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ペーター・ヴァイス 『敗れた者たち』 飯吉光夫 訳

「ぼくはぼくの弱さを保持しようと思う。ぼくはいつまでも弱者でとどまろうと思う。」
(ペーター・ヴァイス)


ペーター・ヴァイス 
『敗れた者たち』 
飯吉光夫 訳



筑摩書房 
1987年6月30日 初版第1刷発行
174p 
四六判 丸背紙装上製本
カバー プラカバー 
定価2,600円



Peter Weiss : Die Besiegten
本文中カラー図版4点、モノクロ図版2点(著者による油絵・ペン画)。扉絵(ペン画)1点。



ヴァイス 敗れた者たち 01



帯文:

「帰ってきたぼくに、ベルリンは死んだ街だった。
占領兵、闇市、孤児、暴行、飢え……
『マラー/サド』の作者による鮮烈な戦後シーン。」



帯背:

「戦後の光景」


カバー裏文:

「ペーター・ヴァイスは、ユダヤ系ドイツの現代作家である。ピーター・ブルック演出の映画『マラー/サド』の原作者としても知られる。1916年に生まれた彼は、第2次大戦前夜、スウェーデンに亡命することを余儀なくされた。
 第2次大戦後、スウェーデンのある新聞が、当時戦禍によって廃墟と化していたベルリンに、すぐれた特派員を送りたいと考えた。ペーター・ヴァイスが選ばれて、彼はこの旅行の報告を新聞記事に綴った。フルトヴェングラーの戦後初演その他を題材とする数篇が、本書の後半3分の1を占める《ルポルタージュ》である。
 帰国後のペーター・ヴァイスは、このときの印象を作品化することを思いついた。散文集『敗れた者たち』がそれで、この本は1948年にストックホルムで出版された。この散文集(本訳書の前半)は、ペーター・ヴァイスが、戦後ドイツの検分を、単なる報道記事から離れて、詩的に、心情的に再現しようとしたものである。30数年後のヴァイスは、押しも押されぬ大作家になっていたが、このころのことを振り返って、こう述べている。「外国人として、スウェーデン人として、ぼくは自分が一度放逐されて出て来たこの国に舞い戻ってきた。ぼくとこの国とをつなぐものは何もなかった。しかし、ぼくを取り巻くこの廃墟は、ぼくにナチスのいまわしい政治を想い起こさせた。敗れた者たちは完全に誤った針路をとった歴史の刻印を帯びていたのだ」。
 彼は戯曲『マラー/サド』『追求』『亡命のトロツキー』のほか、散文『決闘・歩いている三人の会話』『両親との別れ』や『御者のからだの影・消点』を遺したが、本書『敗れた者たち』は、ごく最近そのスウェーデン原書が独訳出版されたものの邦訳である。
なお、装画、挿し絵として、作者ペーター・ヴァイス自身の油絵、ペン画を用い、《あとがき》に未亡人グニラ・ヴァイスの文章を用いた。
飯吉光夫」



目次:

敗れた者たち
 敗れた国への着地
 ホテルへの道
 ホテルの部屋
 塔と戦場
 廃墟
 ぼくという廃墟
 旧居捜し
 内部の真実
 ぼくと弟と妹と
 ぼくの立場
 虜囚
 復員兵
 聴講
 砂浜
 ぼくの父
 伐採
 歴史上の人間たち
 占領者
 被占領民代表
 権力機構
 被占領下の行政府
 街頭風景
 避難民
 放心
 内面
 恋人
 間奏
 敗れた者たち
 兵士たち
 強者と弱者
 連行、暴行
 墓
 接収
 子ども連れの父親
 子どもたち
 時代精神
 工場
 瀕死の老人
 列車
 落下傘

「ストックホルム新聞」のための
六篇のドイツ・ルポルタージュ――一九四七年六月~八月
 ベルリンにおける政治演奏会 (ベルリン、六月)
 ベルリンにおける書籍見本市 (ベルリン、六月)
 ベルリンの子どもたち (ベルリン、七月)
 闇生活 (ベルリン、七月)
 人間的同胞愛 (ベルリン、七月)
 暗黒の中の文学 (ベルリン、八月)

あとがき Gunilla Palmstierna-Weiss (ヴァイス未亡人)




ヴァイス 敗れた者たち 02



◆本書より◆


「ぼくという廃墟」: 

「ぼくという人間の屋根は榴弾によって剥ぎ取られている。ぼくの敷地を地雷が木端微塵にした。ぼくの内部は焼夷弾にいぶし出された。ぼくの目の窓は風圧に押し潰された。ぼくのあらわな神経索は、無情の風の中にさらされて、だらりと垂れさがっている。ぼくの叫びは破壊されてねじ曲った鉄の梁(はり)のようだ。ぼくの溜息は廃墟の瓦礫とともに滑り落ちる。ぼくの涙はローム層の土の中の地下水とともにこみ上げ、降る雨とともに落ちる。
 ぼくのぐるり一面にぼくの廃墟がひろがっている――石の断片、鉄の裂片、木の破片。ぼくの想念は階段のように空無の中へと昇っていく。ぼくの希望は外の、死体が浮ぶ泥沼へ通じるドアだ。ぼくのからっぽの部屋を飢えた鼠たちがかけずり回っている。
 墓堀り人よ、ぼくの墓を掘れ!」



「放心」: 

「突然、大きな安らぎを覚える。周囲で腐敗していく何百万という死者に対しても何の憂慮も悲哀も感じない。大きな無関心を覚える。放心を感じる。自分の夢想に耽っている。安らぎ。
 花や雲に耳をすましている。
 ついで、苛酷な壁にはっと目覚める。呻きや押し殺された叫びを聞く。痛みが立ち戻ってくるのを感じる。乾いた砂にとめどもなく涙をこぼす。」



「敗れた者たち」: 

「大きな視野を持つ落下傘で下界へ降っていくと、自分が共同体の運命とどれほど離れがたく結びついているかが分る。眼下の廃墟は一国の廃墟ではない。ここにはぼくらの全時代が埋没されている。ここには石の時代の人間が埋没されている。
 ぼくらは全員、敗れた者たちだ。人間はその時代に敗北する。
 最もひどく敗北したのは、人工的に安全な小さな島の上で判断し判決を下した者らの合唱だ。この呑気な者らは起こったことを知らず、いま何が起きているかを知らない。
 きちんとシーツの敷かれたベッド、膳立てされたテーブルは、崩壊した空間に浮ぶ蜃気楼だ。
 廃墟の中に人間の打ち砕かれた価値を求める者にのみ、勝利の希望がある。
 自分の敗北を思い知った者にのみ、勝利の希望がある。自分は何かとたずねることができる者にのみ、勝利の希望がある。」



「六篇のドイツ・ルポルタージュ」より:

「自分の運命を理解すること、それを受け入れ、今後の数十年間をもつつむだろう大きな闇の中でひたすら待つこと――このような力を持つ者の数は少ない。」



ヴァイス 敗れた者たち 03





こちらもご参照ください:

デューナ・バーンズ 『夜の森』 野島秀勝 訳
ノサック 『短篇集 死神とのインタヴュー』 神品芳夫 訳 (岩波文庫)
フリードリヒ・グラウザー 『外人部隊』 種村季弘 訳































































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