『吉岡実詩集』 (普及版)

「わたしは犬の鼻をなめねばならぬ
あたらしい生涯の堕落を試みねばならぬ
おびただしい犬の排泄のなかで」

(吉岡実 「犬の肖像」 より)


『吉岡実詩集』 
普及版


思潮社 
1970年2月15日 発行
1977年1月20日 第3刷発行
341p 
22.8×14.2cm 
並装(フランス表紙) 函 
定価2,000円
ブックデザイン: 杉浦康平



著者によるあとがき「詩集・ノオト」より:

「この詩集には、《静物》・《僧侶》・《紡錘形》、それに未刊詩集《静かな家》などの戦後十七年間のわたしの全詩篇を収めている。唯一の戦前の詩集《液体》は割愛すべきであつたが、二、三の友人のすすめにしたがつて若干を残した。編集統一のために、このほか五、六篇と歌集《魚藍》を除外している。」


吉岡実詩集 01


帯文:

「吉岡実(高見順賞受賞詩人)の
五冊の詩集を網羅
独自な感受性の尾を垂らし、粘液質の絢爛無残な幻想を増殖しながら、抜群の美学に彩られた無間地獄を展開する著者の処女詩集『液体』及び『静物』『僧侶』『紡錘形』『静かな家』全篇。」



帯背:

「本年度 高見順賞受賞詩人」


帯裏:

「彼の詩は、非常にとおくから、あるいは極端に近くから、物や人間を見ている視点から出てくる。彼は見る人であり、触れる人である。……彼の詩は、難解で特殊に見えても、普遍性を極端に求める。
――飯島耕一――」



吉岡実詩集 02


目次:

1 静物 1949―55
 静物
 静物
 静物
 静物
 或る世界
 樹
 卵
 冬の歌
 夏の絵
 風景
 讃歌
 挽歌
 ジャングル
 雪
 寓話
 犬の肖像
 過去

2 僧侶 1956―58
 喜劇
 告白
 島
 仕事
 伝説
 冬の絵
 牧歌
 僧侶
 単純
 夏
 固形
 回復
 苦力
 聖家族
 喪服
 美しい旅
 人質
 感傷
 死児

3 紡錘形 1959―62
 老人頌
 果物の終り
 下痢
 紡錘形Ⅰ
 紡錘形Ⅱ
 陰画
 裸婦
 編物する女
 呪婚歌
 田舎
 首長族の病気
 冬の休暇
 水のもりあがり
 巫女
 鎮魂歌
 衣鉢
 受難
 狩られる女
 寄港
 灯台にて
 沼・秋の絵
 修正と省略

4 静かな家 1962―66
 劇のためのト書の試み
 無罪・有罪
 珈琲
 模写
 馬・春の絵
 聖母頌
 滞在
 桃
 やさしい放火魔
 春のオーロラ
 スープはさめる
 内的な恋唄
 ヒラメ
 孤独なオートバイ
 恋する絵
 静かな家

5 液体 1940―41
 挽歌
 蒸発
 牧歌
 乾いた婚姻図
 忘れた吹笛の抒情
 風景
 花遅き日の歌
 液体Ⅰ
 液体Ⅱ
 午睡
 灯る曲線
 夢の飜訳

あとがき――詩集・ノオト
略歴



吉岡実詩集 03



◆本書より◆


「呪婚歌」:

