白川静 『中国古代の文化』 (講談社学術文庫)

「共餐によって、人はその構成員となる。それでもし死者が死者としての食事、すなわち「黄泉戸喫(よもつへぐひ)」をすると、再び現(うつ)し世に帰ることは許されなくなる。」
(白川静 『中国古代の文化』 より)


白川静 
『中国古代の文化』
 
講談社学術文庫 441

講談社 1979年10月10日第1刷発行/2007年5月18日第21刷発行
311p 
文庫判 並装 カバー 
定価1,000円+税
装幀: 蟹江征治
カバーデザイン: 粟津潔



本文中図版多数。


本書「あとがき」より:

「東アジアの古代文化圏のなかで、わが国の古代を考えるということは、いうまでもなく比較文化論的・比較文学的な作業である。そのためには、その文化圏のいわば原点をなす中国の古代について、ともかくもその全体を展望しうるような構図が、まず用意される必要がある。それでこのさい、私自身への今後の指標とすべきものをも含めて、中国古代の諸問題に、いちおうの構図を与えることを、試みることにした。」
「本書はその第一部であり、あわせて総論的な意味をも、もつものである。」
「この書でとりあげる問題は、いわば民族のもつ基礎的体験の世界である。存在と秩序の根拠とされるもっとも基本的な問題について、その原初に遡って考察することを試みようとした。第一章では、「文の理念」を論じた。文はもと加入と聖化の儀礼である文身を意味する字である。文身は東アジアの文化圏において、その沿海民族のほとんどがもつ習俗であったが、そのような文を人文の極致としての、理念的なものにまで高めた思惟のうちに、この民族のもつ創造的な力が、秘められているように思われる。
 第二章の「考古の世界」では、青銅器文化の原質について考えた。それは異民族を圧服するための、荘厳なる呪器であった。江南の大鐃(どう)に象徴されるこの聖器の性格は、南方苗(びょう)系諸族のもつ銅鼓、わが国の銅鐸の機能を考えるとき、示唆するものがあるはずである。
 第三章の「秩序の原理」は、古代的共同体のもつ組織原理についてふれた。守護霊を中心とする盟誓が、組織の方法であり、その拡大の上に国家の形成が考えられる。すべて宗教的なものが、その原理としてはたらいている。
 第四章「原始法の問題」は、原始法の観念が、共同体の組織原理に反するものを、贖(しょく)罪として追放し、祓い清めることに起源することを述べた。わが国の大祓(おおはらい)も、まったく同じ観念にもとづいている。
 第五章「巫祝の伝統」は、王権と聖職者との関係について、古くは王が巫祝王として神権的な存在であり、のちその分離によって、祭政もまた分離することを述べた。巫祝の伝統のありかたは、それぞれの民族の文化に、多様な賦彩を与えており、芸能の起源も、おおむね神事のうちに求められる。
 第六章「歌舞と芸能」は、そのような巫祝の伝統のなかで生まれた、文学や芸能の問題にふれた。いずれも本来は呪的な性格のものから、芸能的なものに展開してゆく。これはわが国に、もっともゆたかな遺存がある。
 第七章「文字と古代文化」は、文字の成立と思惟のしかたとの関係について考えた。文字の創造とは、文字の形象とその構造とを通じて、文字による世界像を構成することにほかならない。中国の文化が、たとえば文身の文を理念的な意味のものに、あるいは首祭りの字である道を、道徳や実在の意味にまで高めることができたのは、概念を文字に定着し、それによって、概念の深化を行なうことができたからにほかならない。そのようにして文字は、古代文化のもっとも有力な推進者となった。
 第八章は「古代文化の展開」と題するが、以上に述べた問題のいわば総括である。」
「すべてこれらのことは、そのままわが国の古代を考えるときに、比較の対象となりうるものである。私はすでに『詩経』と『万葉集』について、比較文学的な試論を試みたことがあるが、そのような方法は、歴史と文化の全領域にわたって、適用しうるものであろう。」



白川静 古代中国の文化


カバー裏文:

「日本の古代を知るためには、東アジア古代文化の源流をなす中国の古代について、その全体を展望しうる構図が、まず確立されねばならない。本書は、かかる問題意識の上に、中国の古代を、文化・民俗・社会・政治・思想の五部に分ち、その諸問題を明らかにせんとする、画期的な作業の第一部である。中国古代学の泰斗による、この比較文化論的な試みにより、われわれはいま、東アジア的古代世界の全く新しい姿をここに見ることができる。」


目次:

第一章 文の理念
 〈1〉 文の字形
   文とは何か
   文の字形
   文と寧
 〈2〉 聖化と加入の儀礼
   屍体聖化
   文の系列字
   アヤツコの説
 〈3〉 文の理念
   文と武
   文の徳
   斯文と天命
   天文と人文
   文の意義
   文身文化圏
   文の歴史

