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阿部謹也 『中世の窓から』

「かつて次のようにいった人がいます。「人間は自分がそのなかに住んでいる現実の状況を、自分がそれにうまく適応している限り、理論的に把握しえない。そのような存在条件のもとでは、人間は自分の環境を、いかなる問題をも提起しない自明の世界秩序の一部とみなしがちである。」この言葉は学問をする者だけでなく、すべての人びとにとって物事をみるときの重要な視点を教えてくれます。
 中世社会をみようとするときも、この社会のなかでうまく適応出来る人びとだけをみていたのでは、この社会の本質をとらえることはできないでしょう。」

(阿部謹也 『中世の窓から』 より)


阿部謹也 
『中世の窓から』


朝日新聞社 
昭和56年3月30日 第1刷発行
昭和57年12月20日 第12刷発行
307p 目次3p あとがき2p 参考文献v 
口絵(カラー)2p 図版(モノクロ)2p
20×15.3cm 角背紙装上製本 カバー 
定価1,600円
装幀・扉挿絵: 安野光雅



本書「あとがき」より:

「一九八〇年二月から七月にかけて朝日新聞夕刊に連載した「中世の窓から」(百回)に加筆訂正をし、さらに第四章第二・三節を新たに書き加えて一書としました。」


本文中図版(モノクロ)多数。
本書は1993年に朝日選書470として再刊されています。


阿部謹也 中世の窓から 01


帯文:

「大佛次郎賞受賞
現代におけるヨーロッパの、人と人との関係の根源を、中世社会にさかのぼってとらえる。」



阿部謹也 中世の窓から 03


目次:

はじめに

Ⅰ 聖と俗の間――中世都市
 1 市民の暮らし
  中世都市ニュルンベルク
  オイレンシュピーゲルのいたずら話から
  聖者伝説と富の蓄積と
  ニュルンベルク、町の生活
  アジールとしての家、都市
 2 貨幣の役割
  かつて貨幣は主たる交換の手段ではなかった
  税金と人口構成
  貨幣の世界、人間の世界
 3 つきあいの形
  兄弟団を軸として
  つきあいは集団を単位としていた
  兄弟団の序列、ひとはなぜ兄弟団に入ったのか

Ⅱ 職人絵の世界
 1 一二人兄弟の館
  「一二人兄弟の館」創立
  メンデル家の人びと
  「館の書」・職人絵をとおして
 2 靴職人の世界
  仕事場のなかの職人たち
  靴をめぐる呪術的伝承
  古靴修理職人
  靴屋の仕事場
 3 衣服のタブー
  二枚の肖像画
  衣服規制の変遷
  なぜ中世において衣服規制令が現れたか
  仕立屋の仕事――親方と徒弟と
 4 石と鉄――呪術的世界
  遍歴して歩く石工と都市の石工と
  大聖堂ができあがるまで
  贖宥と聖遺物
  石工の伝統
  ロレンツ教会
  鉄の文様――多彩な中世の鍛冶職人たち
  剣と刀鍛冶の歴史

Ⅲ 人と人を結ぶもの
 1 仮面の祭り
  シェンバルト祭
  仮面と祭り――シェンバルト廃止の意味するもの
 2 飛脚
  人と人を結ぶ手紙
  飛脚の登場
 3 子供の遊び
  春の遊び
  「鬼ごっこ」他――社会の中の子供、子供の中の社会
  駆けっこ、格闘技、石投げ他……
  ネーデルランドの子供の遊び
  犬と猫へのまなざし

Ⅳ 原点への旅
 1 一一世紀の大転換
  「ヨーロッパ」の成立
  巡礼――聖地への旅立ち
  三圃農法の導入と人口増加
  都市へ――千年王国の夢
  一一世紀以前のヨーロッパの状況
 2 贈物で結ばれた世界
  かつて交換や契約は進物のかたちでなされた
  古ゲルマンの世界では――贈与行為の有償性
  贈与をめぐる社会慣行の変容
  市場の形成
  キリスト教と贈与慣行
 3 女性と異端
  貨幣は人間の絆を生まない
  娼婦も市民権をもっていた
  婦人はほとんどの職種から排除されていなかった
  修道院や「神の家」ベギン会での生活
  聖なる絆をもとめて
  異端とされた人びと
 4 時代のはざまで――ユダヤ人
  ユダヤ人の中世と近世
  なぜユダヤ人を?
  ニュルンベルクのユダヤ人
  「自由な人びと」ユダヤ人

Ⅴ ふたたび町へ
 1 聖性の喪失
  賭博の流行と禁制
  宗教改革、ローマ法の採用と市参事会
 2 音で結ばれた世界
  中世都市は豊かな音の交錯する世界だった
  職人の歌、学生の歌、マイスタージンガーの登場
  どの町にも固有な音の世界があった
  人びとの生活は鐘の音にあわせて営まれた
  共同体のシンボルとしての鐘

