FC2ブログ

ヴィルヘルム・グレンベック 『北欧神話と伝説』 山室静 訳

「このように、巨人の国ウトガルドは、人間の町や村をかこんでいたるところにあり、ヘルの国を中につつんでいる。夜になると、それは穹窿のように闇としてミッドガルドの上にかかる。そこで夜の道を行くのは日中のようには気持がよくない。夕暮になると死人どもが忍び出てきて、人間の戸口に押しこもうとする。」
(ヴィルヘルム・グレンベック 『北欧神話と伝説』 より)


ヴィルヘルム・グレンベック 
『北欧神話と伝説』 
山室静 訳


新潮社 
昭和46年12月20日 発行
昭和48年6月10日 4刷
302p 口絵(カラー)1葉 
四六判 薄表紙 函 
定価950円



本書「解説」より:

「これはデンマークの碩学ヴィルヘルム・グレンベック Vilhelm Grønbech の『北欧神話と伝説』 Nordiske Myter og Sagn の全訳である。初版は一九二七年に出ているが、訳者がテキストとしたのは、その後普及版として、有名なギュレンダル社の「ふくろう文庫」に収録されている版(一九六五年)によった。」
「① 北欧神話の代表的なものをほぼ網羅して、しかもそれを簡潔な力強い表現で興味ふかく再話していること、
② その間にこの著者の得意とする文化史的考察をまじえ、また原典ではむしろばらばらに並べられているに近い神話の間に脈絡をつけ、かなり統一的発展的にその経過を辿っていること、
③ さらに、神話の継起である伝説やサガ(散文物語)の注目すべきものをも後篇として加えて、全体として北欧精神と文学の流れを展望できるようにしていること、」
「もちろん、小さい一冊本のことで、神話でも、また伝説ではたぶんに、語り残しているものがあり、またこの書の性質が研究書ではなく、一般読者のための北欧神話伝説の再話ということにあるため、物足りぬ点もないではないが、この領域についての知識のまだいたって乏しい日本の読書界に紹介するには、まずうってつけの本であるかと思われた。」



本文二段組(解説は一段組)。本文中図版(モノクロ)39点。


グレンベック 北欧神話と伝説 01


目次:

序=北欧人の生活と本書の意図

第一部 神話篇
 世界の創造と神々
 トール神と巨人たち
  トールのヒミール訪問
  トールとウトガルド=ロキ
  トールとルングニールの戦い
  ゲイルロッドの許で
  トールのハンマー奪回
 神々の神話
  アサ神族とヴァナ神族の戦い
  アスガルドの城壁づくり
  縛られた巨狼フェンリル
  ロキと小人たちの賭
  巨人にさらわれたイドゥン
  スッツングの蜜酒
  フレイの恋人
  バルデルの死
  ロキの処罰
 ラグナロク(神々の没落)
 古い神々とキリスト

第二部 サガと伝説篇
 みずうみ谷家の人々
 鍛冶ヴェールンド
 ハディング王
 永遠の戦い
 アムレード(ハムレット)
 寡黙のウッフェ
 ラフニスタの人々
 テュルフィングの剣
 シクリング家の女たち
 スギョルド家とハドバルド家
  スギョルド王
  フロデの石臼
  ロアールとヘルゲ
  ヘルゲとオローフ
  ビョーウルフとグレンデルの戦い
  ロアールとイングヤルド
  ロルフ・クラキのこと
 イングリング家の王たち
 ヘルゲ・ヒョルワルドソン
 イルフィング家のヘルゲ
 ウォルスング家の物語
  アンドヴァルの宝
  シグムンドとシグニイ
  竜殺しのシグルド
  シグルドとブリュンヒルド
  ギューキ一族とアトリ
  ヨルムンレクの死

〈解説〉 北欧の神話と伝説の大要 (山室静)



グレンベック 北欧神話と伝説 02


口絵「ラグナロク(神々の没落)の場面 オスロー市庁舎の壁画」。



◆本書より◆


「世界の創造と神々」より:

「その野にはトネリコの巨木ユグドラシルが影を落していたが、この木は途方もなく大きくて、枝は全世界の上にひろがり、その根は大地の深みまでとどいていた。一本の根は、むかしのギンヌンガの淵である霜の巨人の国にとどき、もう一つのはニフルハイムまでのび、三本目のはしっかりと神々の国に根をはっていた。そのニフルハイムにのびている根のそばには、フヴェルゲルミルという泉があり、霜の巨人のところまでとどいている根の傍らには、ミミールの泉がわき出ているが、その水には知恵と賢さが隠されている。この泉にミミールは住んで、その水をギャラールホルン(中略)で飲むため、彼は知恵と予言力をもっている。
 しかし、神々の許にとどいている根の傍らには、ウルドの泉と呼ばれる最も神聖な泉がある。神々が互いに相談しあう時には、この泉の傍らで会合するのである。このトネリコの木の下の泉のそばにはまた、ノルンたちが住んでいる。これはウルド(過去)、ヴェルダンディ(現在)、スクルド(未来)という三人の女性で、彼女たちがすべての人間に幸福や悲しみの運命を、彼の出身に応じて与えるのである(中略)。」



「トール神と巨人たち」より:

「人類がミッドガルドでふえている間に、巨人の子たちもまたウトガルド(外の国)のいたるところで成長した。巨人の国は大地の一番はてにあって、ミッドガルドをかこんで波うっている大海に面しているが、それはまた長くのびて、人間の国ふかく入りこんでいる。」
「その平和な村々のすぐそばまで、いたるところでウトガルドは、その荒涼とした山や、通りぬけがたい森で迫っている。山では金の砂礫が切立った裂目だらけの斜面と入りまじり、そこを身を切るように冷たい谷川が流れ下って、出あったすべてのものを引裂いて一緒に持って行く。他の場所には森に囲まれて村々があるが、森はとても大きく荒涼としていて、その名かへ敢えて入ってゆくには勇気を要するが、それを生きたまま通りぬけて外へ出るには、なおさら多くの知恵と決断がいる。旅人は足にしっかりとまつわりつくからみあった根の間や、倒れて腐りかけている木の幹を越え、密生した草や茨をぬけて、辛うじて道を切りひらいて行かなければならない。樹々の下に長くのびているのは、湿地のつづきや深い沼だ。林の下はいたるところうす気味わるい薄暗がりが支配していて、腐れた土や枯れた茂みの酸っぱい匂いがする。このような荒地や山や伐採地や曠野や森やらが、巨人や魔物の住む土地なのだ。」
「このように、巨人の国ウトガルドは、人間の町や村をかこんでいたるところにあり、ヘルの国を中につつんでいる。夜になると、それは穹窿のように闇としてミッドガルドの上にかかる。そこで夜の道を行くのは日中のようには気持がよくない。夕暮になると死人どもが忍び出てきて、人間の戸口に押しこもうとする。しかも彼らは、太陽が輝いている時にもっているよりも、闇の中ではより大きな力をもっているのだ。巨人や怪物どもは確固たるものとなり、人間の命をつけねらったり、その仕事の邪魔をしようとして待伏せている。」



「永遠の戦い」より:

「こうして彼らは激突して終日戦ったが、やがて夕方になると、王たちはそれぞれの船に戻って休息した。しかし、夜中にヒルドは起き上って戦場に行くと、強烈な胆汁で死者たちを生き返らせた。そこで翌日も、太陽が昇ると、ふたたび王たちは、その日の終りまで戦ったのである。
 このようにして、一日は一日に続いた。夜には彼らは死者であり、彼らの武器は石に化しているが、夜が開けると共にまた立ち上って、戦いの陣容を整えるのである。こうして対等者たち――ヘディンとヘグニの戦士たちは、ラグナロクの日が来るまで、ホー島で戦っているのである。」



「ラフニスタの人々」より:

「ところで夜がふけてから、船があまり上下に揺れるために目をさました。起き上って、船べりごしによくよく目をこらすと、一人のトロール女が船のところに立って、前後に船をゆさぶっているのであった。彼は小舟にとび乗ると、綱を切って急いで舟を出した。風はたえず吹き荒れて、海は休みもなしに彼の上に崩れ落ちそうになったが、その間じゅう、彼は一頭の鯨が彼と海の間を泳いでいて、波が彼の上に覆いかぶさりそうになるごとに、それを打ち砕くのに気がついた。そしてその鯨は、人間の眼をしているように、彼には思われたのだ。」




こちらもご参照ください:

フォルケ・ストレム 『古代北欧の宗教と神話』 菅原邦城 訳









































































関連記事
スポンサーサイト



プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
なぜならわたしはねこだから
 
◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

Koro-pok-Guru
Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本