書メラヴィリア 7

作品社 
2000年9月25日 初版第1刷印刷
2000年9月30日 初版第1刷発行
232p 著者略歴1p 
A5判 丸背紙装上製本 カバー 
定価2,800円+税
造本・装幀: 阿部聡



本書「あとがき」より:

「五年前、フランスの大西洋岸の町ロシュフォールを訪れるまで、私は、ピエル・ロティについての本を書くなどとは、考えてさえいなかった。この町にある、奇想の館とも言うべきその家を見て以来、私は彼に関心を持ち、あれこれと読み漁るうち、次第にロティの世界にひきこまれていった。そしてその一部の作品の質の高さ、伝記の稀にみる面白さ、そのありようの特異さと、流行おくれの二流作家という、今日における彼に対する世評の低さとの間の落差に、義憤のごときものをおぼえずにはいられなかった。この「義憤」が、本書執筆の最大の動機だった、と言っていい。」


本文中図版(モノクロ)60点。


岡谷公二 ピエルロティの館 01


内容(「BOOK」データベースより):

「『ロティの結婚』、『お菊さん』。異国情緒に彩られた恋物語で一世を風靡したピエルロティ。しかしその作品には虚構がない。物語さえ存在しない。過ぎ去ってゆくエグゾティスムの作家というレッテルを剥がし取り、過度に成熟した19世紀末ヨーロッパの虚無と倦怠に深く冒されながら、そこから癒えようと異国を旅し、執筆し続けたひとりの男の生のありようを浮かび上がらせる。」


目次:

第一章 ピエル・ロティの館
第二章 エグゾティスムという病い
第三章 民族学の先駆者
第四章 自伝作家としてのロティ
第五章 ロティのタヒチ ゴーギャンのタヒチ
第六章 ロティとルーセル
第七章 宗教なき宗教的魂

あとがき
ロティ年譜
文献一覧
図版・写真提供一覧



岡谷公二 ピエルロティの館 02



◆本書について◆


今では全く忘れ去られた作家ロティ(本名ジュリアン・ヴィオー)は、著者の「私淑する」ゴーギャン、アンリ・ルソー、レーモン・ルーセル、フェルディナン・シュヴァルらと深いかかわりをもっている。特にルーセルはロティの熱烈な讃美者だったから、著者にとってもロティは「気になる存在」ではあったが、本を書いてしまうほどの「ロティ熱」にとり憑かれるようになったのは、1995年、ロシュフォールのロティの生家を訪れてからだった。
かつて軍港と工廠があったロシュフォールは、今では市の博物館になっているロティの生家が唯一の名所だ。
ロティが十六歳のとき、父が失職し、四年後に逝去。家は差し押さえられ競売に付されることになったが、海軍士官になっていたロティは友人たちから多額の借金をして生家を買い戻す。1877年ごろからロティは生家を博物館に改造する仕事にとりかかった。晩年には拡張のために隣家を買い取っている。
ロティの生家には、家族の肖像画が掲げられている「赤いサロン」、もっとも大きな部屋である「ルネッサンスの間」、「ゴシックの間」、ロティがもっとも愛したイスラムの国々をテーマにした「モスクの間」、「アラブの間」、それらの飾り立てられた部屋とは正反対に、病院か修道院のように質素な「書斎兼寝室」がある。ロティの生前には「日本の間」および「中国の間」もあったが、死後改装されてしまったので現存しない。
1899年には、ロティはさらに人手に渡っていた母の生家も買い戻した。ロティの父母・家族の墓はロシュフォールにあるが、ロティの遺体は母の家の庭に葬られている。
ロティは過去を取り戻し、手元にとどめておきたかったのだ。



◆本書より◆


「多くの人々に愛され、栄光の絶頂で死んだのに、私は、彼が心を閉して死んだという思いをぬぐうことができない。そしてイヴ・ラ・プレリーが『ピエル・ロティの真実の顔』の中で引いているロティの最後の言葉が念頭から離れない。

  どこにあるのかは知らないが、ついに見出せなかった祖国と、どこにいるのかは知らないが、激しく追い求めつつもついに抱擁できなかった人々に対する遺憾の念を抱いて私は去る。それでは本当にこれだけのことだったのか、世界は? これだけのことだったのか、人生は?

