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吉岡実 『詩集 サフラン摘み』

「夏の沖から泳ぐ女がくる」
(吉岡実 「タコ」 より)


吉岡実 
『詩集 サフラン摘み』


思潮社 
1976年9月30日 初版発行
1979年10月30日 6版発行
208p 初出誌紙一覧1p 
22.5×15cm 
丸背布装上製本 本体カバー 函 
定価1,800円
装画: 片山健



吉岡実 サフラン摘み 01


帯文:

「肉声のひびく形而上的地平
猥褻にして高貴、滑稽にして厳粛な暗黒の祝祭を凝視し、死とエロスの混沌たる風景を通して、現代詩に新しい位相を拓いた著者が、詩的爛熟の頂点で放つ問題の新詩集」



吉岡実 サフラン摘み 02


高見順賞受賞。


吉岡実 サフラン摘み 03


吉岡実 サフラン摘み 04


カバー: 「片山健画 「無題」 1973. 著者蔵」

カバーは広げると一枚の絵になっています。ポール・デルヴォーの「森の目覚め」(1939)を下敷きにしていますが、デルヴォーもクラナッハの「黄金時代」を下敷きにしています。
片山画伯による本書装画の原画は画伯の画集『迷子の独楽』に収録されています。


目次:

サフラン摘み
タコ
ヒヤシンス或は水柱

マダム・レインの子供
悪趣味な冬の旅
ピクニック
聖あんま語彙篇
わが家の記念写真
生誕
ルイス・キャロルを探す方法
 ――わがアリスへの接近
 ――少女伝説
『アリス』狩り
草上の晩餐
田園
自転車の上の猫
不滅の形態
フォーサイド家の猫
絵画
異霊祭
動物
メデアム・夢見る家族
舵手の書
白夜
ゾンネンシュターンの船
サイレント・あるいは鮭
悪趣味な夏の旅
示影針(グノーモン)
カカシ
少年
あまがつ頌
悪趣味な内面の秋の旅



吉岡実 サフラン摘み 05



◆本書より◆


「『アリス』狩り」:

「それはたくさんの病人の夢を研究しなけりゃならん
〈退却してゆく臓器や血の出る肛門〉
わしも医者だから抒情詩の一篇や二篇は暗誦できる
今宵 生き損じの一人の老婆も無事に死んだし

かれこれテニス試合の時刻がくる
カメラと持てるだけの物を持って森まで行く
まっ白い弾むボールを追究する 悪寒するわしが見えるか
むきあった男女の間に生える カリフラワー 粉

この世に痛むものがはたしてあるか
わしが診察するのは鏡の中の患者の患部だけ
手も汚れず 悪臭もなく
でも疲れるんだ 鏡の表面にとどまるオレンジのように

父母の写真 コダックの五匹の猫の写真 船腹の写真 赤ん坊
の写真 墜落した飛行機の写真 結婚式の写真 騎手の写真
女優のヌード写真 チャールズ・ラトウィジ・ドジソン教授が
撮ったアリスの写真

〈静止せる剃刀や魚 潜在せる雷や桃〉
〈森や山の動物よりも檻の中の動物〉
〈ただ一人の少女が走り回っている〉
〈沼のほとりの燈心草と雨〉それらをわしは嗜好する

血豆と乳房「それはただちに切開する」
それが終ったら力のかぎりあらゆる岩地を掘りかえせよ
何かが出る 何かに成るものが出る
そのときは看護婦を呼んで包帯をぐるぐる巻かせる

ではこのように
ではこのように鵞鳥
とはいうものの
とはいうものの月光

「髪をしなやかにしたいわ」といった一人の少女
そののびやかな腿を内包する 鏡のなかで
立体的な物は越えられる しかし平面は走れない
オリーブをしぼる母の背後は暗い 夜具と山羊

馬をすすましめ 河をすすましめ 受胎をすすましめ 軍艦を
すすましめ 飲食をすすましめ ゲームをすすましめ 時計を
すすましめ 矢印をすすましめ 物語をすすましめ 死をすす
ましめ

むかし外国の漫画でよんだことのある場面を想起せよ
長い石の塀が立つ
それは草むらの一隅のように見える法廷で
声女・アリスは答える

『塀』には死体が塗りこめられていましたか
わかりません (三匹の猫)
『塀』には高さがありましたか
わかりません (ひまわりの花)

『塀』は何で出来ていましたか
わかりません (心臓のようなもの)
『塀』は何を囲んでいましたか
わかりません (先祖の家系)

『塀』は今も立ってそこに在りますか
わかりません (時と鳥)
『塀』はではどこに存在するのですか
わかりません (永遠に保護色)

しかるべく手術をせん
しかるべく病巣なきときは
しかるべく印をつけ
しかるべく肉体を罰せん

わしの知っとる
「もう一人のアリスは十八歳になっても 継母の伯母に尻を
鞭打たれ あるときはズックの袋に詰められて 天井に吊る
される 美しき受難のアリス・ミューレイ……」

それにしてもわしは覗きたい 袋とペチコートの内側を
なまめかしい少女群の羽離れする 甘美な季節の終り
かくも深く彼女らの皮膚を穿ち 水と塩を吸い
夜は火と煙を吹き上げる 謎の言語少女よいずこ

上向き下向き横向き
緋色の衣をまとった大僧正の形をして
焼死せんとする恋しき人を求める
わしは消火器をもつ老たる男 暗緑の壁紙の家にいる

死ねば都 ここがギリシア悲劇の見せどころ
西の方からとどく キンパラ鳥の声
あらゆる少女の胴から下は紅くれない
下品なハンカチを所有することを認識し 洗濯せよ 言葉!

夏の空の色あせる時
わしも詩人だからたまには形而上的な怪我をするんだ
今宵 書き損じの一人の少女の『非像』を追想する
落涙する屋根の上の人 それは汝かも知れず?」



「サフラン摘み」:

「クレタの或る王宮の壁に
「サフラン摘み」と
呼ばれる華麗な壁画があるそうだ
そこでは 少年が四つんばいになって
サフランを摘んでいる
岩の間には碧い波がうずまき模様をくりかえす日々
だがわれわれにはうしろ姿しか見えない
少年の額に もしも太陽が差したら
星形の塩が浮んでくる
割れた少年の尻が夕暮れの岬で
突き出されるとき
われわれは 一茎のサフランの花の香液のしたたりを認める
波が来る 白い三角波
次に斬首された
美しい猿の首が飾られるであろう
目をとじた少年の闇深く入りこんだ
石英のような顔の上に
春の果実と魚で構成された
アルチンボルドの肖像画のように
腐敗してゆく すべては
表面から
処女の肌もあらがいがたき夜の
エーゲ海の下の信仰と呪詛に
なめされた猿のトルソ
そよぐ死せる青い毛
ぬれた少年の肩が支えるものは
乳母の太股であるのか
猿のかくされた陰茎であるのか
大鏡のなかにそれはうつる
表意文字のように
夕焼は遠い円柱から染めてくる
消える波
褐色の巻貝の内部をめぐりめぐり
『歌』はうまれる
サフランの花の淡い紫
招く者があるとしたら
少年は岩棚をかけおりて
数ある仮死のなかから溺死の姿を藉りる
われわれは今しばらく 語らず
語るべからず
泳ぐ猿の迷信を――
天蓋を波が越える日までは」



クレタ島のイラクリオン考古学博物館に、サフランを収穫する少年を描いたクノッソス宮殿のフレスコ画がありまして、もとは猿が描かれていたのを、修復時に間違って少年にしてしまったということです。
Man gathering saffron Knossos Crete crocus sativus fresco























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将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

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