仁賀克雄 『ロンドンの恐怖 ― 切り裂きジャックとその時代』 (ハヤカワ文庫)

「シャーロック・ホームズ(一八八七年)、切り裂きジャック(一八八八年)、ドラキュラ伯爵(一八九七年)は、イギリスの十九世紀末が生み出した、サブ・カルチャーの三大スーパースターではあるまいか。」
(仁賀克雄 『ロンドンの恐怖』 「あとがき」 より)


仁賀克雄 
『ロンドンの恐怖
― 切り裂きジャックとその時代』

ハヤカワ文庫 NF146

早川書房 
1988年7月31日 発行
1994年4月30日 2刷
374p 
文庫判 並装 カバー 
定価600円(本体583円)
カバー: 建石修志



著者による「あとがき」より:

「一九七九年から「私の愛する切り裂きジャック」のタイトルで、ハヤカワ・ミステリマガジンに、断続的に二十二回連載した。(中略)連載完了後、最初から章の構成を立て直し、新たに書き下したのが本書である。
 私としては、切り裂きジャック事件を通じて見た、ヴィクトリア朝末期の大英帝国の首都ロンドンの一面を書きたかった。」



初版は1985年刊、本書はその文庫化。本文中図版(モノクロ)多数。


仁賀克雄 ロンドンの恐怖 01


カバー裏文:

「1988年、繁栄を謳歌するロンドンで五人の売春婦がつぎつぎと惨殺された。喉を切り裂き局部をえぐる残虐な手口に市民は震え慄き、警察は威信をかけて捜査を重ねたが、犯人は捕まらなかった。犯罪史上屈指の猟奇殺人者として、また矛盾にみちたヴィクトリア朝の象徴的存在として伝説の中に生き続ける〈切り裂きジャック〉とは何者だったのか。時代背景と事件経過を鮮やかに再現し、希代の怪物の正体に迫る。」


目次:

プロローグ 犯行以前
1章 第一の殺人
2章 第二の殺人
3章 スコットランド・ヤード
4章 第三の殺人
5章 第四の殺人
6章 ジャックの挑戦状
7章 ウォーレン総監辞任
8章 第五の殺人
9章 その後の類似事件
10章 切り裂きジャックの正体
11章 さまざまな容疑者
12章 ジャックの子孫たち
13章 切り裂きジャック伝説
エピローグ 百年後の犯行現場

主要参考図書
犠牲者一覧
有力容疑者一覧

終章のないミステリー (島田荘司)

あとがき (1985年)
文庫版あとがき (1988年)



仁賀克雄 ロンドンの恐怖 04


イースト・エンド地図。



◆本書より◆


「大英帝国の史上空前の繁栄の基盤には、悪辣な搾取に苦しむ植民地が存在したように、ヴィクトリア朝の絢爛たる栄華と豪奢の背後には、恐るべき悪徳と貧困とが横たわっていたのである。とくに産業革命が進み、人口集中の著しいロンドンでは、天国と地獄が共存していた。
 切り裂きジャックは、その地獄の腐敗した土壌に育まれた悪の華の一つにすぎない。この時代のアンダーワールドや犯罪実話の記録を繙(ひもと)けば、この種の犯罪は特殊なものでないことがわかる。」

「切り裂きジャック事件の前年、女王の即位五十周年祝典には、全ヨーロッパの王室や政府、大英帝国の植民地からの代表が参列し、国民こぞってこの偉大な女王の長寿を祝った。その余韻がいまだ醒めやらぬうちに、このいまわしい事件は起ったのである。
ヴィクトリア朝の最盛期に、この事件が起きているのは決して偶然ではない。
 対外戦争はたびたび起っても、国内においては、かつてのスペインやフランスとの戦いのように、イギリスが存亡の危機にさらされる事態はなく、植民地の拡張か分割による外地での戦争ばかりだった。ところが国内では富の流入と産業革命による貧富の格差、平和と安寧が長く続いたために道徳的堕落や腐敗などが、犯罪をひき起す温床となった。
 貴紳が地位と金銭に飽かして悪徳を行えば、庶民は貧困と絶望から悪事を働いた。それに加担しないまでも、一般大衆は猟奇的事件や犯罪に、うさばらしと異常な関心を寄せていた。世紀末の文化的爛熟や時代の閉塞状況がその背後にあった。
 ヴィクトリア時代の人々がこうしたことを気ばらしに愛好していた例が、公開処刑や、(中略)残酷見世物の繁盛ぶりである。公開処刑は一八六六年に廃止されるまで、ニューゲイト監獄をはじめ各監獄の門前で行われていた。」
「「人殺し(マーダー)! 恐ろしい人殺し(ホリブル・マーダー)だよ!」
 当時のゴシップ紙、絵入り新聞は、その販売部数を伸ばすために、好んで猟奇事件を扱い、街頭で売子にこう連呼させて、人々の興味を誘った。(中略)切り裂きジャック事件がセンセーショナルに扱われ、大パニックを起した背景には、当時のマスコミ、新聞の力によるところが大きい。」



仁賀克雄 ロンドンの恐怖 05


「上) ハンバリー・ストリート29番地の殺人現場。
下) 第2の犠牲者アニー・チャプマン。」

(「Annie Chapman - before and after death」)。


仁賀克雄 ロンドンの恐怖 03


切り裂きジャックの手紙。


「 地獄より
  ラスクさんへ
 ある女から切り取った腎臓の半切れを送るぜ。あんたのために取っておいたやつさ。残りの半片はフライにして喰ってしまったよ。かなりいける味だぜ。もう少し待ってさえくれれば、そいつを切り取った血まみれのナイフを送るぜ。
     署名 出来るものなら捕まえてごらん、ラスクさんよ」



From Hell letter (Wikipedia)



Univers Zero - Jack the Ripper




Judas Priest - The Ripper





こちらもご参照下さい:

R・D・オールティック 『ヴィクトリア朝の緋色の研究』 村田靖子 訳
































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