『ロートレアモン全集』 (石井洋二郎 訳)

「私の詩はもっぱら、人間というこの野獣と、こんな害虫を生み出すべきではなかった〈創造主〉を、あらゆる手段を用いて攻撃することだけを目的とするだろう。」
(ロートレアモン 『マルドロールの歌』 より)


『ロートレアモン 
イジドール・デュカス 
全集』
石井洋二郎 訳


筑摩書房 
2001年3月25日 初版第1刷発行
652p xx 口絵(モノクロ)4p
A5判 丸背紙装上製本 貼函
定価9,500円+税
装幀: 神田昇和

 

本書「訳者解説」より:

「翻訳に用いた底本は、初版テクストをそのままファクシミリ版で収めたラ・タブル・ロンド版全集(Isidore Ducasse / Comte de Lautréamont, Œuvres complètes, Fac-similés des éditions originales, La Table Ronde, 1970)である。」
「註解をいかなる基準に従ってどの範囲まで加えるかは、本書の構成上最大の問題であった。(中略)そこで私としては、一応以下のような原則をたてて註解の作成にあたることにした。
 (1) まず種々の刊本に付された註釈を参照し、多くの編者が共通して採っている情報はほぼ網羅的に拾う。この場合、当然ながらプレイヤッド版の訳註に依拠する部分に関しては豊崎版と重複するが、(中略)あえて重複を避けることはしなかった。
 (2) ひとり(ないし少数)の編者だけが触れている情報でも、客観的に有用と思われるものはできるだけ紹介する。
 (3) 既刊本の註釈には含まれない情報で、特にこの十数年間に新しくもたらされた伝記的・実証的発見は、積極的に採り入れる。
 (4) テクスト解釈に属する部分については、膨大な研究書のすべてに目配りすることは不可能なので、必要に応じて代表的な説を紹介するにとどめる。
 (5) 全体としては単なる客観的な情報の提供にとどまらず、自分なりのテクスト解釈を随時盛りこむことを躊躇しない。」



口絵図版13点、「訳者解説」中図版9点。「註解」は二段組です。


ロートレアモン全集 石井訳 01


内容(「BOOK」データベースより):

「高度に凝縮された反逆と呪詛の叫びを残して24歳で夭折した詩人の極限に紡がれたテクストを、明晰な新訳に実証的伝記研究をふまえた註解を付しておくる決定版。」



ロートレアモン全集 石井訳 02


目次:

マルドロールの歌――ロートレアモン伯爵による
 第一歌
 第二歌
 第三歌
 第四歌
 第五歌
 第六歌

ポエジー
 イジドール・デュカス ポエジー I
 イジドール・デュカス ポエジー II

イジドール・デュカスの書簡
 [1] ある批評家宛 (パリ、一八六八年一一月九日)
 [2] ヴィクトル・ユゴー宛 (パリ、一八六八年一一月一〇日)
 [3] ダラス宛 (一八六九年五月二二日)
 [4] プーレ=マラシ宛 (パリ、一〇月二三日)
 [5] プーレ=マラシ宛 (パリ、一〇月二七日)
 [6] プーレ=マラシ宛 (パリ、一八七〇年二月二一日)
 [7] ダラス宛 (パリ、一八七〇年三月一二日)

マルドロールの歌 第一歌――***による

参考資料
 [1] 出生証明書
 [2] 洗礼証明書
 [3] 死亡証明書
 [4] 「バラード、ミュルジェールを模して――リゼット」
 [5] 「教室机の中で発見されたもの」
 [6] 『マルドロールの歌――***による』の書評

註解
 マルドロールの歌
  第一歌
  第二歌
  第三歌
  第四歌
  第五歌
  第六歌
 ポエジーⅠ
 ポエジーⅡ
 書簡

訳者解説――二一世紀のロートレアモン
 一 作者の生涯
 二 『マルドロールの歌』について
 三 『ポエジー』について
 四 ロートレアモン研究の過去・現在・未来
 五 本書の構成と方針

あとがき

関連地図
ロートレアモン伯爵=イジドール・デュカス関連年表
書誌



ロートレアモン全集 石井訳 04



◆本書より◆


「マルドロールの歌 第一歌」より:

「天に願わくは、どうか読者が蛮勇を奮い、ひとときは自分が読むものと同じく凶暴になって、方向を見失わず、これらの暗く毒に満ちたページの荒涼たる沼地を貫いてみずからの険しい未開の道を見出されんことを。というのも、読者が読むにさいして、厳密な論理と、少なくとも自分の抱く警戒心に釣り合うだけの精神の緊張感をもってしなければ、この書物から発散する致命的な瘴気が、水が砂糖にしみこむように、その魂に浸透するであろうから。誰もがみな、この後に続くページを読むのはよろしくない。数人の者だけが、この苦い果実を危険なしに味わえるであろう。」

「私は数行で、いかにマルドロールが幼年時代は善良であったかを証明しようと思う。彼はその頃、幸福に暮らした。これでおしまいだ。それから彼は、自分が邪悪に生まれついたことに気がついた。常ならぬ宿命! 何年ものあいだ、彼はできるだけ自分の性格を隠した。けれどもついに、柄にもないこの緊張のせいで、毎日頭に血がのぼるようになった。それで結局、こんな生活に耐えられなくなり、決然と悪の道に身を投じるに至ったのだが……」

「彼女は私に、「いつの日か、人々はあたしの名誉を回復してくれるでしょう。これ以上は言わないわ。もう行かせて、あたしの果てしない悲しみを海の底に隠しに行くから。あんたと、あの暗黒の深淵にうごめくおぞましい化け物たちだけよ、あたしを軽蔑していないのは。あんたはいい人ね。さようなら、あたしを愛してくれたあんた!」。私は彼女に、「さよなら! もう一度、さよなら! いつまでも愛しているよ!……今日からぼくは、美徳を捨てよう」。」

