西原和海 編 『夢野久作著作集 3 白髪小僧』

「こんな淋しい恐ろしい、所に長く生きて居て、
悲しい思ひするよりは、死んでしまつた方が好い。」

(夢野久作 「白髪小僧」 より)


西原和海 編 
『夢野久作著作集 3 
白髪小僧』


葦書房 
昭和55年1月10日 初版印刷
昭和55年1月20日 初版発行
531p 口絵i
四六判 丸背布装上製本 函 
定価2,500円
ケース装画: 横山隆一



本巻には、長篇童話『白髪小僧』の完全版(「祖玄道人」による「序」と評言、著者による「巻頭語」および著者自筆の扉絵と挿絵全点を収録)と、第二部として三一書房版全集に未収録の95篇の童話作品(「九州日報」掲載)が「豚吉とヒヨロ子」の総題の元に収められています。


本文新字・正かな。


夢野久作 白髪小僧 01


帯文:

「夢野久作著作集 3 第3回配本
白髪小僧
久作が「白髪小僧」で企画したのは、一個の巨大な謎として自分の前に立ちふさがる「世界」の構造を、ひとつの小宇宙としての作品のなかに立体的に提示してみせることであった。(本書「解題」より)」



夢野久作 白髪小僧 02


目次:

白髪小僧

豚吉とヒヨロ子
 正夢
 天狗退治
 石の地蔵様
 謎の王宮
 運の川
 金銀の衣裳
 猿小僧
 不幸の神像
 龍宮の蓮の花
 吠多と峨摩の泥棒
 章魚のお化
 若いヘクレスの人形
 金剛石
 罪深い人
 狼と弓
 美しい子供
 当つた予言
 蜥蜴
 稲取村の話
 悪い牝猫
 遺産争ひ
 頭と尻尾
 人間の怖い訳
 蟹の仇討
 角笛の響き
 金の卵
 威張り鼠
 盃中の蛇影
 不信の亀
 女
 梁上の君子
 鳥のお家
 赤い花
 赤い林檎
 誰れの手
 哀れな兄弟
 犬尾石
 葡萄パン
 底なし樽
 金の烏
 世界一週の犬
 沼の魔物
 お寺の釣鐘
 魔術の幸吉
 頬白の子
 泣虫四郎坊
 口の禍
 お化の正体
 まぬけ次郎
 いもの遠足
 鉄砲の名人
 泥棒の番
 大変な指環
 ねづみ
 王様
 泥棒
 馬鹿遠慮
 歩きかた
 やまびこ
 伝書鳩
 親のまね
 やまばん
 オオサワキ
 桃太郎のお母さん
 銀のうた銀の踊り
 一銭
 馬と鼠
 蜜柑とバナナ
 弱虫太郎
 凍えた蛇
 オモチヤの探偵 三人兵士
 筆入
 紅梅の蕾
 水飲み巡礼
 馬鹿な百姓
 トンボ玉
 茶目九郎
 凧と雀
 お池の水
 松と桜
 鵞鳥の群
 虫と霜
 猿
 雛つ子
 驢馬の紛失
 おもちや二つ
 何だらう何だらう
 健ちやんの希望
 ドングリコツコ
 ピヨン太郎
 三人姉妹
 寸平一代記
 人が喰べ度い
 豚吉とヒヨロ子
 ルルとミミ

〔解題〕 夢野久作の童話体験 (西原和海)



夢野久作 白髪小僧 03



◆本書より◆


「白髪小僧」より:

「昔或る処に一人の乞食小僧が居りました。此(この)小僧は生れ付きの馬鹿で、親も兄弟も何も無い本当の一人者で、夏も冬もボロボロの着物一枚切り、定(きま)つた寝床さへありませんでしたが、唯名前ばかりは当り前の人よりもずつと沢山に持つて居りました。
 其(その)第一の名前は白髪(しらが)小僧と云ふのでした。これは此小僧の頭が雪の様に白く輝いて居たからです。」
「人々は皆此白髪小僧を可愛がり敬ひ、又は気味悪がり恐れて居りました。
 けれ共白髪小僧はそんな事には一切お構ひ無しで、いつもニコニコ笑ひ乍ら悠々と方々の村や都をめぐり歩いて、物を貰つたり人を助けたりして居りました。」

「王はお出(い)でになり乍ら、
広い国中何一つ、御気にかゝつた事も無く、
何時も御殿の奥深く、銀の寝台(ねだい)に身を休め、
現(うつゝ)とも無く夢ぞとも、御存じの無い魂は、
他の世界へ抜け出でゝ、他の世界の人々に、
王の心の気楽さを、示し歩いておはします」

「青眼先生は暫くの間は、あまりの不思議に呆気に取られて、茫然(ぼんやり)と少女の寝顔に見とれて居りましたが、やがてほつと大きな溜息をつきますと、何やらぐつとうなづきまして、震へる手で窓をそつと押して見ますと、訳も無くスーツと左右に開きました。其処からそろそろと音を立てぬ様に中に這ひ込んだ青眼先生は、床の上に下りると直ぐに、毒薬の瓶の口を切つて右手に持つて身構へをして、丸硝子の行燈(あんどん)の薄黄色い光りに照された少女の寝顔を又じつと見入りました。
 見れば見る程美しい少女の姿。夕雲の様に紫色に渦巻いた長い髪毛(かみのけ)。長い眉と長い睫毛。花の様な唇。其眼や口を静かに閉ぢて、鼻息も聞こえぬ位静かに眠つて居る姿。見て居るうちにあまり美しく艶(あで)やかで、何だか此世の人間とは思はれぬ様になりました。」

