J・バルトルシャイティス 『幻想の中世 Ⅰ』 西野嘉章訳 (平凡社ライブラリー)

「自ら変節することなく他を同化する、これは西洋中世の持って生まれた力である。質の違う一群の形体をまるごと譲り受け、自らの環境のなかで混淆してみせたという点で、それはいっそう神秘的に、自己完結的に映る。西洋におけるゴシックの開花は外部との断絶を招いたわけでなく、古い源泉の復活をともなっていたのだ。」
(J・バルトルシャイティス 『幻想の中世』 より)


J・バルトルシャイティス 
『幻想の中世 
― ゴシック美術における
古代と異国趣味 
Ⅰ』
西野嘉章 訳

平凡社ライブラリー 249/は-14-1

平凡社 
1998年6月15日初版第1刷
296p 
B6変型判(16.0cm) 並装 カバー 
定価1,200円+税
装幀: 中垣信夫
カバー・マーブル制作: 製本工房リーブル
カバー図版: ヒエロニムス・ボス《快楽の園》部分、16世紀初頭、プラド美術館蔵


「本書は一九八五年五月、リブロポートより初版刊行されたものの改訂新版です。」



Jurgis Baltrusaitis: Le Moyen Age Fantastique: Antiquités et exotismes dans l'art gothique

本文中図版(モノクロ)106点。


バルトルシャイティス 幻想の中世 01 01


帯文:

「驚異の図像博物誌」


カバー文:

「ゴシックの夜に跳梁する異形異類、繁茂する動物文・植物文――
古代と東方の珍奇なイメージ群のダイナミックな運動を無類の学識と才筆をもって
跡づけた綺想の図像学。図版多数、2分冊。全面改訳決定版。」



カバーそで文:

「■著者
Jrgis Baltrusaitis
ユルギス・バルトルシャイティス(?-1988)
リトアニア出身、フランスの美術史家。
同名の父(1873-1944)は高名な外交官・詩人。
義父はH・フォシヨン。
『幻想の中世』(1955)、『覚醒と驚異』(1960)は
ゴシック美術に対する古代と東方の寄与を
独自の視点と図像構成から明らかにしたもの。
『アナモルフォーズ』、『アベラシオン』、『鏡』、
『イシス探求』などを含め、神秘学から光学に及ぶ
博識と才筆に支えられた著作には、
ヴァールブルク学派と共通する問題意識が見られる。
邦訳著作集(国書刊行会)がある。」



目次:

日本語版に寄せて (1984年)
緒言 (1981年)


第一章 ゴシックのグリロス
 第一節 頭部を色々に組み合わせて作る怪物
  頭脚人。
  身体各部に増殖する頭や顔。
 第二節 古代のグリロス
  ギリシア=ローマの玉石彫刻。
  躯幹に顔を持つ無頭神、多頭神、ペルシア・スキタイの頭房、サルディスの甲虫、
   面付き兜、動物のかたちをした頂飾り――の起源
 第三節 中世における古代彫石
  前ロマネスクの金銀細工において。
  十二世紀後半と十三世紀におけるカロリング朝趣味の覚醒。
  古代印章。
  金石伝説。
  グリロスの陰刻されたインタリヨ。
  マシュー・パリスの描いたカメオ。
 第四節 中世における無頭神と多頭神
  伝説のなかで。
  地獄図と寓意図のなかで。
  アングロ=ノルマン系黙示録のなかの双顔ゴルゴン。
  ゴシックの兜。
 第五節 中世末期におけるグリロス
  解体現象。
  新しい生命。
  グリロスの画家ヒエロニムス・ボス

第二章 印章と古銭の奇想
 第一節 印章の奇想
  貝中獣――貝殻からはい出る古代動物と〈貝のアフロディテ〉、中世における獣を孕む貝。
  飛行艦と魚形船
 第二節 古代貨幣
  三脚巴文。
  〈カピトリヌスの雌狼〉。
  主題の継受における古銭の役割。
  描かれたメダル。
  ガリア貨幣・ケルト貨幣の〈二本足の四足獣〉。