「人から聞いたところでは、私は人間の男と女の息子ということだ。こいつは驚いた……自分はそれ以上だと思っていた! そもそも、私がどこから来ようがいいではないか?」

「年ふる大洋よ、おまえは自己同一性の象徴だ。いつも自分自身に等しい。おまえは本質的には変化せず、波がどこかで荒れ狂っていても、もっと遠くの、どこか別の海域では、いとも完璧な静謐のうちにある。おまえは人間と同じではない。」

「離れるんだ、マルドロール、この平和な家庭から。おまえのいるべき場所はここじゃない。」



「マルドロールの歌 第二歌」より:

「私の詩はもっぱら、人間というこの野獣と、こんな害虫を生み出すべきではなかった〈創造主〉を、あらゆる手段を用いて攻撃することだけを目的とするだろう。私の命が尽きるまで巻に巻を重ねていくだろうが、それでも常に私の意識に存在しているこの唯一の観念しか、そこには見られまい!」

「あそこ、花々に囲まれた植え込みの中に、両性具有者(ヘルマフロディトス)が眠っている。芝生の上で深くまどろみ、涙に濡れて。(中略)彼にあっては何ひとつ自然には見えない。(中略)片腕を折り曲げて額に当て、もう一方の手は胸に押し当てている。あたかも、打ち明け話をいっさい受けつけずに永遠の秘密の重荷を背負いこんでいる心臓の鼓動を圧迫しようとするかのように。人生に疲れ、自分に似ていない存在たちの中を歩くのが恥ずかしくて、絶望に魂をとらえられた彼は、谷間の乞食のようにひとりでさまよう。どうやって生計をたてているのか? 思いやりのある人々が彼に気づかれないように近くから見守り、見捨てずにいるのだ。彼はじつに善良だ! じつに達観している!」

「おお聖なる数学よ、あなた方との幾久しい交渉を通じて、私の残りの日々を、人間の邪悪さと〈万物神〉の不正から慰めてはくれまいか!」

「私は自分に似ている魂を探していたが、見つけることができずにいた。地上の隅々までくまなく探し回ったが、そんな根気強い努力も無駄だった。それでも、ひとりきりでいることはできない。誰か私の性格を認めてくれる者が必要だった。私と同じ考えをもった者が必要だったのだ。」



「マルドロールの歌 第四歌」より:

「第四歌を始めようとしているのは、人間、あるいは石、あるいは木だ。足が蛙を踏みつけて滑ると、嫌悪感を覚える。ところが人間の体にほんのわずかでも手で触れると、雲母の塊を槌で砕いてできる剥片のように、指の皮膚が割れてしまう。そして一時間前に息絶えた鮫の心臓が強靭な生命力でまだ甲板の上でぴくぴく動いているように、私たちの内臓もまた、人間に触れてからずいぶんたってもまだ激しく動いている。こんなにも人間は、自分自身の同類者をぞっとさせるのだ!」

「人間にたいする私の闘争が永遠に続かんことを、なにしろ各々が相手の内に自分自身の堕落を認めているのだから……両者は不倶戴天の敵なのだから。私が惨澹たる状態で勝利を収めるにせよ、屈服するにせよ、闘争は見応えがあるだろう。私が、たったひとりで、人類を相手にするのだから。」

「一度もない……おお! そうとも、一度もない!……死のように陰鬱な声が、あれほどにも苦しげな優雅さで私の名前の音節を発音しながら、この天使のような響きを聞かせたことは! 蚊の羽音……。彼の声はなんとやさしいことか。すると彼は、私を赦してくれたのだろうか? (中略)「マルドロール!」」



「マルドロールの歌 第六歌」より:

「私がアルコールを満たした桶で仔猫たちを煮立てたからというので、一匹のアンゴラ猫がだしぬけに背中から襲いかかり、頭蓋骨に穴をあける穿孔器のように私の頭蓋突起を一時間にわたって齧ったあの日以来、私は自分自身に絶えず責め苦の矢を放ちつづけてきた。」


「ポエジーⅠ」より:

「作者と読者のあいだには暗黙とは言えない約束事があって、それによって前者は病人と称し、後者を看病人として受け入れている。詩人のほうこそが人類を慰めるのだ! 両者の役割は勝手に入れ替わっている。」


「ポエジーⅡ」より:

「剽窃は必要だ。進歩はそれを前提としている。それはある著者の文章にぴったり寄り添い、その表現を使い、誤った観念を消し去り、それを正しい観念で置き換える。
 箴言は、いい出来になるために修正されることを求めない。展開されることを求める。」

「詩は万人によって作られるべきである。ひとりによってではなく。」



訳者による「註解」より:

「彼は種々の読書の記憶をそのまま作品に流しこむことにほとんど抵抗を覚えてはいなかったようである。まだ同定されていない出典もおそらく相当な量にのぼるはずであり、今後もこの種の発見は続くにちがいない。いったい『歌』のテクストはどこまでがこうした他者の言説の記憶から成り立っているのか? 逆に言えば、デュカスはどこまでデュカス自身であったのか? 彼はむしろ、同時代の雑多な「知」や「情報」を収集しては切り貼りするコラージュ的主体、あるいは一種の「引用機械」のようなものだったのではないか?いずれにせよ『マルドロールの歌』ほど独創的で個性的に見えるテクストがこれほど多くの剽窃・借用・参照から構成されているという事実は、文学作品のオリジナリティーとは何かという問いをあらためて喚起せずにはいない。」


ロートレアモン全集 石井訳 03


































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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