「こんな淋しい恐ろしい、所に長く生きて居て、
悲しい思ひするよりは、死んでしまつた方が好い。」

「石神の話しは此国の秘密の話しで、これを聞いた者は、其話しの中に居る悪魔に取り憑かれると昔から申し伝へて御座います。」

「青眼先生。妾は全く恐ろしい女で御座いました。悪魔よりももつと無慈悲な女で御座いました。初め妾が夢の中で美留女で居る時に、銀杏の根元で拾つた書物に、妾が女王になつた挿し絵があるのを見ますと、妾は急に女王になり度くなりました。(中略)つまり夢の中で見た美留女姫の心を、眼が覚めてからも忘れることが出来なかつたので御座います。」



夢野久作 白髪小僧 04


夢野久作 白髪小僧 05


夢野久作 白髪小僧 06


夢野久作 白髪小僧 07


夢野久作 白髪小僧 08


夢野久作 白髪小僧 09


夢野久作 白髪小僧 10


夢野久作 白髪小僧 11


夢野久作 白髪小僧 12


夢野久作 白髪小僧 13


夢野久作 白髪小僧 14


夢野久作 白髪小僧 15


夢野久作 白髪小僧 16


夢野久作 白髪小僧 17


夢野久作 白髪小僧 18


夢野久作 白髪小僧 19


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夢野久作 白髪小僧 21


夢野久作 白髪小僧 22


夢野久作 白髪小僧 23


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夢野久作 白髪小僧 28



◆感想◆


「白髪小僧」は、乞食にして王様。欲はなく、決して怒らず、みんなにデクノボーとよばれ、いつも静かに笑っています。
扉絵に描かれた眠る白髪小僧はとてもチャーミングであります。
「眠り」もまた、夢野作品において重要な要素であります。本書には短篇「白菊」や『ドグラマグラ』の手術シーンを連想させる場面もあります。

よく、処女作にはその作家の全てが萌芽の形で存在すると申しますが、そういった意味では、長篇童話『白髪小僧』こそ、作家「夢野久作」の処女作といってよいとおもいます。のちの作品において発展されるテーマやエピソードや表現が、本作のそこかしこにちりばめられています。
そして、本作をよむと、夢野久作こそ、まさに日本のホフマンであったと納得されます。

『白髪小僧』の著者・杉山萠圓こと夢野久作は、本作を刊行するに当って、自ら挿絵を描いていますが、その構図やコスチューム・デザインの特異さ、そして白髪小僧をはじめとするキャラ設定など、むしろ現代風にアニメ化するとより効果的なのではないかとおもわれます。なにしろヴァーチャル・リアリティの世界に住む十四歳の女の子の心の闇をテーマに、ドッペルゲンガーやパラレルワールドまで登場する、中二心をくすぐる萌え童話なので、夢野久作はまさに先駆的作家であったというべきであります。

本作は、〈世界一の馬鹿な人〉である「白髪(しらが)小僧」と、〈世界一の利口な人〉である「美留女(みるめ)姫」の二人の主人公をめぐる物語ですが、〈非知〉と〈知〉を擬人化した、〈相反するものの一致〉の絵解きともいうべき、こうしたやや図式的な寓話的設定は、物語が伸展するにつれて作者が示す、美留女姫の〈心の闇〉への強い関心によって破綻してしまいます。
そもそも夢野久作には、人間の〈知〉に対する根源的な不信感があるようです。本書に併載されている短篇童話「魔術の幸吉」などにもみられるように、〈利口〉であることは両刃の剣です(「魔術の幸吉」では、「大変本を読むことが好き」だった幸吉が、「悪い魔術師」の家に奉公することになって、魔術の本を盗み読んで魔術を身につけるが、「魔術などを知ってると、つい人に知れないをいゝことにして、悪いことをしたくなるものだから、お前は神様にお詫して、魔術をとり上げて貰ひなさい」と父親に諭される。また、「寸平一代記」では、天狗から魔法を教えてもらった「ビッコ」で「ドモリ」で「メッカチ」の寸平が、天狗から「魔法」を「わるいことに使ふと」罰があたるが、「その代りおれの云ふことをよく守つて居れば、今にきつといゝことあがるのだ」と諭される。ここでの「魔術」は、魔術そのものというよりは、たとえば科学とか法律とかの、悪用が利く、地上的な〈力 potentia〉としての〈知 scientia〉の寓意であろうとおもわれます)。
〈知〉の追求が〈悪魔〉的所業につながっていく経緯については、のちの探偵小説「空を飛ぶパラソル」や「鉄槌」、そしてもちろん『ドグラマグラ』において、より現実的な形で語られていますが、「童話」である本作においてそこまで踏み込むことはできなかったようです。



















































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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