 生前一世を風靡し、一八九一年四十一歳の時、史上最年少でアカデミー・フランセーズの会員に選ばれ、生前に全集が刊行され、その死は国葬によってむくわれたのに、現在ロティの評価は地に落ちている、という感が強い。」
「ロティ退潮の最大の原因は、なんといっても、彼を時流に乗せたエグゾティスムの退潮である。十九世紀の半ばから二十世紀のはじめにかけて、植民地の拡大と万国博覧会、さらには、さまざまな異国の特異な風景や風俗習慣を伝えるジャーナリズムの発達によって西欧の人々の心を捉えたエグゾティスムは、植民地の実態があばかれ、植民地政策そのものが批判される一方、交通手段と情報網の急速な発達によって異国への憧憬が失われるに及び、もはや旅行会社の広告の中にしか生き残らなくなってしまった。
 そしてそれと同時に、エグゾティスムを体現したとされるロティ以下の作家は、社会のきびしい批判にさらされるに至った。その批判とは、一言にして言えば、西欧の植民地支配に眼をつむって、いたずらにそうした支配下にある国々や土地を美化した点に向けられている。
 ロティが西欧の植民地政策を支持したか否か、植民地の現実を不問に付して、いたずらに原始の楽園の夢を歌ったか否か? 西欧の近代文明を憎悪していた彼が、そうした文明の害毒をまきちらす植民地政策を無批判に容認しなかったこと、それどころか繰り返し激烈な批判を試みていることだけはたしかだ。(中略)植民地において、彼は支配する西欧をしりぞけ、時として原地人の立場に立つだけの勇気と明晰さをそなえてもいた。ただ一方で、海軍軍人としての立場が、彼の批判に或る程度の枠をはめたことも事実である。」
「ロティは、別にエグゾティスムを鼓吹しようとも、時流に乗ろうとしたわけでもなかった。繰り返すが、書くとは彼にとって、おのれの生きた時間を紙に定着させることであり、その心にまといついて離れぬ記憶やイメージを悪魔払いすることであった。彼は書きたいことを書いたにすぎず、彼の作品の大方は(中略)、自伝と言っても過言ではない。しかしあの時代、任務とは言いながら、彼ほど世界の辺境を旅した人間は少なく、しかも旅の体験を生彩ある筆で描いたばかりに、(中略)そうした堵地の臨場感溢れる情報に飢えていた西欧の大衆は、出る片はしからロティの作品を貪り読み、彼にエグゾティスムの作家というレッテルを貼るに至ったのである。それは、世間が、むしろ彼の意に反して作りあげた像であった。このレッテルは、彼の死後七十余年経った今もはがされることなく、ほとんどすべての文学史、文学辞典でまかり通っている。これが、ロティの不幸だ。」



岡谷公二 ピエルロティの館 05


一等見習い士官の軍服姿の若きロティ。


岡谷公二 ピエルロティの館 08


ロティ画『イースター島。1872年1月7日朝5時頃、私が到着するのを見ている島の人々』

ロティは異国についての記事とデッサンをフランスの新聞に送った。


岡谷公二 ピエルロティの館 04


ロティの練習帖のいたずら描き。


岡谷公二 ピエルロティの館 03


暗号文字で書かれた短詩。


岡谷公二 ピエルロティの館 07


「体操学校に通って身体を鍛えた勢いでサーカス団にまで参加してしまったロティの曲芸師姿。」


岡谷公二 ピエルロティの館 06


オシリス神に扮したロティ。


岡谷公二 ピエルロティの館 09


「トルコで行動をともにしたダニエル(トルコ人のはしけの船頭)の肩にもたれるロティ。アルバニア人の服装をしている。」





































































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ひとでなしの猫

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うまれたときからひとでなし
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◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

Koro-pok-Guru
Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

すきなことば: 「だれもいない」「ギブアウェイ」「ウポポイ」「隠密」
きらいなことば: 「人と人とのつながり」「キャリアアップ」「ほぼほぼ」「三密」

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歴史における自閉症の役割。

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