W・B・イエイツ 『ケルトの薄明』 (井村君江 訳/ちくま文庫)

W・B・イエイツ 
『ケルトの薄明』 
井村君江 訳

ちくま文庫 け-1-3

筑摩書房 1993年12月6日第1刷発行
245p 文庫判 並装 カバー 
定価480円(本体466円)
装幀: 安野光雅
本文カット: CELTIC ART by George Bain

「本書は「ちくま文庫」のために新たに訳されたものである。」



本書「訳者あとがき」より:

「本書は、アイルランドの詩人、劇作家、批評家であり、民俗学(フォークロア)の方面で多くの優れた業績を残したW・B・イエイツ(一八六五―一九三九)が、自らの足で求め、耳で聞き、体験した妖精や超自然の生き物たちの話をまとめたものである。原題は The Celtic Twilight - Myth, Fantasy and Folklore (一八九三)であるが、翻訳の底本には一九九〇年版を用いた。」

挿絵25点。


ケルトの薄明1


帯文:

「ケルトの民がここにいる
イエイツ自身が見たり聞いたりした話ばかり。
無限なものへの憧れ、ケルトの美と哀しみ。」



カバー裏文:

「人間が見たり聞いたりしたものは生命の糸である(イエイツ)。
自然界に満ち満ちた目に見えない生き物、この世ならぬものたちと丁寧につきあってきたアイルランドの人たち。
イエイツが実際に見たり聞いたりした話の数々は、無限なものへの憧れ、ケルトの哀しみにあふれて、不思議な輝きを放ち続ける。」



目次:

時は滴り落ちる (詩)
妖精たちの群れ (詩)
この本について

1 話の語り手
2 信じることと信じないこと
3 人間が力を貸すこと
4 幻を見る人
5 村の幽霊たち
6 「誰がヘレンの目を閉じさせた」
7 羊の騎士
8 耐える心
9 妖術師
10 悪魔
11 幸福な理論家と不幸な理論家
12 最後の吟唱詩人
13 女王よ、妖精の女王よ、来たれ
14 「そして美しく恐ろしい女たち」
15 魔の森
16 不可思議な生き物たち
17 本のアリストテレス
18 神々の豚
19 声
20 人さらい
21 疲れを知らぬ者
22 地と火と水
23 古い町
24 男とブーツ
25 臆病者
26 オブライエン家の三人と悪い妖精
27 ドラムクリフとロセス
28 幸運な厚い頭蓋骨
29 船乗りの宗教
30 天国とこの世と煉獄の近さについて
31 宝石を食べるもの
32 丘の貴婦人
33 黄金時代
34 幽霊や妖精の性質を歪めたスコットランド人への苦情
35 戦争
36 女王と道化(フール)
37 妖精の友達
38 教訓のない夢
39 道ばたで
40 薄明のなかへ (詩)

訳者あとがき



ケルトの薄明2



本書より:


「話の語り手」より:

「この本に収められている話の大半は、パディ・フリンという老人が私に語ってくれたものである。生き生きとした小さな目をしたその老人は、バリソデア村の雨漏りする一部屋しかない小屋に住んでいたが、彼に言わせればそこは「スライゴー地方の中でいちばん穏やかな所」――つまり妖精の国だという。(中略)初めて会ったとき、この老人は一人でマッシュルームを料理していた。次に会ったときには、寝顔に笑みを浮かべながら、生け垣の下で眠っていた。老人はほんとうにいつも機嫌がよかった。とはいえ、その目(中略)には、喜びの一部といってもいいような憂鬱が見て取れた。それは純粋に本能的であり、あらゆる動物に共通するものだった。」


「幻を見る人」より:

「二人とも幸福ではなかった――Xは芸術や詩が、自分には合わないということを、初めてはkkりいと分ったからであり、老いた農夫は、何一つ目的を達成できずに、人生が終わっていくのを感じ、先に希望がなかったからである。この二人はなんとケルト的であろうか。言葉や行為では、決して完全に表現できないものに、全力を傾けていたからである。」


「村の幽霊たち」より:

「その村に夜になって近寄るには、臆病な人間ならば、相当に作戦を練らなければなるまい。ある男がこんな風に嘆くのを聞いたことがある。「まったく、どうやって行けばいいんだろう。ダンボーイ丘を通れば、死んだバーニー船長が見張っているだろうし、海からまわって桟橋の階段を昇れば、その桟橋には、首無し人間が一人二人と出てくるだろう。別の道をまわれば、スチュワート夫人の幽霊がヒルサイド・ゲートに現れるし、ホスピタル・レーンには、悪魔が出てくるんだからな」。」
「ホスピタル・レーンのあたりには「妖精の道」がある。毎晩のように、妖精たちが丘から海へ、あるいは海から丘へと移動する道である。その「妖精の道」が海に接する所に、小さな家が一軒あった。ある夜のこと、その家に住んでいたアーバネシーの細君は、息子が間もなく帰ってくると思って、家の扉をあけておいた。夫は暖炉のそばで眠っていた。すると一人の男が入ってくると、夫のそばに腰を下ろした。男がそのまま暫く座っているので、「一体あなたは誰なの?」と女房はたずねた。男は立ち上がると、出て行きながらこう言った。「こんな時間に戸をあけといちゃ、いけないよ。悪いものが入ってくるからね」。細君は夫を起こして、今の出来事を話した。「『善い人たち』の仲間が来てたんだな」と夫は言った。」



