原研二 『グロテスクの部屋』 (叢書メラヴィリア)

原研二 
『グロテスクの部屋
― 人工洞窟と
書斎のアナロギア』

叢書メラヴィリア 2

作品社 
1996年5月5日 初版第1刷印刷
1996年5月10日 初版第1刷発行
259p 
A5判 丸背紙装上製本 カバー 
定価3,600円(本体3,495円)
造本・装幀: 阿部聡



巻頭にカラー図版8p、本文中モノクロ図版多数。


原研二 グロテスクの部屋 01


帯文:

「グロッタ(人工洞窟)
形を成そうと
もがく、
怪物たちの
生成の暗室。」



帯背:

「ヴィジュアルが拉致する
〈メラヴィリア=驚異〉の悦楽園。」



帯裏:

「暗影燦燦!
ルネサンスの爛熟する16世紀イタリア。メディチ家をはじめとする大貴族の荘園のそこここには、「グロッタ」という名の人工洞窟が口を開けていた。人工の極みをもって、始源の楽園を造ろうとする倒錯。「普遍宇宙のひな型」としての庭園と書斎の蔟生をたどる初の本格的グロッタ論!」



目次:

第Ⅰ章 生成の暗室
 グロッタ・グランデ――ヘルメティズムの洞窟
 観念を盛る器――表象撩乱の世紀
 火からくりの男――祝祭アレンジャー、ブォンタレンティ
 陶工パリシーの蜥蜴――田舎ぶりのマニエリスム
 貝殻館――人工とまごう自然
 アルカディア・グロッタ――黄金時代をフェイク
 オルペウスの祠――ヴィラ・プラトリーノ、「常春の庭」
 機械庭園――ディオラマ・ムジカーレ
 ミメーシス――神の御業を盗む

第Ⅱ章 魔術の庭
 サロモン・ド・コー――魔術庭園師
 晴れやかなる俯瞰――ホルトゥス・パラティヌス

第Ⅲ章 ストゥディオロ (書斎/実験室)
 ムーサエウム――水の精の司どるところ
 洞窟をなぞる書斎――イザベラ・デステの二重洞窟
 ストゥディオロ・アイドル――ペトラルカに倣いて
 イザベラの秘密の苑――コルテ・ヴェッキア、閉ざされた庭
 パズリングの密室――ウルビーノ公書斎、寄木細工の透視空間
 田園の換喩装置――ヴェッキオ宮のスクリットイオ
 四大の集う部屋――フランチェスコ一世の書斎/実験室
 叡知の天蓋――ウフィツィ宮のトリブーナ
 繁茂するグロッテスカの華やぎ――生成する怪物たち

むすび
 驚異/恩寵
 

暗夜行路 あとがきに代えて



原研二 グロテスクの部屋 02


「ベルナルド・ブォンタレンティ総指揮によって徹底的に構成されたグロッタ・グランデ。ボボリ庭園内に1593年完成。撮影・岡村崔。」



◆本書より◆


「生成の暗室」より:

「生成の途上にあるとは、中間状態のことであり、中間とは、境界の曖昧な、と言うよりむしろ、生成の始まりと終わりがくっつけられた明快この上ない怪物である。これを〈不一致の一致〉と言う。あるいは、〈一致する不一致〉とも。
 一六〇〇年頃を軸とする前後一世紀のうちに、ボボリ庭園にとどまらず、ヨーロッパ中に穿(うが)たれたさまざまな人工洞窟(グロッタ)が、こうした生成の空間であるならば、つまり何か身もふたもなく子宮そのものの代用ででもあるならば、胚胎されるものは怪物であり、怪物とは綺想(コンシート)や遊戯的驚異であるのはむろんのこと、なお一層、生成を請い願う呪物として呼び出されていたと思われる。
 人工洞窟の魔術化。怪物のための暗室。生成を寿(ことほ)ぐ映画館。
 怪物は恩寵なのだった。」

「フィチーノのネオ・プラトニズムは世界を知性・魂・自然・物質の同心円の位階世界と思い描くものである。四つの円で世界を表わす理由とは、プラトンであり、次のごとき同語反復の一節でしかない。

  可視的世界を表わす円は、知性と魂と自然といった不可視的世界を表わす円の写しである。というのは物体は魂と知性との影であり足跡であるが、影や足跡はその本体の写しにすぎないからである。

 プラトンが人間の認識モデルとして考えたのは、洞窟だった。イメージ嫌いのプラトンが、『国家』の中でじつに奇怪なイメージを使っているのは有名である。縛られた人間が、洞窟の奥の壁に向かって顔を固定されている。するとずっと背後の光源を使って芸人が、縛られた人間の後ろで人形をあやつる。縛られた人間には壁に映る影の動きしか見えない。もし、かくのごとく人間が生まれついてより固定されているとすると、影を真実と認めるほかはないだろう。人間は思い込みの洞窟からどう抜けだせるだろうか?
 プラトンの洞窟は、プラトンとともにルネサンスによみがえる。人工洞窟の建設ラッシュばかりか、フランシス・ベーコン(一五六一―一六二六)までが「洞窟のイドラ」という比喩を使うのである。
 引用したフィチーノの一節では、一切は虚仮(こけ)であるという東洋人の達観のごとくに、この世は影であると言われているように見える。しかし、この影とは、真なる一者の表象であり、むしろ美なり愛なり、この宇宙なり、あるいは地上の戦場なり、あらゆるものをモデルへとシュミレーションすることができるという理論的根拠となって、虚仮どころか欲望の表象の繁茂することを結果した。」
「表象はこの上なく魅力的でなければならない。ブォンタレンティは洞窟をこの世ならぬ世界に仕上げるべく、最後に、天井の採光穴にガラスの鉢を据え付け、そこに水を満たした。水は魚の動きによって揺れ、それを透過する光も揺れて、たまさかの屈折に虹色を投げかけることもあり、洞窟内の神秘をいやましに深めた。」
「とはいえ、美が、精緻な秩序が、プラトンのイデアを指し示すといえど、その原理が〈生成〉であるからには、(中略)この世に変成途上にあるもの以外の何が、すなわち魁偉(ビザール)なもの以外の何があろう?! ならば、円といえど、楕円のアナモルフォーズでないことがあろうか?」



「むすび」より:

「パリシーは、岩の心臓部、岩の貝の中で生きたかったのである……。

 ……パリシーを見ていると、ふと、腑におちないだろうか、われわれもまた危うい軟体動物にほかならず、(中略)〈人工〉と言われるものの一切が、営々と紡がれる貝殻だったのだと。その多様な形態の、神聖幾何学などと喜ぶよりは、何故にこういう形を選び取ってしまったのかというような、ふこうな、ふぐうな、もしかすると怪物性、恩寵とはこれである。」



原研二 グロテスクの部屋 03


「洞窟は書割である。書割を連ねれば通過型、つまりトンネルが出現する。まさにピープ・ショーそのもの。」
「テームズ・トンネルのピープ・ショー(1843頃)。舞台の書割を重ねることによって奥行きを演出。東京都写真美術館蔵。」




こちらもご参照下さい:

谷川渥 『図説 だまし絵 ― もうひとつの美術史』 (ふくろうの本)
岡谷公二 『ピエル・ロティの館 ― エグゾティスムという病い』 (叢書メラヴィリア)
























































































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