平島正郎 訳 『ドビュッシー音楽論集』 (岩波文庫)

「何世紀ものあいだ知られずにいた、偶然がその秘密をあかすような男への感動以上に、あなたは、美しい感動を知っておいでか? ――そうした男のひとりであったこと……そこにこそ栄光にあたいする唯一の在りよう(フォルム)がある」
(ドビュッシー 「反好事家八分音符氏」 より)


平島正郎 訳 
『ドビュッシー音楽論集』

反好事家八分音符氏(ムッシュー・クロッシュ・アンティディレッタント) 
岩波文庫 青 33-509-1

岩波書店 
1996年1月16日 第1刷発行
324p 
文庫判 並装 カバー 
定価570円(本体553円)



本書「あとがき」より:

「本書は、クロード・ドビュッシーの Monsieur Croche Antidilettante (反好事家八分音符氏)――Gallimard, 一九二一年版――の翻訳である。
 雑誌「季刊芸術」に一九七二年秋二三号から一九七四年三〇号まで連載した拙訳であり、それらを今回まとめて一冊とし、岩波文庫より出版していただく運びとなった。」



ドビュッシー音楽論集


カバー文:

「『牧神の午後への前奏曲』、歌劇『ペレアスとメリザンド』など数多くの香気高い作品を残したドビュッシー(1862-1918)。彼はマラルメ、ルイスら象徴派詩人と親しく交わり、自らもまたすぐれた音楽評論を書いた。本書はその自選評論集で、実作者ならではのするどい見解が随所に光る。訳者の覚え書、注が加わりさらに奥行きある一冊となった。」


目次:

1 クロッシュ氏・アンティディレッタント
2 ローマ賞とサン=サーンスをめぐる対話
3 交響曲
4 ムソルクスキイ
5 ポール・デュカース氏のソナタ
6 名演奏家
7 オペラ座
8 アルトゥル・ニキシュ
9 マスネ
10 野外の音楽
11 喚起
12 ジャン・フィリップ・ラモー
13 ベートーヴェン
14 民衆劇場
15 リヒャルト・シュトラウス
16 リヒャルト・ヴァーグナー
17 ジークフリート・ヴァーグナー
18 セザール・フランク
19 忘却
20 グリーグ
21 ヴァンサン・ダンディ
22 リヒター博士
23 ベルリオーズ
24 グノー
25 公開状

訳者覚書 (平島正郎)
あとがき (平島正郎)




◆本書より◆


「クロッシュ氏・アンティディレッタント」より:

「あなたがもしそんなに熱狂をしめされたのでしたら、それはいつの日かあなたも同じ栄誉を受けたいと、ひそかにのぞんでいらっしゃったからです! 美の真実な感銘が沈黙以外の結果を生むはずがないのは、よく御存知でしょうに……? やれやれ、なんてこった! たとえばです、日没という、あのうっとりするような日々の魔法を前にして、喝采しようという気をおこされたことが、あなたには一度だってありますか? (中略)あなたがたは、自分があまりにもとるに足りない者であるよに感じて、そこにあなたがたの魂を合体させることがおできにならない。だのにいわゆる芸術作品のまえでは、自分をとりもどし、たっぷりそれについて話すことができるあなたがたの社会の古典的な用語を、持っていらっしゃる」

「専門家は好きませんな、あなた。私にとって専門にやるというのは、それだけ自分の世界をせばめることです。(中略)彼らは、一度成功したとなると、何度でもそれを執拗にくりかえすのです。そんな連中の巧妙さなんて、私にはどうでもよいことですがね。(中略)要するに私は、音楽を忘れようとやってみるんです。私が知らない音楽、というか〈明日〉知るだろう音楽を、聴くさまたげになるからね……」

「私は、批評よりも、誠実にいだかれた飾り気のない正直な印象のほうに、興味をもってます。批評というのは、〈私のようにやらぬからには、あなたは間違っている〉とか、さもなきゃ〈あなたには才能がある。私にといえばまるでない、とすれば話はこれ以上つづけられない〉といった一節(ひとふし)の輝かしい変奏に似てることが、どうもちょくちょくありすぎますな……私はね、作品をとおして、それらを生みださせたさまざまな衝動や、それらが秘めている内的な生命を見ようとするんです。」

「私は、エジプトの羊飼いの笛がひびかせるいくつかの音符のほうが、好きだな。彼らは風景にその音(ね)を合わせ、あなたがたの理論書が知らない和声を聴くんです……音楽家たちは、器用な手で書かれた音楽しかききません。自然の中に書きこまれた音楽を、決して聴かない。」
「非常に美しい構想というものは、かたちづくられつつある過程では、ばかものたちにとって滑稽に見える部分をふくんでいるのです……嘲笑(わら)いものにされているほうに、(中略)ずっとたしかな美の希望があることを、かたくお信じなさい。
独自(ユニーク)なままでいることです……世間ずれしないでね……――周囲の熱狂は、私に言わせれば芸術家を甘やかすことさ。彼がやがて周囲の表現でしかなくなるのではないかと、私はおそれてさえいるくらいです。」

「自由のうちに、みずからを律する基準をもとめなければいけない。誰の忠告もきかぬことです。」



「セザール・フランク」より:

「フランクの天才をめぐって多くのことが語られながら、彼だけがもつユニークなもの、つまり天真爛漫(らんまん)さには、かつて触れられたためしがなかった。不幸であり不遇だったこの人は、小児のたましいをもっていた。それがなにしろ底抜けに善良だったので、いちどだろうと恨みがましい想いを抱かずに、彼は、人びとの邪悪さや事の齟齬(そご)を凝視できたくらいだった。」
「セザール・フランクにあっては、不断の信仰が音楽に献げられる。そしてすべてをとるか、とらぬかだ。この世のどんな権力も、彼が正当で必要とみた楽節を中断するように命じることはできなかった。」















































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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

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趣味: 図書館ごっこ。

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将来の夢: 石ころ。

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