マルクス/ヘンリクス 『西洋中世奇譚集成 聖パトリックの煉獄』 (千葉敏之 訳/講談社学術文庫)

『西洋中世奇譚集成 
聖パトリックの煉獄』 
マルクス/ヘンリクス 
千葉敏之 訳

講談社学術文庫 1994

講談社 2010年5月12日第1刷発行
238p 文庫判 並装 カバー 定価840円(税別)
装幀・カバーデザイン: 蟹江征治
カバー図版: 『トゥヌクダルスの幻視』古本より



本書「はじめに」より:

「異界――とくに死後世界たる地獄、煉獄、天国――は死者の世界、死後の魂の住む世界である。キリスト教の聖典が記録するように、神との交信――聖霊降臨、夢告、幻視を通じての――が可能であった中世ヨーロッパの人々にとって、死者との交信は、生者の日常に不可欠のコミュニケーションであった。」

「本書に収録されているのは、数ある西洋中世の幻視譚、異界巡り譚のうち、その代表格と呼びうる『トゥヌクダルスの幻視(Visio Tnugdali)』、『聖パトリキウスの煉獄譚(Tractatus de Purgatorio sancti Patricii)』の二篇である。
『トゥヌクダルスの幻視』は、十二世紀半ばに書かれた中世ラテン語による散文で、作者は(中略)一一四九年にレーゲンスブルク(南ドイツ)を訪れたマルクスなるアイルランド人修道士である。同幻視譚は、そのレーゲンスブルクにある聖パウロ修道院長ギゼラの依頼で執筆され、同院長に献呈されている。本幻視譚は、『聖パウロの幻視(Visio Pauli)』等の先行する幻視文学の伝統を継承し、やや遅れて生まれた『聖パトリキスの煉獄譚』とともに遍(あまね)く流布し、幻視文学の最高峰と評されるダンテの『神曲』をはじめ、後代の幻視文学にも多大なる影響を与えたと言われている。
一方の『聖パトリキウスの煉獄譚』は、アイルランド北部の湖上の島に実在する施設〈聖パトリックの煉獄〉に入坑したオウェインなる騎士が、丸一日の間に体験した煉獄巡りを中心とする幻視譚である。」

「二篇のテクストのいずれにも俗語版や韻文版が存在するが、本書ではそれらの原型であり、それ自体広く普及した中世ラテン語版を訳出した。」


本文中図版(モノクロ)24点、「訳者解説」付図5点。


聖パトリックの煉獄1


帯文:

「腹を食い破る蛇、悪霊たちの打擲、
四肢を断ち切る処刑人、灼熱と悪臭……
想像を絶する責め苦と試練が
待ち受ける西欧版地獄とは?」



帯背:

「二人の騎士の異界探訪記」


帯裏:

「女子修道院長たる、尊敬すべきギゼラ殿へ、(略)修道士マルクスより。(略)自己の愚鈍を貴女に露呈しても恥と思わないことに致します。と申しますのも、《聞き従うことは生贄に勝る》からで、(略)賢き貴女が喜ばれるのは、アイルランド人トゥヌクダルスなる者の身に起きた不可思議を、いかに吾等の筆が無学であっても、野卑な言葉(俗語)からラテン語に翻訳し、入念な貴女のもとで転写されるべくお送りすることです。
(「トゥヌクダルスの幻視 序」より抜粋)」



カバー裏文:

「一二世紀、ヨーロッパを席巻した冥界巡り譚「聖パトリキウスの煉獄」「トゥヌクダルスの幻視」を収録。二人の騎士は臨死体験を通して、異界を訪問する。無数の悪霊の襲来から始まり、灼熱、悪臭、寒冷、虫、蛇、猛獣が跋扈する煉獄で、執拗な拷問と懲罰を受けた後、甘美にして至福の天国を見学し、現世へと帰還する。中世人の死生観を熟読玩味する。」


内容:

はじめに 異界をめぐる魂の旅

地図1 ヒベルニア(アイルランド) 12世紀
地図2 イングランド (12世紀)
地図3 12世紀のラテン=キリスト教世界

第一部 トゥヌクダルスの幻視 マルクス 〔ラテン語ヴァージョン〕
 序
 序章 多くの者の徳育のために書き留められたヒベルニアのある騎士の幻視譚が始まる
 第一章 魂の離脱について
 第二章 魂を救う天使の登場について
 第三章 第一拷問場――人殺しへの最初の懲罰について
 第四章 第二拷問場――策謀家と不実な者たちの懲罰について
 第五章 第三拷問場――谷と傲慢の懲罰について
 第六章 第四拷問場――強欲とその懲罰について
 第七章 第五拷問場――盗人と強盗の懲罰について
 第八章 第六拷問場――飽食と姦淫者の懲罰について
 第九章 第七拷問場――修道会に属する修道士で姦淫した者、あるいは身分にかかわらず、度を越して堕落した者への懲罰について
 第一〇章 第八拷問場――罪の上に罪を重ねた者の懲罰について
 第一一章 冥府への降下について
 第一二章 第九拷問場――地獄の深淵
 第一三章 闇の帝王について
 第一四章 第一の栄光の場――極悪ならぬ悪人が受ける節度ある懲罰について
 第一五章 第二の栄光の場――歓びの野、生命の泉と完全ならぬ善人の憩いの場について
 第一六章 第三の栄光の場――王コンコベルと王ドナークスについて
 第一七章 第四の栄光の場――王コルマクスについて
 第一八章 第五の栄光の場――敬虔なる夫婦の栄光について
 第一九章 第六の栄光の場――殉教者と貞淑な者たちの栄光の場について
 第二〇章 第七の栄光の場――修道士と修道女の栄光の場について
 第二一章 第八の栄光の場――教会の守護者と創設者たちについて
 第二二章 第九の栄光の場――処女の栄光の場と天使の九位階について
 第二三章 証聖者聖ルアダヌスについて
 第二四章 聖パトリキウスと四名の名高い司教について
 第二五章 魂の肉体への帰還

