「ユリイカ 詩と批評」 特集: 吉田健一



「ユリイカ 詩と批評」 
特集: 吉田健一

1977年12月号 第9巻第13号

青土社 
1977年12月1日発行
246p 
22×14.2cm 並装 
定価780円
編集人: 小野好恵
表紙・扉: 飯野和好



「編集後記」より:

「吉田健一氏の特集の企画は、氏がご存命中から決っていた。心ならずも追悼特集の形になってしまった。」


本文中図版(モノクロ)多数。


吉田健一 ユリイカ 01


目次:

連載
 オウィディウス変容譚・最終回――ものが語る世界 (久保正彰)
 しなやかな時の鏡のように・ラスト・デイト――時の過ぎゆくままに (桃井かおり)
 サムシングエルス・オン・シネマ・千秋楽――流れ者とのラスト・デイト (川本三郎)
対話
 現代芸術を挑発する (池田満寿夫・飯田善国)
  作家と批評家/なぜ現代詩を読むか/論争なき批評

 夕暮れ (黒田三郎)
 眼をつぶる (中桐雅夫)
 秋霜記 (窪田般弥)
 欠けたる輪の、密の部分 (本吉洋子)
追悼
 石原吉郎追悼 (清水昶)
 石原吉郎追悼 (佐々木幹郎)
 宮川淳追悼 (渋沢孝輔)
 宮川淳追悼 (阿部良雄)
 稲垣足穂追悼 (加藤郁乎)
 稲垣足穂追悼 (松山俊太郎)

特集: 吉田健一
 本邦初訳・英語論文
  日本の文学情況 (吉田健一/訳: 中矢一義)
  日本人の眼から見る西欧 (吉田健一/訳: 中矢一義)
 エッセイ
  友人として (福原麟太郎)
  吉田健一とケンブリッヂ (ドナルド・キーン)
  吉田健一氏をめぐる時間 (氷上英廣)
 半歌仙
  奥津峡独吟 (安東次男)
 評論
  吉田健一のためのレクイエム (辻邦生)
  アルコールの霧の向うの風景 (飯島耕一)
  汎現在と時間 (高橋英夫)
  『ラフォルグ全集』の余白に (杉本秀太郎)
  吉田健一論 (富士川義之)
 共同討議
  吉田健一をどう読むか (篠田一士・川村二郎・清水徹)
   文学史のなかの位置/文学的出自/吉田健一と保田与重郎/『東京の昔』/吉田健一と英文学/世紀末と頽廃/ ラフォルグとヴァレリー/なぜ伝記なのか
 エッセイ
  文体のことなど (外山滋比古)
  宵のひととき (岡富久子)
 評論
  『フィネガンのお通夜』 (大沢正佳)
  『金沢』 (保苅瑞穂)
  吉田健一の文体 (柳父章)
  おとぎ話 (小佐井伸二)
  黄昏の静かな瞬間 (岡田隆彦)
  生きて書く喜び (宇佐美斉)
  酒・時間・旅 (前川祐一)

評論
 ドゥルーズとカフカ (宇波彰)
連載
 マゾッホの世界――貴婦人修行 (種村季弘)
 宮沢賢治――「峠」の黒い大きな岩 (天沢退二郎)
 断章 (大岡信)
われ発見せり
 おちこぼれ文化 (佐藤忠男)

ユリイカ 1977 総目次

裏表紙: My Back Page 13 ゲイリー・バートン・カルテット"さすらい人”
 都会の子どもの眼に映るもの (対馬佑子)



吉田健一 ユリイカ 03



◆本書より◆


「吉田健一をどう読むか」(篠田一士・川村二郎・清水徹)より:

篠田 (中略)こないだから皆さん方の追悼文を読んでて、高橋義孝さんの短い文章(「海」十月号)、一寸ぼくは気になりましたね。べつに高橋さんの悪口いうわけでもないんだけど、吉田健一というのは、頭はそうよくなかった、だけど非常に一所懸命たえずやってきた男である。ということが書いてあって、ぼくはなるほどなと思ったんだけど、つまり他人を頭がいいとか悪いとか、まあ酒席で、馬鹿だ馬鹿だ、あいつは馬鹿だというのは、いともやさしいけど、活字にして、あいつはあんまり頭よくなかったとかっていうことは、これなかなか勇気のいることでね。その点高橋さんには、なにがしか根拠があろうかと思うんだけど、高橋さんがあそこでそれらしきものとしてあげておられるのは、文章が吉田さん一流の、およそ現行の日本語のスタイルを無視したような文章だ、ということじゃないかな。」
「たしかにぼくも吉田さんと二十年ぐらいおつきあいさせていただいて、まあおつきあいといったって、いつだって素面じゃない。酒を飲んだときだから、ちょっとこれは特殊といやあ特殊な場合だけど、吉田さんの頭脳の働き方というのは、いわゆる日本人には通用しないというか、日本人ばなれした頭脳の働き方をしてて、こういうのをイギリス的といやあイギリス的、よくイギリス人にいるんですよ、ディテールはでたらめで、だけどものの本質だけはきちっとつかむ、そういう人は日本的な受験勉強とかそういうものを階段にする学校組織のなかでは、いつも失敗するんだな。吉田さんが中学以降日本の学校を出ておられぬということは、それと関係あるのかないのか、(中略)高橋さんなんかはその点まあドイツ式というのか、あるいは日本式というのか知らないけど、つまりディテールもきちっとなにもかも押えてて、試験答案なんかはちゃんと書けるという、そういういわゆる優等生ですね。そういう頭脳というものはいい頭脳で、それにはまらないのは、なんか頭悪いんだとか、よくなかったとかいうことは、暗黙のうちにあるんじゃないかな。まあこういうこと言うと高橋さんは優等生嫌いだろうと思うから、そんなことはないとおっしゃるだろうけどね。」
川村 いや、優等生好きだと思うよ、あの人は。御自分が優等生だしね。
篠田 高橋さんは優等生かね。
川村 そりゃそうだよ。それが日本的な意味でそうかどうか、ま、ドイツ的ってことはないと思うけどね。しかし優等生というものについての、やはり日本の常識みたいなものはあって、そこに収まる人でしょうね。吉田さんがそこから外れているということは、これは歴然としてるね。ただその外れ具合が、どうなんだろうね、いま篠田が、ディテールはでたらめだけれども押えるところはちゃんと押えてる、見るところはちゃんと見てると。後の点は全くそう思うんだけど、ディテールの点どうなのかね、案外それも確かなんじゃないの。」
篠田 いや、そうじゃない、かなりでたらめだな。それからとくにまあ酒席というか、酔っぱらいの状態で話するからね、Aのものが簡単にBのものになったりするんでね。こっちは、ああこれはBの話だけど、Aのことを言っておられるんだなというふうに理解して、話をするわけだ。
 まあ、それはつきあいの話だけども、書かれたもののうえでも、かなりそういうところがあるね。ところが吉田さんの方にはそれなりの立派な理由があって、たとえばジョン・ダンをドヌと吉田さんは書かれる。たしかに昔はドヌと読んだ時代もあった。しかし、一九二〇年代の終りか三〇年代の初めに、これはもうダンという発音をしたということが実証的にハッキリ、学者がしたんです。アンダン(undone)という音とジョン・ダンという音をライム踏ましてるのよ。そこはライム踏まなきゃどうしようもない書き方のところでね。だからジョン・ダンは、自分の名前をダンと発音していたことは間違いないんですよ。ぼくは吉田さんと初めて会ったときにそのことを話して、どうしてドヌと書かれるんですか、といったら、いや、なんの根拠もないんだ、(中略)ぼくがドヌと書くのは、ケンブリジにいたころに習ったなんとかという先生がそういったから、それをそのまま信用してるんです、という、これはまたいかにも吉田さんらしいとこなんだな。(中略)やっぱりそういうところも見る人が見りゃ不勉強で頭がよくない。ということになるんだろうか。
川村 まあ、そう思う人は思うんだよね。(中略)まあ高橋さんは、そういう固有名詞のカナ書きについては、恐ろしく神経質な人だね。だからそういう人から見ればドヌなんて書くのは、それはディテールがでたらめということになるのか知らないけれども、ただいまの話のように、ケンブリジの先生がそういったからってのは、これはやっぱりそれとして筋が通ってる。そういう意味での筋の通り方は、吉田さんの書いたものの到る所にあるんじゃないかしらね。」

清水 吉田さんの翻訳ということですけれど、吉田さんから『ドガ・ダンス・デッサン』の見直しを頼まれましてね。大変に面白い発見をしました。まず、ものすごくフランス語ができる人だっていうことを、もう一度ぼくははっきり、こういう公的な席でいわなくちゃいけないと思ってるんです。語学教師的じゃなくて、文章の言わんとするところをスパッとつかまえるあれはそうだれにでも出来ることじゃない。それからね、ヴァレリーっていう人はわりに狒々じいさん的なところがある人でしょう。つまり、しばしばかなりエロティックなことを書く人ですよね。『ドガ・ダンス・デッサン』のなかで、いやらしいところは、吉田さんは訳してない。
篠田 そうだろ。あれ、ちょっといやらしいもんだよな。
清水 二ヵ所あるんですけどね、はっきり、これは脱落じゃないと思うんです、ぼくは。
篠田 しかし、それはどうだろう、当時の検閲を慮って、ということはないかね。
清水 いや、ヴァレリーは手が籠んでますから、そのまま訳したって、どうってことはないんです。だけど、それでも吉田さんの美意識には合わないんだな。」



吉田健一 ユリイカ 04










































































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Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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