田辺保 『ケルトの森・ブロセリアンド』

「ここで、わたしたちも夢を見なくてはならない。目をつむって呪文をとなえてみるのだ。青い水面は実はそのように見えているだけの幻であって、この湖面の透きとおった底には、ガラスの宮殿が深々と静まりかえっているのだと……不信な者の目には水面はただ鏡の役目を果たし、光をはねかえしているだけで、水のかなたにひそむものをついには見せてくれぬのだと……」
(田辺保 『ケルトの森・ブロセリアンド』 より)


田辺保 
『ケルトの森・ブロセリアンド』


青土社 
1998年4月20日 第1刷印刷
1998年4月30日 第1刷発行
275p 
四六判 丸背紙装上製本 カバー 
定価2,400円(税別)
装丁: 中島かほる



本文中図版(モノクロ)多数。


田辺保 ケルトの森ブロセリアンド 01


帯文:

「ケルト文化と『アーサー王伝説』
偉大なる魔法使いマーリン、禁断の愛をつらぬく騎士ランスロット、可憐な妖精ヴィヴィアーヌ、そして勇壮無比のアーサー王などが躍動するケルトの森。豊饒な「物語」を胚胎してヨーロッパ文化の基層に横たわるケルトの精神の源泉を求め、時空を越えて旅する馥郁たる文学紀行。」



帯背:

「〈失われた物語〉
を求めて」



目次:

第一章 パンポンの森――ブロセリアンドの森をたずねる
第二章 アルモリカのケルト――森の人マーリンの登場
第三章 「バラントンの泉」をめぐる三つの物語
第四章 アーサー王物語とブルターニュ
第五章 「帰らずの谷」にて――ランスロとグニエーヴルの宿命の恋
第六章 トレオラントゥの神秘――「聖杯の探索」とは何か
付論 シモーヌ・ヴェイユと聖杯伝説

参考文献
地図・系図・年表
あとがき



田辺保 ケルトの森ブロセリアンド 02



◆本書より◆


「第一章 パンポンの森」より:

「ケルトの宗教は森の宗教であった。太古の森は、わたしたちの想像外の神秘や恐怖をたたえていたのではあるまいか。ドリュイドの神官は、この聖なる森に分け入り、そこで供犠と儀式を行なう資格を持っていた。かれらは、森の深い茂みに入りこみ、そこで残忍なエススの神に血にまみれた人身の犠牲をささげ、また、異様な憑依の状態になって、幻を見、狂気の淵におちいり、わが身を責めさいなんで苦痛と恍惚のうちに神の啓示を受けたという。いわば、シャーマンの修行を積んで、死と復活再生の荒行を実践したのである。その舞台が、暗く深い森であり、そこから生き返って帰ってきた者は他の人間には及びもつかぬ、卓越した力を授けられていたとされる。」

「コンコレの教会のところで道を左手にとり、ル・テルトル、クロゾンといった集落を通って約一・五キロで、ラ・リュ・エオンの村に達する。すなわち、十二世紀の有名な悪盗、また魔法をあやつり、人々をたぶらかしていた邪教の主エオン・ド・レトワール(星のエオン)がこのあたりに住んでいたというので名づけられた村である。エオンの弟子はコンコレ周辺にも広く巣食っていたらしい。どうやらパンポンの森には古く、こういった少々いかがわしく、妖しいにおいもする、邪法をあやつる連中がしきりに出没していたらしい。」
「一一四三年の冬は、ことに厳しい寒さだった。翌年春になっても凍った土はゆるまず、耕作はおくれた。不吉の兆であるハレー彗星が天に出現し、人々はおそれおののいた。フランス全土にわたり、二年つづきの飢饉にみまわれ、民衆の悲惨はその極に達した。ブロセリアンドの地方も例外ではなかった。
 エオンという怪物は、この時期にあらわれたのである。」
「ブロセリアンドの森のそこここ、荒地や沼の一角に巣窟を設け、付近の村々、教会、修道院、城館を夜な夜な襲った。」
「そして、ついに、かれは自分こそは「生者と死者、そのすべてをさばく者」と誇称するにいたったという。(中略)エオンの妄想はふくらみ、次にはみずから「神の子である」との名のりを上げるまでになる。(中略)予言者的な託宣で人々の心を燃やしたて、とくに世の不満分子、疎外された者らを集めて、閉鎖的な信仰集団を結成する。(中略)天と地の媒介者の役をもって任じようとするエオン・ド・レトワールのねらいは、ドリュイドの教えを復活することにあったと論じる者もいる。」
「当時の一般社会からのはみ出し者、見放された者、志を得ぬ者などが主たる構成メンバーだったようである。確かにかれらは、世の教会から異端視される魔術めいた礼拝を行ない、不信仰と放蕩の所業に走り、盗み、略奪をこととし、バッカスの饗宴やサバトにふけった。だが、歴史家の記述は、かれらが殺人、放火、責苦などの残忍な行為をあえてしたことはまったく触れていない。もしかすると、エオンの一派は、権力を持ち富み栄えていた、当時の中枢的階層へのひそかな抵抗意識を抱きつつ結集した、精神的反体制派のマイノリティであったのかもしれないのである。」
「十二世紀は、フランス全土で、これも程なく異端のかどで弾圧の憂き目にあうカタリ派の教えが異様な広がりをみせていた時代である。(中略)厳しい二元論の教理に立ち、この世ではひたすら純粋性を追い求めていたこの教えが、どこかエオンの宗教とふしぎなエコーをひびかせ合うのを感じとらずにいられない。そのことはまた、はるかむかしに滅亡の道をたどったケルトの民の怨念と、今に伝えられるかれらの信仰の呪術的であり終末的であった本質ともひそかにつながっているとの直観にみちびく。ブロセリアンドの森の一角は、ことほどさように、スリルにみちた興趣を宿しているのである。」



田辺保 ケルトの森ブロセリアンド 03


















































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ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

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難破した人々の為に。

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趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

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ハンス・アスペルガー・メモリアル・バーベキュー。

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