第二部 聖パトリキウスの煉獄譚 ヘンリクス 〔ラテン語ヴァージョン〕
 献呈の辞
 序
 第一章 年老いたアイルランド人の告白
 第二章 聖パトリキウスに対する煉獄の啓示
 第三章 一本歯の老参事会長の物語
 第四章 煉獄へ入る許可の儀式
 第五章 騎士オウェインの物語
 第六章 〈煉獄〉に入る騎士
 第七章 オウェインを歓迎する神の御使い
 第八章 悪霊との最初の遭遇
 第九章 最初の責め苦――火炎の柱
 第一〇章 第二の責め苦――第一の野 (うつ伏せ釘付の獄)
 第一一章 第三の責め苦――第二の野 (仰向け釘付の獄)
 第一二章 第四の責め苦――第三の野 (全身釘打の獄)
 第一三章 第五の責め苦――第四の野 (拷問万般の獄)
 第一四章 第六の責め苦――炎の車輪
 第一五章 第七の責め苦――浴場 (釜茹(かまゆで)の獄)
 第一六章 第八の責め苦――北風と凍てつく山
 第一七章 第九の責め苦――火炎を吐く井戸 (冥府への嘘の入口)
 第一八章 第一〇の責め苦――冥府の川と試練の橋
 第一九章 地上の楽園における騎士
 第二〇章 二名の大司教の説教
 第二一章 騎士、天上のマナを受け取る
 第二二章 楽園を去る騎士
 第二三章 この世に戻る騎士
 第二四章 ラウズのギレベルトゥスがいかに騎士に出会ったか
 第二五章 ギレベルトゥスの証言
 第二六章 二名のヒベルニア人修道院長の証言
 第二七章 司教フロレンティアヌスの証言
 第二八章 司教の礼拝堂付司祭の証言
 第二九章 司祭の誘惑
 第三〇章 エピローグ


訳者解説
主要参考文献



聖パトリックの煉獄2



「トゥヌクダルスの幻視」第五章より:

「恐怖のために一歩一歩用心深く進んでいくと、天使と彼の魂は、甚だ深い谷にやって来た。谷は強い臭気を放ち、暗さゆえに彼の魂にはその深さを窺うことはできなかったが、硫黄の川の音と、谷底で苦しむ大勢の呻き声が聞こえた。硫黄から立ち昇る煙と屍から放たれる悪臭とが谷の上まで届いたが、その臭気たるや、それまでに見たあらゆる拷問を凌いでいた。
谷を横切って、一方の山から他方の山まで、たいへん長い厚板が橋のごとく架けられており、その長さは千歩尺(パッスス)〔約一・四八km〕もあったが、幅はわずか一足尺(ペース)〔約三〇cm〕しかなかった。
この橋を渡るのは、選ばれし者(エレクトゥス)の外には不可能であった。そこから多くの者が落下するのを彼の魂は見たが、無傷で渡り切った者は、一人の司祭を除いていなかった。」



「聖パトリキウスの煉獄譚」第二章より:

「また主は、聖パトリキウスを曠野に呼び出された。そこでイエスは、彼に丸く、中が闇(くら)い坑(あな)(fossa)を示して曰く、誰であれ、心から悔い改め、真実の信仰によって武装した者がこの坑に入り、一昼夜の間留まったならば、生涯に犯した悉(ことごと)くの罪から浄められるであろう、と。さらにまた、この坑を通り抜けて、悪人たちの拷問場を眼にするだけでなく、もし固い信仰をもって振る舞うなら、聖者たちの享楽の場をも見ることになろう、と。
そして、主が彼の眼前から姿を消すと、聖パトリキウスは霊的な歓喜に満たされたが、それは主が自分の前に現れたことのみならず、かの坑を指し示されたからで、それを使えば、民を誤謬から引き戻せると期待していたからである。
彼は直ちにその場所に教会を建て、使徒的生活を送る聖教父アウグスティヌスの修道参事会員ら(canonici)をその教会に配置した。教会東面外側の墓地にある前述の坑については、誰も向こう見ずな大胆さから、また許可なくそこに立ち入ろうとせぬよう塀で取り囲み、扉と閂(かんぬき)を設えた。またその鍵の管理を、同教会の参事会長(prior)に委(ゆだ)ねた。」
「多くの者たちが改悛の情に駆られてこの坑に入り、戻ると、苛酷な拷問に耐え抜き、〔聖者たち(ベアーティ)の〕享楽の地を見たと証言した。聖パトリキウスは、これらの報告を同教会にて記録するよう命じた。これらの者たちの証言をうけて、他の者たちも聖パトリキウスの説教を受け入れ始めた。人がそこで罪から浄められた(purgatur)ことから、この場所は「聖パトリキウスの浄罪所〔煉獄(Purgatorium)〕」と呼ばれた。」




























































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分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

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