第三章 イスラームのオーナメントと装飾枠
 第一節 ゴシック的中世におけるイスラーム世界
  アラビア科学、「サラセン風」の趣味――蒐集品、贋造品。
 第二節 抽象文
  クーフィー文。
  多辺組紐文。
  放射組紐文。
  花文字。
 第三節 幻想的な植物門文
  ゴシックのルーミー。
  オリエントの半パルメット文と十三―十四世紀の写本の植物群。
  縁飾り。
 第四節 嵌枠
  オリエントの円形嵌枠。
  多辺形嵌枠と弁状正方形嵌枠。
  ファーティマ朝の梁。
  ルネサンスのアラベスク。

第四章 幻想的アラベスク
 第一節 獣文の回帰
 第二節 アラビア的オーナメントの変身
  生きている組紐文。
  動物のかたちをしたルーミー、四肢を欠いた獣。
 第三節 人頭・躯幹唐草
  オリエントにおいて。
  西欧において。
  無脚人。
  人のかたちをしたナスヒー体。
 第四節 「ワクワク樹」
  人頭樹。
  イスラームの伝承・図像における、動物のかたちをした植物と言葉をしゃべる植物。
  西欧的メタモルフォーズ――頭をつけた〈生命の樹〉とライン河一帯でのその作例群、
   中世植物学におけるオリエント的寓話、〈日輪樹〉と〈月輪樹〉、紋章としての〈悪の樹〉、
    〈錬金術の樹〉、〈エッサイの樹〉と〈魂の闘いの樹〉。
 第五節 その他の主題
  月の顔(かんばせ)。
  尻尾との闘い。
  もつれ合った構成――身体各部の入れ替えが可能な野兎、魚、馬、人、猿。
 第六節 ムザッーヒーブとゴシックの写本彩飾師



バルトルシャイティス 幻想の中世 01 02



◆本書より◆


「日本語版に寄せて」より:

「本書は一九五五年にアルマン・コラン社からアンリ・フォシヨンの監修になる叢書の一冊として刊行された。元版はすぐに品切れとなったが、イタリアで一九七三年、一九七七年、一九七九年と三度版を重ね、さらにルーマニアでも印行(一九七五年)されている。新しい仏語版の必要とされる頃合いでもあり、一九八一年にそれがフラマリオン社から出版された。その機会に本の装いを一新し、本文と註記を増補した。日本語版はヨーロッパに対する東アジアの寄与の問題を補訂した最新版が底本となる。東方の図像の西方への流入は十七世紀から矢継早に始まるが、その道を拓(ひら)いたのは蒼古たる先例であった。西欧の幻視者を魅了してやまぬ、生動する器物の怪異〔器怪〕など、幻想的主題を描き出した最古の作例は日本に見られるのだ。」


「序」より:

「中世は幻想的なものを切り捨てたりなどしなかった。自らの蒼古たる形体を復活させながら、あるいはそれらを新しいシステムで豊饒なものとしながら、たえず幻想的なものへ立ち戻りつつ進化を遂げたのだった。中世は自らの想像力を永らく育んできた古代や異国の広範な文化的伝統と絶縁したわけでもなかった。
 本書ではこうした外部からの寄与を研究の俎上に乗せる。十三世紀にはそれらの影響がおぼろげに見えるようになっていたが、ゴシック美術の本流はいまだ調和と安寧のなかでまどろんでいた。しかし時が経ち、一方で洗練を求め、錯綜を極めようとするうち、規矩の均衡に破綻を来たし、また他方で悪夢、天変地異、動乱などが、とりわけ物語文学(ロマン)に登場する時代になると、外部からの影響もいちだんと強まってくる。地獄図、怪異な生き物、動物誌や写本欄外や彫刻装飾に跋扈する架空の生き物の再生、現実世界の只中での虚構の大々的な復活は、この過程の初期段階を規定していた諸々の主題や原理の統一性を揺さぶらずにおかなかった。それらは幻想や伝承の温床としてあった諸源泉、すなわち古典古代と東方世界を一挙に甦らせたのだった。」