「わたしたちの今夜というこの時
この日という雨と春
おごそかな寺院の偶像を骨ぬきにした後
卓子をゆくりなく円いものと感じて
その下に集る脚の空間に
なやましい川のながれを見た
ふれるならば刑罰されて死んだ犬猫
つかむならば炎える夥しい藁の束
わたしたちは斜の板へともに並んで寝て
にんじんを噛みながら流れる
大勢の人の微笑
またはまれなる憎悪と風
わたしたちの皮膚のつめたいことを
たがいの欺むかぬ証しとせよ
手と手 腸と腸から
つねにはみだすオレンジ
その果肉の濡れに導かれて
測り知れぬ愛
観念から行為へ
暗転する太陽その次は薄明
わたしたちの氷る全身に浴せられた
花は死ぬものの嫉妬
しばらくは香気を放ちやがては窒息をねがう
黙示の寝床
われた蛇の卵 麦粒
紡がれた陰毛の糸車
かぶさる毛布類
つもる塵 のびる植物勢
むらがる蜂の針を女の肉へ打つ
否 否
加えるものは
わたしたちの小部屋を彩る
謀術はないのか
パンと牛乳のほかには
純粋な浪費の舞踏する幻のかまきりたち
如露の世界に閉じこめられた
わたしたちの後宮の庭
他人のさわがしい子供が集る
ちんば めつかち 象皮病
それらの眼の油はたぎり
大理石の柱のかげからのぞく
禁欲の衣を次々と沈める海溝
わたしたちに飛躍があるだろうか
華美なさかだち
慈悲ふかい骸骨の抱擁の果に
富を抛棄して貧を養う
それ以外のなにが与えられよう
ともに裸の秤
共犯とはかかる状況
かかる矜りのむなしい愛であり
つきすすむ水路の星座
その吸盤の邦で
甘い罪のながい涎を
わたしたちは飲みつづけた
近代装飾の洞穴のおくふかく
裂かれた兎を耳からつるす
この高揚の月の出
わたしたちも同時に
吟味され照らされる
わたしたちの立ちあがつた場所
つねに灰いろの綿毛を舞い上らせて
わたしたちの心と肉の陰画
わたしたちの半面頭に
ねずみ泣きのねずみを二匹棲まわせて
予言される
一人の男として煉瓦をつみ上げ
一人の女として水をかき廻す
悪夢の絵具にくまどられて生きると
永遠がなければ次永遠に
蓋せられた音楽」



「僧侶」:

「1

四人の僧侶
庭園をそぞろ歩き
ときに黒い布を巻きあげる
棒の形
憎しみもなしに
若い女を叩く
こうもりが叫ぶまで
一人は食事をつくる
一人は罪人を探しにゆく
一人は自涜
一人は女に殺される

2

四人の僧侶
めいめいの務めにはげむ
聖人形をおろし
磔に牝牛を掲げ
一人が一人の頭髪を剃り
死んだ一人が祈祷し
他の一人が棺をつくるとき
深夜の人里から押しよせる分娩の洪水
四人がいっせいに立ちあがる
不具の四つのアンブレラ
美しい壁と天井張り
そこに穴があらわれ
雨がふりだす

3

四人の僧侶
夕べの食卓につく
手のながい一人がフォークを配る
いぼのある一人の手が酒を注ぐ
他の二人は手を見せず
今日の猫と
未来の女にさわりながら
同時に両方のボデーを具えた
毛深い像を二人の手が造り上げる
肉は骨を緊めるもの
肉は血に晒されるもの
二人は飽食のため肥り
二人は創造のためやせほそり

4

四人の僧侶
朝の苦行に出かける
一人は森へ鳥の姿でかりうどを迎えにゆく
一人は川へ魚の姿で女中の股をのぞきにゆく
一人は街から馬の姿で殺戮の器具を積んでくる
一人は死んでいるので鐘をうつ
四人一緒にかつて哄笑しない

5

四人の僧侶
畑で種子を播く
中の一人が誤って
子供の臀に蕪を供える
驚愕した陶器の顔の母親の口が
赭い泥の太陽を沈めた
非常に高いブランコに乗り
三人が合唱している
死んだ一人は
巣のからすの深い咽喉の中で声を出す

6

四人の僧侶
井戸のまわりにかがむ
洗濯物は山羊の陰嚢
洗いきれぬ月経帯
三人がかりでしぼりだす
気球の大きさのシーツ
死んだ一人がかついで干しにゆく
雨のなかの塔の上に

7

四人の僧侶
一人は寺院の由来と四人の来歴を書く
一人は世界の花の女王達の生活を書く
一人は猿と斧と戦車の歴史を書く
一人は死んでいるので
他の者にかくれて
三人の記録をつぎつぎに焚く

8

四人の僧侶
一人は枯木の地に千人のかくし児を産んだ
一人は塩と月のない海に千人のかくし児を死なせた
一人は蛇とぶどうの絡まる秤の上で
死せる者千人の足生ける者千人の眼の衡量の等しいのに驚く
一人は死んでいてなお病気
石塀の向うで咳をする

9

四人の僧侶
固い胸当のとりでを出る
生涯収穫がないので
世界より一段高い所で
首をつり共に嗤う
されば
四人の骨は冬の木の太さのまま
縄のきれる時代まで死んでいる」



Follower of Martin Van Cleve - Four Monks Singing

マルテン・ファン・クリーフ派の画家による「歌う四人の僧侶」。











































関連記事
スポンサーサイト
プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

最近の記事
カテゴリー
ブログ内検索
リンク
フリーエリア
netakiri nekotaroの最近読んだ本