第二章 考古の世界
 〈1〉 偏枯の神
   洪水説話
   彩陶土器と禹の神像
   偏枯の神
 〈2〉 埋もれた聖器
   人面文の器
   人面文の意味するもの
   山中の聖器
   南人の故郷
 〈3〉 望の儀礼
   江南の大鐃
   異族への呪儀
   山上の祭祀
   壺と銅鐸

第三章 秩序の原理
 〈1〉 家族と氏族
   原始の秩序
   家の字形
   家と室
   氏族について
   氏人のちかい
 〈2〉 盟誓の方法
   誓いの形式
   血の盟い
   誓と哲
   自己詛盟
 〈3〉 社稷について
   社の起源
   稷と畯
   諸侯の盟誓
   宗廟と社稷

第四章 原始法の問題
 〈1〉 神判について
   聖と俗
   羊神判
   亡命の法
   大祓の詞
 〈2〉 刑罰の形式
   罪と罰
   自由刑について
   伝棄の法
 〈3〉 法の起源
   異族の神
   伯夷と共工
   四凶放竄

第五章 巫祝の伝統
 〈1〉 巫祝王
   守護神と悪神
   殺される王
   焚巫の俗
 〈2〉 神巫と聖職者
   巫咸の国
   巫系の文化
   医と筮と鼓
 〈3〉 聖職の人
   巫と祝
   霊の授与者
   彭咸の遺則
第六章 歌舞と芸能
 〈1〉 歌舞について
   巫俗の地
   歌謡のおこり
   舞楽のおこり
 〈2〉 遊戯について
   遊行する神
   戦争と遊戯
   遊部と歌舞
 〈3〉 道術について
   方相氏
   道と術
   芸能の起源

第七章 文字と古代文化
 〈1〉 文字の成立
   群形象と意味系列
   犬の形象
   「うつ」の意味系列
 〈2〉 社会と生活
   婦人の地位
   臣と妾
   死喪の礼
 〈3〉 文字の背景
   自然観について
   存在と真
   漢字と思惟

第八章 古代文化の展開
 〈1〉 具体と抽象
   鳳と風
   道徳と道術
   数について
 〈2〉 呪術と儀礼
   軍礼について
   裁判について
   青銅器の文化
 〈3〉 神話と経典
   禹と墨家
   堯舜と儒家
   神話と思想

あとがき



本書より:

「大鐃(だいどう)の出土地が、すべて江南の、しかも異族に接する辺境であるということは、この器のもつ目的が、その異族にたいする呪的機能にあることをすでに示すものであるが、その器がまた、すべて眺望に適した高所に埋められていることから、その呪的方法は、この高所から外族にたいして行なわれる形式のものであることを、推測することができる。そのような呪儀として行なわれるものが、「望(ぼう)」である。わが国で国見(くにみ)といわれるものであるが、中国における望の歴史はきわめて古く、またそれはのちに王朝の重要な国家的儀礼として典礼化された。」
「望という字は、遠くを望み見る呪儀を示す象形字である。それは見るという眼の呪力に訴える行為であった。見ることは、その対象にはたらきかけるという力があると、考えられていたのである。」

「眉人というのは、眉に呪飾を加えた巫女(みこ)のことで、眉人とは媚女(びじょ)のことである。媚は呪術を行なう巫女が、呪飾を加えている姿である。戦争のときには、この媚女たちが軍の先頭に立ち、あるいは鼓を鳴らして、敵に呪的な攻撃を加えた。(中略)それで戦争が終ると、敗れた方の媚女たちは、その魔術的な力を失わせるために、すべて殺された。それが、軽蔑(けいべつ)というときの蔑である。」

「祖祭には犠牲を供して祭り、祭りののちにはその祭肉を分け合い、同族のものが集まって会食する儀礼が行なわれた。これを共餐(きょうさん)という。(中略)共餐によって祖神と同族者とが結合される。それは共同体としての関係を確かめる行為である。
 共餐によって、人はその構成員となる。それでもし死者が死者としての食事、すなわち「黄泉戸喫(よもつへぐひ)」をすると、再び現(うつ)し世に帰ることは許されなくなる。」

「古く横穴式、あるいは半地下形式の住居であった時代に、光を受ける窓は限られており、そこが神を迎えるところであった。それで神明という語がある。明とは神の臨むところである。その神明の臨むところで血をすすり合うことが、盟約の形式であった。器中の血をすすり合うことは、氏族の共餐の儀礼と同じく、一体化の意味をもつものである。」









































































































































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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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