あとがき
参考文献



阿部謹也 中世の窓から 04



◆本書より◆


「市民の暮らし」より:

「たしかに現在でも、ヨーロッパの多くの町に中世のあとを留めている建物や彫刻は、私たちをも魅了するほどですが、これらの文化はフロワサールがいうように、都市の商業活動によって支えられていたのです。中世都市の文化の根底に商業に基づく富の蓄積があったことは明らかなのですが、その富がそのままで文化を生んだわけではなく、富の蓄積に対する反発、あるいは富を否定しようとする根強い意志が他方で強い流れとして存在していたために、傑出したさまざまな作品が生まれたとすら考えられるのです。貨幣経済の展開によって、経済とは全く関係のない学者や文人、芸術家などの活動がはじめて可能となる半面で、これらの人びとの活動が貨幣経済の進展とは異なった方向に文化を導いてゆくことになります。」


「貨幣の役割」より:

「貨幣をめぐる民間伝承は大変古く、すでに紀元前のケルトの金貨について、雷雨のあと、虹の一方の端が地上におりているところに、天からおちてきたものだといわれていました。その貨幣に彫られた像も神を示しているものだといわれていたのです。」
「ここでみておかなければならないのは、貨幣が護符、お守りとして用いられていたことです。」
「紙幣と違って、金属貨幣には金属のもつ呪術的な力が宿っているとみられていたのです。」

「日常生活のなかでの人と人との関係において、貨幣が大きな意味をもちはじめると、ときには奇妙な事態も生じてきます。一六九〇年のことですが、ある小都市の教会の祭壇画が傷んでしまい、実直な画家の親方が修復をしたことがありました。この親方は修復が終わると、教区教会に次のような計算書をつけて代金の請求をしたのです。
 計算書明細
 一、十戒に手を加え、第六戒にニスをぬる……二クローネ
 一、ピラトの前と後ろにラッカーを塗る……三クローネ
 一、大天使ガブリエルに新しい翼をつける……二クローネ
 一、天を広げ、新しい星を描く……二クローネ
 一、全くはげてしまった聖マグダレナを新しくする……三クローネ
 一、賢き乙女を調べ少し筆を入れる……一クローネ
 一、紅海についた蠅のしみをきれいにする……三クローネ
 一、世界の終末を少しのばす、短かすぎるから……四クローネ
 一、地獄の火を大きくし、悪魔の顔をゆがめる……五クローネ」



「子供の遊び」より:

「春になると子供たちの遊びは数えきれないほどありました。子供たちが葦笛を吹きならしていたことを、すでにヴォルフラム・フォン・エッシェンバッハは伝えています。(中略)子供たちは花輪をつくり、わらしべをぬいては占いをしました。ヴァルター・フォン・デア・フォーゲルヴァイデも、わらしべの長さを測り、恋人が思いを聞き入れてくれるかどうか、「聞いてくれる、くれない、くれる、くれない」と占った歌をのこしています。わらしべは、中世の社会においては所有権の移転の際に象徴として用いられ、法慣習のなかで重要な役割を果たしていました。一五〇二年の文書でも、所領を兄弟に譲ろうとした男が裁判所において裁判官からわらしべを与えられ、それを兄弟に手渡すよう命ぜられています。」


「女性と異端」より:

「かつて次のようにいった人がいます。「人間は自分がそのなかに住んでいる現実の状況を、自分がそれにうまく適応している限り、理論的に把握しえない。そのような存在条件のもとでは、人間は自分の環境を、いかなる問題をも提起しない自明の世界秩序の一部とみなしがちである。」この言葉は学問をする者だけでなく、すべての人びとにとって物事をみるときの重要な視点を教えてくれます。
 中世社会をみようとするときも、この社会のなかでうまく適応出来る人びとだけをみていたのでは、この社会の本質をとらえることはできないでしょう。」



「音で結ばれた世界」より:

「ヨーロッパの人びとは、中世においてなお、おそろしい未知の世界にとりかこまれていると感じていました。中世の森はオオカミや野生の人が棲む未知のおそろしい世界でしたし、夜になると森の世界は家の戸口までおしよせてくるのです。夜は森の世界でした。オオカミも森とともに戸口の近くまでやってきます。
 朝になって陽が昇ると森は再び昼間の境界線まで後退してゆくのです。夜になって森が戸口までおしよせてきたとき、オオカミや野獣の叫び声や梢を渡る風の音は、おそろしい未知の悪霊の世界からの叫び声と考えられていました。」



阿部謹也 中世の窓から 02























































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Author:ひとでなしの猫
 
うまれたときからひとでなし
なぜならわたしはねこだから
 
◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

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Away with the Fairies

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル、尾形亀之助、森田童子。

ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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