「悪魔」より:

「ある日、メイヨーに住む古くからの友だちである老女が話してくれた。何かとても邪悪なものが道の向うからやって来て、向かいの家に入って行ったという。(中略)またある日には、悪魔と思われる者から愛された二人の友だちのことを話してくれた。友だちの一人が道端に立っていると、男が馬に乗ってやって来て、後ろに乗って遠出をしませんかと誘われた。彼女が断ると、男の姿は消えてしまった。もう一人は、夜遅く外に出て恋人を待っていたとき、何かがかさこそと足元に転がってきた。それは新聞紙のようなもので、そうしているうちに彼女の顔に張り付いたが、その大きさから「アイリッシュ・タイムズ」だということがわかった。それはとつぜん若い男に姿を変えると、一緒に散歩をしませんかと誘ってきた。」


「幽霊や妖精の性質を歪めたスコットランド人への苦情」より:

「妖精信仰がまだ続いているのは、アイルランドだけではない。自分の家の前の湖に、「水馬」が出没すると信じている、スコットランドの農夫の話を聞いたのは、つい先日のことである。彼は水馬がこわくて、湖を網でさらったり、湖水をポンプで吸い上げて干そうとした。もしそのスコットランドの農夫が水馬を見つけていたら、水馬はひどい目に会っていただろう。アイルランドの農夫なら、その生き物と仲良くなっていたろう。というのはアリルランドでは、人間と精霊とはおずおずとではあるが、愛情を通わせているからである。」
「スコットランドでは人々の考えは、あまりに神学中心で、またあまりに陰鬱である。悪魔さえ信心深いものに仕立てられてしまう。」
「スコットランドの人々は、妖精は異教の者で、悪い者だと見てきたようで、治安判事の前に、妖精を引っ立てたい気持ちなのであろう。アイルランドでは、戦いに優れた人間は、妖精の仲間に入っていき、妖精の戦闘に力を貸すが、妖精の方は逆に、人間に薬草のすぐれた使い方を教えてくれたり、ある少数の人間には、妖精の音楽の調べを、聞かせてくれたりする。カロランは妖精の円形土砦(ラース)で眠ってしまったことがあった。それからずっと後になっても、彼の頭の中には、いつも妖精の調べが流れ、そのお陰で彼は大音楽家になった。スコットランドでは、公然と説教壇から、妖精を非難する。アイルランドでは、司祭が妖精の魂の状態を、相談してやる。しかし残念ながら、司祭は、妖精には魂が無くて、最後の審判の日に妖精は、きらきら光る水蒸気のように蒸発してしまうと判定した。しかし司祭は、こうしたことに怒りよりも悲しみを抱いているのだ。」
「このように違う二つの物の見方は、それぞれの国の妖精や小鬼の世界全体にも、影響を及ぼしている。妖精たちの陽気で優雅な振る舞いを見るには、アイルランドへ行かねばならない。彼らの恐ろしい行為を見るなら、スコットランドへ行くとよい。」
「あなたがた(スコットランドの人々)は、地・水・火・風の精霊たちと親しくしていない。闇をあなたがたの敵にしている。我々(アイルランドの人々)は、この世を越えた者と、親しい付き合いをしている。」



「女王と道化」より:

「それは私の良く知っている少年で、ある晩、彼のところに一人の紳士がやって来たが、よく見るとその紳士は、とっくに死んだはずの地主だったそうだ。紳士は少年に、『一緒に来て他の男と戦って欲しい』と頼んだので、少年が一緒に行ってみると、死んだ人たちの二つの集団に会った。その片方の集団にも生きた人間が一人いて、少年は彼を相手に戦った。それは激しい戦いだったが、少年は相手を打ち負かした。すると彼の側の連中が大きな叫びをあげたと思うと、少年は再び家に戻っていたということだ。」


「教訓のない夢」より:

「われわれも弱く貧しい人間であり、何をしても不幸になりそうな心配があるなら、力にあふれた昔の夢を片っ端から想い起こして、肩に背負っているこの世の重荷を、抛り投げてしまえばよいのだ。」



































































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プロフィール

ひとでなしの猫

Author:ひとでなしの猫
ひ-2-改(ひとでなしの猫 2 改訂版)

◆「樽のなかのディオゲネス」から「ねこぢる」まで◆

難破した人々の為に。

分野: パタフィジック。

趣味: 図書館ごっこ。

好物: 鉱物。スカシカシパン。タコノマクラ。

将来の夢: 石ころ。

尊敬する人物: ジョゼフ・メリック、ジョゼフ・コーネル。

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