白川静 『文字遊心』 (平凡社ライブラリー)

「狂の問題は、民族の精神的な振幅に関する問題である。狂は理性の対極にあって、いわば運動の機動力となる。狂的な自己衝迫によって、はじめて運動が起こる。学問の世界でも、忠実な紹述者ばかりでは、何ごとにも発展はない。論難答問があって、はじめて展開がある。その論難答問を認めないような、権威主義の横行を許してはならない。狂とは、まずそのような権威を否定する精神である。」
(白川静 『文字遊心』 「あとがき」 より)


白川静 『文字遊心』 
平凡社ライブラリー し-2-2

平凡社 1996年11月15日初版第1刷/2000年9月87日初版第4刷
503p 
B6変型判 並装 カバー 
定価1,359円+税
装幀: 中垣信夫
カバー図版: 殷代の金文
カバー・マーブル制作: 製本工房リーブル

「本著作は一九九〇年四月、平凡社より刊行されたものです。」



文字エッセイ集その二。
本文中図版多数。


白川静 文字遊心1


カバー文:

「中国人のこころの諸相を捉えた「狂字論」「真字論」、
古代人の生活誌ともいうべき「火と水の民俗学」など、広大にして豊饒な
漢字の世界に遊びつつ中国の歴史の深処にせまる、白川文字学の精華。」



目次 (初出):

第一章 文字遊心 (書き下ろし)
 狂字論
 真字論
第二章 火と水の民俗学――古代文字と民俗学
 火の民俗学 (書き下ろし)
 水の民俗学 (「フロント」 1988年9月~1989年7月)
第三章 漢字古訓抄 (書き下ろし)
 政治について
 君臣について
 官制について
 経営について
 境界について
第四章 漢字の諸問題
 漢字の思考 (「季刊 iichiko」 1988年10月)
 文字と説文学 (「書道研究」 1988年4月)
 新元号雑感 (「中央公論」 1989年3月)
 〔字統〕に寄せる (平凡社パンフレット 1985年2月)
 〔字統〕から〔字訓〕へ (「月刊百科」 1987年6月)

あとがき
初出一覧
解説――翳りある漢字世界の愉しみ (武田雅哉)



白川静 文字遊心2



◆本書より◆


「狂字論」より:

「狂気の精神史的な意味が一般に自覚されるようになったのは、それほど古いことではない。中村雄二郎氏の〔術語集〕に、「一九六〇年代の冒頭の三年間に、明確なかたちで示された三つの新しい人間の発見があった」として、アリエスの〔子供の誕生〕(一九六〇年)、フーコーの〔狂気の歴史〕(一九六一年)、そしてレヴィ・ストロースの〔野生の思考〕(一九六二年)の三書があげられている。これらの新しい人間は、近代の社会が久しく見忘れてきた深層的人間であり、近代社会から疎外されるなかで、あたかも別種の人間であるかのように扱われているが、本来はもっとも自然な、根源的なその始原性のままで、いわばとり残されている人びとであった。古い時代の観念の上では、子供は狂人は神にもっとも近いものであり、未開の異族たちも、ときには神として扱われることがあった。そしてそういう観念は、ごく近い時期まで、われわれの身辺に生きていたようにも思われる。
 狂気を意味する alienation は、本来疎外を意味する語であり、さらにいえば alien は異邦人、異質なるものを意味する語である。狂気は理性にとって異質なものとして区別され、排除されるものであるが、しかし闇を通して微光がもたらされるように、人はこの異質なるものを内在させることによって、はじめて理性的であることができるのではないか。すなわちその異質なるものの自己疎外を通じて、より理性的であることができるのではないかと思う。パスカルの〔パンセ〕(四一四)に、次のような一条があることが思い出される。
 「人間が狂気じみていることは必然的であるので、狂気じみていないことも、別種の狂気の傾向からいうと、やはり狂気じみていることになるだろう。」
 フーコーはこのことばを引用したのち、ここには「理性に内在的な狂気の発見、つぎにそのことに由来する二重性」の問題があるとしていう。
 「この二重性とは、一方では理性に固有な狂気を拒否し、それを排除しつつそれを倍加し、この倍加によって、狂気のなかのもっとも単純でもっとも閉じられ、もっとも無媒介な狂気におちいっている「狂った狂気」であり、他方では、理性のもつ狂気を受けいれ、それに耳をかたむけ、その市民権を容認し、その激しい力の侵入をそのままにしている「おとなしい狂気」である。――狂気の真理とは、狂気が理性にとって内的であり、いっそうよく自らを確保するために理性の一形姿・一つの力・いわば一つの必要である。」
 あの謎のようなパスカルの語について、これは一つの簡明にして説得的な解説といいうるものであろう。そして「ニーチェの狂気、ヴァン・ゴッホの狂気、あるいはアルトーの狂気」のように、「狂気となって炸裂するこうした創作活動は、近代世界ではたびたび起っている」ことであり、この「頻発性を、一つの問題の執拗さとして真剣に受けとめる必要がある」ともいう。」
















































































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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

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