「自ら変節することなく他を同化する、これは西洋中世の持って生まれた力である。質の違う一群の形体をまるごと譲り受け、自らの環境のなかで混淆してみせたという点で、それはいっそう神秘的に、自己完結的に映る。西洋におけるゴシックの開花は外部との断絶を招いたわけでなく、古い源泉の復活をともなっていたのだ。」



「ゴシックのグリロス」より:

「生き物のかたちを正規の場所からずらしてみせたり、いくつも反復してみせたり、異様なほどに部分拡大してみせたり、いくつかを混ぜこぜにしてみせたり。すると超自然的な力が湧き出てくる。ブランシェによると、グリロスにまつわる「成長」という言葉も、雄羊の頭の出現頻度の高さも、これらの呪物が豊饒や富裕と関わりを持っていたことを示すものだという。」
「ピカールによれば、クレタ島とエジプトを揺籃とする無頭の神々こそ顔をあちこち動かせる怪物の起源なのではないかという。主要な器官を保存する必要性と解剖学的な部位の魅力とが顔の転位を決定したのかもしれない。」

「アルフォンソ賢王の『金石誌』には太陽神と斬首という図像伝統が直截に再現されている。それは首を斬り落とされ、星を戴いて立っている。」
「年代記も無頭児の誕生のことをしばしば取り上げている。ヴィッテンベルクでは一五〇三年に、レイデンでは一五一四年の一〇月一三日に無頭で胸前に目、鼻、口腔のある奇形児が誕生している。
 躰のあちこちに顔を持ち、しかも正常な頭部を有する人像となるとさらに数が多い。それはまずイギリスで、しかも悪魔の姿で広まった。」



「印章と古銭の奇想」より:

「玉石彫刻は夥しい数にのぼる異形モティーフを中世にもたらした。それらのなかでも、とくに〈貝中獣〉はインタリヨで特殊な場所を占めている。馬、驢馬、雄牛、鹿、雄鶏、象、野兎、鼠、対をなす四足獣が渦巻形の殻から蝸牛のように姿を現す。ときには犬が貝から跳ね出て野兎に噛みつき、獣が人を襲い、象が鼻で松明や材木などを運ぶ。」
「アフロディテも同じ条件から生まれた。」
「海辺に住む人々にとって海はあらゆる生き物の源であった。地上の動物でさえそうだ。(中略)アナクシマンドロスとタレスの思想はこうした水の魔力への信仰にまるごと支配されており、貝の奇跡もおそらくそうした信仰と結びつくのだろう。」
「豊饒の貝はその普遍的な価値、その豊かさのゆえにギリシア=ローマの玉石彫刻に映し出されている蒼古たる宇宙開闢論的教説と一つになった。」
「海の貝のなかで陸棲動物が誕生し、空中も水中も彼らの住処となる。ギリシア=ローマの覚醒はそれの正確な境界内で安定化するどころか、逆に現実世界に揺さぶりをかけるのだ。」



「幻想的アラベスク」より:

「動物を実らせる植物は装飾文様と伝承の二重の伝統に依存している。この植物はもとを辿れば〈生命の樹〉であり、その生命力があまりに強く荒々しいがため植物の枠から逸脱してしまったのだ。」
「物語にはいくつもの異本が存在する。ある本によるとこうだ。この驚くべき樹ははるかかなたの島からもたらされたものであり、梢にアダムの息子の頭を実らせていた。それらの頭は、朝な夕なに「ワクワク」との叫び声をあげ、造物主への讃歌を唱うという。別の本によれば、樹は女性の躰をまるごと実らせ、その「ワクワク」という呼び声は凶兆とされた。伝承は十世紀に書かれた『インドの驚異に関する書』のなかで語られており、そこでは人の顔にも似た、南瓜のような実をつける樹とされている。しかし、人頭樹に関する最古の記述は、七五一年のタラスの戦いでアラビア人に捕えられた中国人杜佑が後に撰した『通典(つてん)』のなかにある。」
「「大食(アラビア人)の王は、一隻の船に人々を乗せ、衣類と食糧を積み込ませ、海のかなたへ遣わした。八年の船旅の後に、人々は方形の岩礁を眼にとめた。その上には赤い枝に緑の葉のついた樹がはえていた。梢には小さな子供がびっしり実っていた。彼らはみな、身の丈六、七寸で、言葉はしゃべらなくとも、人を見ると笑い、身を動かすことができた。彼らの手、足、頭は、枝にしっかりとくっついていた。もぎ取って、手のなかに入れるが早いか、枯れて黒くなった。」」
「ジャーヒズの『動物誌』(八五九年)にもまた異版がある。曰く、ワクワク樹から動物と女が生まれ、それらが毛髪で枝から吊り下がっている。女たちは色づいており、「ワクワク」と言うのをやめない。枝からもがれるとしゃべるのをやめ、死んでしまう。十二世紀のアルメリアの逸名地理学者の『地理誌』によれば、これらの驚くべき植物はシナ海に浮かぶワクワク島にはえているという。葉は無花果のそれに似ている。三月初旬には結実が始まり、乙女の足がはえ出すのを見ることができる。胴体は四月、頭は五月に現れる。(中略)六月初旬には地面に落ち始め、中旬には全部なくなる。落ちながらそれは「ワクワク」と叫ぶのだという。」
「伝承として世に広められた奇譚はまだほかにもあった。東洋には動物と一つになる植物が満ち溢れていた。ヒンドゥー教の庭園では石榴が花咲き、そこから多色鳥が生まれる。地面に落ちた枝に生命が宿り、それが蛇のように這って進む、といった類の樹も存在する。逆に動物の方も、野菜かなにかのように地面に植えられる。「牝羊の臍を地中に埋め、それに水をやれば、そこから仔羊が生まれる。動物は雷鳴で芽を出す」。これは中国伝来の、タタール人の物語である。(中略)『エルサレム・タルムード』はまた別な異本を提供してくれる。サンスのラビ、シメオンの註解書(一二三五年)によると、ヤドゥアと呼ばれる半人半獣の被造物は、山奥で成長し、臍の緒で根とつながっているという。周囲の草を貪り食い、近づくものなら何人にも襲いかかる。それを退治するには地面とつながった緒を断ち切るしかない。」
「カルロ・ゴッツィ(一七二〇―一八〇六年)も、その『三つのオレンジの恋』のなかで、生き物(仔羊)を孕む果実(メロン)の話を取り上げている。タルタリアの王子は、砂漠で最初の二つのオレンジの皮をむき、そこから二人の可愛いい姫君を取り出すが、彼女たちはたちまちのうちに乾涸びて死んでしまった。しかし、三番目のオレンジから出てきた姫君は救われ、王子に嫁ぐよう運命づけられた人となる。西洋へ移植された東洋の植物はたえず意味内容を変化させている。イスカンダルの樹はその果実を増やし、〈錬金術の樹〉に姿を変えた。」



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こちらもご参照ください:

J・バルトルシャイティス  『幻想の中世 Ⅱ』  西野嘉章 訳 (平凡社ライブラリー)
Richard Barber 『Bestiary』 (MS Bodley 764)
J・マンデヴィル 『東方旅行記』 大場正史 訳 (東洋文庫)
カルヴィーノ 『イタリア民話集 (下)』 河島英昭 編訳 (岩波文庫)
『唐宋伝奇集 (下) 杜子春 他三十九篇』 今村与志雄 訳 (岩波文庫)
中野美代子 『契丹伝奇集』
澁澤龍彦 『幻想博物誌』






























































































































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ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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