『現代詩文庫 14 吉岡実詩集』

「三月十七日 アイちゃんがズルチンと甘納豆をくれる。」
(吉岡実 「断片・日記抄」 より)


『現代詩文庫 14 
吉岡実詩集』


思潮社 
1968年9月1日 第1刷発行
1977年9月1日 第10刷発行
146p 
四六判 並装 ビニールカバー 
定価680円
装幀: 国東照幸



二段組。


吉岡実詩集 現代詩文庫 01


吉岡実詩集 現代詩文庫 02


カバー裏文:

「私はこれが「全部書かれたもの」なのだという恐怖をまず抱いてしまうのだが、技芸の心棒に廻る苦痛の容れものと、吉岡実の詩一個を買い求める関係は、強烈なリアリティに結びついてくる。比類のない凄惨な眼球によって詩刑に処せられるものは、剥製にされた光りの間に置かれる音楽や絵の器であり、身ぐるみ剥がれる万象の姿態から、その始まり、その羞恥にまで及んでいる。蒸留される幻もここでは硬く艶やかである。一挙の超越が切り結ぶ実像がここに置かれて、一切の狼藉は跡かたもない言葉の輝く卵である。
土方巽」



目次:

詩集〈静物〉から
 静物
 静物
 静物
 静物
 卵
 冬の歌
 讃歌
 挽歌
 雪
 寓話
 犬の肖像
 過去

詩集〈僧侶〉から
 告白
 仕事
 伝説
 僧侶
 単純
 夏
 固形
 苦力
 聖家族
 喪服
 感傷
 死児

詩集〈紡錘形〉から
 老人頌
 果物の終り
 下痢
 紡錘形I
 紡錘形II
 裸婦
 呪婚歌
 田舎
 水のもりあがり
 巫女
 鎮魂歌
 受難
 寄港
 沼・秋の絵

詩集〈静かな家〉から
 劇のためのト書の試み
 珈琲
 模写
 馬・春の絵
 滞在
 桃
 やさしい放火魔
 春のオーロラ
 スープはさめる
 ヒラメ
 孤独なオートバイ
 恋する絵
 静かな家

未刊詩篇から
 立体
 青い柱はどこにあるか?
 夏から秋まで
 マクロコスモス
 フォーク・ソング

突堤にて

歌集〈魚藍〉全

拾遺詩篇から
 ポール・クレーの食卓
 サーカス
 ライラック・ガーデン

詩集〈液体〉から
 挽歌
 蒸発
 牧歌
 乾いた婚姻図
 忘れた吹笛の抒情
 風景
 花遅き日の歌
 液体Ⅰ
 液体Ⅱ
 午睡
 灯る曲線
 夢の翻訳

詩論
 わたしの作詩法?

断片・日記抄

作品論
 吉岡実の詩 (飯島耕一)

吉岡実氏に76の質問 (高橋睦郎)




◆本書より◆


「わたしの作詩法?」より:

「わたしには作詩法といえるものが果してあるだろうか、甚だ疑問だと思っている。いかなる意図と方法をもって詩作を試みたらよいのか、いまだよくわからない。それに、わたしは今日に至るまで、自己の詩の発想からその形成に至る過程を、反省し深く検討したり、また自解的なものを書いたこともないのだ。わたしは詩篇が完成したと確認した時、草稿的なもの、書き損じ類を一切破棄してしまう。詩篇はたちまち作者であるわたしから離脱し、遠い存在となってしまう。わたしにすら詩篇の細部の変遷――思考、言葉の選択と湧出、いってみれば増殖運動の秘密は解明できない状態である。
 わたしは詩を書く場合、テーマやその構成・構造をあらかじめ考えない。白紙状態がわたしにとって、最も詩を書くによい場なのだ。発端から結末がわかってしまうものをわたしは詩とも創造ともいえないと思っている。
 だからわたしは手帖を持ち歩かない。喫茶店で、街角で、ふいに素晴しいと思える詩句なり意図が泛(うか)んでもわたしは書き留めたりしない。それは忘れるにまかせることにしている。わたしにとって本当に必要であったら、それは再び現われるに違いないと信じている。わたしは詩を書く時は、家の中で机の上で書くべき姿勢で書く。いってみれば、きわめて事務的に事をはこんで行く。だから彫刻家や画家、いや手仕事の職人に類似しているといえよう。冷静な意識と構図がしずかに漲り、リアリティの確立が終ると、やがて白熱状態が来る。倦怠が訪れる。絶望がくる。或る絵画が見える、女体が想像される、亀の甲の固い物質にふれる。板の上を歩いている男が去る。つぎに「乳母車」の形態と「野菜」という文字が浮び出る。キャベツや玉ネギ、ぶどう、とにかく球形体の実相のみが喚起される。そんな連想をつなげる。どうして女中や赤ん坊が不在なのか? わたしの中の乳母車は沼へ沈むべき運搬用に必要なのだ。そのつぎに愛が来てもいいと考える。それはヘッドライトに照らされた、雨傘の二人の愛を永遠なものだと断定すればよいのだ。しかし意識のながれは誰の中にでも豊かに流れる。それを停止することが困難だ、すなわち文字の一行一行に定着させることが、発生したイメージをそのままいけどることが大切である。
 わたしはそれらの方向へ一つの矢印を走らせてその詩的作品の最後を飾るだろう。詩は小さく結実してはつまらない。詩は他の次元へまで拡がって行くべきだと思っている。」

「わたしは、暗いオンドルのかげに黒衣の少女をみた。老いた父へ粥をつくっている。わたしに対して、礼をとるのでもなければ、憎悪の眼を向けるでもなく、ただ粟粥をつくる少女に、この世のものとは思われぬ美を感じた。その帰り豪雨にあい、曠野をわたしたちは馬賊のように疾走する。ときどき草の中の地に真紅の一むら吾亦紅が咲いていた。満人の少女と吾亦紅の花が、今日でも鮮やかにわたしの眼に見える。」



「断片・日記抄」より:

「三月十七日 アイちゃんがズルチンと甘納豆をくれる。」

「五月二十四日 昨夜から美しい蛾が迷いこんでいる。うすみどりのビロードの翅をし、孔雀のような斑紋が四つほどちりばめてあり、ふちにはセピアの線がある。蝶よりむしろ典雅な蛾である。」



「吉岡実氏に76の質問」(高橋睦郎)より:

「◆人間について
問=人間はお好きですか。
答=嫌いではない。嫌いな面もあるが、相対的に好きと言っていいんじゃないかな。
問=好きなタイプは?
答=特異な人。自分を引っぱってくれるという意味で。
問=嫌いなタイプは?
答=上に弱く、下に強い人。自分自身、小僧時代、軍隊時代をつうじて、そういう人種に反抗してきたつもりです。
問=人づきあいはいい方ですか。
答=いい方でしょうが、まったくなくても平気です。殻に閉じこもる性格なのかな。
 (中略)
問=偉大な人物は?
答=好きではありませんね。」

「◆だれのために書くのか
問=詩は万人のものという考えかたがありますが。
答=反対です。詩は特定の人のものだ。
問=だれのために書きますか。
答=自分のため、自分を支えるためです。
問=詩が死者たちにささげられているという考えかたには?
答=疎外された人びとに……という意味でならわかります。」

「◆今後の詩の方向
問=今後、どんな詩を書いていきたいとお考えですか。
答=『僧侶』などでは一種の詩語を使っていました。今後は、言葉としてはわかりやすく、内容はよくわからないもの、もどかしくてゾッとするもの、俗性をまといつつ高いものができたらと思います。」
















































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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