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レオン・ザジイ 『ジゴマ』 久生十蘭 訳 (中公文庫)

「大路小路を行くも乗合の中なるも、この朝一人として新聞を手にせざるは無く、読むもの一人として震慄せざるは無し。憤恚と恐竦の叫びは巴里全市に充ち満ちたり。」
(久生十蘭 訳 『ジゴマ』 より)


レオン・ザジイ 
『ジゴマ』
久生十蘭 訳
 
中公文庫 サ-4-1


中央公論社 
1993年11月25日 印刷
1993年12月10日 発行
287p 
文庫判 並装 カバー 
定価580円


「「新青年」第十八巻第五号付録 一九三七年四月 博文館刊」



本書「解説」(中島河太郎)より:

「わが国にエジソンの発明した覗き眼鏡式のキネトスコープが公開されたのは、明治二十九年(一八九六年)、発明後三年目であった。(中略)三十六年に浅草の電気館が最初の活動写真の常設館となり、(中略)四十三年には合資会社福宝堂が設立され、浅草の金龍館を手に入れて、四十四年十一月にフランス映画「ジゴマ」を上映した。空前の大当りで一ヵ月続映して八千円を稼いだといわれる。
 ところがこの映画は兇悪な犯人が殺人、放火、誘拐、強奪、逃走など、あらゆる犯行の手口を見せながら、探偵を巧みに翻弄するという内容で、(中略)少年で犯罪を真似るものがあった。そのため大正三年には(中略)上映禁止になった。」
「「ジゴマ」の原作者はフランスのレオン・サジイで、ル・マタン紙に連載されたフィユトン(新聞連載小説)である。雑誌「新青年」の昭和十二年四月号の別冊付録の体裁で刊行された。」
「久生は巧緻な文体で、いろいろな作風に挑んだ作家だが、本書の訳でも地の文は文語体、会話は口語体といった工夫をこらしているが、二十世紀初頭の作品をあらためて紹介するに当って、わざと古風な文体を選んだものと思われる。」



Leon Sazie : Zigomar
本文中挿絵図版(モノクロ)18点。



久生十蘭 ジゴマ 01



カバー裏文:

「パリ市中を震撼させたペルチエ街の惨劇。銀行家モントレイユが胸を抉られ瀕死の重傷を…ゲエリニエール伯を告発するが対質したとたん供述を翻し、事切れた。悲嘆にくれる兄弟は父の変説の謎を追う。名探偵ポーランは血で記されたZの文字を発見、神出鬼没の怪盗との智の対決が――狡智なトリックを駆使した長篇探偵小説。」



◆本書より◆


「第一回

 秋闌(た)く早き北国の習い、九月(セプタンブル)も中旬(なかば)過ぎたれば、巴里(パリ)の街樹は悉(ことごと)く葉を振い、霧の如き冷雨(ひさめ)は今日も蕭然(しとど)に鋪石を濡らす。あたかも出勤の時刻とて、大通り(ブウルヴァール)には往来(ゆきき)の人の跫音(あしおと)も寒く遽(あわただ)しく、乗客を満載したる馬車、乗合(のりあい)はガラガラと凄(すさま)じき音を立て西へ東へ馳交(はせちが)う間を、如何(いか)なる椿事(ちんじ)の勃発したるか、さなきだに騒がしき朝の巷(ちまた)を湧立せるが如く、鈴振鳴しけたたましく叫走(さけびはし)る新聞売子の声々、
 「第一版(ラ・プルミエール)、硬党新報(アントラン)、巴里毎日(パリ・コチディアン)。ペルチエ街の惨劇詳報、―奇々怪々の大兇行(だいきょうこう)―」
 大路小路を行くも乗合の中なるも、この朝一人として新聞を手にせざるは無く、読むもの一人として震慄(しんりつ)せざるは無し。憤恚(ふんい)と恐竦(きょうしょう)の叫びは巴里(パリ)全市に充ち満ちたり。」




久生十蘭 ジゴマ 02







こちらもご参照下さい:

千葉文夫 『ファントマ幻想 ― 30年代パリのメディアと芸術家たち』










































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